「幻滅」:パリへ行きたしと思へども、パリはあまりに冷たし
監督:グザヴィエ・ジャノリ
出演:バンジャマン・ヴォワザン
フランス2022年
原作はバルザック、舞台は19世紀前半のパリという華麗なる歴史ものである。2時間半という長尺で、大道具小道具衣装など当時の雰囲気をたっぷりと味わわせてくれる。
印刷所で働きつつ田舎でくすぶっていた詩人志望の若者は、青雲の志を抱いて花の都へ出奔する。もっともその背景には年老いた夫に満たされぬ貴族夫人との情事が原因で、故郷にいられなくなったということもあるのだが……。
という冒頭から分かるように、かなり『バリー・リンドン』と設定が似ている。しかも辛辣なナレーションが要所要所で事前にことの次第を語るのも同様だ。
転がり込んだあやしい小新聞社ではうさん臭い記事を書き飛ばして売上げを伸ばすのが常である。他にメディアのない時代ゆえ、一面に大々的に載る書評や演劇評が大きな影響力を持っている(今では信じられないが)。
わざと批判的な評を書いては論争を起こしてその本を売るという炎上手法は当たり前。さらには読まずに書評を書くという荒技🈲も珍しくはない。記事と広告は紙一重だ。
活気と悪徳と退廃に満ちたパリで、ウブな純朴な青年であった主人公はたちまちに売文稼業に順応し、文才をいかんなく発揮して人気と地位を得るのだった。
演劇関係者なら金を貰ってブラボーとブーイングを飛ばす商売が気にいるかも。
いずれにしろ「批評」が力を持っていた時代の話。でも今は紙の新聞は没落したとはいえ、わざと批判的な評を書いて論争を起こしてその本を売るという手法はネット時代も健在のようである。炎上ツイートにちゃっかり自著の宣伝を併記したりして……なんてこともありましたな(^^;
しかし一瞬の間栄華を得ても長くは続かぬ。生き馬の目を抜くような当時のパリでは失脚するのも早い。落ちぶれる描写も容赦なしっ。
とはいえ先ほど『バリー・リンドン』に似ていると書いたが、あれほどには冷笑的ではない。バルザックの原作の一節を引用したラストに、キューブリックとは違って哀れな主人公への監督の「愛」を感じたのであった。
悪役として侯爵夫人が登場するが、しかし一見弱者のように見えて一番悪いのは最初に主人公をパリに連れて行った貴族(男爵だっけ?)夫人ではないだろうか。彼がこのような事態に陥ったのも彼女が原因だし、終盤で再開する場面は結局彼をどのように見なしていたのか明らかになりアチャ~(・・;)という感じである。
彼女を演じるセシル・ドゥ・フランスは美しく賢く弱く不幸であると同時に、若者を利用する狡い女を見事に体現している。
もう一人面白い人物はジェラール・ドパルデュー扮する、自らは字が読めないにもかかわらず出版界を牛耳るボスだ。実際にモデルがいたのだろうか(?_?)
なお、劇伴音楽についてはバロックの曲がかなり使われていた。エンドロールで確認しようとしたが字が小さすぎて読めず失敗🆖
ラモーは作中で演奏場面があった(主人公の家のパーティだったかな)。
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