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2023年7月15日 (土)

「ノースマン 導かれし復讐者」「グリーン・ナイト」:伝説は語る、英雄と母親ののっぴきならぬ関係

230715「ノースマン 導かれし復讐者」
監督:ロバート・エガース
出演:アレキサンダー・スカルスガルド
米国2021年

『ハムレット』の原型となった伝説を元にしたファンタジー……といっても「剣と魔法」ではなく、原初的な中世北欧神話劇だった。
時代は9世紀、舞台は広範囲に及びスカンジナビア地方、北大西洋、スラヴ地方、ロシアさらにアイスランドへと向かう。

主人公は父王を殺し母を連れ去った叔父を探して、ひたすら復讐につき動かされる。彼を神々や死者の使いが手助けし、そこに理知の光はない。闇の中で全ては動き、炎さえも光とはならず闇へと吸い取られていく。それを映像がよく表している。
見ているうちにさらに暗黒ホラー味が増してきて、暗い情動にドキドキ💓するのであった。
しかし主人公はそんな闇に背を向けようとする。

エガース監督の前作『ライトハウス』とは、今回は剣戟アクション風で逆方向だが、ままならぬ状況の中でグルグル回っているのは同じかもしれない。
村を襲撃して村民を奴隷にする件りなど全くもって容赦のない描写で思わずギャーッと叫びたくなった。とはいえ残酷シーンは自体は暗い場面中心で、直に描かれるところはそれほどない。

さらに音響や音楽も迫力十分。映画館での鑑賞を推奨したいところだ。監督が撮影中にヘヴィメタルを聞きまくっていたとインタビューで話していたが、確かに見ててメタルの高揚が合いそうだと感じた。
もっとも実際は民族楽器は使用しつつパーカッションと弦が中心だった。

脇役にウィレム・デフォーやビョーク(巫女役!)が出ていてなにげに豪華出演陣だ。
作中の女性像については、現代ではなく時代背景に忠実な女性像を描いたとのこと。確かに中世が舞台なのだから今様の人物が出てきてもしらけるに違いない。アニャ・テイラー=ジョイよりも、ビョークよりも、げに恐ろしきはニコール💥 最後まで見た者はそれを思い知るであろう。

難点はいささか長いこと。途中で「ここら辺は10秒ぐらい切ったらいいのでは?」みたいな場面が複数出てくる。あと5分短かったらスッキリしたのに--という感じだ。

ところでソリルという名の登場人物が出てきて、それでマンガの『クリスタル・ドラゴン』のことを思い出した。続きはどうなってるのよ~(`´メ)
各地の勇者どもが集合して戦いが始まるはずではなかったか……❓


「グリーン・ナイト」
監督:デヴィッド・ロウリー
出演:デヴ・パテル
米国・カナダ・アイルランド2021年

正直言って今一つピンと来なかった映画である。
元となったガウェイン卿の物語は大昔ウン十年前に読んだ記憶がある(ローズマリ・サトクリフか?)。もちろんほとんど覚えていないのだが、アーサー王伝説のエピソードというより民話風の奇想天外な話のようだ。

そんな英国中世騎士譚を巧みにロケを生かし映像美で蘇らせている。といっても中世だから基本的に小汚くて暗く卑俗な世界であり、人の首が転がり巨人やら怪しいキツネが行き交う。
ただテンポがのろ過ぎ……最初の10分見てこの調子で続くのかー💨と思っちゃった。後半はやや早くなったけど。

鑑賞する前に目にした感想で「昔のロックバンドのプロモビデオっぽい」というのがあった。メンバーが中世風のいでたちで出てくるというヤツ。実際見てなるほどと納得した。
メッセージよりまずイメージで押してくる。引き付けられるがずっと見続けるかは個人の好みによるだろう。
ちょっと外したようなこのタッチは正直苦手だ。この監督、他の作品もこんな感じだっけ(?_?)

未熟な若者が母親の干渉と支配をいかに逃れて敷かれたレールから脱出するか、がテーマということでいいのだろうか。魔女である母はモルガンなのかと思ったらアーサー王の別の姉だったのね。
英語が分からないのでラストの一言の意味がどうもピンと来なかったのが残念無念である。

途中で主人公が追いはぎに遭ってそのまま死んでしまう場面があって、それが逆回しで元に戻って違う展開になる--という件りがあったのだが、なんでこんな部分を入れたのか理解できなかった💦
別になくてもいいし、そもそもこの物語全体がそういう構造になっているのだから、中間で見せなくてもいいのではないかと思っちゃう。

グータラ息子から冷徹な王様まで、ほぼ出ずっぱりで熱演なデヴ・パテルはご苦労さんである。アリシア・ヴィキャンデルの二役は気付きませんでした(^^;;;
現代音楽っぽい劇伴にトラッドっぽい歌がからむのが独特の印象だった。

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