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2023年9月

2023年9月18日 (月)

「イタリアへの憧憬」:ロンドンより愛をこめて

230917 18世紀ロンドンのイタリア趣味
演奏:鷲見明香ほか
会場:今井館聖書講堂
2023年8月11日

なぜか18世紀ロンドンで横溢したイタリア趣味。かの地で人気だったイタリア人演奏家・作曲家についてはよくコンサートのテーマに上がるが、誰を取り上げるかは様々でネタは尽きない。
この日は定番コレッリ、ジェミニアーニからポルポラやニコラ・マティスはまだしもコスタンツィ、パラディエスとなると一体誰(^^?である。

聞かせてくれたのはヴァイオリン鷲見明香、テオルボ&バロック・ギター上田朝子、チェロ懸田貴嗣、チェンバロ平井み帆という面子だ。
チェロが華麗に活躍しヴァイオリンと掛け合いをするソナタ(ポルポラまたはコスタンツィ)、もはや時期的にはプレ古典派か?当時の新しい奏法に挑戦したというチェンバロ曲(パラディエス)など面白かった。
ヴァイオリン中心の曲ではコレッリのソナタ10番で決まりかと思ったら、最後の最後に今回唯一の英国人リチャード・ジョーンズの作品が来た~~っ⚡である。楽器のトラブルがあったそうだが、そんなことも感じさせずテンポの速い曲を鷲見氏が弾きまくり、作品と渡り合うという感があった。参りましたm(__)m

彼女は曲によって弓を変えていましたな。また、上田氏のバロックギターとテオルボの交換タイミングも興味津々だった。もちろん「んー、今朝の気分はテオルボにすっかな」ということではなく、ちゃんと考え抜かれているのであった。
奏者と作品が適材適所--しっくりかみ合ったコンサートだった。

小さな会場は満員御礼で入りきらず、予備椅子まで出る騒ぎとなった。
自由席でチケット売り切れでしかも予備席も並べているのに、複数の椅子にチラシやパンフを置いて場所を取っていた人がいたのには驚いてしまった。しかもそこに人がギリギリにでも来ればまだしも、前半終わっても結局誰も来なかったという……。
いい加減にしてほしいぞ(`Д´)


さて、この会場は初めて行った。場所は少し前に行った五反田のホールよりはずっと分かりやすい(距離も若干近い)。
周囲は素敵なデザインのマンションが幾つもあって、さすが埼玉の畑をつぶして建てるようなマンションとは一味ふた味……十味ぐらい違うと感心した。
道の途中に出版社のフレーベル館があり、玄関にアンパンマンの像が立っていた。小学館が売り上げで建てたというドラえもんビルならぬ、アンパンマンビルかっ💸

230917b

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2023年9月16日 (土)

見たら今イチだった! 世評は当てにならない映画その3:「サントメール ある被告」

230916 監督:アリス・ディオップ
出演:カイジ・カガメ、グスラジ・マランダ
フランス2022年

事前に伝わって来た評判がよくても実際見てみたら、自分にはどうもなあ~という案件の最後です。

ヴェネチア映画祭で銀獅子賞(審査員大賞)を取り、絶賛する人も多数の作品。
セネガルからの留学生が幼い娘を海で殺害した実話の裁判劇である。だからといって社会派作品というわけではなく、様々な文化と概念が衝突する混乱を突き詰める思弁的な作品だった。
裁判場面は法廷での発言をそのまま再現したということで、事件の謎が明確に解かれるわけではない。
厳然たる差別が証言者を通して表出する。特に大学教授の発言はひどい。犯人の学生の話すフランス語は完璧だが文章だと不十分だなどと証言する。

並行して監督の分身とおぼしき作家が、傍聴を通して悶々とする様子が描かれる。犯人と自分を重ねて見ているのだ。彼女が自らの母や現状を受け入れる過程が主眼だろう。
しかし、肝心の犯人はほとんど語らず何を考えているのか分からない。普通の法廷ものだと弁護士と面会したり話したりする場面が出てくるが、この映画は全くそういう部分がない。作家のリアクションを通して観客は「恐らくそうなのであろう」と推測するしかないのだ。

ということで、起伏が少ない上に作品のテンポが自分に合わず、気を緩めると眠気のループに入りそうになっちゃう。特に法廷内の映像は動きが少ないこともあり。
また、自らの子を殺したギリシャ神話の王妃メディアについて、パゾリーニの作品をかなり長々とそのまま作中で使用しているのには「こんなんでいいんかい😶」と驚いた。「引用」を越えている。自分の言葉や映像で表現しようという気はなかったのだろうか。既存曲の使い方も『アフターサン』っぽい。

最後に弁護士が語る「キメラ現象」にはおぞけを振るってしまった。女は妊娠すると胎児の細胞が体内を回り脳にまで達するというのである。
な、なんだって~~(>O<)ギャーッ
でも、胎児の遺伝子って半分は相手の男のものだよね……。すると、3人の男と付き合っては別れ、それぞれ子どもが生まれていた場合3人分の男の遺伝子が体内に残っているということか💀 嫌になって別れた相手でも遺伝子が残ってるなんて恐ろしい。

なお、映画は母を称揚する言葉と共に裁判を傍聴する女たちの顔を一人一人映していくが、子どもというのは父親もいなくちゃ生まれないんじゃないの(?_?)
お願いだから母と娘の無限の円環に私を入れないでくれ❌

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2023年9月15日 (金)

見たら今イチだった! 世評は当てにならない映画その2:「ウーマン・トーキング 私たちの選択」

監督:サラ・ポーリー
出演:ルーニー・マーラ
米国2022年

事前に伝わって来た評判がよくても実際見てみたら、自分にはどうもなあ~という案件の続きです。

オスカー脚色賞受賞作。一言で言えば見ててしんどい内容だった。最近見た中では『対峙』に似ていた。閉ざされた場所で限定された人々の対話だけで話が進む。しかも苦しく暴力的な事件が発端だ。役者の技量が試される。

予想よりも遥かに抽象的哲学的な議論が続くので驚いた。しかも根底に流れるキリスト教信仰。理解するのがハードである。字幕を見ていて頭が追い付かない。老化脳だからかしらん(^^;ゞ
しかも昨今のフェミニズムの議論が見事に凝縮されている。なぜフェミニズムを嫌う女がいるのかも明らかにする。

教育、特に文字を読み書きすることは重要であるのを実感した。見ていて思い浮かぶのは、女子の教育機会を与えない一部の国々、『侍女の物語』、山下和美の『ランド』(これは女子に限らないが)。
しかし、彼女たちは話し合いによって最後に自らの行くべき道を選択したのである。

--と、最初は評価した。しかし時間が経って後から考えると思考実験的な設定が大きくて現実性には欠けるような印象だ。元々の「男たちの犯罪」は実話であるとのこと。ただ、その後の設定と展開自体はかなり仮構的なものだ。
男たちは一人を残してなぜか?全員出かけてしまい、女たちだけでどうするか三つの方針に投票が行われる。多数決で決まるのかと思ったら、結局それぞれの意見を代表する3家族がなぜか❔納屋にこもって話し合うのだという。ところがその中の一つの家族は早々に離脱してしまう。なんで❓と巨大なハテナ印が浮かぶのは仕方ないだろう。

思考実験の枠の中で、女たちは読み書きができなくとも意見を主張し高度な抽象的議論を戦わし、他の助けを借りずに独自に結論に至れる、ということをこの映画は示したかったのだろう。
また、それを横から口を挟んだりせず黙って見守ることのできる男が存在することも、である。

しかし、現実には『侍女の物語』のリディア小母みたいな人物が複数いて、女同士で最初から抑圧してきそうだ。若い子や弱った年寄りは一言も喋れない。
高度な議論が可能かどうかは、一応教養ある人々の間で日々SNSで行われている論争のレベルを見よと言いたくなる。
果たして、本当に書記係のような男がいるのかどうか? そりゃ一万人に1人ぐらいはいるだろう。
……などと言っても仕方ないことではあるな( -o-) sigh...

某有名曲が異物の如く作中に闖入してきたのには驚いた。これは良かった点だ。『アフターサン』の監督はこういう使い方を見習ってほしい。
エンドロールでは歌詞の字幕を付けてほしかったぞ(~o~)

最後に書記係のオーガストかわいそうなどと思ってしまった。ベン・ウィショー、泣き顔の似合う男だぜっ😢
画面がモノクロっぽくて暗いのはわざとやってるのかな。映画館以外で見たら何が映っているかよく分からなかったりして。

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2023年9月13日 (水)

見たら今イチだった! 世評は当てにならない映画その1:「aftersun/アフターサン」

230913 監督:シャーロット・ウェルズ
出演:ポール・メスカル
イギリス・米国アメリカ2022年

事前に伝わって来た評判がよくても実際見てみたら、自分にはどうもなあ~という案件を連続投稿します。

見たいような見ない方がいいような、そもそもどういう映画なのか不明だしな--と迷っていたけど激賞のツイートが次々とネットを流れてくるので行ってみた。
しかも主役のポール・メスカルはオスカーの主演男優賞にノミネートされたではないか。一見の価値はあるだろう。

結果⚡「いくらみんな誉めていてもダメなものはダメ(><)」というしごく当たり前の結論となった。

普段は離れて暮らしているらしい若い父親とローティーンの娘が観光旅行へ。しかもそれを大人になった娘が後年振り返っているという構成になっている。今や父親と同じぐらいの年齢になった娘が、その時撮ったビデオを見て回想するという設定だ。
余白が多いように切り取られた世界はとても美しく見える。ビデオカメラ、モニターの表面、ガラス戸、鏡に映る映像は複雑で謎めいたものを醸し出す。

しかし(;一_一)フラッシュを使った映像が頻繁に出てきて頭がクラクラする。長い時間ではないがビデオの手振れ画面も苦手だーっ。
わざと設定しているのだろうけど二人の会話がベタッとした音なのもつらい。背景の音響も一部ガンガン来る。

この父親が常に鬱屈を抱えていて、成長した娘がそれに自らを同一化しているらしいのは分かるが、作品中の最もキモとなる場面に既存の有名曲を使って代弁させてしまうのはいかがなものか。ある種の手抜きじゃね?
しかもその鬱屈が何なのかは最後まで明らかにならないのである。それどころか画面のどの部分が実際に起こったことなのか、二人のどちらかの幻想なのかもはっきりしないのだ。

そういうことが気にならない人はこの映画を受け入れられるだろう。私はダメだったが。

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2023年9月 4日 (月)

「パリのソナタ」:笛の音に都市を見る

230904 演奏:宇治川朝政ほか
会場:としま区民センター小ホール
2023年8月8日

昼の回の方に行った。リコーダー3本(宇治川、田中せい子、ダニエレ・ブラジェッティ)+ガンバ(上村かおり)&チェンバロ(福間彩)という編成で、パリで活躍したボワモルティエとドルネルを中心にソナタや組曲を演奏。他にマレやフォルクレ息子もあった。もちろん楽器についても解説付きで、渋めのプログラムといえる。

前半のボワモルティエは音楽史上初🌟、誰にも仕えずフリーランスとして活躍した音楽家とのことだ。知らなかった(!o!)
ソナタに交じってチェンバロ独奏曲も1曲あり。全体に疾走感や流動感のある作品で、またこの日の演奏自体もそうだった。

後半は笛2本を中心にしたマレの組曲に続き、上村かおりによるフォルクレ息子のヴィオール組曲3番から。この曲集は父親名義でも全曲息子の作かもしれないそうな。
その後のドルネルは時代が後のせいか落ち着いた印象だった。
リコーダー中心のコンサートではあったけど、間近で聴くガンバの音が心地よかった。

充実した演奏会だったが、別のコンサートのチケットを持って行ってしまうという痛恨のミスをしてしまった。ドジである。仕方なく当日券を買いましたよ(+o+)
次からはちゃんとチェックするぞー👀(と言っても昔、小劇場に行ってた時も散々やったのだが)


としま区民センター、毎回冷房効きすぎである(((>_<))) 冬になったら暖房効きすぎになるのであろうか。
もう一つ、外の通路がすごく狭いので終演後の常連さんとの挨拶をやるのは他の場所でお願いしたい(ホール内とか)。下手すると挨拶してる真ん中を通らないとエレベーターに乗れなかったりして……💦

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2023年9月 3日 (日)

「帰れない山」:友情は山小屋と涙とため息か

230903 監督:フェリックス・ヴァン・ヒュルーニンゲン、シャルロッテ・ファンデルメールシュ
出演:ルカ・マリネッリ、アレッサンドロ・ボルギ
イタリア・ベルギー・フランス2022年

イタリアの都市トリノに住む少年が夏休みだけ山村にある家で両親とともに過ごす。そこで村でただ一人の子どもである少年と知り合う。
この境遇も性格も対照的な二人の長年に渡る友情を描く。原作はイタリアのベスセラー小説とのことだ。

村の少年ブルーノは貧しく親戚の家に厄介になって、教育も受けられず牛飼いをしている。都会育ちのピエトロは体格は貧弱、内向的で家にこもっている。
正反対ではあるが二人は仲よくなり、登山愛好者であるピエトロの父親と共に山歩きをする。

思春期には疎遠となり、成人となってからとあるきっかけで再会することになる。
さらに歳月を重ねるうちに、子どもの頃は元気な野生児✖引っ込み思案な子だったのが、一人は頑固で閉じこもり、もう一人はふ~らりフラフラと風来坊ぽくなって逆転交差してしまうのが、人生何がどう変わるのか分からなくて興味深い。

その背景にはいつも美しい山があり、画面の中からグイと迫ってくる。風景が非常に素晴らしい。
とはいえかなり厳しく奥まった山中--ここで撮影するのは大変そうだ。道路なんかないだろうし、機材はどうやって運んだのか。空路❓ しかも各季節ごとに訪れては撮っているはずだから余計にそう思える。

しかし、前半は良かったのだけど後半に来ると、見ててどうも登場人物同様にあてもなく戸惑っているように感じた。中心の役者二人は文句なし。編集のせいだろうか。
雪の重みならぬ、2時間半弱の長さを保持する支持力がなかったのか。映像の美しさは充分なのだが。

それと、作中でどうも明確に描かれていないが、ピエトロの両親がブルーノを引き取ろうとする場面でピエトロは反対する。その時いかにも彼を思いやっているような理由を述べるのだが、どう考えても自分の家に来てほしくないと思っているが故の発言だろう。ただ、はっきりとそうは断定してはいないのだよね。
で後年、親が陰で知らぬうちに他所の子どもをかわいがってたと知ったら、いくら疎遠だったとは言え嫌だと感じるのではないか。
そこら辺の葛藤がやはり出てこない。原作はどうなのだろうか。

音楽はオリジナルの英語の歌で、全て同じ歌手が歌っているもよう。ややベタな感じである。
カンヌで審査員賞を受賞。同じ賞を分け合った『EO』と同様にロバが登場するけど、ロバは元気です!

それと、非常に大事なことなので一度だけ強調文字で言います。
ルカ・マリネッリはヒゲを生やしてもカッコエエです(^O^)/


*追記:ブルーノとピエトロを書き違えてた部分を修正しました。

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2023年9月 1日 (金)

聴かずに死ねるか! 古楽コンサート2023年9月編

個人の好みで適当に選んでリストアップしたものです(^^ゞ
事前に必ず実施を確認してください。ライブ配信は入っていません。

*2日(土)もっと知りたい!もっと聴きたい!テレマン(佐藤康太ほか):3F・音楽室
*3日(日)ドイツ音楽の饗宴(ソナトーリ・デル・フォンテゴ):としま区民センター多目的ホール
*6日(水)A.チェスティ誕生400年記念演奏会(ディスコルシ・ムジカーリ):豊洲シビックセンターホール
*7日(木)本村睦幸のバロック音楽サロン3:鶴見区民文化センターサルビアホール
*8日(金)音楽風刺劇オスペダーレ(ラ・フォンテヴェルデ):ハクジュホール
*9日(土)ボローニャからローマへ 旅するコレッリ(アンサンブル・パルテノペ):今井館聖書講堂
*10日(日)パーセルの劇音楽(小林恵ほか):松明堂音楽ホール
*  〃   層・LAYERS 西洋世界における器楽音楽の夜明け(オリーブ・コンソート):としま区民センター多目的ホール
*13日(水)「歌と爪弾き」シリーズ1 テオルボ(野々下由香里&瀧井レオナルド):ムジカーザ
*14日(木)ラ・ベルジュール 羊飼いのうた(レ・ゾルフェ):日本基督教団番町教会
*17日(日)ヴェネツィア・バロックの100年を駆ける(サラベルデ・コンソート):早稲田奉仕園スコットホール
*23日(土)「ミノリテン手稿譜」の音楽(みのりてんデュオ):えびらホール
*26日(火)ラ・ムジカ・コッラーナ:五反田文化センター音楽ホール
*28日(木)ザルリーノとパレストリーナの「雅歌」(ベアータ・ムジカ・トキエンシス):日本福音ルーテル東京教会 ♪30日公演もあり

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