「大いなる自由」:逃走と脱出
監督:ゼバスティアン・マイゼ
出演:フランツ・ロゴフスキ、ゲオルク・フリードリヒ
オーストリア・ドイツ2021年
濃厚&濃密にして今期断トツの見ごたえあり作品に間違いなし。しかし同時に打ちのめされた(*_*;
冒頭、小汚い公衆便所にいわくありげに男たちが出入りする映像から始まる。彼らは同性愛者でいわゆるハッテン場というヤツだ。しかし、この当時ドイツでは同性愛は犯罪であった。
この法律のために二十数年間の間に三回投獄された男ハンスが主人公である。しかし映画の構成は単純ではない。その三回の期間を三種の縄が複雑に絡み合ったように前後し往復して描く。
序盤こそ1945年、まだ彼が少年でその後ずっと関わり合うことになる長期囚の男と同房になるいきさつが登場するが、その後は時間通りには進まない。
三つの時代とも似たような監獄、囚人、運動場、懲罰室などが登場し、ほとんど変わり映えしない。同じ光景、繰り返される出来事、不条理な懲罰、闇の中のタバコ--それが微妙な色彩の差と俳優たちの演技によって不思議と混乱はしないのだ。
ハンスと共にいて逮捕された男たちや、ゲイ嫌いだが腐れ縁ともいえる同房の男、その関わりの流れの中に「自由」や「愛」が浮きつ沈みつする。
特に終盤のクラブの場面から続く結末には衝撃を受けた。
この結末の解釈は複数成り立つ。監督はどのように受け取っても構わないと述べているが、やはり「自由を捨てて愛を取った」という解釈はなんだかなー(・へ・)である。自由と愛は対立項ではないはず。
法律が改正され人々が開放感で沸くクラブ、その地下へと進むうちに「自由」が変質してしまったのを感じる。あれほど望んでいたのに。
そういえば同房の男はようやくこぎつけた仮釈放が目前に迫ってくると、自由の前でひるんでしまうのだった。
かくも重荷の如き「自由」、その意味がラストで問いかけられる。そして観客は見終わった後に苦いそれを噛みしめることになるだろう。
それにしても同性愛者としてナチスの収容所へ送られ、戦後そのまま解放されることなく刑務所へ直行というのはあんまりではないか。体制が変われど罪は変わらずということなのだろうか。
それを知った男が態度を変えてハンスの刺青を消してやろうとするくだりは、作中一番印象に残る場面だった。彼の腕を膝に乗せて無心に消す男とその息づかい、それをチラと上目遣いに見るハンス……何やらエロチックでドキドキして思わずギャー(>O<)と叫びたくなった。
主役のF・ロゴフスキは10代の少年から中年期近くまで複数の時間軸の中で演じきり、『未来を乗り換えた男』同様に時代と場所を横断する身体を示したのだった。今年度主演男優賞候補に上げたい🌟
監督はこれで2作目だとのこと(日本では前作は未公開)。次作にも期待である。
謎なのは某場面でモロに「物体」が出現してもボカシがかかっていなかったこと。映倫のレーティングはR15+なんだけど……(^^?
『聖地には蜘蛛が巣を張る』も同じような箇所があったがやはりボカシはなかった。どういう基準なのかよく分からぬ。
劇伴音楽は感情を排したやや環境音楽っぽい印象で、殺風景な監獄に合っている。
一方、クラブで演奏されているフリージャズは強烈で、今まで敬遠していたジャンルだったが実にカッコよかった。
サックス奏者は有名な人らしいが既に亡くなっているそうだ。ベーシストの使っているピックアップはあの時代にない新しい物ということで、あの場面だけ「現在」なのかもよ。
この映画で初めて移転後のル・シネマに行った。前の座席に巨大過ぎる大男に座られてしまい席を移動したのは仕方ないとしても、「匂いの強い食べ物はロビーで食べてください」とアナウンスが出た途端に場内に広がるスナックの匂い。予告時間に化粧し直す女。さらに上映中に堂々とスマホをチェックするオヤジ……。
まあ、ある意味渋谷らしいと言いましょうかね💥
| 固定リンク | 0