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2023年11月 8日 (水)

映画落穂拾い2023年前半編その2

まだ前半が残っています。やばいです(-_-;)

「アルゼンチン1985 歴史を変えた裁判」
監督:サンティアゴ・ミトレ
出演:リカルド・ダリン
アルゼンチン2022年

アマプラで鑑賞。アカデミー賞の国際長編映画賞にノミネートされた作品である。
独裁政権下で軍が行なった拉致・拷問などの犯罪を起訴する裁判を描く実話もの。主人公の検事も実在で当時の記録映像が入る。
証言してくれる証人集めから裁判の論告まで苦闘の経過が描かれる。様々な妨害にも負けず真実を希求するが、被告はまだ現役で軍や政府にいるのだから大変だ。
論告は実際のものを再現しているのかな? かなり長いものでクライマックスとして設定されている。

見ててなんとなく韓国の裁判映画を連想した。公権力による犯罪の法廷ものという点で重なる部分が多いし、演出とか脚本などかなり影響を受けているのではないか。

劇中に出てくる言葉「人殺しの集団が大勢殺しても誰も気付かない」……は場所や時代を問わず起こりうることだ。
人数はさすがに異なるが、軍隊ならずとも日本でも入管施設とか警察署内で同じようなことが起こっているではないか。
もはや民主主義以前の危険水域に近づいているなあ💀

一つ疑問なのはセリフが英語だったこと。自国で公開するなら当然スペイン語だよね。作中の文書はスペイン語だし。二つのバージョンがあるということ?


231108b「母の聖戦」
監督:テオドラ・アナ・ミハイ
出演:アルセリア・ラミレス
ベルギー・ルーマニア・メキシコ 2021年

身代金目的で娘が犯罪組織に誘拐される。メキシコでは日常的によくある事件というのが恐ろしい。
娘を取り戻すための母親の苦闘は「聖戦」というより「執念」に近い。また父親が全く役に立たないのよ👊 しかし彼女のあくなき追及はさらに暴力を引きずり出してしまう。見ていると観客はグツグツと煮詰められていく気分だ。
それを特定の人物に密着するドキュメンタリー風の手法でひたすら追っていく。主演のラミレスは女優賞ものだろう。

話が進むうちにますます緊張が高まっていくのでかなり疲れた。しかも陰惨なトーンである。しかしラストについてはどう考えたらいいのだろう? 観客がそれぞれ解釈するしかないのか。作り手側の未来への願いといえようか。
なお、これは実話を元にしていてモデルとなった母親はその後殺害されたとのこと。

途中に、何かの決意を示す時に女が髪を切るという定番の描写があった。なら男はこういう時何をするのかしらん(^^?


231108「聖地には蜘蛛が巣を張る」
監督:アリ・アッバシ
出演:ザール・アミール=エブラヒミ、メフディ・バジェスタニ
デンマーク・ドイツ・スウェーデン・フランス2022年

イランで現実に起こった事件を元にしたサスペンス。サイコスリラーと見せて犯人は早々に正体を現し、社会のひずみを描く方向に向かう。
娼婦殺人とヒロインが受けるセクハラは同根であることが暗示され、犯人の正義を偽った欲望が暗い渦に飲み込まれていく。

なので、見ていてかなり気力が削られるのは確か。特に殺人と暴力の詳細が繰り返ししつこく描写されるのはかなりゲンナリする。そこまで詳しく見せなくてもいいんじゃないの? 元気な時に鑑賞を推奨したい。
当時実際に犯人を支持する人々がいたそうだが、今の日本でも同じようにSNSで吹きあがるヤツが出てきそうである。そういう意味でも『タクシードライバー』を裏側から眺めたような感がある。

ジャーナリスト役のエブラヒミはカンヌで女優賞を取ったそうだが、犯人役もなかなかのイヤ~ンな演技。こわいよ~(>y<;)
なお作中の某所にボカシがかからなかったのは物体が「偽物」ということが明らかだからなのかな?(「これは偽物です」と自己申告するのか)

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