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2024年3月 8日 (金)

「キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン」:長ーい太巻寿司、食べるには苦労する

240308 監督:マーティン・スコセッシ
出演:レオナルド・ディカプリオ
米国2023年
➡映画のチラシがないので代わりに原作本

スコセッシの前作『アイリッシュマン』は209分、アカデミー賞で9部門候補になったが、結局無冠のままに終わった(『パラサイト』が席巻した年)。
そして今作については、年齢が年齢だけに次があるかどうか分からん!という状況での登場である。前作はネトフリ配信が前提だったので長尺なのは仕方ないとしても、ほぼ変わらない206分だ。監督の意気込みが感じられる。

原作のノンフィクションは出た時に読んだが八割がた忘れてました(^^;ゞ
映画で描かれている石油が出た先住民居留地の連続不審死は前半だけで、後半はさらに恐るべき陰謀が暴かれ、加えてFBI創設史も並行して描かれる--ぐらいはさすがに覚えていた。
これをそのまま映画化したらいくら時間を長くしても足りない。一族の事件だけに絞ったのは正解だろう。

1920年代オクラホマ、主人公が叔父「キング」の下を頼って行った時から全ては企まれていたようである。運転手をやってみないか?女と知り合いになれるぞ、なんて見えざる指示を出す。
また主人公のアーネストというヤツがかなりフラフラとしたいい加減なチンピラで、それは冒頭の駅に着いてすぐの行動で明らかにされる。でも彼があまり嫌なヤツだと思えないのはへの字口のディカプリオが演じているせいだろうか。

そして粛々と悪事は進められる。神の代わりに金が全てを支配する地ではなんでも可能である。日常的に何気なく行われる悪と差別--社会構造として存在するこのような悪が、いかになされるのかをスコセッシは丹念に描いている。これは米国の裏面史であるが、裏ばかりで一体「表」はどこに存在するのだろう。

じわじわと押してくるデ・ニーロに適当に流されていくディカプリオ。ほとんど二人の顔ばかり眺めてた気がする。そしてその間にモリー役のリリー・グラッドストーンが挟まるという次第。今夜の夢に出てきそうだ。
この三者が具になって縦に巻かれている長い太巻寿司を思い浮かべる。全部食べて消化するのは大変だ。

かように力作にして問題作であるが、難点はやはり長くて⏳晦渋だということ。後半はもう少し短くできるのでは(^^?なんて思っちゃったりして。長時間作品は脳ミソの容量がパンクしてしまう~(老化現象かしらん)。
それと、ヒロインたるモリーの心理状態の描写が今一つ男たちに比べて薄いというのもあった。

さて、前評判通りアカデミー賞は10部門候補となった。だが事前の噂では確率が高いのはリリー・グラッドストーンの主演女優賞のみという予想らしい。またもこれまでと変わらぬ展開か。
なお作曲賞候補のロビー・ロバートソンはこれが遺作とのこと。

裁判の検事と弁護士は登場時間の短さの割に豪華キャスト過ぎで驚いた🌟(なぜにジョン・リスゴー、B・フレイザー?) 他にもミュージシャンが何人も出ているらしい。
リリー・グラッドストーンについては初めて見る役者と思っていた。しかしケリー・ライカートの『ライフ・ゴーズ・オン 彼女たちの選択』に出ていると知って焦った。全く覚えてなかった😑
これは3つエピソードによるオムニバス映画で、ローラ・ダーンやミシェル・ウィリアムズのエピソードはよく思い出せないのだけど……クリステン・スチュワート扮する夜間講座の講師にストーカーまがいにくっ付いてくる若い娘が彼女だったのだ! 何考えてんの、この娘はーっ(>O<)と叫びたくなる怪演である。

【追記】アカデミー賞確実だとされていたグラッドストーン、やはり取れなかった。またもスコセッシ無冠に……💧

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