「異人たち」:彼岸で待つ
監督:アンドリュー・ヘイ
出演:アンドリュー・スコット
イギリス・米国2023年
*後半にネタバレ感想があります。
原作小説も大林版も未見である。ストーリーを読んでもピンと来ず、あまり期待しないで行った。
主人公は40歳代ぐらいのゲイの(「クイア」というべきか)シナリオライターで高層マンションに一人で住んでいる。しかし冒頭からなんだか棺桶に半分足を突っ込んでいるような雰囲気が漂っている。
なにせ部屋数は多いのに人が住んでいるのは2部屋だけなのだ。こんなんでエレベーター動かしたり廊下の照明とか維持費を賄えるのか(?_?)などと余計なことを考えてしまう。
男はそのもう一人の住人の若者と知り合うが、彼もまたゲイである。となると他の住人の不在とはすなわち、彼ら二人がマイノリティとして逆に他の住人から見えていない、ということを象徴的に表しているとも受け取れる。
彼がかつて生まれ育った家を訪ねるとそこには子どもの頃に死別した両親の幽霊がいた!……そこからノスタルジーと感傷が色濃い領域へと入っていく。
二人と語り合うことを通して数十年間の時代のギャップと主人公の抱いていた孤独感がさらに浮かび上がる。眠れなくなった彼が子ども返りして当時のパジャマを着て両親のベッドへ潜り込むくだりは、冷静に横から見れば笑ってしまう構図なのだがそうはならない。
ダンスフロアで踊っても楽しくない。消え去った日々を思い起こし彼が常にメソメソしているので、見ている私までメソメソしてしまう(> <。)ウウウ
メソメソしているのは彼だけでなくなぜか若者もだ。もはや何が幻想で現実なのかさえ曖昧になってくる。
性行為シーンが過剰だという意見を見かけたが(途中で客が一人出て行った)、私もそれを感じた。しかし逆に現実味が曖昧だからこそそういう表現を取ったのかもと思う。つまり失われた生の証しである。
色彩は常に沈鬱。「現代」の二人の服装が全くもって日常的で冴えず、さらにヨレヨレしているのが印象的だった(あそこまでヨレているのはなかなかないのでは)。
登場人物が4人限定だからこその凝縮されたような、こごったような、閉じられた世界の表現が極められていた。俳優たちもそのアンサンブルを完璧にこなしていた。
しかし「星になる」シーンは正直唐突過ぎて理解できなかった(・・?
なんだと思ったら挿入歌として使われているフランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッドの曲のヴィデオ・クリップを引用したものらしい。内容はイエス・キリスト誕生のエピソードを描いていて、羊飼いたちが輝く星を見るのだ。その光景である。
私は「リラックス」みたいな曲しか知らず、まさか彼らがこんな宗教色の強い歌(しかも「愛」をうたった)を作っていたとは思わなかった。でも、知らない人には分からないよね……❔
分かるところあれば不可解なところもありという映画だった。見てて終始メソメソしちゃったけど。
監督の前作『荒野にて』はかなり気に入ったが、『さざなみ』はまだハードディスクに死蔵されたまま😱 早く見なくては!
★★ネタバレ注意★★
以下、終盤についてのネタバレ感想を書きます。
未見・未読の方は注意。
終盤に至って、実は若者も幽霊だったことが判明する。二度目に会った時には既に亡くなっていたらしい。腐敗した遺体となって発見される。
故郷の町で過去の幽霊と会い、現在のマンションでも幽霊と愛し合う。4人中3人はみなあの世とは……(~_~;)
それどころか見終わった後にさらに恐ろしい考えが浮かんできた。
もしかして主人公も死んでいてマンションの部屋の中で腐っているのではないか💥
彼は冒頭で原稿を書き進めず悶々としている時にはもう死んでいる。それ故、彼は故郷でもマンションでも生きている人間ではなく自分と同じ死者としか出会えない(道理で住人が二人しかいないわけだ)。
そのような死の世界を彼はさまよっている。
陰々滅滅、孤独もここに極まれりである。原題の"ALL OF US STRANGERS"とはそういう意味か。
そう思うとますますジワーッと来て泣けてくるのだった(T^T)ウウッ
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