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2024年7月

2024年7月31日 (水)

「リトル・リチャード アイ・アム・エヴリシング」:我が音楽を行く

240731 監督:リサ・コルテス
出演:リトル・リチャード
米国2023年

私はリトル・リチャードについてほとんど知らない(!o!)ことに気付き、ロック者としてこれではイカン⚡と思い立った。
ドキュメンタリーだがご当人は2020年に亡くなっており、過去の映像、インタビュー、友人知人・関係者の証言から構成されている。CNNの制作らしい。

貧しい子ども時代から音楽業界へ入っり家族11人を養ったという経緯の中で、ロックンロールの創始者としての強烈な自負が語られる。JBもジミヘンも弟分で教えてやったし、デビュー時のビートルズやストーンズからは崇拝されたのも事実だ。(ただしデビュー時のプレスリーには敵愾心を抱く)

当時としては珍しくゲイであることを公にし奇抜で強烈なステージは模倣者を生んだ。しかし実際には彼ではなく、後進のミュージシャンの方が大成功するのだった。さらに神への信仰との間で引き裂かれ、ロックンロールから足を洗い結婚する--など激しく揺れ動く。
クイアな在り方を示すことで他人を解放したが、自分自身を解放するのは困難だったという指摘がしみる。

様々な素材の編集も手際よく、卓越したミュージシャン・パフォーマーの伝記として、若者文化胎動期の米国時代背景や黒人ミュージシャンの困難などがよく分かった。才能豊かではあるが偉人ではない、天才の肖像画でもなく、生ける矛盾のような存在である。
見て聞いて興味深いドキュメンタリーだった。長年の不遇から、終盤のようやくの授賞式シーン(1997年)ではちょっともらい泣きしちゃった(T^T)
ただ途中で3曲ばかり挿入される、現在の無関係なミュージシャンの演奏はなんだったのよ💀

あれだけヒット曲作ったのにほとんど印税貰えなかったとは💸ひどい話だが、当時の黒人ミュージシャン契約あるあるですかね。
某有名バンドの某有名曲が彼の曲をモロにパクっていたことを後から知った。とすれば、彼が自分が不当に扱われてきたと怒りと不満を見せても仕方ないだろう。

ジョン・ウォーターズは崇拝のあまり、口ひげは彼を真似しているとか。知らなかった。
「クイア」の意味が少し分かりました。

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2024年7月24日 (水)

「古楽の調べ 上野学園大学古楽部会教授陣による」:音に歴史あり

240724 会場:旧東京音楽学校奏楽堂
2024年6月28日

大雨の日で、上野駅に着いたら土砂降りだった。駅前の舗装は水はけ悪く巨大な水たまりと化していた。
そんな中で上野学園にて教鞭をとっていた古楽部会の演奏家によるコンサートが開催された。当然ながら客席は演奏家・関係者多数でごった返していた。

大学自体は今年の3月に既に終了したとのこと(短大は継続)。その功績をしのぶため……ではなくて、未来へつなぐための演奏会である。出演者は10人(ラストにプラス1名の隠し玉として有村祐輔も)だった。

出演者はリコーダーとオルガン・チェンバロが中心で、渋いプログラムが淡々と進行した。クレープス、シックハルト、さらにはG・ガブリエリも。フローベルガーは講師だったリュート奏者金子浩をしのんでチェンバロ独奏曲が演奏された。
前田りり子&太田光子の縦横笛コンビが活躍するクヴァンツのソナタが生き生きとして楽しかった。

会場で配られたパンフには詳細な上野学園の歴史や思い出が記されていた。
会場は本来なら石橋メモリアルホールのはず……言ってもせんないことだが残念よ。
関係者の方々はお疲れさまでしたm(__)m

帰りは雨がやんでいたが、西洋美術館のロダン「地獄の門」がライトアップされていて異形の地獄感を醸し出していた。それにしても「地獄」は門のこちら側なのかあちら側なのか(^^?

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2024年7月21日 (日)

「ソウルフル・ワールド」:生きながらジャズに葬られ

240721 監督:ピート・ドクター
声の出演:浜野謙太
米国2020年

コロナ禍で2020年の劇場公開中止、配信のみとなったピクサー・アニメ。しかし待ち続けた甲斐あって、ようやく短期限定だけど劇場で公開となった。ただし残念ながら吹替のみだ。

主人公はミュージシャンを目指す中年黒人男性。でも現状はハイスクールのしがない音楽講師である。
しかし長年の夢だったジャズクラブ出演が遂に決定🌟 したはいいが、直前に事故で無念の死を遂げる……はずだったのをあまりの無念さに断固拒否。あの世に送られ魂が吸収される直前に逃走して、ジタバタした挙句に地上世界への復帰を目指す。
音楽一途の執念とはこのことか🎹
これから生まれる魂が準備のため集められる世界があってそこに紛れ込むが、逆に生まれることを断固拒否中の魂22番を巻き込んで無理やり現世へ戻ってしまう。

人間に生まれるためには全ての「要素」が揃わないと……というのはいかにも『インサイド・ヘッド』の監督らしい発想だろう(そのため22番は逸脱しているわけだ)。
一方、生まれる前の魂が集う世界が存在するというスピリチュアル系ぽい設定はちょっと苦手である(^^;
魂たちはコロコロしてかわいいし、その風景はパステルカラーで美しいのであるが。

正反対の現実世界ニューヨークの生き生きとした描写は遥かに勝る。それも小汚い部分を詳細なまでに再現している。廃墟とかの暗さではなく、生活感あふれる汚さなのだよね。床屋のワヤワヤ感とか。
どうでもいいような、些細なモノが美しい。食ベ残しのピザの端さえ生命感に輝いて見える。実写だったらこんなことはあるまいよ。
主人公が全く冴えない独身男なのも、猫がかわいくないブチャ猫なのもいい。

そして楽器を弾く時の指の動きには魅せられる。ジャンルを問わず音楽好きな人にはオススメしたい。地下クラブのサックス、階段のトロンボーン🎶
……しかし主人公は音楽一途だったからこそ見失っているものもある。それが22番とのかかわりの中で分かってくる。

人生で生きるよすがを失った中高年向けに推奨--と最初見た時には思ったが、後でよくよく考えると若いモンは22番に共感するかもしれない。
リンカーンだろうがマザー・テレサだろうがエラい人の言うことなんか信用しない。現実なんか絶対認めねえぞ( ̄へ  ̄ 凸ケッてな感じだ。

2020年アカデミー賞で長編アニメーション賞を、レズナー&ロス、J・バティステが作曲賞受賞とのこと。
吹替じゃなくてオリジナルで見たかった(聞きたかった)。


街角で細長い看板を店の前に立って腕や背中でくるくる回して宣伝する場面が出てきた。『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』にも登場するがこちらが先だろう。
あれは米国ではよくやる宣伝方法のかな(^^? よほどの体力ないとやってられないような。ダイエットにはいいかもしれないけど。

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2024年7月15日 (月)

「ビウエラとウード」:お代わりお願いします

240715a 演奏:つのだたかし&柴山晴美
会場:松明堂音楽ホール

本来はアルゼンチンのギタリストを招いて行うはずだった公演、なんと相手が怪我で来日できず急きょ内容を変更したものである。それでも満員御礼だった。
ゲストはソプラノの柴山晴美である。

前半はウードを使用して、500年も前にスペインから離散したユダヤ人であるセファルディの歌を取り上げた。内容は恋愛歌とグラナダ陥落を嘆く歌だった。
合間にはつのだ氏が昔イスタンブールに行った時にセファルディの末裔に出会った話が出た。
後半はビウエラに持ち替えて、独奏曲とスペインのロマンセ(伝承歌謡)という内容だった。ビウエラの演奏はなんと言っても珍しい。実演はなかなか聞けるものではない。
二人による長めの楽器・作品・タブラ譜の解説もあり、100人以下のこじんまりした会場(椅子は狭かったが)にふさわしい親密さがあった。

休憩時にはドリンクサービスがあって、おいしいワインを頂きました(^O^)/ 不景気なご時勢の中、ありがたいこってす。冷たくてお代わりしたかった~🍷

なお、つのだたかしのステージに行ったのは1年数か月ぶりだったがますます老人力が増強していた💫
*共演者の名前をド忘れ。
*楽屋に忘れ物を何度も取りに行く。
*進行の台本があるのだが何度も脱線して長引いてしまう。
*滑り止めの布を度々落とす。
*休憩後に自分もワインを飲みたかったと客に愚痴る( ̄▽ ̄;)
などなどだったが演奏の腕は変わらないので、また次回もお願いします。

↓本来の公演内容
240715b

 

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2024年7月12日 (金)

「DUNE/デューン 砂の惑星」「デューン 砂の惑星PART2」「砂の惑星」:ホドロフスキーは見てません

★「DUNE/デューン 砂の惑星」
監督:ドゥニ・ヴィルヌーヴ
出演:ティモシー・シャラメ
米国2020年

★「デューン 砂の惑星PART2」
監督:ドゥニ・ヴィルヌーヴ
出演:ティモシー・シャラメ
米国2024年

★「砂の惑星」
監督:デヴィッド・リンチ
出演:カイル・マクラクラン
米国1984年

過去の作品を見た限りではどうもヴィルヌーヴ監督とは相性が悪い。『砂の惑星』を再映画化したと知っても敬遠していた。
しかし正月に大作ものを見たくなりパート1をオンデマンドで鑑賞。前半見たなら後半も見ずばなるまい。どうせ見るならIMAXだっ⚡ということで料金を奮発。なお原作は第1部を学生時代に(今を去ることウン十年前)読んだ……が当然忘れている。

そもそも原作は砂漠で啓示を受けたムハンマドをモデルにしているそうで宗教的側面が強いのと同時に、「未開の民族の女戦士と知り合いそれを踏み台にして彼らのリーダーとなる」という定番の英雄譚でもある(「白人酋長」ものというらしい)。

バート1は前哨戦という感じで、皇帝率いる帝国で二つの領家が衝突、お家騒動があってさあどうするよ--だが、SFというよりはなんとなく『ゲーム・オブ・スローンズ』ぽい。まあ、こちらの原作の方が元祖だけどさ。
ゲースロと違うのは、砂漠の惑星アラキスで住人によるゲリラ戦が起こっていること。主人公がそこに巻き込まれていくこと。加えてコワい女性宗教集団ベネ・ゲセリットの存在もあり。宇宙のお家騒動話ともどもアクションやら戦闘場面を交えてまとめているのは大したもんである。

予告ではゼンデイヤが大きく活躍していたが、実際には終わりの方にちょろっと登場しただけで終了。観客の期待を大いに裏切ってくれた。後半が間延びしていて、主人公は中途半端なまま。次作を前提にしているとはいえもう少し何とかならなかったのか。
ただ、ヴィジュアルや音響はド迫力💥お見事の一言である。
主役のT・シャラメは実生活では色々言われているが(;^_^A 役者としての才能は疑いようがないだろう。

パート2は引き延ばし感があった前作に比べて、今度はギュウ詰めで消化不良で胃もたれし見てて疲れるほど。さらに豪華すぎる出演陣がそれに拍車をかける。レア・セドゥなんかもったいない使い方だ。
敵役ハルコンネンの暗い「帝国」描写は、なんとなく洗練されたイモータン・ジョーの砦ようにも見えた。

完成度高く終わった後の満足感は大きかったが、「こんなもの見たことねえ~~」と驚くような場面はなかった。それと話の途中が飛んでいるようなところが何カ所かあったのも謎である。そのうち完全版で補足されるとか?
大画面3Dで役者の顔のドアップを見せられるのはキツかった(^▽^;) ついでに音が大きいのもまいった。デカけりゃいいってもんじゃねえぞ💢
相性悪い監督だけど、ここまでまとめた力業は認めねばなるまいよ。

事前にパート3もあるらしいと噂が流れてきたが、最後まで見ると続きを作る気満々のようである。原作の第2部まで踏み込むらしいが、今作の結末が原作と異なっている(ゼンデイヤ扮するチャニの動向)のでどうするのかね。さらにまた豪華出演陣を投下するのか。TVドラマシリーズにするのだけは止めてほしい。
リンチ版と原作にあった変態味がなかったのは残念である。


結局、リンチ版もオンデマンドにあったので見直してしまった。公開時に見て……その間にレンタルビデオでもう一度くらいは見ただろうか(?_?) とにかくほとんど忘れていたのは確か。でも途中で思い出したところもあった。
で、印象を一言でいうと

変態残酷醜悪❗❗

正確には三言ですね(^^;
これらの要素はヴィルヌーヴ版にもあったという意見あるかもしれないが、やはりリンチは性根が違うと言わざるを得ない。隠そうとしても滲み出てきてしまうものが……まあそもそも隠そうとしていないのだが。双方ともレーティングはGだが、こちらは「良い子」はもちろん「良い大人」にも見せられねえ~🈲

1万年後ぐらいの未来世界のはずが、冒頭からなんだか古めかしい軍服やら宮廷場面が登場する。どこかで見た覚えが--と思ったら『アラビアのロレンス』だった。かなり意識しているように見える。確かに植民地(星)での特殊な資源の収奪戦というのは、当時の中東情勢と重なる。
それからヴィルヌーヴ版ではほぼ省かれていた宙航士のギルドが第三の勢力としてしっかり登場する。その醜悪な姿には思わずギャーと叫びたくなるが、皇帝を恫喝するほどの権力を持っているのだ。(なぜ彼らの存在を省いたのかは不明。話が分かりにくくなるからか?)

こちらもなにげに豪華出演陣ではある。パトリック・スチュワートが出ていたのは完全に忘れていた。スティングは昔見た時は生臭くってイヤだなあ~などと思ったが、今見ると雰囲気にピッタリとはまっているではないか(^O^)
侍女の一人としてキャサリン・ハンター(『哀れなるものたち』の娼館のマダム)が登場していてビックリ--「えっ、今とほとんど変わってない👀」。しかしクレジット見たらなんとリンダ・ハントだった。でもこの二人似てないか。遠い親戚じゃないの(^^?
あと公爵が抱えていたワンコは原作にもいるのだろうか。宇宙を股にかける未来にも犬はペットとして存在するのか。などと疑問を巻き起こしながらもちゃんと最後の対決場面に登場していた。

その他長くなるので箇条書きにすると
*字幕の訳はひどい。多分、昔SFが分かってない担当者が訳したのがそのままになっているようだ。最近のソフトやリマスター版は直っているのかね。
*特撮はかなりムムムなレベルである。昔とはいえ『スター・ウォーズ』以後である。やはり予算が足りなかったのであろうか。
*終盤の戦闘場面については大勢のエキストラ使ってクレーン撮影もやっていて、人海戦術で圧倒だ。それからサンドワームについてはデザインも含めてヴィルヌーヴ版よりこちらの方が迫力がある。人もちゃんと乗れそうだし(^.^)
*これは原作読んだ時も感じたのを覚えているが、気軽に原子爆弾を使用などと出てきて驚いた。生態系SFと銘打っている割には核で汚染しちゃっていいのか。まあ、未来では汚染の除去も簡単にできるんだろうけどさ。

全体に短縮版のようで、特に後半は駆け足状態で訳が分からなくなり洗練度にも欠けるが、忘れがたき怪作といえるだろう。

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2024年7月 5日 (金)

「ミスター・ベイツvsポストオフィス」

ミステリーチャンネルにてドラマシリーズを見た。今年の1月に英国で放映され社会に衝撃を与え、日本でも報道された問題作だ。
富士通が作った郵便局システムの欠陥により、多くの郵便局長が不正経理を行なったという疑いをかけられる。その数なんと3500人。

身に覚えがなくとも消え失せた収益の差額を支払った者もいるが、700人が有罪となり収監されたのは約230人。そして自殺者4人まで出る。
ベイツは元郵便局長で引退生活を送っていたが、真相を追及し被害者555人をまとめて英国郵便(ポストオフィス)を訴えた代表だ。事件が起こってから20年経った今も係争は続いている。

題材は社会問題だが、それぞれの局の家族との愛情や地元との繋がりに重点を置いたヒューマンドラマとなっていた。
ベイツ氏が引退後に引っ越して住んでいるウェールズの自然が、あまりに美しくて魅力的。行ってみたくなった✨

英国の郵便局は日本の民営化のモデルにしていたのだろうか? 店舗の半分は郵便局で残りのスペースで局長側がカフェや手芸用品店などを個人営業するという形式を取っている。
従って収支が合わないと店の方の従業員を疑ったり疑心暗鬼になる。さらには不正を行なったとして店もろとも封鎖されたりということも。一方的にかけられた疑いを晴らすまでには局長とその家族は塗炭の苦しみが続いた。

原因は英国郵便が採用したオンラインシステムで、富士通が納品管理運営するというもの。「フジツー」は欧州全体に食い込んでいるグローバル企業として紹介されている。
最初のうちは収支が合わないのを「そんな問題はあなたの所だけだ」とウソついたり、メンテナンスも行わず放置していた。

英国郵便が行なった警察まがいの強引な対応もひどいが、フジツーは最終的にはエラー隠ぺいだけでなく、個々の局に夜な夜なリモートアクセスして収益の数値を改ざんしていたという疑いも出てくる(-_-メ) これって犯罪じゃないの。

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