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2024年8月

2024年8月30日 (金)

「アイアンクロー」:鉄の爪にガラスの心

240830 監督:ショーン・ダーキン
出演:ザック・エフロン
米国2023年

米国で実在する有名なプロレス一家の物語である。普段、プロレスとは縁がない人間だが前評判が良かったので行ってみた。

時は1980年代初め、農場で鍛錬する若者たちの姿があった。父親はプロレス界で活躍したが、現役時代に果たせなかった望みを自らの息子たち4人に託そうとしている。そして……託し過ぎてもはや押し付けとなるのだった。それは強圧となって彼らを叩き潰す。

では、母親はどうなのかというとキリスト教の熱心な信者である。息子の一人が高校のバンドのライヴに行きたいと言うと、強固に反対する(父親も行かせてやれというぐらい)。その場面では理由は語られないが、恐らくは強固な信仰のためだろうか。

いくら肉体を鍛えても心は鍛えられない。不安定になった時に父や母に相談しても返ってくる答えは「兄弟で解決しろ」で、子どもたちの悩みに向き合ってくれず。これでは行き場もないのだ。
元々長男は子ども時代に亡くなっているのだが、事故、病気、ドラッグ、メンタル不調と次々とトラブルが彼らを襲う。リングの上ではパワーを誇示する彼らが実はガラスのように不安定で壊れやすい。(でもラッシュの「トム・ソーヤー」がかかるところはカッコよかった)

このような困難な家族の肖像が、主に次男のケヴィン(実質的には長男)の視点から描かれる。それ以外にもプロレス興行の実態、州ごとの団体やランキングなど、内幕が素人にも分かるようになっていた。

実話ベースとはいえ、本当は六男までいたというのには驚いた。あまりに悲惨になってしまうので削ったらしい。四男の経緯も実際はもっと複雑とのこと。
終盤でケヴィンが見るヴィジョンは、突然にリアリズムを逸脱して唐突な気がした。でも彼の願望だからあれでいいのか。彼の息子たちの言葉が救いである。

主演のザック・エフロンの肉体鍛錬度はスゴイ(!o!) 演技も良かったしオスカーの前哨戦に名前も上がらなかったのは納得できねえ😑
母親役はモーラ・ティアニー。妻のリリー・ジェームズは美人過ぎ~🎵
監督のショーン・ダーキン作品は以前『マーサ、あるいはマーシー・メイ』を見ていた。10年も前であまりよく覚えてないが、主人公がグツグツ煮詰まっていく様子を密着して描くのが得意技のようだ。


観客は往年のプロレスファンと思しき白髪頭の男性多数だった(来日して試合もやってたらしい)。ただ私はやっぱりプロレスは苦手だなと思った……我が家は完全ボクシング派だったんでな。多分、祖母が熱狂的なプロレスファンだったのでその反動だろう。

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2024年8月25日 (日)

「続・パリのソナタ」:五輪に勝つ

240825 演奏:宇治川朝政ほか
会場:としま区民センター小ホール
2024年8月12日

リコーダー3人+ガンバ+チェンバロの組み合わせによる、ちょうど一年前のコンサートの続編である。前回はボワモルティエとドルネルというパリで活躍した二人を中心にしたのプログラムだった。なぜ今回は「続」かというと取り上げた曲集の中で前回の残りを演奏するという趣旨である。
編成は同じだが、ガンバは上村かおりから平尾雅子に交代となっていた(宇治川、田中せい子、ダニエレ・ブラジェッティ、福間彩は変わらず)。

ということでボワモルティエのソナタは4曲という大盤振る舞いだった。ドルネルのソナタはアルトリコーダー3本で演奏。さらにマラン・マレの弟子というシャルル・ドレは初めて聞いた。マレへの追悼曲を含む組曲をやった。
チェンバロ独奏のクープランは相変わらず仄めかしを含むタイトル。当時の宮廷人には通じたのか。
いずれもTVの五輪を見なくとも、パリの雰囲気(300年前のだけど)が浮かんでくるような演奏だった。

会場は6階だったが、小さい子連れ家族が何組かエレベーターで8階に上って行くので何をやっているのかと思ったら「おきなわサマー」というファミリー・コンサートだった。
おきなわ対パリ……ムムム(~_~)

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2024年8月18日 (日)

映画落穂拾い・いつまでも見られると思うな劇場未公開作品特集

★「こいつで、今夜もイート・イット アル・ヤンコビック物語」
監督:エリック・アペル
出演:ダニエル・ラドクリフ
米国2022年

WOWOWで本邦初公開。ある年代以上の洋楽ファンならみんな知っているアル・ヤンコビックの伝記……とは名ばかりの怪作・奇作・珍作である。全体の92%はデタラメとパロディだろう。でもご当人を知らない若いモンは半分信じちゃったりするかも(;^_^A

ダニエル・ラドクリフはアルを熱怪演(歌は吹替らしい)しているが、トレードマークのメガネとチリチリ髪とアロハシャツを取っ払うと、外見で似ている部分はほぼない。逆に言えばこの3点があれば誰でもアルになれるぞ👍
なお、ご本人もひそかに特出している(見てても分からなかった)。

成り行きでアコーディオンを手にした若者が、替え歌で一世を風靡するも方向転換してオリジナル曲で勝負。すると逆に替え歌にされたって……ウソも大概にせえよ💥である。
推測するに、実話なのは両親との葛藤部分とレコード会社で「替え歌なんか誰か聞くか」と罵られたところぐらいか。さらに物語はぶっ飛んだ方向へ進んでいく。
テーマは例え変であってもそんな自分自身を認めよ、と一応言っておこう。

パーティー場面ではピーウィー・ハーマン、ウルフマン・ジャック、ディヴァインにダリやウォーホルなどがウロウロする。
マドンナについては主要人物になっているのだがかなりひどい悪女扱い(エヴァン・レイチェル・ウッドが怪演)。ご本人は怒らなかったのかね(^^?

誰も予想しえなかった衝撃の結末😱に続き、エンドクレジットが始まってしばらくすると笑撃のシーンが出現するので見逃さぬように。

さて、この邦題は苦肉の策でひねり出したのだろうか。でもそもそもアルを知らない人は『イート・イット』も知らないだろうから完全に意味不明なのでは?


★「レンフィールド」
監督:クリス・マッケイ
出演:ニコラス・ホルト、ニコラス・ケイジ
米国2023年

ダブル・ニコが豪華共演!ということでごく一部で話題ながら未公開だった問題作を、ケーブルTVの配信で鑑賞した。

舞台は現代、ニコケイのドラキュラに下僕レンフィールドがこき使われて幾年月が経過していた。教会の自助グループに参加して、パワハラ上司の悩みをつい告白してしまうのであった。
レンフィールド自身は吸血鬼じゃないのね(初めて知った(^^;)。

そこへ街にはびこるマフィアと熱血警官(全くわきまえないオークワフィナ)が絡んできて、血がドバドバ飛ぶのは当然だが腕やら脚やらも飛ぶし、派手なアクションがこれでもかと繰り広げられる。思わず口アングリの過剰な迫力である。スタントの方々オツ✨ですと言いたくなるほど。

みどころはなんと言っても、ドラキュラを嬉しそうに演じながらいじめるニコケイに、長身を縮めるようにしていぢめられるホルトであろう。これは見逃せねえ~👀
果たして強圧的なボスから逃れられるか--極めて現代的な問題でもある。古の産物ドラキュラとのギャップがバカバカしい。

監督はクリス・マッケイ。『レゴ・ムービー』とか『レゴ・バットマン』やった人なのに、これの前作は全く話題にならなかったようだし、どうなってるんですかね?


★「ベスト・オブ・エネミーズ 価値ある闘い」
監督:ロビン・ビセル
出演:タラジ・P・ヘンソン、サム・ロックウェル
米国2019年

アマプラ鑑賞。黒人女性が主人公なので日本では例の如く配信スルーである。
1971年ノースカロライナ、タラジ・P・ヘンソン扮する公民権運動活動家とKKK団支部長(サム・ロックウェル)が親友になるという嘘のような実話だ。

ヘンソンは地元住民に何かあれば白人議員に抗議をいとわぬウルサ方で、返す刀でエリート黒人もバッサリ⚡ ロックウェルはKKKに入って初めて自己を承認されて居場所を見出した男である。役者二人とも後ろ姿だけでもその人物像を的確に表現しているのに感心した。
他にお懐かしやアン・ヘッシュが彼の妻役で出演。

この対照的な両者がどうあっても仲良くなるなど考えられない。そんな状況がユーモア交じりに描かれるが段々と笑えない事態へ……(-_-;)
演出はテンポよくツボを外さず面白かった。テーマとしては町の騒動の顛末と男の自己回復が中心なので、どちらかというとロックウェルの方が主人公だろう。

両者の問題解決の手法として「シャレット」(アクセントは後半にある)なる方式が採用される。聞いたこともないが、作中でも知っていた人物はほとんどいないと描かれている。
対立する住民同士の時間をかけた検討会(?)みたいなものだが、さすが米国ならではという印象。日本では成立しそうにない。

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2024年8月13日 (火)

「和・アウラータ・フォンテ」:下町のガット弦切れる猛暑かな

240813 2本のヴィオラ・ダ・ガンバによるイタリアバロック音楽の世界
会場:マリーコンツェルト
2024年7月21日

そもそもイタリアで活動しているアウラータ・フォンテ・アンサンブルというグループがあり、日本で演奏する時はタイトルのように「和」を付けるということらしい。
メンバーはソプラノ神谷美穂、チェンバロ上羽剛史、ガンバ島根朋史&ペリクリ・ピーテである。ピーテ氏は一人だけ年代が上だがエウローパ・ガランテでチェロ奏者をやっていた経歴があるとのこと。彼と神谷氏は在イタリアというのでいいのかな。

この日はウィーン周辺で活躍したイタリア人作曲家による、2本のチェロまたはガンバを使用する作品の特集である。取り上げられた6人の作曲家のうちボノンチーニとマルチェッロ以外の残りの4人は知らなかった。
作品はオラトリオ、カンタータ、器楽作品など各ジャンルもれなく揃っており、声楽では神谷氏がさすがの本場仕込みでガンガンと攻めの歌唱を華麗に繰り広げた。ガンバと歌が美しく絡み合う瞬間もあった。
ラストのフェッランディーニのカンタータは後半のほとんどを占める長い曲で、その間歌いっぱなし💨 お疲れ様ですm(__)m

器楽ではガンバ2本の響きがあまりに心地よく(会場の特性もありか)、曲数は2曲だったがもっと聞きたくなった。
途中で島根氏のガンバの弦がブチッと切れるアクシデント🔥があった。暑さのせいですかね。

なお曲の合間に数回、神谷氏が解説を話す--というよりは結構長い文章を読み上げたのだが、スピードが速すぎて老人脳にはついていけず頭の中でツルツルと上滑りしてしまった。
少し前に古楽関係のオンライン講座を聞いたのだが、同じくらいの分量の話を1時間半かけて話してましたよ(^▽^;)

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2024年8月11日 (日)

「アメリカン・フィクション」:不良作家と呼ばれて

監督:コード・ジェファーソン
出演:ジェフリー・ライト、スターリング・K・ブラウン
米国2023年
アマプラ鑑賞

アカデミー賞を作品賞はじめ5部門ノミネートながら配信スルーになってしまった本作。やはり黒人が主人公だと公開難しいのかなどと思いつつ鑑賞。全く見ることができないよりはマシか。

主人公は売れない純文学作家兼大学の教員。皮肉を飛ばしまくるタイプで学生には辛辣。さらに昔の黒人が登場する文学を題材にしようとしたら、白人学生から「差別的」と指弾され休職を言い渡されてしまう。
その後は二つのトラブルが彼を襲う。
一つは実家で高齢の母親と同居していた姉(妹?)が急死。介護問題が勃発するも兄(弟?)は離婚したばかりのゲイで遊ぶ気満々、関わる気はない。

もう一つは文学・出版関係。文学賞の審査員を担当することになるがその内情のいい加減さにあきれる。さらに自分の新作を出してもらえないため、ヤケになっていかにも「黒人風」な文体・ストーリーの作品を書いたらかえって大ウケしてしまうという事態に(;一_一)

家族についての部分は中高年にはかなり身につまされる。でも若い者が見てどう思うかは疑問である。そもそもこの一家は最初から分解していたのであり、歳月が経ったからといって再生するわけでもないのだ(-_-;)

後者のテーマは「黒人」らしさとか「多様性」の欺瞞が描かれていて、米国内事情を知ってないと分かりにくい。だが、日本でもエンタメ系小説がどんどん大部になっている今、果たして直木賞の選考委員は最後まで読んでいるのかアヤシイなどとと囁かれている。また作者自身と小説の主人公を重ねることの問題など、共通の部分がある。

結局「作家」こそが厄介な「人種」なのだろう。ほめられてもけなされても不満。どうしようもない😑 彼はそこに開き直る。
それ以外にも、出版社の編集者(社長?)がホロコーストを逃れたユダヤ人の子ども世代だったり、主人公は「差別なんか気にしねーよ」と思いつつもタクシーを止めようとして逃げられたり、一時的に暮らす別荘地が周囲は黒人ばかりで住み分けになってたり、と色々細かいところがチクチク来るのであった。

こう書いてくるとかなり下世話な内容かと思えるが、実際には段々とシュールかつ諧謔的な領域に入ってきて、フィクションか現実か曖昧になってくる。終盤は一回見ただけでは分かりにくい。現実の主人公は何もせず帰った、でいいんだよね(?_?)

主役のジェフリー・ライトを始め助演陣も充実。主演・助演男優賞のオスカー候補となった。結果はジェファーソン監督が脚色賞を受賞。
「ハリウッド大作一作の予算を10人の、いや100人の若い脚本家に回してあげてください」と授賞スピーチして感動と涙を呼んだ。

それとは別にアマプラの日本語字幕のひどさが話題になった💢 事前に流れてきたあらすじでは「弟」だったのに作中では「兄」になっている。さらに、母と暮らしていたのは「姉」なのか「妹」なのかも疑わしい。
加えて全ての文末に「?」印が付いたり、文頭にやたらと引用符があったり……いい加減にしてくれ~(>O<)

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2024年8月 4日 (日)

「大塚直哉レクチャー・コンサート オルガンとチェンバロで聴き比べるゴルトベルク」:バッハ先生、ごちそうさんです

240804 会場:彩の国さいたま芸術劇場
2024年7月7日

休館期間が終わって埼玉会館からさい芸に戻ってきたこのシリーズ。はや第10回目だそうだ。
--にしても日差しは容赦なく暑すぎで、駅から会場までに倒れそうだった。「がんばるんだ、がんばるんだ(~o~)」自らを叱咤激励しつつ歩かねばならなかった。気温36℃ぐらいあったらしい。

今回はキュレイターの林綾野をゲストに、ゴルトベルク変奏曲を通してバッハ先生の食生活に迫る🍴という企画である。

フェルメールなどおおよそ同時期の絵画を通して庶民の食生活を紹介してから、バッハの人生折々の食イベントを詳しく解析した。
オルガン鑑定で招かれた際のハレでの夢のような祝宴メニューを記録から見る。楽譜に赤いシミが残るほどのワイン好きだったらしい。忘れちゃいけないコーヒーカンタータもあるぞ。そして「ゴルトベルク」の民謡に登場する当時のキャベツとカブはどんな存在だったのか、など。
食べること飲むことに追及心旺盛なバッハ像が浮かんでくるのであった。

演奏の方は二段鍵盤の曲はチェンバロで、一段は基本オルガンでという形だった。三曲ごとにきちっと構成を決めて詰めていく几帳面さはバッハらしいような。
オルガンで聴くゴルトベルクはなんとなく素朴な味わいもあり。面白かったですう(^^)
次回のテーマは「舞踏」らしい。


さい芸は改修したということだが、金ピカになったわけではなく、トイレが広くなったわけでもなかった(全部洋式にはなったのかな)。
それにしても広くないトイレが混雑しているのに、ポーチ類を幾つも置いて洗面台一つ独占して化粧や髪を直している人っていうのは、どういう神経なのよ~。
次はおばさん力を発揮して、グイと割り込んで手を洗ったりしちゃおうかなっと💥

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2024年8月 1日 (木)

聴かずに死ねるか! 古楽コンサート2024年8月編

個人の好みで適当に選んでリストアップしたものです(^^ゞ
事前に必ず実施を確認してください。ライブ配信は入っていません。
小さな会場は完売の可能性あり。ご注意ください。

*1日(木)オール・バッハ・カンタータ1(プロムジカ使節団):としま区民センター多目的ホール
*  〃  ジローラモ・フレスコバルディのマドリガーレ(ドルチェアマーロ):五反田文化センター音楽ホール
*3日(土)知られざる名曲を求めて4 絢爛たるマドリガルの美(小倉麻矢ほか):大森復興教会
*7日(水)井上玲リコーダーリサイタル2 オトテールとイタリア:今井館聖書講堂
*  〃  J・S・バッハ 無伴奏チェロ組曲全6曲演奏会(パオロ・パンドルフォ):横浜市青葉区民文化センターフィリアホール
*12日(月)続・パリのソナタ(宇治川朝政ほか):としま区民センター小ホール
*17日(土)真夏の夜のあやしい宴(レ・ルーチ・アンティーケ):小金井宮地楽器小ホール
*  〃   ヘンデル リナルド(アントネッロ):サントリーホール大ホール
*21日(水)真夏の協奏曲祭り(Ensemble Reco+):横浜市旭区民文化センターサンハート
*30日(金)ボンポルティとバッハの協奏曲1(桐山健志ほか):日本福音ルーテル東京教会

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