「アイアンクロー」:鉄の爪にガラスの心
監督:ショーン・ダーキン
出演:ザック・エフロン
米国2023年
米国で実在する有名なプロレス一家の物語である。普段、プロレスとは縁がない人間だが前評判が良かったので行ってみた。
時は1980年代初め、農場で鍛錬する若者たちの姿があった。父親はプロレス界で活躍したが、現役時代に果たせなかった望みを自らの息子たち4人に託そうとしている。そして……託し過ぎてもはや押し付けとなるのだった。それは強圧となって彼らを叩き潰す。
では、母親はどうなのかというとキリスト教の熱心な信者である。息子の一人が高校のバンドのライヴに行きたいと言うと、強固に反対する(父親も行かせてやれというぐらい)。その場面では理由は語られないが、恐らくは強固な信仰のためだろうか。
いくら肉体を鍛えても心は鍛えられない。不安定になった時に父や母に相談しても返ってくる答えは「兄弟で解決しろ」で、子どもたちの悩みに向き合ってくれず。これでは行き場もないのだ。
元々長男は子ども時代に亡くなっているのだが、事故、病気、ドラッグ、メンタル不調と次々とトラブルが彼らを襲う。リングの上ではパワーを誇示する彼らが実はガラスのように不安定で壊れやすい。(でもラッシュの「トム・ソーヤー」がかかるところはカッコよかった)
このような困難な家族の肖像が、主に次男のケヴィン(実質的には長男)の視点から描かれる。それ以外にもプロレス興行の実態、州ごとの団体やランキングなど、内幕が素人にも分かるようになっていた。
実話ベースとはいえ、本当は六男までいたというのには驚いた。あまりに悲惨になってしまうので削ったらしい。四男の経緯も実際はもっと複雑とのこと。
終盤でケヴィンが見るヴィジョンは、突然にリアリズムを逸脱して唐突な気がした。でも彼の願望だからあれでいいのか。彼の息子たちの言葉が救いである。
主演のザック・エフロンの肉体鍛錬度はスゴイ(!o!) 演技も良かったしオスカーの前哨戦に名前も上がらなかったのは納得できねえ😑
母親役はモーラ・ティアニー。妻のリリー・ジェームズは美人過ぎ~🎵
監督のショーン・ダーキン作品は以前『マーサ、あるいはマーシー・メイ』を見ていた。10年も前であまりよく覚えてないが、主人公がグツグツ煮詰まっていく様子を密着して描くのが得意技のようだ。
観客は往年のプロレスファンと思しき白髪頭の男性多数だった(来日して試合もやってたらしい)。ただ私はやっぱりプロレスは苦手だなと思った……我が家は完全ボクシング派だったんでな。多分、祖母が熱狂的なプロレスファンだったのでその反動だろう。
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