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2024年9月

2024年9月30日 (月)

「関心領域」:マイ・スイート・ホーム、お隣りさんは気にしない

240930 監督:ジョナサン・グレイザー
出演:クリスティアン・フリーデル、ザンドラ・ヒュラー
米国・イギリス・ポーランド2023年

日本でも公開前から賛否両論・議論沸騰・毀誉褒貶で(一部が)かまびすしかった本作である。そのせいか「収容所もの」としては公開規模が大きく、ポップコーンとドリンク持って鑑賞する人たちも結構いた(一説によるとホラー映画と間違えた、とか?)。

こぎれいな邸宅と丹精込めた平和な庭園。見る前の予想だとそこに遠くから微かに音が聞こえてくる--みたいな設定かと思ったら全く違った。それどころか不審な音のド真ん中に住居があってガンガン響いて来るじゃないですか~(>O<)
職住接近も極まれり、ヘス所長宅からユダヤ人収容所まで通勤時間10秒である。しかし夫人はそんなことも気にせず美しい庭を造り、当然の権利として快適ライフを楽しんでいるのだった。

「何も起こらない」という意見があったがそんなことはないだろう。ずーっと何かが起こり続けているという話である。
そんな生活を楽しんでいるのは夫人だけだろうか。夫の所長も変な部分が徐々にチラ見せされてくる。長男が「歯」を眺めているところも恐ろしい。
赤ん坊は泣きっぱなし、子守り役はノイローゼ、夫人の母親が遊びに来たもののすぐ帰ってしまう。庭土には怪しい白い粉をまいている。なるほどこれはホラーに違いない💦

しかし告白せねばなるまい。「ルドルフ・ヘス」って二人いた!とは知りませんでしたっ。最初ヒトラーの側近かと思ったら別人で、正しくは綴りも発音も違うらしい。

密かにリンゴを作業地に置いていくレジスタンスの少女や、所長から異動になった先のベルリン生活も描かれるが、「家」を離れた場面は総じて冗長に思える。
部分的にあざとい、わざとらしい、これ見よがしな表現があり、これは各人の好みによってそれをどう評価するかは分かれるだろう。例えば終わり近くに突然挿入される(掃除している)場面。これは必要なのか。
また、階段でゲーゲーやってるから罪の意識を感じているというのも無理があるのでは。
しかし、賛否どちらでも色々と考えてしまうのは確かだ。


なお、アカデミー賞5部門ノミネートで国際映画賞と音響賞を獲得。イスラエル✖ハマスの戦闘継続する中、授賞した際にユダヤ人である監督が何をスピーチするのか一部注目を集めていた。イスラエルだけでなくガザの被害者にも言及したことで、結果として他のユダヤ系映画人から非難を受けたもよう。(『サウルの息子』のラースロー監督とか)
でも全世界に放送されるのが分かっているのだから相当に勇気がいったはずである。なおスピーチの最後に読み上げた女性の名前は、作中のリンゴ少女だったらしい。

なんの躊躇もなく庭づくりにいそしむ夫人役のザンドラ・ヒュラーが印象的。彼女は『落下の解剖学』でオスカーにノミネートされていてにわかに「ザンドラ祭り」となった。

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2024年9月18日 (水)

「三島喜美代 未来への記憶」

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会場:練馬区立美術館
2024年5月19日~7月7日

だいぶ時期が遅れてしまったけど紹介。
以前ETV「日曜美術館」で紹介されてたのを見て気になっていたアーティストである。番組を見るまでは全く知らなかった。
その中では、陶で空き缶や古雑誌・古新聞など役に立たないものを再現するという印象だった。しかしこの展覧会では初期の平面から近年の巨大作品まで年代順に紹介するという形になっている。

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まず最初に目につくのは夫がすった多数のハズレ馬券をコラージュした平面作品。笑えます(^.^)
その次は、日常の身近にあるものを陶で再現したもの。平らなチラシはまだしも、クチャクチャに丸めた新聞紙とか開きかけた段ボール箱など本物にしか見えない。読み古したマンガ雑誌や潰されたチューハイの缶も同様。
やがて作品は実物大から巨大化へと向かう。

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新聞やチラシの文字や図柄を作品に転写した以前の作品は情報社会の産物だったが、今はゴミ社会となり廃棄物からゴミ作品を作っているとか。
チラシにしろゴミにしろ無価値なものを作品として焼き付けていく。その強烈な相反性が面白い。
作者は91歳?とのこと。すごいエネルギーである。

240918d 情報としては使い捨てられるもの過ぎ去るものを陶作品として固定する。しかし陶は物体としては割れやすいという相反する要素。雑誌や段ボールは通常は蹴とばしても落としても壊れることはない。
移ろいゆくものを別の意味でもろいもので作り上げる。物体としての作品自体が大いなる矛盾である。

ゴミ箱に入った空き缶作品は近くで見ても本物にしか見えない。しかし缶一個の単独の作品もあって、実物にさわれるコーナーに置いてあった。持ち上げてみると当然ながらかなり重かった。
前から疑問だったんだけど、製品名とか企業名やデザインをそのまま転写して使っているのは問題ないのかな。

240621t6 ラストは一万個以上のレンガに様々な時代の新聞記事を焼き付けた「20世紀の記憶」。それを広大な部屋に敷き詰めてあり、歴史の堆積と物としての量に圧倒される。こんなパワフルな女性アーティストが日本にいたんだーと驚いてしまった。
また驚くのが、彼女の個展は前年2023年秋に開催された岐阜県現代陶芸美術館での展覧会までなかったということである。ええ~、なぜだ😑

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彼女のインタビュー動画を流しているコーナーがあって、これがめっぽう面白かった。
女学校で絵を描き始めたが家族は父親以外は皆反対。公募展に作品を出品したいが昼間は家族の眼があるので、夜中に父親と二人で丸めたカンバス担いで搬入したとか(^O^)

母親は卒業したら結婚させようと相手を決めて連れてきたが、それが三船敏郎みたいな超二枚目で人気者。しかし美男過ぎて付き合っていると疲れてきて逃走し、美術教師と結婚したそうな。
そもそも当人の語り口が飄々として飽きさせない。大阪出身でユーモアたっぷり、波乱万丈なエピソードも色々あるみたい。朝ドラの主人公にしてドラマ化をおすすめしたい。

このインタビュー動画は昨年の岐阜での展覧会に際して撮られたものだった。今回のインタビューはないのかな?とは思ったが、まあ高齢だからな……体調とか色々あるのだろうと思っていたら、なんと私がこの展覧会に行った日の前日に亡くなっていたのだった⚡ 一か月ぐらい経ってから発表あり、知らなかった。

とにかく破格のアーティストに違いない。これからも取り上げられて欲しい。
実は知らずに埼玉の桶川市の公園で彼女の作品を見ていた。完全に見過ごしていて県民として恥ずかしい(~_~;) 巨大な束ねた新聞紙(ただ、表面が黒いので遠目からは新聞に見えず)のオブジェである。
今度行く機会があったら近くでよーく観察したい。
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2024年9月13日 (金)

「人間の境界」:観客の限界

監督:アグニェシュカ・ホランド
出演:ジャラル・アルタウィル
ポーランド・フランス・チェコ・ベルギー2023年

しばらく前にCS放送のニュースで、難民をトルコからベラルーシまで航空機に乗せて連れていき、わざと国境からポーランドに不法に送り込む。国境警備兵は彼らを探して捕らえる。しかし周辺の住民の一人は「難民が来たら助ける」と答えていた。
その時はそんなこともあるのかと流し見をしていたのだが、これはまさにその問題を描いた映画だった。

ベラルーシ側は混乱と嫌がらせのために国境の鉄条網を潜らせて難民を送り込む。ポーランドは彼らを発見したらまた鉄条網を通して戻してしまう。でまたベラルーシが……と、国境沿いでそんな人間のキャッチボール(「人間ピンポン」というらしい)を何回も繰り返すのだ(>O<)
その反復の間に、トランクを押してこぎれいな旅行者然とした彼らは持ち物や衣服をどんどん失っていく。あまりに容赦なく恐ろしい場面の連続で見ているだけでも生きた心地がしない。特に妊娠した女性が動けなくなった件りはあまりにひどくて大ショック⚡ 言葉を失うほどだった。

そのような状況をポーランド側の警備兵、支援活動家、住民の女性、そして難民の視点から描いている。それぞれに様々な立場があり、支援者にしても「順法派」と「過激派」がいるし、住民の多くは「関わらず」の立場である。難民も国や民族・立場によって異なる。
アフガニスタンから来た中年女性が主要な人物の一人になっていて、英語を話せるのだがここでは英語は共通語として機能しない。彼女が最後までメガネにこだわり探し回る姿は他人事ではなくてドキドキした。私もド近眼+乱視+老眼なのでメガネがなかったら生きていけなーい(>O<)ギャー
そんな中でも良心ある人々がいることが救いである。

緊張感がマックスのままなので見てるだけでくたびれ果てた。トシですのう(^_^メ) ウクライナ難民がらみのラストは皮肉がキツかった。
ホランド監督の求心力ある演出には感服した。本当はドキュメンタリーで撮りたかったらしいが、政府の妨害などあり無理だったらしい。代わりに実際の当事者を出演させて24日間で撮影したとか💨 めげずに作ったのはすごい。
さらに完成後も政府は上映を阻もうとしたとのこと。しかしそれをはねのけ年間第2位のヒットとなった。

今年最大の問題作の一つには違いない。
一方、このような状況で自分がもし住民の一人だったら何ができるだろうかなどと考えてしまった。ラスト近くの小さな町で、お母さんに連れられた子どもがやったような事さえできる自信がない……(~_~)

ついでに、捕まった活動家の女性が拘置所に入れられる時に全裸&全穴検査💥をされて、ポーランド警察はひどいという意見を散見したが、日本の警察でも昔からやってて少し前に緩和されたのがまた最近復活したらしいですぞ。

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2024年9月 5日 (木)

映画落穂拾い・ツイッターX編

そもそも当ブログの宣伝という目的ツイッター(当時)を始めました。当初は鑑賞後に140字内で簡単に感想を書いてその後にブログに長文で書いていました。しかし、やがてツイッターの文章が段々長くなり、暇と余裕がなくてブログに書き直しもできず……という状態になってしまいました。無念であります。

さらに最近は老人脳のせいで見たこと自体を忘れてしまうようなケースもあるため、そこでせめてタイトルだけは載せてツイッターXのリンクを張ることにしました。かなり適当に書いているので、単なる記録ということです。
それにしてもツイッターXもいつまで続くのか心配ですね(^^;

まずはロズニツァ監督編
「ミスター・ランズベルギス」

「新生ロシア1991」

「破壊の自然史」


「ジ・オファー ゴッドファーザーに賭けた男」
これはTVシリーズです。

「パリタクシー」

「ぼくたちの哲学教室」

「ロスト・キング 500年越しの運命」

まだまだ続きます。

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2024年9月 3日 (火)

「真夏の夜のあやしい宴」:モダンなホールに古の響き

240903 演奏:レ・ルーチ・アンティーケ
会場:小金井宮地楽器ホール小ホール
2024年8月17日

中世ルネサンス音楽4人組集団レ・ルーチ・アンティーケを初めて聞きに行った。「あやしい」というのは「怪談」みたいな意味かと思ったら、どうも「変な」とか「おかしい」「うさん臭い」ということだったらしい。
確かにその伝で行けば中世ものはあやしさ爆発だっ🌟

いつものコンサートでは楽器や曲の解説を長くやるそうだが、この日はその「あやしい」ストーリーに沿って粛々と演奏と、さらにコントも披露した。
「カルミナ・ブラーナ」にマショー、複雑で規格外れの構造の曲(アルス・スブティリオールや変拍子の舞曲など)や、変わった内容の歌詞の歌など次々と炸裂。加えて演奏に使われるのは現代から見ればあやしい楽器多数である。

中でも聖母マリアのカンティガ集で、修道士が酒蔵で泥酔して悪魔に襲撃される歌には笑ってしまった。
修道院の地下で自給自足のワイン隠れ飲み放題(* ̄0 ̄*)ノ口  いいですね~♪ 作っては飲み作っては飲み、いくら作っても足りゃしねえ~~🥂

ということで中ルネ・ワールドを楽しめた。いつかホラーで怖いという意味の方の「あやしい」曲特集もお願いします。

なお土曜日なのになぜ19時開演という時間設定(?_?)と思ったら、歌手の樋口麻理子がオランダ在住なのが、急きょ来日するのであわてて開催を決めたため、ということなのかな(昼間や夕方は既に他のイベントが入っていた)。

この武蔵小金井のホールは初めて行った。小ホールはフラットな床で、しかもパーティションで区切って使っていたので音楽ホールとしてどうかは不明だった。いつか大ホールも行ってみたい。
トイレの「便器にトイレットペーパーのロールを入れないでください」をはじめ、注意書きが至る所にペタペタと貼ってあってなんだか大変だなと思った。
埼玉県民から見ると武蔵小金井は大都会であったよ(~o~)
240903b

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2024年9月 1日 (日)

聴かずに死ねるか! 古楽コンサート2024年9月編

個人の好みで適当に選んでリストアップしたものです(^^ゞ
事前に必ず実施を確認してください。ライブ配信は入っていません。
小さな会場は完売の可能性あり。ご注意ください。

*6日(金)カルダーラ 悲しみのミサ(ラ・フォンテヴェルデ):ハクジュホール
*7日(土)日本ヴィオラ・ダ・ガンバ協会設立50周年記念コンサート ヴィオラ・ダ・ガンバ 新世代の彩:けやきプラザ内ふれあいホール
*8日(日)ドイツバロック音楽の光彩 古楽器で聴く室内楽の名曲(白井美穂ほか):今井館聖書講堂
*14日(土)野崎剛右&河本祥太朗Duoコンサート ヴェルサイユの高貴な田舎趣味:TTT森の響きホール
*15日(日)チャリティコンサート モンテヴェルディ 聖母マリアの夕べの祈り(福島康晴ほか):カトリック山手教会
*16日(月)ラウデージによるカンティーガス・デ・サンタ・マリア(ラウデージ・トウキョウ):カトリック世田谷教会聖堂
*19日(木)絢爛たるイタリア ヴェネツィア楽派の饗宴(ベアータ・ムジカ・トキエンシス):豊洲シビックセンターホール ♪21日公演あり
*20日(金)生誕350年 オトテールの小品組曲(木村睦幸ほか):ティアラこうとう小ホール
*22日(日)アルプスを越える天才たち(アンサンブル・パルテノペ):今井館聖書講堂
*23日(月)グラン・デュファイ 大合唱で歌うルネサンス音楽(グラン・デュファイ・プロジェクト合唱団):大森復興教会
*26日(木)コラパルテ 詩と楽器の融和(マドリガーリ・アルモニオージ):カトリック築地教会
*27日(金)バッハ ミサ曲ロ短調(バッハ・コレギウム・ジャパン):東京オペラシティコンサートホール
*  〃   ヘンデル 時と悟りの勝利(小野綾子ほか):五反田文化センター音楽ホール ♪プレトークあり
*28日(土)祝祭のオール・バッハ・プログラム(バッハ・コレギウム・ジャパン):彩の国さいたま芸術劇場音楽ホール
*  〃   テレマン室内楽絵巻 テレマンの室内楽作品と共にその足跡を辿る試み(築城玲子ほか):今井館聖書講堂

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