「三島喜美代 未来への記憶」
だいぶ時期が遅れてしまったけど紹介。
以前ETV「日曜美術館」で紹介されてたのを見て気になっていたアーティストである。番組を見るまでは全く知らなかった。
その中では、陶で空き缶や古雑誌・古新聞など役に立たないものを再現するという印象だった。しかしこの展覧会では初期の平面から近年の巨大作品まで年代順に紹介するという形になっている。
まず最初に目につくのは夫がすった多数のハズレ馬券をコラージュした平面作品。笑えます(^.^)
その次は、日常の身近にあるものを陶で再現したもの。平らなチラシはまだしも、クチャクチャに丸めた新聞紙とか開きかけた段ボール箱など本物にしか見えない。読み古したマンガ雑誌や潰されたチューハイの缶も同様。
やがて作品は実物大から巨大化へと向かう。
新聞やチラシの文字や図柄を作品に転写した以前の作品は情報社会の産物だったが、今はゴミ社会となり廃棄物からゴミ作品を作っているとか。
チラシにしろゴミにしろ無価値なものを作品として焼き付けていく。その強烈な相反性が面白い。
作者は91歳?とのこと。すごいエネルギーである。
情報としては使い捨てられるもの過ぎ去るものを陶作品として固定する。しかし陶は物体としては割れやすいという相反する要素。雑誌や段ボールは通常は蹴とばしても落としても壊れることはない。
移ろいゆくものを別の意味でもろいもので作り上げる。物体としての作品自体が大いなる矛盾である。
ゴミ箱に入った空き缶作品は近くで見ても本物にしか見えない。しかし缶一個の単独の作品もあって、実物にさわれるコーナーに置いてあった。持ち上げてみると当然ながらかなり重かった。
前から疑問だったんだけど、製品名とか企業名やデザインをそのまま転写して使っているのは問題ないのかな。
ラストは一万個以上のレンガに様々な時代の新聞記事を焼き付けた「20世紀の記憶」。それを広大な部屋に敷き詰めてあり、歴史の堆積と物としての量に圧倒される。こんなパワフルな女性アーティストが日本にいたんだーと驚いてしまった。
また驚くのが、彼女の個展は前年2023年秋に開催された岐阜県現代陶芸美術館での展覧会までなかったということである。ええ~、なぜだ😑
彼女のインタビュー動画を流しているコーナーがあって、これがめっぽう面白かった。
女学校で絵を描き始めたが家族は父親以外は皆反対。公募展に作品を出品したいが昼間は家族の眼があるので、夜中に父親と二人で丸めたカンバス担いで搬入したとか(^O^)
母親は卒業したら結婚させようと相手を決めて連れてきたが、それが三船敏郎みたいな超二枚目で人気者。しかし美男過ぎて付き合っていると疲れてきて逃走し、美術教師と結婚したそうな。
そもそも当人の語り口が飄々として飽きさせない。大阪出身でユーモアたっぷり、波乱万丈なエピソードも色々あるみたい。朝ドラの主人公にしてドラマ化をおすすめしたい。
このインタビュー動画は昨年の岐阜での展覧会に際して撮られたものだった。今回のインタビューはないのかな?とは思ったが、まあ高齢だからな……体調とか色々あるのだろうと思っていたら、なんと私がこの展覧会に行った日の前日に亡くなっていたのだった⚡ 一か月ぐらい経ってから発表あり、知らなかった。
とにかく破格のアーティストに違いない。これからも取り上げられて欲しい。
実は知らずに埼玉の桶川市の公園で彼女の作品を見ていた。完全に見過ごしていて県民として恥ずかしい(~_~;) 巨大な束ねた新聞紙(ただ、表面が黒いので遠目からは新聞に見えず)のオブジェである。
今度行く機会があったら近くでよーく観察したい。
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