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2025年2月

2025年2月20日 (木)

「大塚直哉レクチャー・コンサート 鍵盤の上で踊るバッハ!?」:舞曲演奏は体力勝負か

250220a 会場:彩の国さいたま芸術劇場
2025年2月9日

11回目を迎えるこの企画、今回は「イギリス組曲」を素材にバッハと舞踏の関係に深~く迫る。ゲストは西洋舞踊史・音楽史研究者の森立子。
外は寒かったが中はほぼ満員の聴衆の熱気と暖房が効き過ぎて暑いぐらいだった。

イギリス組曲……はて、大昔CDを買ってどこかにあるはずだがどこにあるか分からない。それぐらい聞いてないのである(;^_^A これは私だけでなく、バッハの鍵盤作品では一般的になじみが薄いものとされているそうな。
プレリュードとほぼ同じ舞曲の組み合わせによる6曲×6セットを、オルガンとチェンバロで交互に3曲ずつ演奏。その合間に森氏とのトークを挟むという構成だった。

そもそも実際には踊るのが難しいのになぜ舞曲のタイトルがついているのか? そして実はバッハの若い頃にあったフランスの舞踊との関りや影響。
また舞踏譜の図はよく引用されて見かけるけど、実際に何を表しているかは素人には分からず。それを実例で動きやステップを示してくれたのはありがたかった。

舞台にダンサーがいないのに舞曲を演奏したら踊っているのは誰か--そりゃ演奏者の他にはいない。合間に休憩やトークがあったとはいえ3時間鍵盤上で踊り続けた大塚氏はお疲れさまである✨
折しも同じさい芸の向かい側のホールではNOISMのダンス公演があり、あちらの公演は1時間遅く始まったのになんと終了時間は同じであった(!o!)
大塚氏は一人で一時間も余計に鍵盤上のダンスをしていたのである。こりゃすごいエネルギーだ。そしてそれを作曲したバッハはもっとすごいのかな(^^?

また次の12回目も楽しみであります。

この日は空気が乾燥して手が滑りやすいせいか、いつになくチラシやプログラムの用紙を落とす人が多かった。なんと第1部の前半だけで5、6回も落とした人がいた。大丈夫か。


さて、ちょうどこの時期さい芸ではアート集団「目」が企画展を開催中だった。光の庭とガラス屋根の通路に作品が展示してある。打ち捨てられたトウシューズみたいのも作品だろうか?

あと何かが色々と劇場内に出没するということらしいのだが、目撃者はそのレポートを所定の報告用紙に書いて投書するようになっていた。
そのレポートの過去のものはファイルに閉じられて閲覧できた。見てみると「熊の着ぐるみがいた」とか「割烹着のおばさんが疾走していた」とか……(~_~;)
本当かっ❗❗
もしかしてトウシューズがそれだったのかしらん。
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2025年2月15日 (土)

「密輸 1970」:勝つのは誰か?五つ巴の死闘

250215 監督:リュ・スンワン
出演:キム・ヘス
韓国2023年

この映画を紹介するのは難しい。知り合いに「すごく面白い」とすすめようとしたけど「韓国の港で、1970年代の、えーと海女さんがいて--密輸品の--海底で--サメが、えーと--💦」って、説明すればするほど訳が分からなくなってくる。
どうしたらいいんじゃい(~O~)
後は「とにかく面白い👍」と繰り返すしかない。

あえて紹介を試みると、化学物質で汚染された港で漁業が成り立たなくなったため日本から密輸が横行。洗濯女として日銭を稼ぐしかなかった海女たちは、海底から荷の引き上げを手伝う。
通常は酒、たばこ、電化製品の類いだが、中にはヤバイご禁制の品物もあり。それをめぐって海女集団、密輸業者、地元のチンピラ、税関が入り乱れて四つ巴の争いとなるのだった。いや、サメ🦈も加えて五つ巴かな。

とにかく展開がスピーディーで、あらゆる要素がてんこ盛りで次から次へと出現して飽きさせない。中でも、中年女同士(プラス若い女も)の友情が紆余曲折の中で存分に発揮されるのが楽しい。それ以外の些細なことは気にしない。
それにしてもベトナム帰りの密輸王(チョ・インソン)カッコ良すぎだろう。最高の見せ場は十数人のチンピラに手下と共に二人で対決するところだ(見てて痛いっ)。
当時の韓国歌謡ロックが次々と流れて脳ミソを震撼させる♬ 70年代ファッションもバッチリ。こりゃ、たまらねえ~。

監督はあの豪腕アクション『モガディシュ』を作ったリュ・スンワン、おなか一杯🈵の気分になれてごっつぁんでした。

冒頭に「1970年代半ば」と出るのに邦題が「1970」なのはどうよ?
密輸品は日本から来るということで、一定の年代以上の者には懐かしい製品や企業名が次々と登場する。しかも税関事務所にズラッとファイルが並んでいる所を見ると長年行われてきたのか。
さらに、そもそも港を汚染した化学工場は日本企業ではないかという疑いも……すいませんm(__)m ご迷惑かけております。

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2025年2月 7日 (金)

美術ドキュメンタリー特集・その2「アンゼルム“傷ついた世界”の芸術家」

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監督:ヴィム・ヴェンダース
出演:アンゼルム・キーファー
ドイツ2023年

あれは30年前~♪(なぜか歌う)今はなきセゾン美術館にて開催されたキーファー展は、作品がデカけりゃ衝撃もデカい。その迫力は夢にまで出てきそうだった。
そんな恐ろしさがヴェンダースによりクリアな3D映像でスクリーン上で味わえる……と期待して行った💖

映画は二つの要素によって構成されている。一つは広大なアトリエでの制作活動の紹介である。広すぎて移動するのに自転車や運搬車で移動するほどだ。また、藁や鉛をどのように作品に使っているのか、巨大絵画を描く方法(クレーンみたいのを使っていて驚いた)など詳細な部分まで記録している。
もう一つは作品・作者のイメージ映像とでもいったらいいか。キーファーの半生の再現劇(彼の息子やヴェンダースの親類が演じる)や紆余曲折あった過去のニュース映像を積み重ね、近年の作品も加えてキーファー像を構築していく。

通常のアーティスト紹介なぞ「日曜美術館」に任せておけばいいと言っても、なんだかイメージに走り過ぎていて隔靴掻痒の印象は否めない。期待していたのはこんなもんではなかった、というのはお門違いだろうか。
もっとも、個々の作品の衝撃などそもそも映像で伝わるようなものではないのだから、アトリエ逍遥とイメージ映像に限定した監督の選択は正しいと言えるかもしれない。

とりあえず、私の脳内にあったキーファー像とはかなりズレていて釈然としないものを感じた。私は誤解していたのか、それとも単にヴェンダースと波長が合わないだけか。

G・リヒターがキーファーを全く評価してないというのは分かる気がする。対象の捉え方が異なるし、十数歳年上ということだから影響を受けたアートや戦前のドイツについての認識もズレるだろう。
今回、屋外の作品を見るとなんだかボルタンスキーにも似ているような……。同時代性ってことか。
なお3Dで見る意義はあまりなかった。林とか屋外設置作の奥行きは感じられたが。作品が生々しく見られるわけではない。


キーファーは大作が多いので投機の対象になった。美術バブルがはじけた後は日本も含めてどこかの倉庫に塩漬けになった作品が多数とか。
にもかかわらず国内の画集や研究書(雑誌や論文を除く)は未だに少ない。昔は洋書で見るしかなかった。それがまた値段が高くて手が出なかった。
今年、京都で大規模な新作展をやるそうな。はて、どうするべきか……🙄
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2025年2月 6日 (木)

美術ドキュメンタリー特集・その1「美と殺戮のすべて」

250205a 監督:ローラ・ポイトラス
出演:ナン・ゴールディン
米国2022年

ナン・ゴールディンは1970~80年代の作品がフェミニズム・アートとしてクローズ・アップされた写真家である。その文脈はあくまで自傷的なまでにさらけ出した「私」の部分にあったと思う。例えば男に殴られて目の周りにアザ作っているセルフ・ポートレートなど強烈な印象を残した。
その彼女が鎮痛剤の中毒問題について製薬会社へ抗議を行うという「公」の社会的行動は意外だった。自身も医者に処方されて中毒になってしまったそうな。

このドキュメンタリーは片方にナンの生い立ちとアート、もう片方に抗議活動(製薬会社と、その援助を受ける美術館に対する)の記録をVの字型に配置、交互に描いていくという構成を取る。そして最後に二本の線が合体するのだ。
そのVの字の根本に来るのがかつてエイズを題材にした展覧会を開こうとしたことである。過去にそのような例はなく猛反発を受け、「政治的な内容」に助成金は出せないと言われたそうな(最近の日本でも似たような事があったな)。
それに対して彼女が取った毅然とした態度こそが、後に製薬会社への忍耐強い抗議へとつながるのが描かれていた。

両親との軋轢、姉との関り、友人たち、ゲイカルチャー……彼女の写真作品にも表されてきた複雑な背景が浮かび上がる。
同時に鎮痛剤オピオイドは恐ろしすぎ💀 米国で20年間に50万人死亡って信じられないほどだ(確かプリンスの死の原因でもあったはず)。製薬会社側はそれを放置したのである。
会社オーナー一族から寄付を受ける美術館へのアクションは、同時にまた一つのアート活動のようでもあった。

背後に流れる音楽の選曲はかなり特徴的。冒頭はヘンデルの合唱曲だったかな?
邦題の「殺戮」というのがどうも今一つピンと来ない。作中の字幕では「苦痛」とか「血まみれの残酷」などと訳されていた。
アカデミー賞ドキュメンタリー長編賞候補&ヴェネチア国際映画祭金獅子賞。
監督は過去に『シチズンフォー スノーデンの暴露』を撮っている。この時にはアカデミー賞を獲得した。

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