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2025年5月

2025年5月31日 (土)

「アプレンティス ドナルド・トランプの創り方」:優秀過ぎる弟子

監督:アリ・アッバシ
出演:セバスチャン・スタン、ジェレミー・ストロング
米国2023年

米国では大統領選前に公開。日本では就任式直前の時期で見事に当選祝い公開となった。
まだ20代の青二才トランプが悪名高き弁護士に気に入られて「弟子」入りし、金魚のフンの如く後ろにくっ付いて歩いてるうちに悪徳の全てを吸収し、いつの間にか制御不可能な怪物になるという半生を描いたものである。
なお監督の過去作品は『聖地には蜘蛛が巣を張る』を見たことがあるが、全く違うタイプの作品だった。

冒頭では彼はベビーフェイスっぽい若者であたりを自信無さげにキョロキョロしているのみ。この頃は観客も感情移入できるが徐々に理解不能になってきて、終盤(破産前の80年代末ぐらい)には現在の姿に近づいてくるのに感心した。
結果的に成功者となるが、金ピカ趣味、妻や家族の扱い、犯罪と紙一重な事業展開--彼のようになりたいと思う者はいないだろう。

また「師匠」である弁護士ロイ・コーンは過去に相当な悪行を積み重ねてきた人物で、トランプが出会った頃は絶頂期だったようだが、悪辣さについては弟子に凌駕されて関係が逆転していく。コワイねえ(~o~)

トランプ役のセバスチャン・スタンとコーン役のジェレミー・ストロングはそれぞれアカデミー賞の主・助男優賞の候補となった。納得の演技である。
ただ、テーマの意義は分かった🆗役者の演技はすごい👍よくぞ作った✨……だが全体としては今一つな印象なのはどうしたことだろうか。
基本的には役者による会話劇で進んでいくため、映像的な見どころがほとんどなくて面白みに欠けるのが残念である。
「師匠」にトランプが贈ったカフスボタンが彼自身を象徴している(脚本上は)はずなのに、映像ではなく妻に言葉で説明させて終了というのはなんだかなあと思った。

ついでに付け加えると、聞き慣れぬカタカナ投げっぱなしの邦題と今一つ的外れなサブタイトルは何とかしてほしかった。
アプレンティスとは弟子とか見習いを指す言葉だそうだが、そもそもトランプが出て名を売ったTV番組名だったらしい。それ早く言ってよ~(ー_ー)!!

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2025年5月23日 (金)

「西山まりえの歴女学11 本当は怖いヴェルサイユ」:コワくても聞きたい時がある

250523 フランス宮廷の秘話と音楽
会場:王子ホール
2025年4月23日

西山まりえ主宰のこのシリーズに行ったのは初めてである。ゲストはチェロ中木健二、ソプラノのクレール・ルフィリアートルだった。

西山氏はなぜかギリシャ時代の巫女みたいなファッションで登場。かなり芝居がかった感じで面白おかしくヴェルサイユ宮殿のエピソードを語り、合間にチェンバロを独奏するという形だった。そして途中でゲストが参加する。
休憩なしで全10曲演奏で、お目当てのクレールはランベールを3曲、さらにアンコールも歌った。加えてマレの「膀胱結石~」の朗読もあった(^^; 確かに内容は怖い手術であるが彼女の格調高いフランス語で聞くと独特の味わいあり。

このプログラムならもう一人は当然ヴィオールと思いきや、チェロだったのはやや意外であった。中木氏はモダンもバロックも両方やるとのこと。ただソロ・チェリストしぐさみたいなのがあって、こういうのは古楽奏者ではあまり見たことないなと思った。

西山氏はロワイエの「スキタイ人の行進」で鍵盤にのめり込みかねないほどの没我的力技を発揮。場内は拍手喝采だった。
私はクレールのエール・ド・クールを聞けて満足であった。彼女は山梨の古楽コンクールの審査員として来日したそうだ。(もっともコンクールの審査についてはその後不穏な話が……😑)


実はこの日出かける時間を計算間違いしてしまい、どんなに焦っても開演時間過ぎてしまうことに直前に気付いた。あわてて食事をかきこんで家を出たが、到着したのは開演10分後ぐらいになってしまった。
曲の合間に入れてもらったけど、同じ列の席の人にはご迷惑で冷や汗ものであった💦

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2025年5月17日 (土)

「神は銃弾」:弾丸の数より死人が多い

監督:ニック・カサヴェテス
出演:ニコライ・コスター=ワルドー、マイカ・モンロー
米国2023年

原作は過去に「このミス」海外編第1位(2002年だから結構昔)に輝いたミステリである。一巻本とはいえなかなかの厚さ、そのせいか映画も156分の長尺だ。未読で挑戦した。
妻を殺され娘を誘拐された男の豪快な追跡アクションものかと思ったら、暴力に血みどろ残酷が念入りに描写されていて、さらに神について自問自答するなど、どうもこれはノワール系ではありませぬか(ちょっと苦手)。

暴力描写にやたらにリキが入って死人が山のように出る代わりに、それ以外は展開が遅くて脚本は不明な部分が多い。犯人と思しきカルト集団から過去に逃走したという若い女が、主人公に協力する意図は何なのか? 保安官とはいえデスクワーク専門の彼を最初バカにしていたらしいのに、いつの間にか「コヨーテ💓」とか呼ぶようになってるし。どのようにしてそんなに親しくなったのか見ていても不明だ。

それと宗教カルト集団というとマンソン一家みたいのを思い浮かべるのだけど、今一つ違うようなのだ。あと、重要な登場人物である妻の父親の職業は何なのか?
終盤の大アクションは見どころではあるが、あんなに娘を奪還しようとして頑張っていたのにその後の話が全く出てこないのはモヤモヤする。
残念ながら私の個人的な好みとは合わなかった作品だったようだ。

J・フォックスが製作総指揮に入っていて脇役も演じている。ヒロイン役の女優さんは力演だった。主人公は『ゲースロ』のラニスター家のジェイミーですな。

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2025年5月13日 (火)

ミュージアム・コンサート 「西洋絵画、どこから見るか?」展記念コンサート

250512a 東京・春・音楽祭2025
会場:国立西洋美術館講堂
2025年4月3日・15日

★その1 古橋潤一
リコーダーの古橋潤一、ヴァイオリン丹沢広樹、オルガン能勢伊津子という顔ぶれでスペイン・バロックもの約1時間のコンサートである。
最初に美術館側から10分ほど展覧会の紹介あり。米国のサンディエゴ美術館の所蔵品を中心に西美の関連絵画を組み合わせて展示したものらしい。1600年代初めのスペイン静物画があるとのこと。

取り上げられた初期バロックの作曲家はほぼ知らない人ばかりだった。この時期のスペインは器楽曲は少ないそうで、3人で合奏するのは大オルガンのための作品だそうだ。
他国とは異なる「スペインのり」みたいなものがあり、カバニーリェスによる「フォリア」の変奏曲もタテヨコの揺れが独特だった。
アンコールは、展覧会にイタリア作品もあることからメールラを演奏。
ヴァイオリンの丹沢広樹はスパッラも使用していた。久しぶりに見た(聞いた👂)という感じである。

コンサートチケットで美術展の方にも入れるのだが、この日は寒くて雨が降っていたので早々に帰った。もし晴れていたら花見の見物客で駅の改札口が通れないくらいごった返しただろうけど、静かなものだった。


250512b ★その2 佐藤亜紀子
「1」に続いてこの日もスペインもの、ただしルネサンス期の世俗歌曲が中心である。演奏するは佐藤亜紀子を含む3人。
当時のスペインではイスラム由来のリュートは忌避されたそうで、ビウエラとルネサンスリュートを交互に使用していた。

前回同様、冒頭10分強は美術館側からの解説付きだった(内容は同じ)。
定番「皇帝の歌」も挟みつつ、恋愛歌や伝承歌など当時の空気を伝える内容だった。リコーダー&パーカッションの飯塚直という人は、佐藤氏が懸命に調弦している間つなぎで喋ったり、またコーラスもつけたりするというマルチタレントぶりで感心した。
ソプラノの岩崎芳佳はクラシック出身ではないようだったが、こういう場合はトラディショナル・フォークみたいな歌唱でもいいのではないかと思ったりもした(素人の感想です)。

250512c
終了後コンサートのチケットで美術展に入り、ざっと見した。日曜日はチケット売り場に長い行列ができてごった返していたが、この日は平日で静かなものだった。
米国サンディエゴ美術館の所蔵品が中心だが、ヒスパニックの移民が多い街なのでスペイン系の作品も多いということだろうか。

時代別に分けてさらにテーマごとに分けて展示という形式。サンディエゴ美術館の作品は全て日本初公開とのことだ。同じような構造の作品は西美の所蔵品を加えてまとめて展示していた(例えば「静物画」とか)。
しかしそのような企画側の意図にもかかわらず、全体にはルネサンス期から19世紀まで時代順西洋絵画総覧というイメージだった。
常設展も見たかったがとてもそんなエネルギーはなし。腰が曲がって杖をついた高齢者が来ているのを見かけた。付き添いもなしに一人で来ていて、その意欲に感服した。


250512d ←出品作品で一番古いジョットの絵。なぜかフレームに入りきらず😶
 サンディエゴ美術館としてはこのジョットの絵や、ジョルジョーネの男性の肖像画(史上初めて何もないただの肖像をそのまま描いた作品)を貴重な目玉作品としていたが地味なのでほとんどの人が素通りだった。

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2025年5月 9日 (金)

「市民捜査官ドッキ」:警察より頼りになる

250509 監督:パク・ヨンジュ
出演:ラ・ミラン
韓国2024年

韓国映画の得意技🌟実話ベースの犯罪もの+コメディである。ノーチェックだったが、評判がいいので見てみた。

自宅兼店舗を火事で失ったシングルマザーがさらに振込め詐欺にあってなけなしの財産を失ってしまう。しかし、再び同じ人物から電話があり問い詰めようとしたら、なんと闇組織から逃れようと助けを求める必死の連絡であった。
詐欺の時にも警察から適当な扱いを受けて怒り心頭だったのに続き、またも取り合ってもらえず遂に「おばさん力👊」を発揮。友人たちと組織のアジトを探して、若者たちを救い、金を取り戻そうとするとする。

ただあくまで勝手にやってるのであって「市民捜査官」という邦題はどうかと思う。
感情の起伏が激しいけれど、行動的なヒロインについて行くのはやや疲れるのは事実。
それよりも、若者たちを酷使してタコ部屋化しているコールセンターの描写が恐ろしくてこたえた。韓国アクション定番とはいえぶん殴るシーンが頻出しちゃう。
さらに殴られるどころじゃすまない話も……(>O<)

この映画見てしばらく経ってから、日本の若者がミャンマー国境へ連れていかれて、タコ部屋状態で電話詐欺に酷使というニュースが流れた。闇バイトに国境はなしっ! うまい話には注意⚡である。
コワイ事件だがエンタメとしてはよく出来ているので推奨したい。

ちなみにこの映画の事件が起こったのは2016年だったらしいが、映画が公開されるまで主人公は放置され、懸賞金ももらえなかったらしい。

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2025年5月 3日 (土)

ヘンデル「時と悟りの勝利」:美しいだけじゃダメかしら?

250503 指揮:ルネ・ヤーコプス
演奏:ビー・ロック・オーケストラ
会場:東京オペラシティコンサートホール
2025年4月4日

ヘンデルが22歳の若い時の作曲で、寓意劇のオラトリオ、演奏会形式ということで、あまり期待せずに行った。東京で一回だけの公演ということは、アジアツァーか何かでついでに来日したということなのだろうか。まあ、この不景気なご時勢では日本に来てくれただけでもありがたい。オペラシティは3階までほぼ満員状態だった。

ともあれ、行ってみると内容は予想とはかなり違っていた💦
4人のソロ歌手のうち中心となるソプラノ二人(美、快楽)をオーケストラ前に、男声二人(悟り、時)は後方に配置。小道具を使用し、ジェスチャーもつけていた。さらに客席の間を歌いながら歩くなどという演出もあった。

「快楽」にそそのかされてる最中の「美」が自分を鏡で見てウットリしていると、後方から「悟り」と「時」が出現してそんなヤツに耳を傾けるのはやめとけと警告する。
その後は「快楽」が「美」を引き留めようとし、「悟り」と「時」は別れるように説得歌合戦が繰り広げられる--という形で進む。

前半第一部は美を真ん中に挟んで、両者の押しては引き引いては押しの構図の繰り返しでやや平板な印象だったが、美が快楽との別れを決意する後半第二部は徐々に劇的な盛り上がりを迎え、ラストは目も耳も話せない状態に。
オーケストラはアクセントの効いた演奏で確実にそれを伝えていた。

美を演じるスンヘ・イムは年齢不詳の若さで観客の目をくらまし(^^;舞台の花💐を取ったという印象。一方、実を取ったのは快楽役のカテリーナ・カスパーだろう。技術的な面も含めて迫真の歌声を聞かせた。
CTのポール・フィギエとテノールのトーマス・ウォーカーも舞台の後方からナイス・アシストであった。

感動の波を受けて、終了後は聴衆が立ち上がり拍手とブラボーが飛び交った。
しまいにはいわゆる「参賀」状態に。ヤーコプスだけじゃなくてCTのフィギエ氏の固定ファンもいたもよう。
私はもういくらなんでも出てこないだろうと会場を出てトイレへ行ったら、その後も何回かヤーコプスが出てきたらしい(無念)。久々の熱狂を体感した。
家へ帰り着いたのは11時半で疲れたけど大満足だった。

ルネ・ヤーコプスの来日は30年ぶりとのこと。つまり北とぴあ音楽祭第1回以来ということか。その頃は身体の幅が今に比べて3分の1ぐらいでしたな💥
オケにはリュートの野入志津子とバスーン村上由起子(昔BCJでやってた人ですよね)、あとヴァイオリンに2人日本人がいたもよう。

なお、第1部の終りにフライング拍手した者がいて(左サイドのバルコニー席あたりだったような)、休憩時に「拍手は指揮者が手をおろしてからお願いします」と放送されちゃう始末。後半終了時もギリギリの感じだった。
そんなに目立ちたいんか? 理解不能である。フライング拍手・ブラボーは野暮の極み💢と断言したい。

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2025年5月 1日 (木)

聴かずに死ねるか! 古楽コンサート2025年5月編

個人の好みで東京周辺開催のものから適当に選んでリストアップしたものです(^^ゞ
事前に必ず実施を確認してください。ライブ配信は入っていません。
小さな会場は完売の可能性あり。ご注意ください。

*3日(土)~5日(月)ラ・フォル・ジュルネ東京2025
*3日(土)古楽器で聴くドイツ・バロック音楽(新井道代ほか):松明堂音楽ホール
*5日(月)チェンバロの日:浜離宮朝日ホール
*6日(火)森のフォリオ 五月の新緑が奏でる音楽会(アルティザン・ブリュイオン):フェニックスラウンジ
*10日(土)わたしの涙 愛を綴るイタリアの古歌(クレール・ルフィリアートルほか):今井館聖書講堂
*  〃   1620年代を駆け抜けた 若き作曲家たちの挑戦(原謡子ほか):J:COM浦安音楽ホール
*14日(水)曽根麻矢子J・S・バッハ連続演奏会BWV:ハクジュホール
*17日(土)キリシタンの見たローマ 修道士たちが残した16~17世紀イタリア音楽(イル・マドリガローネ):日本ホーリネス教会東京中央教会
*18日(日)南に帰る ビウエラとギター(レオナルド・ブラーボ&つのだたかし):松明堂音楽ホール
*23日(金)コラールカンタータ300年6(バッハ・コレギウム・ジャパン):調布市文化会館 たづくりくすのきホール
*31日(土)太陽王の残光 ヴェルサイユ宮殿で聴かれた音色(宇治川朝政ほか):日本ホーリネス教会東京中央教会
*  〃   トゥルネーのミサ曲(ムジカ・パラフォニスタ):千葉市美術館さや堂ホール

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