「セプテンバー5」:苦しみも悲しみも生中継
監督:ティム・フェールバウム
出演:ピーター・サースガード
米国・ドイツ2024年
1972年ミュンヘン五輪で起こったイスラエル選手団の人質事件。過去に何度も映画の題材になったが、本作はTV報道という面に限定して描いている。
当時は衛星中継の黎明期で米国でもABC局だけが試合を生中継していた。そこで事件発生したことで、結果的に9億人の人々が事件を同時に目撃することになったのだった。
そもそもはテロリストが選手団の一人を殺害し11人を人質に立てこもってパレスチナ人囚人の釈放を要求するという事件が発生。
なにせ全てが史上初なので、米国本国の報道部との縄張り争い、他局と放送時間の奪い合いあり。選手に化けて選手村に出入りする。また、犯人を何と呼んだらいいのか、万が一流血場面があってもそれを家族がいる米国で放送していいのか--などなど様々に懸案事項が畳みかけてくる。
中心となっているのは、同時中継初期の混乱と戸惑いである。驚いたことに場面は中継スタジオの調整室や作業場の中だけで進み、映画のカメラが外に出ることはほぼない。外部との連絡は固定電話かトランシーバーのみ、携帯電話やネットが存在する現在とは全く異なる。情報が錯綜しても瞬時に決断しなければならない。
使われている機材も当時のものが完璧に揃えられているそうな。
もう一つの特徴は、事件の不手際がドイツ側の政府や警察の責任であるということが強調されていたこと。どうせイスラエル寄り、パレスチナ非難の内容だろう--と本作を見るのを避けた映画ファンもいたようだが、作中ではそこら辺の言及はあまりなくササッと通り過ぎていた。(それがいいことかどうかは別として)
脚本と編集テンポよし。P・サースガードをはじめ役者は地味に徹し、完全に実録ドキュメンタリー風を貫いている。舞台が限定されていても、ものすごい緊張感だった。95分という短さが信じられないほどに見ごたえが大きかった。
ドイツ人女性通訳、どこかで見たと思ったら『ありふれた教室』の教員役だった。
今年のオスカー脚本賞候補。
パレスチナとイスラエルの関係はこの時から半世紀が経過しても、全く変わっていないことは暗澹たる気分になる。
この映画は2023年秋の事件より前に製作が始まってただろうから、余計にそう思えた。
それにしても、かなり重要な場面が予告に入っていたのはどうしてくれよう(`´メ)
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