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2025年7月

2025年7月17日 (木)

「セプテンバー5」:苦しみも悲しみも生中継

250716 監督:ティム・フェールバウム
出演:ピーター・サースガード
米国・ドイツ2024年

1972年ミュンヘン五輪で起こったイスラエル選手団の人質事件。過去に何度も映画の題材になったが、本作はTV報道という面に限定して描いている。
当時は衛星中継の黎明期で米国でもABC局だけが試合を生中継していた。そこで事件発生したことで、結果的に9億人の人々が事件を同時に目撃することになったのだった。

そもそもはテロリストが選手団の一人を殺害し11人を人質に立てこもってパレスチナ人囚人の釈放を要求するという事件が発生。
なにせ全てが史上初なので、米国本国の報道部との縄張り争い、他局と放送時間の奪い合いあり。選手に化けて選手村に出入りする。また、犯人を何と呼んだらいいのか、万が一流血場面があってもそれを家族がいる米国で放送していいのか--などなど様々に懸案事項が畳みかけてくる。

中心となっているのは、同時中継初期の混乱と戸惑いである。驚いたことに場面は中継スタジオの調整室や作業場の中だけで進み、映画のカメラが外に出ることはほぼない。外部との連絡は固定電話かトランシーバーのみ、携帯電話やネットが存在する現在とは全く異なる。情報が錯綜しても瞬時に決断しなければならない。
使われている機材も当時のものが完璧に揃えられているそうな。

もう一つの特徴は、事件の不手際がドイツ側の政府や警察の責任であるということが強調されていたこと。どうせイスラエル寄り、パレスチナ非難の内容だろう--と本作を見るのを避けた映画ファンもいたようだが、作中ではそこら辺の言及はあまりなくササッと通り過ぎていた。(それがいいことかどうかは別として)

脚本と編集テンポよし。P・サースガードをはじめ役者は地味に徹し、完全に実録ドキュメンタリー風を貫いている。舞台が限定されていても、ものすごい緊張感だった。95分という短さが信じられないほどに見ごたえが大きかった。
ドイツ人女性通訳、どこかで見たと思ったら『ありふれた教室』の教員役だった。
今年のオスカー脚本賞候補。

パレスチナとイスラエルの関係はこの時から半世紀が経過しても、全く変わっていないことは暗澹たる気分になる。
この映画は2023年秋の事件より前に製作が始まってただろうから、余計にそう思えた。
それにしても、かなり重要な場面が予告に入っていたのはどうしてくれよう(`´メ)

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2025年7月13日 (日)

「4声マドリガーレの変容」:時代の流れるままに

250713 演奏:ラ・フォンテヴェルデ
会場:ハクジュホール
2025年6月14日

この日のコンサートもなぜかまたも雨であった。
16世紀前半から約100年間に渡るマドリガーレの潮流を作品でたどるという内容で、初期のアルカデルト、デ・ローレ、ラッソ、マレンツィオ……と時代が進むうちに、歌詞・曲共に複雑に変化していく。そのことを実感できるプログラムだった。
ネンナという作曲家はジェズアルドの下にいたそうだが、時代的にも押し詰まってかなり複雑化した作風となっていた。

しかしオペラの台頭でマドリガーレの流行も終了したとのこと。
それにしても「不安定なこの世は、年を取ればとるほど悪くなっていく」とは……現代でも当てはまり過ぎて数百年も昔の歌とは思えませぬ。

4人のコーラスは完璧に響き渡り心地よかった。その中で上尾直毅がギター弾いている時にドンドコ音が響いてくる。なんと脇にバスドラム?を置いてペダルを使って足で叩いていたらしい💥
どうせならそのバスドラをチェンバロの下に置いて、鍵盤弾きながら叩いたらいいのではないかと思ったが、大きくて下には入らないようだった(^^;
やはりパーカッション入ると調子が違う。次回は何が飛び出すか上尾氏には大いに期待である。

雨のせいかやや空席あり(特に前列の方)。地道なプログラムだったためだろうか。
次回はマドリガル・コメディの『パルナソスの山巡り』とのことで、楽しみ♪ 過去に藝大の学生たちが上演したのを見たことがある。

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2025年7月12日 (土)

「魂に秩序を」

250712 著者:マット・ラフ(浜野アキオ 訳)
新潮文庫2024年

「新潮文庫史上最厚」と銘打たれた文庫本である。確かに厚い😦
主人公は多重人格者。自身の内部に「家」を築いてなんとか他の人格と共存していた。ところが職場に来たバイトの娘も多重人格なのが判明。その出会いが謎を引き出し、さらなる混乱を生む。

まず、人格が統制できずに次々と変わるのを自らの視点から見る描写に驚く。ほんの一瞬後のはずが、実際は何日も経っていて全く知らない場所にいるとか。パニックになっても仕方ない。
しかしそれよりもさらに多重人格になる原因となった親の虐待の描写が恐ろしい。あまりにコワくて泣いちゃうぐらいだ。
一方で、酒好きの人格が勝手に飲みまくって泥酔して失敗--というパターンが繰り返されるのはやや不満である。

トラブル発生が連続して起こり過ぎて、主人公がこだわる「謎」の解決はどうでもよくなってしまうのはなんだかなあとも感じた。
そして、長い! その原因は起こったこと全てとそこにあるもの全てを描写しているからだろう。「省略してもいいんだよ」と言いたくなる。
その結果が、片手では持って開いていることもできない分厚さになっているのではないか。

「最厚」といっても分冊にすればいいじゃないかと思うが、そうすると価格は倍近くになってしまうから、あくまで一冊にこだわったのかね。それとも厚さで目を引く戦略か。
とにかく読んでて(持ってて)疲れた。

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2025年7月 7日 (月)

人間無用!海と島と動物アニメ・その3「パフィンの小さな島」

250705 監督:ジェレミー・パーセル
声の出演:新田恵海
アイルランド・イギリス2023年

アイルランドのアニメスタジオ、カートゥーン・サルーンの新作はあまり宣伝もされぬまま公開。完全にお子様向けのせいか、上映館数が少なく字幕版もないので吹替版一択だった。

やはりこれもアニメで海🌊島🌅鳥🐦動物たちのパターン。元は配信シリーズものらしいが同時多発的になぜこんなにかぶってしまうのか、謎である。

主人公は環境破壊の影響で故郷を去らざるを得なかった海鳥の女の子。新しい島に来て他の鳥たちが大勢いるけど、親と一時的に離れる事態になり心配だ。でも誰にも相談できない。
そういう小さい子の孤立と不安、頑張ろうとしても却って失敗が大きくなる焦りが身近に描かれる。そのあたりは小さい子どもにもしみるかも。もっとも私が見た時には観客にお子様はいなかった(^^;

元のTVシリーズでもそうなのかもしれないが、ナレーションが見てれば分かることをやたら説明して(小さい子向けだから?)鬱陶しかった。キャラクターのセリフとかぶっちゃう部分もあったり。でもミュージカルっぽいところもあったので、字幕版で見たかったな。

絵柄は三作の中では一番個性が強い。もろに平面的な絵なのになぜか突然立体感生じたりして謎である。
途中『野生の島のロズ』と同じ展開が出てきたのには驚いた。あとキツネはこちらでもあまり周囲と関わらず独りで生きてるイメージだ。
海辺にいる髭を生やした長老カニ(賢人ならぬ賢カニ?)を見ていたら『スポンジ・ボブ』を連想しちゃった🧽 許してm(__)m

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2025年7月 1日 (火)

聴かずに死ねるか! 古楽コンサート2025年7月編

個人の好みで東京周辺開催のものから適当に選んでリストアップしたものです(^^ゞ
事前に必ず実施を確認してください。ライブ配信は入っていません。
小さな会場は完売の可能性あり。ご注意ください。

*4日(金)渡邊順生チェンバロ音楽シリーズ3 バッハ パルティータ:今井館聖書講堂
*5日(土)ドルツィアンとハープを迎えて(アンサンブル・ヴェルジェ):今井館聖書講堂
*6日(日)大塚直哉レクチャー・コンサート バッハ家はフルートがお好き:彩の国さいたま芸術劇場音楽ホール
*11日(金)バッハ・カンタータ・ウィズ・リコーダー(アントネッロ):東京文化会館小ホール
*12日(土)イタリアバロックの変遷 旅する音楽家16-17世紀(太田光子&平井み帆):ムジカーザ
*15日(火)バロック・コンツェルト・フェスティバル12(ラ・ムジカ・コラーナ):五反田文化センター音楽ホール
*21日(月)
*23日(水)麗しの歌、麗しの時代 バロックを彩った女たち(アンサンブル・ポエジア・アモローザ):日本福音ルーテル東京教会
*24日(木)テレマン室内楽絵巻(衣笠巴瑠菜ほか):スペース415
*26日(土)ひとときの音楽16 パーセルとヘンデルの劇場作品(木島千夏ほか):3F・音楽室
31日(木)調和の架け橋(アンサンブル・アカデミア・ムジカ):日本福音ルーテル東京教会

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