音楽(ロック、ポップス等)

2024年7月31日 (水)

「リトル・リチャード アイ・アム・エヴリシング」:我が音楽を行く

240731 監督:リサ・コルテス
出演:リトル・リチャード
米国2023年

私はリトル・リチャードについてほとんど知らない(!o!)ことに気付き、ロック者としてこれではイカン⚡と思い立った。
ドキュメンタリーだがご当人は2020年に亡くなっており、過去の映像、インタビュー、友人知人・関係者の証言から構成されている。CNNの制作らしい。

貧しい子ども時代から音楽業界へ入っり家族11人を養ったという経緯の中で、ロックンロールの創始者としての強烈な自負が語られる。JBもジミヘンも弟分で教えてやったし、デビュー時のビートルズやストーンズからは崇拝されたのも事実だ。(ただしデビュー時のプレスリーには敵愾心を抱く)

当時としては珍しくゲイであることを公にし奇抜で強烈なステージは模倣者を生んだ。しかし実際には彼ではなく、後進のミュージシャンの方が大成功するのだった。さらに神への信仰との間で引き裂かれ、ロックンロールから足を洗い結婚する--など激しく揺れ動く。
クイアな在り方を示すことで他人を解放したが、自分自身を解放するのは困難だったという指摘がしみる。

様々な素材の編集も手際よく、卓越したミュージシャン・パフォーマーの伝記として、若者文化胎動期の米国時代背景や黒人ミュージシャンの困難などがよく分かった。才能豊かではあるが偉人ではない、天才の肖像画でもなく、生ける矛盾のような存在である。
見て聞いて興味深いドキュメンタリーだった。長年の不遇から、終盤のようやくの授賞式シーン(1997年)ではちょっともらい泣きしちゃった(T^T)
ただ途中で3曲ばかり挿入される、現在の無関係なミュージシャンの演奏はなんだったのよ💀

あれだけヒット曲作ったのにほとんど印税貰えなかったとは💸ひどい話だが、当時の黒人ミュージシャン契約あるあるですかね。
某有名バンドの某有名曲が彼の曲をモロにパクっていたことを後から知った。とすれば、彼が自分が不当に扱われてきたと怒りと不満を見せても仕方ないだろう。

ジョン・ウォーターズは崇拝のあまり、口ひげは彼を真似しているとか。知らなかった。
「クイア」の意味が少し分かりました。

| |

2024年2月26日 (月)

「クリーデンス・クリアウォーター・リヴァイヴァル トラヴェリン・バンド」:音楽は永遠に若い

240225a
監督:ボブ・スミートン
米国2022年

CCRについてはしばらく前に1970年4月英国での(幻の)公演のテープが50年ぶりに発見されたということが話題になった。それはディスクでは既に発売になっていて、私はすぐに買って聞いていた。
ところがなんと映像も残っていたというのである。BBCが収録放送したとのことだ。

このドキュメンタリーで初めの3分の1ぐらいはまずバンドの成り立ちが語られる。「中学時代に同じクラスになって--」だそうな。そこにヨーロッパ・ツァーでの映像・インタビューが織り交ぜられている。
強行スケジュールで観光する余裕もなかったということもあり、4人揃っている映像はあまりなかった。フランスの庭園を歩いてる場面ぐらいかな。ジョン・フォガティだけホテルに籠ってたりとか。

彼らの当時の立ち位置について、ビートルズにことさら結び付けようとしていたのは若い人向けの説明だろうか? まあ確かに4人組なのは同じだけどさ。
当時はあまりそういう印象はなかったと思う。

その後は全12曲のコンサート記録を丸ごと投入だ。演奏曲目やアンコールをやらなかったのはツァーの全公演で同じだったらしい。
映像で改めて接するとジョン・フォガティの揺るぎなき才人ぶりをまざまざと見せつけられたという印象だ。全曲パワー溢れるボーカルを取り常にギターの強烈なリフを繰り出してバンドをリードし、さらに全てオリジナル曲では作詞作曲を担当なのだから相当な才能である。思わず興奮っ\(◎o◎)/!

もっとも実際にバンドを支えていたのはドラムのダグだというのが定説らしい。確かに的確にして力強い演奏、そしてジョンを常に注視している。
この一年後ぐらいにはバンドは空中分解状態になってしまうから、既にこの頃はガタガタしていたはずだがそんな事はとても信じられないほどの演奏である。

傑出したワンマンバンドの常である不協和音、加えて兄弟バンドという不吉にして不和な要素、解散そして訴訟……といったその後のトラブルには踏み込まず、ライブの高揚した終了と共に映画もスッパリ終わっちゃうのであった🈚

思えば傑出した天才であってもその才能が発揮されるのは、バンドのアンサンブルがあってこその話かもしれない。その相互作用がどのように働くのかは全く推測もできぬ。
独立して生き生きと活動する者がいれば、その同数ぐらいバンド時代ほどにパッとしないままになってしまう者もいる。難しいもんである。

作曲担当とそれ以外のメンバーの対立という点ではザ・バンドに似ているように思えた。年齢はザ・バンドの方が数年年上だが大体同じ頃にアルバムを出してスポットライトを浴びるようになった。CCRが若いといっても(まだ25歳ぐらい?ジョンはヒゲもはやしてなくてツルリンとしている)中学の頃から不動のメンバーでやってきたというから、この時は既に十年選手なのだった。

アンディ・ウィリアムズ・ショーに出演した映像があって驚いた。
全曲訳詞が付いていてヨカッタ。あらためてジョンの歌詞は意味深だなあと感じる。
♪いい知らせを聞くといつも影が後ろから忍び寄る
240225b

| |

2024年1月20日 (土)

「大貫妙子コンサート2023」

240120 会場:昭和女子大学人見記念講堂
2023年11月18日

開演前に流れるはトッド・ラングレン。ちょうどダリル・ホールとのツァーで来日中だったからかな。
そして赤と濃いピンクのお衣装で現れたター坊であった。
昨年の同じ会場でのコンサートと同様バンド形式。でも前回は2時間以上の長さだったが、この日は約1時間半でコンパクトにまとめたという印象でした~🌟

曲目は最近の定番曲が中心、バンドサウンドで聴かせてくれた。これも定番中の定番「突然の贈りもの」のみ、ビアノのバックだけで歌われた。
途中で聴衆の年代を尋ねる場面があった。「20歳代」で手が上がると「おおっ」と拍手が起こった。でもどうせなら「90歳代以上」も聞いてほしかったな。いたらさらに拍手が起こったろう(^^;

このようにステージ上も客席もリラックスしていた。ター坊は「これからもやるわよ🔥」と、今後の活動についても意欲満々で気合が入っていた。
アンコール、ラストの照明はレインボーカラーでしたよ。

ただ難点はドラム&パーカッションの音が会場後部に反響して変な音に聞こえたこと。私のいた座席の位置のせいかもしれない。

会場内、冷房が効きすぎで参った。もはや寒いと言っていいぐらい。さらにこの会場では毎度のことだがトイレが長蛇の列ですごい混乱だった。


ところでロックやポップスのコンサートでまだツァーが終わっていない時など、ネットなどで感想にセットリストを書くのは「ネタバレ」とされて禁止🈲らしい。いつからそうなったのか? 昔はそんなことなかったよね。
私だったら事前に知って「あの曲をやってくれるんだ、期待」と思って、実際は違う曲だったら「おお、これにしたんだ」とまた楽しいんだけど違うんかい。

クラシックのコンサートだったら全く逆である。そもそも事前に曲目把握して行くかどうか決めるわけだが。音楽やコンサートに求めるものが異なるということですかね。

| |

2024年1月15日 (月)

今さらながら2023年を振り返る

240115 ますます更新が遅れる当ブログであります。不穏な世の中に気を取られているうちにさらに遅れるという。まあ焦っても仕方ないんで(と言ってますます遅れる)。

【映画】
話題作であってもロードショー料金払うのはどうもなあというような微妙な作品はケーブルTVか配信で見ようと、後回しにしてたら未だほとんど見てないという事態に。
とりあえず選んだら昨年同様に9作しか決まらず(+o+)トホホ
なんとなく見た順です。リンクが付いてないのは感想をしばしお待ちください。

『モリコーネ 映画が恋した音楽家』:音楽を心底堪能しました。
『ベネデッタ』:山岸凉子に「裏ベネデッタ」描いてほしい。
『幻滅』:うさん臭い人間が大勢登場してウレシイ。
『アシスタント』:つらい。
『大いなる自由』:途中でギャーと叫びたくなった。
『マイ・エレメント』:久々にピクサー印に感動。
『熊は、いない』:これもクマ映画になるのか🐻
『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』:渾身の一作……だがオスカーはどれぐらい獲得できるかな。
『ブラックベリー』:配信スルーとはいえ見ごたえ大いにあり。

一作選ぶとしたら『大いなる自由』ですね(^^)
事件としては『マイ・エレメント』での若いモンだらけの場内で最高齢疑惑の衝撃がありました。しかし終演後に見まわしたら白髪頭の男性が二人ほどいて、ヨカッタ( -o-)


★部門賞
*監督賞 ポール・ヴァーホーヴェン(『ベネデッタ』):スピルバーグやスコセッシではあまりに順当過ぎるんでな……。

*主演賞 フランツ・ロゴフスキ(『大いなる自由』)
 ヴィオラ・デイヴィス(『ウーマン・キング 無敵の女戦士たち』):背後にメラメラ燃える炎を見た!
 
*助演賞 ライアン・ゴズリング(『バービー』

*悪役賞 セシル・ドゥ・フランス(『幻滅』):賢く美しくしかし弱く不幸な女のずるさを完璧に表現。

*動物賞 『Pearl パール』のワニ🐊:今年はロバとクマが優勢だったが見事獲得。

*美肌賞 ヴィルジニー・エフィラ(『ベネデッタ』):46歳(!o!)ぜひ手入れの秘訣をお伺いしたい。

*最凶邦題賞 『ヨーロッパ新世紀』:意味不明。

*ちゃぶ台ひっくり返し賞 『オマージュ』:いろいろご意見はありましょうが、天井に穴が開いている映画館はカンベンしてくれ~。
 この賞は、見終ってあまりの内容に思わず「なんじゃ、こりゃ~。観客をなめとんのか!」(ノ-o-)ノ ~┻━┻ガシャーン と、ちゃぶ台をひっくり返したくなる気分になった映画に与えられる栄光ある賞である。(あくまでも個人的見解


【コンサート】
「タブラトゥーラ 江崎浩司メモリアルコンサート」
「イタリアへの憧憬」
「快楽の庭園 チェコ、クロムニェジーシュ城に響いたバロック音楽」
「音楽風刺劇 オスペダーレ」
「層・LAYERS」
「祝祭」(カテリーナ古楽合奏団)
ラモー「レ・ボレアード」

【録音部門】
『ラヴェット!』(ベティ・ラヴェット)
『小坂忠 THE ULTIMATE BEST』
『ライヴ・アット・ザ・キャピタル・シアター』(デヴィッド・クロスビー&ザ・ライトハウス・バンド)
古楽系はCD沼をさらってもっぱら古いものを消化していた。

【その他】
『正義の弧』(マイクル・コナリー):約30年に渡り付き合ってきた刑事ボッシュ・シリーズ遂に終了(T^T) 私も含めてみんな歳を取りました。

「野又穫 Continuum 想像の語彙」:再びナマで鑑賞できて良かった。

240115b 事件としては
*ナハリン/バットシェバ舞踏団来日中止:イスラエルの現状を鑑みるに仕方ないこととはいえ3度目もダメとは……泣ける。

*某美術展を見てガッカリしてしまった件:意欲もある、手法も工夫を凝らしている、社会への貢献を考えている、展示の仕方も斬新--にも関わらず、表現されたものが全く面白くなくて陳腐だったのはなんとしよう。頭を抱えてしまった。しばらく展覧会に行こうという意欲を失った。


なお昨年一年間で一番アクセスが多かった記事はなぜか【回顧レビュー】東京グランギニョル「ワルプルギス」でしたヽ(^o^)丿

| |

2023年9月29日 (金)

「大貫妙子コンサート ピーターと仲間たち」

会場:恵比寿ザ・ガーデンホール
2023年8月21・22日

これまでは大貫妙子のライブに行ったのは、コンサートホール系の会場ばかりだった。昨年の人見記念講堂もそうである。アコースティック系のプログラムなら当然そうなるが、昨年のはバンド形式だった。
今回は恵比寿のライブハウス。ここは初めて行った--というかそもそもあまりライブハウス自体行かないからなあ。
内容とメンバーは昨年と重なるところが多い。見たのは1日目の方である。

ライブハウスなので当然、ドリンクを買うことになる。ビールは好きじゃないので缶チューハイらしきものを手に取ったらなんとアルコール度5%⬇ ビールと同程度の8%を出せ~、こんなん酒じゃないわい(`´メ) といってもその場では飲まなかったが。

段差のないフロア席だったけど、ちょうど位置が奇跡的に他人の頭に邪魔されたりせず、ター坊が全身バッチリ見られてよかったヽ(^o^)丿 「声はすれども姿は見えず」じゃ価値半減だもんな。

今回も坂本編曲作品が中心で、他の同時代作品も混ぜてという構成。違うのはマネージャーが倉庫などから発掘したオリジナルのテープを元にトラックを新たに再生ということらしい。テープといっても専門の特殊なのものなので、そもそもかける機械がもう残っていないとか。このマネージャー氏もステージ中央に陣取っていた。
サウンドもコンサートホールとは違って、ライブハウス用に立体的に構築されていた。

サブタイトル通り1曲目は「ピーターラビットとわたし」から開始。中盤で「幻惑」と「
Volcano」をやってくれたのは嬉しかった。
「Rain」って『ブレードランナー』に触発されて作った曲だとこの時初めて聞いて驚いた。知らなかったですよ……(^^;ゞ ファン失格かしらん。

そして終盤にハプニング発生💥 ター坊がアンコールで出てくると、なんと!「すーてきなこにであえるよ~」と大声で歌いだしたヤツがいたのである。
ご本人の前で……一体何者(-ω- ?) 酔っ払ってないとできない所業である。
しかもター坊は「曲名なんだったかしら、忘れちゃった」としらばっくれたという😶

アンコール2曲目は教授の曲で「泣いちゃうかも」と前置きしたが実際に涙、涙💧であった。(翌日はちゃんと歌ったとのこと)

80~90年代の作品中心だけど新しいエネルギーに満ちていた。客席も盛り上がり、陶酔の2時間弱だった。

| |

2023年5月19日 (金)

東京・春・音楽祭2023「憧憬の地 ブルターニュ」展記念コンサート2:異郷の音で踊り、指輪に目がくらむ

230518b 演奏:大竹奏ほか
会場:国立西洋美術館講堂
2023年4月14日

フィドルの大沢奏をリーダーとするミュージアム・コンサートである。演奏されたのはブルターニュのダンス音楽や伝統歌だ。器楽のメンバーは他にハーディガーディ&バグパイプ近藤治夫、チェロ高群輝夫である。

最初に展覧会の方の内容や、そもそも「ブルターニュといってもそりゃどこよ❗❓」みたいな人のために、美術館の研究員の人からスライドを使って事前解説があった。

コンサートの方はダンス曲では民族衣装を着けた愛好家のグループ(多分)によるダンスの実演付きだった。数人で横に手握ったり腕を組んだりして繋がってステップを踏みつつ横移動していくような形である。素朴でのんびりした印象のダンスではあるが、当地の祭りで住民みんな張り切って踊りまくるとすごい勢いになるのかもしれない。
踊ったのは女性4人男性1人で、男性は曲によってパーカッションを担当していた。

曲自体はケルト系で、ダンス曲だけでなく結婚式の定番とか国歌(ブルターニュの)も含まれていた。最近の演奏の傾向か、フィドルとチェロの組み合わせだとかなりスタイリッシュな音に聞こえる。しかし、そこに近藤治夫のバグパイプやハーディガーディが入ると俄かに「野蛮」な音になるのが面白かった。

230518a


終演後は公演チケットでそのまま美術展に入れる。同じハルサイのミュージアム・コンサートでも都美術館だとそのような恩恵はない。さすが国立であるよ(*^^)v
正直言って19世紀から20世紀初めの画家が中心で、顔ぶれ的にあまり興味がないところなのでざっと見した。

ブルターニュというのが当時の画家たちの間に流行っていて、素朴な土地柄の人々と美しい風景というのが彼らの好みに合ったようだ。留学していた日本の画家たちも題材にしている。ゴーガンの作品群が目玉のようで……むむむ苦手よ(^▽^;)
ルドンの小さな風景画が2枚だけあった。藤田嗣治の「十字架の見える風景」がちょっと陰鬱なトーンで目立っていた。
とはいえ、国内各地の美術館の所蔵品から「ブルターニュ」しばりでこれだけ集めるのは大変だったかも。担当者の方、ご苦労さんです✨
なお美術展の企画で一番楽なのは「〇×美術館展」というヤツだそうだ。改装などの時期に合わせて丸ごと借りればいいかららしい。

230518c その後はサッと帰ろうかと思ったが、常設展の中に「指輪コレクション」展があったのでつい寄ってしまった。もちろん企画展のチケットがあれば無料で入れる。
様々な種類の指輪が美しく展示されている。数が多くて素晴らしい、ウットリしたと言いたいところだが、小さい上に薄暗い中でポイント照明を当てているので細かいところはよく見えない。それでも見ごたえはあった。
細かく石を見たければ図録を買えということなのは仕方ないか。見終わって外へ出るともはや夕方であった。

| |

2023年5月 6日 (土)

「アメリカン・エピック」:歌えば歴史の音がする

230506 監督:バーナード・マクマーン
米国2016~2017年

1920年代後半に米国各地での民衆の音楽の録音が残されていた。それを今たどり直す全4回のドキュメンタリーである。
映画館のスケジュールの関係で私は3・4→1・2の順番で分割鑑賞した。さすがに1日に4作まとめて見るのは無理無理🆖

当時の最先端の音楽メディアはラジオ。その流行に対抗してレコード会社は新開発の録音機を運んで米国各地を回り演奏者を発掘し録音したのである。マイク一本のみの一発録りで、そこには多様な音楽の歴史が全て詰まっている。
いずれも演奏者たちの子孫や関係者が登場して、録音の中だけではない実在の人物としての息吹きを伝える。

「1」はアパラチアの山奥から現れた「カントリーの祖」(でいいのか?)カーター・ファミリー、黒人街から生まれたメンフィス・ジャグ・バンドを扱っている。
カーター・ファミリーは後年活躍したが、元々は夫婦と妻のいとこによって始まった。録音のオーディションに車で一日がかりで行ったという、まさにド田舎のヒルビリー出身と言える。

後者は金がないのでフィドル以外は手作り楽器を使う。パーカッションは洗濯板だ。ドラム缶とロープ❗でできた一本弦のベースには驚いた。
管楽器は大きなビンを代用し(だから「ジャグ」なのか)その口に吹き込む息の強さと唇の動きだけで演奏する。見てて思ったのだが、もしかして彼らならナチュラルトランペットも楽々演奏できるのでは(!o!)

「2」アトランタの教会の牧師、炭鉱の採掘人、綿花摘み労働者が登場する。音楽と生活の密接なかかわり、というより苦しい生活の中で音楽が唯一の彩りだったことをヒシと感じさせるエピソードが続く。

レコードが出たと言っても数回録音しただけでそのまま忘れ去られた者もいる。炭鉱夫の一人の息子は父親がレコードを出したことさえ全く知らなかったという。
しかし人は死んでも曲は残る。楽譜がフォークの歌集に収められ数十年後に復活したという話にはしみじみとしてしまった。

綿花畑で働いていたチャーリー・パトンは写真は一枚しか残っていないが、ハウリン・ウルフ、ロバート・ジョンソンなどそうそうたる面子の後輩たちにギターや歌を教えたことで名前が後世まで残っている。
最後に現れたブルースじいさん3人組(90歳超)には笑ってしまった(*^▽^*) ブルース歌うには畑仕事でロバを追い立てる大声が必要なそうな👄

「3」はハワイアンやケイジャン、メキシカンなど様々な民族音楽を紹介している。
先住民が国会議事堂前で「秘儀」を披露する映像には驚いた。あえて衆目にさらしたのは儀式を行う権利を保障する国会決議のためだという。
ハワイアンのパートではスティール・ギター誕生のエピソードも紹介。

また録音後、数十年間忘れ去られていたミシシッピ・ジョン・ハート「復活」のエピソードは感動--というより数奇な運命に驚くのみだ。

「4」は消失していた当時使われた録音機を修復・再現し、それを使って現在のミュージシャンたちに収録曲を再演してもらうというプロジェクトの記録である。
とはいっても、必ずしも同じ曲とは限らない。30年代の曲や伝統曲、さらにはオリジナルもあり、アレンジは現代的でエレキ楽器も使用している。しかしある種の古楽的アプローチであるともいえるだろう。

録音機はベルトに下げた重りが床に届く数分間だけ機械が回るという仕組みで驚いた。途中でベルトが切れてしまうというアクシデントが発生💥 プロデューサー役のJ・ホワイトが急きょベルトをミシンで縫ったのだが、その手際が良くて--普段から自分で洋裁やってるのかな(^^?と思ってしまった。

最年長(?)ウィリー・ネルソンからリアノン・ギデンズなど、さらにはエルトン・ジョン(&バーニー・トーピン)が登場。完全一発録りとはいえ、粗削りで活力ある遠い昔のサウンドが耳と心に染みてくるのであった。
もっともベックがゴスペルグループと録音する場面は音量のバランスが取れなくて四苦八苦していた。

本当は「4」を見るつもりはなかったのだが、「3」を見てしまうとやはり見ざるを得ない。同じことを感じた人がやはりいるようだった。朝の「1」からずっと見続けていたらしい中高年女性客がいて、ドリンク注文しながら「ここまで見たら止めるわけには行かなくて」とスタッフにぼやいていた。

音楽の膨大な広がりと繋がりを感じさせる見ごたえありのドキュメンタリーだった。米国音楽ファンはもちろんオーディオ・ファンにも鑑賞をオススメしたい。

| |

2023年2月 5日 (日)

「大貫妙子 コンサート2022」

230205 会場:昭和女子大学人見記念講堂
2022年12月3日

年に一度の恒例ター坊のライブ行ってきました(^O^)/
ギター&ベース×各1、ドラム×2、鍵盤×3という面白い編成のバンドと共に80~90年代の曲を中心に演奏するという内容である。

坂本龍一が編曲担当した曲はライブで再現するのが難しくて、ライブではやって来なかったものがあるとのこと。今回それをシーケンサーを使用して復活させ、さらにバンドの生音を重ねるという趣向だった。まさに坂本龍一にエールを送る特集と言っていいだろう。
アコースティックでは聞けない、特に「幻惑」と「ボルケーノ」が嬉しかった。後者はなんとライブでやったのは初めてだとか。ビックリよ(!o!)

ほぼ満員の会場で休憩なしで2時間弱の公演、充実のひとときだった(*^o^*)

ター坊の衣装はかなり奇抜だった。駅までの帰り道でもみんな話題にしていた。長いドレスの裾がピンと外側にまくれ上がって、しかもそれが幾つもの筒状になっているという……言葉では説明できませ~ん💥

大阪公演は約2か月後の1月末にあった。SNSで流れてきた情報によると、アンコールの最後に高橋幸宏の追悼として独りで涙と共に一曲歌ったらしい。聞きたかったですよ👂

| |

2023年1月15日 (日)

「「未熟さ」の系譜 宝塚からジャニーズまで」

230115 著者:周東美材
新潮社(新潮選書)2022

意外な視点から見た刺激的な日本近代音楽史である。
なぜ日本のポピュラー音楽では「未熟さ」が愛好され支持されるのか。レコード産業の誕生・発達と密接にかかわるこの流れを童謡、宝塚、ナベプロ、ジャニーズ、グループ・サウンズ、スター誕生に始まるオーディション番組……とたどっていく。

その共通点は、第一次大戦後に都市部を中心に形成された近代家族をターゲットにしていること。その茶の間では子どもの存在が大きく「子ども文化」が次々と消費される。そこは音楽ファンやマニアではなく「女・子ども」の世界である。
歌い手側は養成機関として「寄宿学校」形式を取り「卒業」を前提とする(「高校野球」との類似に注目せよ)。一方、人々は歌い手の未熟さを前提にした「成長」をメディアを通し見守り楽しむのだ。

それらは既存の音楽の枠組みを崩し、新たなメディアや産業構造を生み出していく起爆剤でもある。レコード、ラジオ、テレビ、楽譜、雑誌、大劇場……など。そして茶の間と音楽の関係を展開させていく。
そも、このようなシステムがなぜ出来上がったのか? その理由も解き明かされている。

大正~戦前の童謡、宝塚の形成については全く知らなかったので特に面白かった。そもそも童謡がそれほど人気があったというのが驚きだ。また「家庭音楽」(家庭団らんで楽しむためと喧伝された西洋音楽)という存在も初めて知った。
グループサウンズのメルヘンチックな歌詞は童謡の系譜を引き継いでいたというのは衝撃である。
宝塚が「未熟」というのは今の状況だと想像がつかないが、昔は「お嬢さん」として卒業退団したら家庭に入るというのが通常だったらしい。

当然、秋元康についての論考も読みたいところだが、頁数の関係だろうか、その時代へ行きつかずピンク・レディーで終わっている。残念である。

| |

2022年10月25日 (火)

「アザー・ミュージック」:音楽が終わる前に

221101 監督:プロマ・バスー、ロブ・ハッチ=ミラー
出演:マーティン・ゴア、ジェイソン・シュワルツマン
米国2019年

音楽関係ドキュメンタリーのブームもあってか、こんな作品も公開。ニューヨークの名物レコードショップの歴史をたどる映画である。監督は元スタッフだったカップルとのことだ。

1995年、レコードショップの従業員たちが独立して超マニアかつマイナーな品揃えの店を開く。場所はなんとタワー・レコードの向かい側という大胆さだ。タワーに来た客が流れてくるのを狙った選択である。

自らもマニアで専門知識では他に負けないスタッフが複数いて対応、オススメ盤を聞けば瞬時にササっと出してくれる。女性店員の割合が多いのも特徴だ。おかげで小さな店には様々な人々が訪れて混雑し、レジの前には行列ができる。そこにはあたかも親密なコミュニティが形成されているようだった。
また当時行われたインストア・ライヴの映像も紹介される。ほとんどが私の知らないミュージシャンだ。毛布をかぶって客の前に現れた男には笑った。
もっとも経営自体は大変だったらしい。

そのように賑わい輝いていた時代が過ぎ去るのを告げたのは、皮肉にもタワーレコードの閉店だった。配信時代が始まり大手CDショップが撤退すると、もはやこれまでのコミュニティの存在自体が崩れていくのだった。
知識豊富な店員の存在はネットの検索で事足りる。今やマイナーなバンドの演奏も映像と共に聴くことができるのだ。

そのような時代の変遷がこの小さな店に凝縮して表わされているように思えた。実際に店に行ったことのある人はまた違う感慨を受けるだろうけど。

さよなら、21年間ありがとう✨--そんな風に言われる店が私の身近にもあったらよかったのに(文化果つる地埼玉じゃ無理だけどな)。
都内の輸入盤や中古盤の店はガチなマニア対象という感じで、こういう親しみやすさはなかったような。中央線沿線あたりだとまた違うかもしれない。

エンドクレジットの後には監督とオーナー二人からの、日本へのメッセージが付いていた。
終わった後には客席から拍手が起こった。(*^^)//""パチパチ

| |

より以前の記事一覧