映画(タイトル「ア」「カ」行)

2022年12月15日 (木)

「奇跡の丘」「アポロンの地獄」:ハードディスクの底をさらって駆け込み鑑賞、パゾリーニ生誕100年記念イヤー終了直前

かなり前に録画したまま放ったままにしておいたパゾリーニの『王女メディア』『テオレマ』を、今年が記念イヤーということで発掘して感想を書いてから、はや数か月経過。
まだ残っているのではないかと探してみたらなんと2作もありました❗❗(というか、さっさと見ろよって話ですね)
ということで今年が終わる前に鑑賞&感想であります。

「奇跡の丘」
監督:ピエル・パオロ・パゾリーニ
出演:エンリケ・イラゾクイ
イタリア・フランス1964年

パゾリーニと言ったらバリバリの共産主義者とのことだが、なのになぜ新約聖書からキリストさんの伝記を映画化するのか--と、見てみれば納得。原始キリスト教といいましょうか、ひたすら素朴で簡素な味わいあり。
旧弊な秩序と伝統に反抗し、貧しい民衆のために説教して歩くイエスと弟子たちの姿が率直に描かれている。

演じるのは全て素人、淡々と描かれる荒野の生活(この頃から荒野が好きだったのね)。背景に流れるはバッハの曲、かと思えば黒人霊歌と時代と地域を無視した選曲手法もこの頃からなのだった。
イエス役の青年も相当にインパクトありだが、一番迫力なのは若い聖母マリア役。美人だけど眼差しが強烈だ。ヨセフがタジタジしてしまうのも当然であろう。
なお年老いたマリア役はパゾリーニの母親が演じている(監督も共にしっかり出演)。

奇跡も描かれるが説教の場面に結構比重が置かれているので、睡眠不足の時は避けた方がいいだろう。


「アポロンの地獄」
監督:ピエル・パオロ・パゾリーニ
出演:フランコ・チッティ、シルヴァーナ・マンガーノ
イタリア1967年

『王女メディア』より2年前、同様の手法でギリシャ悲劇『オイディプス王』と、その元となった神話をを映画化したものである。

不吉な神託が出た赤ん坊を殺すために山の中へ……という神話の発端から、王宮内を除いてほとんどが荒野を舞台に展開する(ロケ地はモロッコとのこと)。
成人したオイディプスが再び神託を受けに向かう神殿は、砂漠の中に立っている数本の樹でしかない。またスフィンクスは岩山にいる仮面を付けた男で、謎かけ問答もなしに死んでしまう。
などなど筋立ては神話に沿っていても相当にぶっ飛んだものだ。

やはりここでも音楽は日本の神楽やらケチャやら最後はモーツァルトまで使われている。
衣装は太い糸でザックリ編んだような長衣で、仮面や帽子は世界各地のものを集めたのだろうと思われる変なものがたくさん登場する。いずれも強烈なパワーを発している。

しかし問題はプロローグとエピローグだ。冒頭、第一次大戦後のイタリアとおぼしき所で赤ん坊連れの裕福な夫人が若い将校と浮気しているような場面が描かれる。一方、ラストはオイディプスが放浪する地はまさに映画が撮られている時点での「現在」のイタリアで、冒頭の場所に戻ってくる。
時代や境遇はパゾリーニ自身と合致していて、この映画が「パゾリーニの個人的願望を描いたものだ」と評されるゆえんだ。
つまり、超マザコン……(◎_◎;)

しかしそんな事情をさっぴいても、神話部分は面白い。あまりの野蛮さに見ていてドキドキしてしまう💫 彼が荒野の中の道で出会った「老人」を殺害する場面でのドタバタぶりは見ものだろう。
兵士の鎧や兜は変な形で手作り感が横溢している。特に主人公がぶら下げている剣はどう見てもトタン板をぶっ叩いて作ったとしか見えない。

野蛮🔥野蛮💥 洗練さのかけらもねえ~~(>O<)とはこのことだいっ🌊

と、スクリーンからあふれ出んばかりの怒涛のパワーに思わず興奮である。
ということでハードディスクの底をさらっただけの価値はあった。さすがにもうパゾリーニ作品は残っていないようだが。

ところで終盤での王妃の全裸、あれはいくらなんでも本物のシルヴァーナ・マンガーノじゃなくて、いわゆるボディダブルというやつだよね。思わずボタン押して静止画面でガン見してしまった👀

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2022年11月19日 (土)

映画落穂拾い2022年後半編その1

一部、今年の前半に見た映画も入っていますが、細かいことは気にしないように。

「タミー・フェイの瞳」
監督:マイケル・ショウォルター
出演:ジェシカ・チャステイン、アンドリュー・ガーフィールド
米国2021年
*オンデマンド視聴

アカデミー賞の主演女優賞とメイクアップ&ヘアスタイリング賞を見事獲得した本作、日本では配信のみであった。もっともそれも仕方ないだろう。実話を元にしているのだが、日本ではほとんど知られていないからだ。

主人公は貧しくも信仰深い生活の中からTV宣教師となり絶大な人気を博した女性で、その一代記である。
最初はA・ガーフィールド扮する夫とまるで夫婦漫才を演じているようなコミカルな展開だ。しかし人気絶頂となってから段々と不正の道(資金横領)へ踏み込んでしまう。素朴に神に感謝を示して人に愛を与え続けるだけでは物足りなくなるものなのだろうか。
さらに加えて夫婦関係にも問題発生。ガーフィールドは裏表ないような笑顔を見せまくって、実はウラがあるという役を着実に演じている。
全体に誇張された描写が続いてなんだか作り物めいた作風ではあるものの、それこそがこの夫婦の真実なのかもしれない。

チャスティンは数十年の経過をそっくり派手メイクで演じ、流行歌風讃美歌も達者に歌いまくった。まさに賞取りレースに果敢に挑んでいる。笑ったのは、宣教師仲間の奥さんのミンクコートを一瞬だけギロッと羨望のまなざしで見るという演技。さすがである。

ただ、問題なのは同じ実話映画化の『愛すべき夫妻の秘密』とかなり題材と内容がかぶっていること。しかも主演女優賞候補で激突だ~💥
向こうはアーロン・ソーキン監督・脚本だから見た印象はかなり異なるけど。冷静に比べればニコールよりもジェシカの方に軍配を上げざるを得ない。
ところで実在の人物を演じるのが各演技賞へ近道なんですかね(^^?


221119「神々の山嶺」(字幕版)
監督:パトリック・インバート
声の出演:堀内賢雄、大塚明夫
フランス・ルクセンブルク2021年

夢枕獏の原作小説を谷口ジローがマンガ化、さらにそれをフランスでアニメーション化したものである。(なお小説・マンガ双方とも未読です)
他国では配信のみらしいが日本だけ映画館でも上映となったらしい。吹替が付いてるのも日本版だけだそうだが、声優はあちらからのご指名とのことである。

エベレストの前人未到ルートに執着する登山家、さらにその男をカメラマンが執念深く追う。
何より高山の描写が美しい。晴れた時の陽光、夕焼けに染まる雪、けぶるように迫ってくる嵐。そして画面を覆う「白」……それらが本来の主人公と言っていいほどだ。あまりの迫力に、語る言葉が全て無化していくようである。
雪崩の予兆のコキーンという音響も迫力だった。こわいこわい(>y<;)
とても上映時間94分とは信じられない中身の充実ぶりである。見終わってグッタリした気分。原作では女性が登場するそうだが、そこら辺はバッサリ切られている。

今後機会があるかどうか不明だが、ぜひ大きな画面での鑑賞をオススメしたい。
昭和の終わりぐらい(?)の日本の描写が色々と登場することも話題となった。また、居酒屋の場面に高畑&ハヤオが一瞬姿を見せるとか。
現金封筒を郵便ポストに入れる場面が何度か登場するが、実際は送れないので真似しないように注意しましょう。

作中の一つのエピソードを見て、突然に大学の時に実際にあった話を数十年ぶりに思い出した。登山部の男子が富士山で歩けなくなった見ず知らずのおじーさんに遭遇して、ずっと背負って下山したというのである。彼は私と同じくらいのチビで、おまわりさんに小学生と間違われたほどなのだが(;^ω^) よほどの体力がないとできません。

221209
「L.A.コールドケース」
監督:ブラッド・ファーマン
出演:ジョニー・デップ、フォレスト・ウィテカー
米国・イギリス2018年

4年前製作の作品を今なぜ公開なの(?_?)という疑問は置いといて、90年代に起こった人気ラッパー連続銃撃事件(2パックとノトーリアス・B.I.G.)の真相に迫る実録犯罪サスペンスである。

扱う事件は派手にもかかわらず映画のテイストは一貫して「晦渋」だ。派手な場面や展開はなく、見ていて「うむむ」と唸ってしまうようなトーンである💦
ほとんど偶然のような形で事件捜査に関わり、深入りし過ぎてついには警察から追われてしまう元刑事。そして十数年後にジャーナリストが彼に接近する。その真相は、謎と嘘が重なって真実が分かると皆が困るという迷宮状態だ。

明らかになるのはラッパーをめぐる音楽ビジネスの闇--かと思ったら全く違って、LA警察の腐敗であった。腐敗といっても暴力警官がいるというレベルではなくて、暴力団の類いがバッジと銃を持って「警察」と名乗っているようなもんである。犯罪やってもおとがめなしよ( ̄▽ ̄)
BLMが盛り上がった時に同じようなことを指摘したドキュメンタリー(確かTVで)を見た覚えがある。恐るべし。
ということなので見終わってスッキリしないのは仕方ない。あまりにもスッキリしなさ過ぎだ。

平日の昼間に見たので、ラッパーには縁のなさそうな年寄りの観客多数だった(;^_^A


さて、シネコンのチラシコーナーを見ていたら、後ろから中年女性がエコバッグをパッと広げて近づいてきた。何をするかと思ったらチラシを選んでニ、三十枚ガバと取ってバッグに入れていくんである。中には根こそぎ全部持っていってしまうチラシもあった。
ビックリである。
そんなに持って帰ってどうするのだろう。ネットオークションの類いに出すのだろうか。謎である。
よく「一作品一枚でお願いします」という注意書きを出している映画館があるが、まさにその犯行現場を初めて見たですよ👀

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2022年10月25日 (火)

「アザー・ミュージック」:音楽が終わる前に

221101 監督:プロマ・バスー、ロブ・ハッチ=ミラー
出演:マーティン・ゴア、ジェイソン・シュワルツマン
米国2019年

音楽関係ドキュメンタリーのブームもあってか、こんな作品も公開。ニューヨークの名物レコードショップの歴史をたどる映画である。監督は元スタッフだったカップルとのことだ。

1995年、レコードショップの従業員たちが独立して超マニアかつマイナーな品揃えの店を開く。場所はなんとタワー・レコードの向かい側という大胆さだ。タワーに来た客が流れてくるのを狙った選択である。

自らもマニアで専門知識では他に負けないスタッフが複数いて対応、オススメ盤を聞けば瞬時にササっと出してくれる。女性店員の割合が多いのも特徴だ。おかげで小さな店には様々な人々が訪れて混雑し、レジの前には行列ができる。そこにはあたかも親密なコミュニティが形成されているようだった。
また当時行われたインストア・ライヴの映像も紹介される。ほとんどが私の知らないミュージシャンだ。毛布をかぶって客の前に現れた男には笑った。
もっとも経営自体は大変だったらしい。

そのように賑わい輝いていた時代が過ぎ去るのを告げたのは、皮肉にもタワーレコードの閉店だった。配信時代が始まり大手CDショップが撤退すると、もはやこれまでのコミュニティの存在自体が崩れていくのだった。
知識豊富な店員の存在はネットの検索で事足りる。今やマイナーなバンドの演奏も映像と共に聴くことができるのだ。

そのような時代の変遷がこの小さな店に凝縮して表わされているように思えた。実際に店に行ったことのある人はまた違う感慨を受けるだろうけど。

さよなら、21年間ありがとう✨--そんな風に言われる店が私の身近にもあったらよかったのに(文化果つる地埼玉じゃ無理だけどな)。
都内の輸入盤や中古盤の店はガチなマニア対象という感じで、こういう親しみやすさはなかったような。中央線沿線あたりだとまた違うかもしれない。

エンドクレジットの後には監督とオーナー二人からの、日本へのメッセージが付いていた。
終わった後には客席から拍手が起こった。(*^^)//""パチパチ

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2022年9月28日 (水)

映画落穂拾い2022年前半編その2

220928a 忘れた頃にやってくる落穂拾い、書いてる本人も忘れています。

「白い牛のバラッド」

監督:ベタシュ・サナイハ、マリヤム・モガッダム
出演:マリヤム・モガッダム
イラン・フランス 2020年

冤罪死刑問題をテーマにしたイラン映画である。国内では上映中止になったらしい。
夫が死刑に処された後に冤罪が明らかになった未亡人のところに、夫の旧友を名乗る男が現れて親しくなっていく。
ところがその男の正体は……というとサスペンスぽいが、罪をめぐる人間の葛藤と構造的な社会問題を取り上げた作品だ。

彼女は障害児を抱えたシングルマザーでアパート入居断られたり、夫の親族が強引でもめるとか、冤罪が判明しても国側が賠償金出し渋るなどトラブル続きである。そこに立ちはだかる困難はイラン特有というよりは日本でも起こりそうな事案だ。
男はそれを親身になって手助けしてくれるのだった。

ただ、無理筋な展開を押し込めた感じはややぬぐえない。それと男の行動はあまりに自分勝手が過ぎるのでは?
それとラストをどう解釈したらいいのか分からなかった。見る人によって大きく異なっていて釈然としない。なんとかしてほしい(--〆)

一方、映像面では印象的なカットやカメラワークが多数登場。特に、あのカメラが道路を渡ってゆっくり戻ってくる場面はドキドキしてしまった。
でも一番怖かったのは、車を運転しながらCD探すところだった。いつ事故になるかとハラハラした。や~めてくれ~(>O<)

イラン映画で女性がスカーフ取って髪を全部出したのを見たのは初めてのような👀

220928b
「英雄の証明」
監督:アスガー・ファルハディ
出演:アミール・ジャディディ
イラン・フランス 2021年

もはや巨匠と呼ばれるファルハディ監督の新作、日本公開直前にケチが付いてしまった。
若い女性監督のドキュメンタリーを盗作したという疑惑が起こり、裁判沙汰になったのである。まだ係争中らしいが、アカデミー賞の候補に漏れたのはそのせいではないかなどと噂が噂を呼んだ。

取りあえずそれは置いといて\(^-^\) (/^-^)/ ←あえて昔の顔文字を使ってみた。

借金問題で受刑中の男が一時外出中に金貨の入ったバッグを拾う。そしてそれを持ち主に返したという美談がマスメディアで評判になる。
しかしその裏の真実は……嘘を一つ付けばそれを隠すためにさらに嘘に嘘を重ねて、様々な人を巻き込み肥大化して転がっていく。一体どう進んでいくのか先の見えない展開でハラハラしてしまう。

主人公の後先考えないプッツンぶりも悪いが、刑務所側もかなりひどい。かなり容赦なく描かれている。
また、そもそもこの事件が実際起こったことというのがまたビックリである。(世間で騒がれた事件なので、件のドキュメンタリーを盗作したわけではないという弁解も成り立つらしい)

ファルハディ監督の過去作に比べると今一つキレと余裕がないように思えた。とはいえラストシーンは極めて印象的だった。
子役の使い方は相変わらずうまい。息子だけでなく二人のいとこ役もよかった。主演俳優については口元がいつもニヤついているのがちと気に入らず(ーー;)

邦題については過去のレイフ・ファインズ主演作品に全く同じものがあるじゃないの。何とかしてくださいっ💢

220928c
「親愛なる同志たちへ」

監督:アンドレイ・コンチャロフスキー
出演:ユリア・ヴィソツカヤ
ロシア2020年

激動のロシア情勢、一体今見ずしていつ見るか~🔥という中で日本公開になったコンチャロフスキー監督作品だ。

スターリン後のフルシチョフ時代のソ連、食糧不足と賃下げにより工場ストライキが起こる。大規模な抗議行動は突然に流血の惨事に--という、1962年にウクライナ近くの都市で起こった虐殺事件を元にしている。
ヒロインはスターリン支持者だが現体制に忠実な共産党幹部、しかし娘は工場ストライキへ。一方年老いた父はスターリンをひたすら懐かしむ、という世代によって分断されている状況である。

軍は群衆に発砲をためらうが、KGBが陰で暗躍して事態は急展開する⚡
次々と銃撃される市民、集められる遺体、封鎖された街、迫力あり過ぎな描写で描かれている。現在のウクライナを想起させる場面も出てくる。怖い(>y<;)
スト参加の娘を探すうちに、主人公は自らの価値観が引き裂かれていく。

ただ、やはりロシア近現代史・ソ連史の知識がないと真の理解は難しいかも。それとKGB男が彼女にあれだけのことをしてやった理由が明確に描かれていなくてどうも解せない。
母娘のラストシーンをどう解釈していいのかも戸惑った。


なお、コンチャロフスキー監督とニキータ・ミハルコフ(プーチンの熱烈支持者らしい)って兄弟だったのか。初めて知った。また主役を演じるユリア・ヴィソツカヤは監督の36歳年下の奥さん、とのこと。

彼は朝日新聞のインタビューでウクライナをどうとらえているか、こう述べている。
《西欧と東欧の対立は何世紀にもわたる古い問題だ。西側のリベラルな哲学に誘惑されたウクライナ人に深い同情の念を抱いているが、彼らは東欧の人間で西欧の人間とは違う。》

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2022年9月 2日 (金)

祝🎀パゾリーニ生誕100年「王女メディア」「テオレマ」

220902a「王女メディア」
監督:ピエル・パオロ・パゾリーニ
出演:マリア・カラス
イタリア・フランス・西ドイツ1969年

見てからかなり時間がたってしまったが取りあえず書いてみる。
自らをよくよく顧みればパゾリーニってこれまで見たことないな💦という、ふがいない映画ファンなのであーる。
ギリシャ悲劇「メディア」の映画化ではあるけど、原作のセリフを削りまくり(よく喋るのはケンタウロスのみ)あくまで映像と音を優先。作り上げられたイメージはあまりに毒気タップリ💀野蛮💥洗練のセの字もなしっ(@_@)で目が回りそうである。

私は芝居の「メディア」は過去に様々な劇団の公演を鑑賞しているが、この強烈な映画がその後の上演に影響を及ぼしただろうことは疑うまでもない。「元ネタはこれか(!o!)」と納得した。

荒れ地を舞台に原初的で残酷な生贄の儀式が描かれ、そのまま神話のメディアのエピソードへと流れ込む。
マリア・カラス扮するメディアは見るからにコワい(>y<;) イアソンに「にーちゃん、その女だけは止めておけ」と言いたくなる。でも彼は「軽薄な若者」枠なので何も考えておらずズルズルと引き込まれてしまうのだ。
ただ後半が飛躍し過ぎで元のストーリーを知らないと訳が分からなくなる状態だろう。

日本も含む世界各地の伝統音楽・衣装・美術がゴッタ煮状態で使われていて、またそのパワーが有無を言わせぬ。ロケ地の浮世離れした風景がそれに拍車をかける。
参りました~m(__)mガバッ

それにしても殺される者が必ず笑っているのはなぜなのかな。

220902b
「テオレマ」
監督:ピエル・パオロ・パゾリーニ
出演:テレンス・スタンプ
イタリア1968年

長いこと一部の人々に「テレンス・スタンプが美しい✨」の一言で伝えられてきた(多分)伝説の一作。

いや、確かに彼は美しいんだけどさ……。前半、いくばくもたたぬうちに彼は消えてしまってもう登場しないではないか。その後に残るは奇跡のみか??
私は宗教に縁なき衆生の一人とはいえ、普通に解釈すれば嵐のように現れて嵐のように去っていく若者はキリストの再来であり、中心となるのはそれに触れた人々の変容の方なんだろうぐらいは分かる。

彼は退廃したブルジョワ一家の大邸宅に出現して家政婦を含む全員と関係を持つと、相手の一家の方は聖人や芸術家や寝たきりになる。中でも変貌激しいのは主人とその妻であり、全てを投げうち自暴自棄としか言えない行動をとる。
まこと金持ちが天国に行くのはラクダが針の穴を通るより難しい🚫ということであろうか。

本筋から外れるが、見てて気になったのは奥さんの行動。「娼婦になった」とされているけど、どちらかというと「有閑マダムが若いツバメを買う」という行動っぽい。いずれにしろ田舎町の側溝の中で……って、首絞められて財布と車取られたらどーするの(+o+)などと震え上がってしまった。

T・スタンプの股間に向けてグイグイ食い込んでいくカメラや、男の下着を注視するように撮るフェチぶりには笑った。

レコーダーのハードディスクの中にパゾリーニ監督作が一つぐらい沈んでいるはずなので、さらに見て修行したい。
折角の記念イヤーならば、W・デフォーがパゾリーニを演じた映画も公開してほしかったぞ。

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2022年7月 2日 (土)

映画落穂拾い2022年前半編その1

忘れた頃の落穂拾い、期せずしてアニメ特集となりました(^^ゞ

「ロン 僕のポンコツ・ボット」
監督:サラ・スミス、ジャン=フィリップ・ヴァイン
声の出演:ザック・ガリフィナーキス
米国2021年
TV放送視聴

孤独な少年にプレゼントされた、みんなが持ってる友達ロボット。ずっと買ってもらえずに自分一人だけが持ってなかったので、喜んだのはいいものの贈られたのは不良品だった💥--というCGアニメ。
SNS依存の代わりに、子どもたちはロボット依存が甚だしくて全生活を頼り切っている。いかにも現代のお子様向きのテーマかもしれないが、あと10分ぐらい短い方がよかったんじゃないのと思ってしまった。

主人公がトムホっぽかったんで、ついスパイダーマン連想したりして。
友達みんなのため、さらには世界の平安のために大切なものを失うのをあえて認めるというのも似通っている。これも大人へ向かう試練というやつか。
悪役がS・ジョブズに似ているのは何か恨みがあるのだろうか(^^?と思ったりして。

結局、「ロボットが不良品」という一点だけで突破を図ったような気がしなくもない。ロボットはカワイイけどな。

しかしこのロボット、子どもより独居老人向けなんじゃないのか。話相手になって、荷物を代わりに運んでくれたり、杖代わりになったり、「えーと、向こうから来る人誰だっけ?」という時に「前の町内会長ですよ」と教えてくれたりして……孫より大事に思っちゃうかも。


「ミラベルと魔法だらけの家」
監督:バイロン・ハワード、ジャレド・ブッシュ
声の出演:ステファニー・ベアトリス
米国2021年
VOD視聴

こちらはディズニーアニメ。メガネのヒロインはチャーミング、家族のキャラクターも多様、音楽は良し、映像の色彩や動きは驚くほど(特にミュージカル部分の自在さ)……なんだけど、後半の展開についていけず肝心のテーマがよく理解できなかった。

バラバラになった家族が雨降って地固まるってことなのか(?_?)
家族の再生の話としても、どうにも複雑で回りくどく、遠くまで引っ張った挙句に元通りとは、納得いかない気分でモヤモヤする。
裏に何か意味があるんだろうとは思うものの、そこまで追求する元気も興味もないのであった。

結局ミラベルは「何者」なのか? 主人公は彼女じゃなくておばーさんの方だという説もあるし、ますます不明。音楽・映像に目が(耳が)くらみ脳ミソがついていかない。
というわけで前半9点、後半5点みたいな配分。分かる人だけに分かるミュージカル・アニメかな。
なお作中歌の「秘密のブルーノ」は大ヒット、再生回数で「アナ雪」を抜いてディズニー作品の中でトップになったとか。でも、アカデミー歌曲賞の候補になったのはこの曲ではなかったんだよね。


「アンネ・フランクと旅する日記」
監督:アリ・フォルマン
声の出演:ルビー・ストークス
ベルギー・フランス・ルクセンブルク・オランダ・イスラエル2021年

要するに「アンネの日記」のアニメ化ね--と思って興味が今一つ持てなかったが、そんな一言でまとめられるような単純なものではなかった。
さすがに『戦場でワルツを』のアリ・フォルマン監督、というところか。

現在、観光スポットと化しているアムステルダムの博物館、そこに保存されている事物のアンネの日記から少女が突然現れ、そして街中を歩き回る。

彼女は日記内に描かれるアンネの空想上の友達だった。しかし、彼女はアンネがその後どうなったか知らない。当然だ、日記はそこまで書かれる前に終わってしまっているのだから。

周囲の観光名所の数々に名が付けられ、象徴となってしまった「アンネ」現象に向ける視線は辛辣である。まるで本人に代わって批判しているようだ。

迫害から逃れ屋根裏に隠れ潜むユダヤ人と、警察の取り締まりを避け廃屋に集まり住む現代の難民や不法移民を重ね合わせるのは、まさに「今」にアンネを立ち現わせる試みと言えるだろう。
難民を迎えに来たバスがウクライナを連想させてウツウツとなってしまった。

結構クセのある作風なので、見る人を選ぶかもしれない。
ドイツ軍と戦う神話の軍団が「アベンジャーズ」みたいなのでちょっと笑ってしまった。

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2022年5月 9日 (月)

「愛すべき夫妻の秘密」:笑うべきドラマの笑えない事情

監督:アーロン・ソーキン
出演:ニコール・キッドマン
米国2011年
アマゾン・プライム視聴

アーロン・ソーキンの監督脚本最新作は日本では配信のみで劇場公開がなかった。米国では劇場でも上映されたが、賞レース参加のためだったようだ。
その甲斐あってか中心の3人が俳優賞にノミネートされた作品である。

個人的にはシットコム女優ルシル・ボールを主人公にした映画だというので是非とも見たかった。というのも、子どもの頃にTVで『ルーシー・ショー』は毎週やってて大好きだったのだ。また高橋和枝の吹き替えがピッタリ過ぎで、毎回欠かさず楽しみにして見ていた。もう懐かしさの極み✨だ。

しかし、アーロン・ソーキンであるがゆえにそう一筋縄ではいかない。
映画は彼女の主演ドラマ『アイ・ラブ・ルーシー』のとある回が作られる一週間を舞台にしている。昔の時代なので、スタジオに客を入れてその前で演じて生放送する。脚本の検討から放送まで、それを一週間単位で繰り返していくのである。(過程が詳細に描かれていて面白い)

その問題の一週間に「危機」は訪れた。新聞が彼女に関するスキャンダルをすっぱ抜くのかもしれないのだ。それは「赤狩り」と「浮気」である。その二つに彼女とその夫(ドラマ内でも夫婦役を演じる)の過去の総てが凝縮されている。

才能あるが型破りで映画女優としては成功できなかったルシル、キューバ移民で苦労人だがモテ過ぎミュージシャンの夫。彼らは同じ家に暮らしながら完全すれ違い夫婦生活を送っていた。
その解決法が連続ドラマでの「夫婦共演」だった。彼女はそのために努力を尽くす。しかし、その関係が突然やって来た危機の下でどうなったのか、顛末を描くという次第である。

見始めて『アイ・ラブ・ルーシー』は夫婦出演なのに、どうして私が見てた『ルーシー・ショー』では「赤毛の未亡人」だったのかと最初疑問に思ったが、そういうことだったのかい(~o~)

迫りくる新聞発表のタイムリミット、脚本と演技の細部にわたってこだわりぬいた変更に次ぐ変更。そしておなじみ喋りまくるソーキン節の登場人物たち(字幕読むのが追い付かねえ~💦)。
加えて当時のTV業界が今では考えられないようなタブーを抱えていたのにもビックリだ。「妊娠」「出産」という設定は禁止、妊婦は登場人物になれない。「年下の夫」も「キューバ人」もダメ。
それらをぶち破ったのがルシルなのである。知らなかった(!o!)
キャサリン・ヘップバーン風な常にパンツルック、恐れを知らず妥協もしない。

ドラマに登場する「ルーシー」を演じるニコール・キッドマンはあまりにそっくりなので衝撃を感じたほどだった。ウン十年も前に見たTVの印象が脳内にまざまざと蘇ってくる。特にイタリアでブドウを踏むというネタで笑いを取る場面、ああいう感じである。
他に夫役バルデム、共演者役シモンズも好演。ソーキンより完全に役者の映画だ。

加えて、疑似回想ドキュメンタリー風の語りを入れる手法はかなり疑問だった。当人たちはとっくに亡くなっていて、役者が演じているのだからなんだかなあ。
邦題は見てみると「そういう意味で付けたのか」と理解はできるが、やっぱり訳わかんないタイトルである。なんとかしてくれ💢

それにしても米国でも若いもんは彼女のこと知らないだろう。やはり映画賞の投票者の大部分を占める高い年齢層向けか。

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2022年1月22日 (土)

「アンテベラム」:パニック!逆襲の奴隷農園(仮題)

監督:ジェラルド・ブッシュ、クリストファー・レンツ
出演:ジャネール・モネイ
米国2020年

*後半にネタバレ感想があります。

完全ネタバレ禁止⚡作品である。
米国の南北戦争最中の頃か、黒人奴隷たちが農園で南軍兵たちに監視されつつ綿摘みをしている。映画はその一人の女性の日々を追う。
虐待を受け、理不尽な暴力を振るわれる。農園の一隅にある、燃え盛る炎をちらつかせる小屋がとても不吉だ。

一方、現代の米国で平和な家庭生活を送る社会学者にしてベストセラー作家の朝が並行して描かれる。冷静に社会を論じてマスメディアでも人気で大統領候補とも囁かれる彼女は、オプラ・ウィンフリーとナオミ・クライン(←白人だけど)を合わせたような人物だと言えるだろう。
ジャネール・モネイがこの両者を演じている。

この二つの隔絶した時空の謎はなんなのだろうか?……という答えが分かった時にナルホド❗やられた~と思うのは間違いない。
伏線が巧みに張ってあり、セリフも複数の意味に解釈できるようになっていて、それらがちゃんと回収される。お見事である。

それにしてもこりゃ恐ろしい話だ(>y<;)
製作年は2020年となっているから米国の議事堂襲撃事件より前に作られたのだけど、観れば明らかにあの事件を連想するだろう。不吉な予言のように思える。

前半の歴史・社会派スリラー調から終盤はバイオレンス・アクションになってしまって、落差が激しいという意見も見かけた。確かにモネイの暴れ方はやり過ぎ感が大きいけど、彼女の最後の咆哮に爽快感を感じたのも事実だ。やったれーっ( `ー´)ノ

以前、『ゲット・アウト』をDVDで見た時に特典映像に「もう一つの結末」があった。そちらの結末を選んでいたら現代社会の恐怖を描いたとして高く評価されたかもしれないけれど、代わりにあれほどはヒットしなかっただろう。そして、見て「快」を感じるのはオリジナルの方なのだ。
同様にジャンル映画として成立させるために強調する部分の、リアルさのさじ加減は難しいと言わざるを得ない。

とりあえずアマプラのTVシリーズ『地下鉄道』(バリー・ジェンキンズ監督脚本)、第2話まで見て止まってたけど早く続きを見ようと心に誓った。こちらはホラーではなく「純文学」的である。あと、やはりオクテイヴィア・E・バトラー読むべきかな。


以下、ネタバレ感想行きます。


★ ★ ★ ネタバレ注意 ★ ★ ★


映画の結末まで見た人だけお読みください。


「農園」はユダヤ人収容所を想起させる不気味な場所である。
火葬の小屋(窯をのように見える)の存在、また折角つんだ綿をわざわざ焼かせる作業(←これも伏線ですな)など。

連れて来られる黒人のほとんどは若い女であり、一部が知的な職業の男だ。もし「兵士」たちが単にアフリカ系を気に入らないというなら、ラッパーとかギャングのボスを連れてきて貶めてやってもいいようなもんだが、そういう選択をしないところに奴らの本質が透けて見える。
特に主人公は大統領になると期待されていた溌溂とした女性である。後から連れてこられた若い女が無抵抗でおびえる主人公を半ば非難するように「あなたはリーダーだと思っていたのに」というセリフでそれが示唆される。彼らはそのようなマイノリティの女の存在が許せないのだ。
ラストで彼女はやはり無抵抗のままに終わる人間ではないことが示される。

また、彼女は講演先のホテルで予約したレストランでひどい席に案内される。あるいはホテルの部屋はきちんと掃除がされていない。白人の友人の部屋はちゃんとしていたのに、である。
掃除の件は議員の娘が仕組んだことではあるが、これらは黒人の「日常あるある」ではないか。差別とは明言できないような小さな出来事でも、積み重なると神経を削られていくに違いない。
恐ろしいのはそんな小さなトラブルが「農園」と地続きに見えるということだ。つまり「陰謀」なのか「偶然の悪意」なのか区別が付かない。

多分、米国の黒人にとってはこれは決して絵空事ではなく、リアルな悪夢かつ恐怖なのだろう。奴隷制の復活はいつでも起こりうる。過去にあったのだから。

さて、もう一つレストランでの「ナンパ事案」はどうなんだろう(?_?)
私はてっきり誘った男(顔が映らない)が、議員のムコの奴だと思ったのだが違うかしらん。それとも単にガボレイ・シディベに息抜きのお笑いタイム💨を演じさせただけなのかな。謎である。

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2021年12月18日 (土)

映画落穂拾い2021年後半編その2

211218a「ジャスト6.5 闘いの証」
監督:サイード・ルスタイ
出演:ペイマン・モアディ
イラン2019年

イランの犯罪サスペンスもの。
冒頭の追跡劇からつかみはオッケー。大物麻薬ディーラーを追う部長刑事が逮捕のためにはなんでもあり、違法でもキニシナイという強引な捜査を繰り返す。
ようやく捕まえたはいいけれど、相手はしたたかな犯罪者なんでそのままでは終わらない。

前半が刑事編、後半は犯人編となって一本で映画二本分の濃縮度である。あまりの濃さに見終わってどっと疲れた。面白かったけど(;^_^A
まだ監督32歳、二作目だって? そうとは思えぬ完成度である。イラン映画界から目が離せません。

スラムの一斉摘発、ギュウ詰めの拘置所、留守電の会話、トイレ、ラストの●●シーンなど印象的な場面が多数あった。
でも、突如登場したあの3人の太った男たちは何(^^?
あと「日本」が何度も出てきたのは意外。日本スゴイぞ(ほめられません)。


211218b「ウォーデン 消えた死刑囚」
監督:ニマ・ジャヴィディ
出演:ナヴィド・モハマドザデー
イラン2019年

『ジャスト~』と同時期に公開されたイラン映画。あちらは映画館で見たけど、こちらは後からDVD鑑賞した。

古くて取り壊し予定の刑務所、ただ今引っ越し作業中だ。囚人も移送する。ところがその合間に囚人が「一人足りな~い(>O<)」案件が発生。しかも死刑囚だ。昇進を控えた所長は必死に捜索するも要として行方知れずとなる。
人ひとり、一体どこに消えたのか。

所長が中間管理職の悲哀みたいなのを背負ってて笑えるところが多数ある。女性の保護司が来るとカッコつけたりして。
『ジャスト』はシリアスで暴力度大だったけど、あちらに比べるとずっと気軽に楽しめた。
ラストでもうひとひねり欲しかったとはいえ、エンタメ作でもイラン映画あなどれぬと感じ入った。

なお所長役は『ジャスト』ではギャングの凶悪ボスをやってた人。事前に知らなきゃ分かりません❗


211218c「83歳のやさしいスパイ」
監督:マイテ・アルベルディ
チリ・米国・ドイツ・オランダ・スペイン2020年

予告を見た時に「えっ、これ本当にドキュメンタリー?フィクションじゃないの」と思ったけど、見終わってからもやはり「これドキュメンタリーなのかね💨」と思った。

探偵社が老人ホームに潜入調査するにわか調査員を募集。その段階からクルーが撮影していて、ある高齢男性が選ばれる。
ホームに入ると、人柄が良さで周囲の入居者にモテモテ状態になる。
その調査活動を密着取材して追ううちに、高齢者と家族の在り方の問題があぶりだされてくるのだった。

--という結論はいいとして、元の依頼者の意図が不明な上に、先にホームに取材カメラが入っている(目的を偽った?)のは変な感じ。大体、入居者がメモ帳持って廊下ウロウロしていたら怪しいと思わないか。

この内容(結構シリアス)で映画として老人ホーム側や関係者が公開を許可したのも驚きである。なんだか現実を舞台にしてその場にいるシロートがドラマを演じているみたい。(リアリティ・ショーか?)

などなど謎な点は多いが、主人公の人物像が好感度大なので他の些細な点は帳消しになっちゃう。取材対象である主人公がドキュメンタリーとして肝心というのは『ハニーランド』と似ている。
この映画も『コレクティブ』と同じ時にアカデミー賞長編ドキュメンタリー賞ノミネートされた。なおチリの作品がアカデミー賞候補になったのは初めてとのこと。

映画館は、見た後に身につまされる世代の中高年層多数だったですよ(;^ω^)
私も身につまされました。

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2021年12月11日 (土)

「アイダよ、何処へ?」:敵と共に生きる

211211 監督:ヤスミラ・ジュバニッチ
出演:ヤスナ・ジュリチッチ
ボスニアヘルツェゴヴィナ・オーストリア・ルーマニア・オランダ・ドイツ・フランス・ノルウェー・トルコ2020年

またも辛い映画を見てマスクを涙で濡らしてしまった(;_:) 歳取って涙もろくなったのかしらん。
舞台はボスニア紛争時の都市。安全地帯のはずの町にセルビア軍が乗り込んでくるが、国連は何も手を打たない。一応、武力行使はしないと約束のポーズはしているものの、彼らを怖れた何千人もの住民が国連軍の基地めがけて逃げてくる。(実際、市長などは早々に殺害されている)

現地で雇われた女性通訳の目(と耳)を通してその恐ろしい事件の一部始終が描かれる。見る前の予想と異なって、国際紛争問題を大局的に捉えるというのではなく、あくまで自分の家族を救おうとする彼女個人の視点を通して全てを見ている。そして彼女と共にカメラが疾走する。
しかし昔の教師時代の教え子が敵の武装兵士になっているのに出会うのは怖いのう。

セルビア軍にいいように手玉に取られる国連軍。結果は選別、排除、殺戮……。
かつてのユダヤ人虐殺はもちろん、現在のアフガニスタンをも想起させてウツウツしてしまう。基地から撤収が始まった時に、現地スタッフの彼女に向かって「行けるのは本人だけ。家族は連れていけない」という通告もアフガンと同じじゃないですか(>y<;)

今もなお禍根を残す事件について、監督は相当の剛腕&大胆さである。公開後、主演の夫婦役を演じた役者(セルビア人)たちは自国で非難されたらしい。
ただ、前に公開された監督作『サラエボ,希望の街角』も見たけど、それと同じく希望のある結末になっていたのがよかった。思わずホッ(^。^;)とした。


この時に予告で『皮膚を売った男』をやっていた。これで『アナザーラウンド』『少年の君』『コレクティブ』、この「アイダよ」と昨年のオスカー国際長編映画賞候補作が全て公開されて洋画ファンとしてはメデタイ限りである。

*一部、事実と異なった部分を訂正しました。

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