映画(タイトル「ア」「カ」行)

2024年5月14日 (火)

実録女の肖像・その2「キュリー夫人 天才科学者の愛と情熱」

監督:マルジャン・サトラピ
出演:ロザムンド・パイク
イギリス2019年
WOWOW視聴

キュリー夫人と言えば子どもの頃に偉人伝で読んだなあ、ぐらいの知識で見てみた。
頑固、不愛想、妥協を知らず、研究一番、愛してはいるが夫は二番2️⃣……。
えー、こんな人だったのかと驚いちゃう。偉人伝とは程遠いような人生である。これほど不倫スキャンダルや誹謗中傷にまみれていたとは知らなかった。お子ちゃま向けの伝記本にはとても書けません。

しかし、そんな常道外れの女性だからこそロザムンド・パイクは好んで演じているようである。以前の作品で実在の報道カメラマンに扮した時もそんな印象だった。
全体の構成としては、彼女の研究の功罪を示す後世の史実の場面(放射線治療とかヒロシマなど)が中途で突然挿入されるのにはとまどってしまう。
考えてみると、キュリー夫人でさえこれなのにオッペンハイマーの伝記映画で何も出てこないというのは確かに問題かも。

とはいえ音楽の使い方も突飛で、イメージ映像のようなものも出てくるし、最近の伝記ものはこんな感じなのが流行りなのだろうか。
とりあえず子どもの頃に「世界の偉人」を読んで終了したような人に推奨したい。
アニャ・テイラー=ジョイが娘役で特出している。

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2024年4月17日 (水)

「コンクリート・ユートピア」:地獄で団地祭り

監督:オム・テファ
出演:イ・ビョンホン
韓国2023年

イ・ビョンホンがしがない中年男を演じたことが話題になった一作。
日本では能登半島の地震があった直後に公開され、観客を「偶然とはいえこの時期に……」とビミョーな気持ちにさせた。

冒頭、原因不明の災害が発生。地震なのか、それ以外の天災なのか、未知の兵器によるものかも分からない。建築物は全て崩壊しソウルは壊滅状態となった(らしい)。食料・インフラ・情報、何もかもなくなってしまう。
なぜか奇跡的にただ一つだけ無事に残った団地には周辺から生存者が集まってくる。最初の数日間は穏健に過ぎていったが(まさに災害ユートピア)、やがて元の住民と避難者の対立が起こるのだった。

このような設定の背景にはソウルの過酷なまでの住宅難があるに違いない。それは階層格差に直結している(途中でそのような恨みあるセリフが出てくる)。
さらに「代表」を選んで祭り上げて規律を厳しくした挙句に、壁を築いて外部を排除し独裁国家のようになり内部の粛清まで行う。となると当然「北」のことも想起せずにはいられない。
それが特定の誰かの意志ではなくなんとなく皆の総意のようになって流されていくのが恐ろしい。

団地内の食料物資を集めてもやがては尽きてしまう。そこで周囲の店の跡を探して調達……しているうちはいいが、探し終わってしまうとさらに離れた地区へと「遠征」を始める。もはやこれは収奪ではないか💀

そして「団地祭り」が開かれイ・ビョンホンがカラオケを披露する場面をクライマックスとして(ここら辺の展開は巧い)排除の論理は破綻へと向かうのである。
コワイよ~(+o+)

多くの要素を複層的に詰め込み、ユートピアならぬディストピアの行く末を辛辣に描く。
イヤ~ンな場面が多数。その中で唯一平常心を保つ看護師の妻があまりに優等生的に見えてしまうのが難だろう。

それまでヒエラルキーと排除が跋扈していた中、やがて平等と助け合いの象徴が登場する。希望を持って描かれてはいるものの能登半島地震の某映像に似ているので、偶然だとはいえ冷汗が出てしまった(~_~;A
……と、今現在の日本で見るにはあまりにビミョーな内容だったが面白かったのは確かである🈵

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2024年3月23日 (土)

「ブラックベリー」「AIR/エア」:むかしむかし男たちがおってな

★「ブラックベリー」
監督:マット・ジョンソン
出演:ジェイ・バルシェル
カナダ2023年
*アマプラ鑑賞

ブラックベリーと言えばスマートフォン出現直前にやたらと流行っていたケータイというイメージだ。しかし日本ではあまり使われなかったせいもあって実物を見たことはない。よく見かけたのはTVドラマ『ロー&オーダー』無印で、打ち切りになる寸前あたりで刑事たちがやたらと使っていたのだった。どれほどの流行り具合かというと一時期ケータイ市場で45%のシェアを占めたそうな。

これはカナダ産元祖スマホとも言うべきブラックベリーの栄枯盛衰を描いたご当地カナダ映画だ。ただしあくまで「実話にインスパイアされ」た内容……のわりには全て実名で登場する。
舞台となる時代は1996年から2008年まで、息もつかせず目まぐるしく展開するが主要な人物は3人のみで、しかも彼らの私生活など余計な事は描かれない。

そもそもスタトレ・オタクの二人が起業したRIM社。マイクは優秀な開発者だが外交性には欠け、一方相棒のダグは陽気で喋りまくる超オタク技術者である。
彼らが起業して生ぬるく運営していたヲタ集団会社に、他企業から流れ着いたパワハラの塊のようなモーレツ営業マンが共同経営者となり、急発進して強引に売り込みを始める。

これがほとんどアイデアだけで何の形にもなっていないものをモデル(というか模型)を作ってプレゼンし、なんとか金を引き出そうとするという綱渡りのような行為だ。まさしく絵に描いたモチを売り込むのだから。
金が全て、金がなくちゃな(~o~) さもなくばいかなる発想も天才も技術も無意味❌ 実現できはしない。そのことが容赦なく描かれる。

売り込みの甲斐あって、マイクは複数の機能を持つモバイル端末というアイデアを考案実現し一時代を築く。会社は大きくなったがもはやオタクの楽園のような環境ではない。
そしてiPhineの登場が全てを打ち砕くのだった。
最後にマイクが行なった新製品のプレゼンの場面は、時代の先端にいた天才がその座を滑り落ち、もはや追いつくことができないことを残酷なまでに見せつける。

思わず、盛者必衰の理をあらわす~🈚などと唱えたくなっちゃう。私はこの業界について知識がないが、この無常さにはいたく感じ入ってしまった。
そしてラストに至って判明する、真の勝者が誰であるかという皮肉も効いている。どうしてこんな事態になるのか分からない。弱肉強食の一寸先は闇である。

大いに気に入ったヽ(^o^)丿……けどカナダ映画でほとんど役者は知られてないし、ブラックベリーというもの自体日本ではポピュラーではないので、配信スルーは仕方なかったのだろうか。残念である。

暑苦しい相棒ダグを演じているのは監督ご本人だ。
SF映画オタクで会話の7割ぐらいは映画のセリフを引用。『インディ・ジョーンズ』から懐かしや『ゼイリブ』、リンチ版『砂の惑星』。さらに『ウォール街』を参考に相棒にビジネス交渉指南をする。
恐ろしいことにこういう人間が実際いるんだよね~😑
使われている当時のロックは有名曲というよりマイナーな曲が多い。監督はロックについてもマニアなのか、それとも使用料を節約したのかね。

マイケル・アイアンサイド、どこに出ているのか?と思ったらかなり恰幅がよろしくなっていたようで(;^_^A 一瞬誰なのか分からなかった。とりあえず健在でよかった。


★「AIR/エア」
監督:ベン・アフレック
出演:マット・デイモン
米国2023年
*アマプラ鑑賞

同じ製品開発の内幕ものとして『ブラックベリー』が陰ならこちらは陽という評判作。確かに外からはうかがい知れぬ裏話を描くというのは似ている。公開時に見損なったのでやはり配信で鑑賞。

1984年当時、業績不振だったナイキはバスケ部門での浮上を目指して新人の若者に目を付ける。彼に契約してもらうために新たなシューズを開発してなんとしても売り込まねばならぬ。
そのためにはまず彼の親(特に母親)にアタックすべし💨

成功したという結果は既に分かっていてもドキドキさせられる。バスケもシューズもよく知らない人間が見てもだ。「プロジェクトX」を思い出させる。
テンポよい畳みかけ具合といいカメラワークといい、ベン・アフレックの監督としての才能は疑うべくもないだろう。

ジョーダン役を正面から出さないのは正解だと思える。なぜなら彼は人間じゃなくて「概念」になるということなのだから。
それにしてもまだ高校を出る前から成果を上げることを期待されていて、既に決まっているようにそれを実現しなければならない--というのは大変なことだ。まあ、実現できるからこそ天才なのだが。

ナイキ公認だろうとはいえ、ライバルのコンバースやアディダスあんな風にクサしていいのか💦と思っちゃった。
キング牧師の原稿の話は後半のあそこへ繋がるのだと、他人の感想での指摘を読むまで気が付かなかった(^^;ゞ

脇を固める母親役ヴィオラ・デイヴィス、クリス・タッカーなども印象に残る。
バルバラ・スコヴァの名前がクレジットにあってどこに出てたのか❓と思ったらアディダスの社長役だった。シューズ・デザイナー役はスカルスガルド兄弟の一人らしい(何人兄弟なのよ)。なにげに豪華出演陣である。

1984年当時の懐かしいヒット曲が多数使われていて、相当に権利使用料かかったのではないか。そこら辺は『ブラックベリー』に大きな差をつけているかも。


さて内幕話を描くこの二作、描いている対象は同じようでもテーマは異なる。『AIR/エア』は勝利を描くが、『ブラックベリー』はそこに意味はないことを示す。
私はどちらを取るかと言えば『ブラックベリー』だ。なぜってそういうお年頃だからなんですう(*^o^*)ポッ

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2024年3月 8日 (金)

「キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン」:長ーい太巻寿司、食べるには苦労する

240308 監督:マーティン・スコセッシ
出演:レオナルド・ディカプリオ
米国2023年
➡映画のチラシがないので代わりに原作本

スコセッシの前作『アイリッシュマン』は209分、アカデミー賞で9部門候補になったが、結局無冠のままに終わった(『パラサイト』が席巻した年)。
そして今作については、年齢が年齢だけに次があるかどうか分からん!という状況での登場である。前作はネトフリ配信が前提だったので長尺なのは仕方ないとしても、ほぼ変わらない206分だ。監督の意気込みが感じられる。

原作のノンフィクションは出た時に読んだが八割がた忘れてました(^^;ゞ
映画で描かれている石油が出た先住民居留地の連続不審死は前半だけで、後半はさらに恐るべき陰謀が暴かれ、加えてFBI創設史も並行して描かれる--ぐらいはさすがに覚えていた。
これをそのまま映画化したらいくら時間を長くしても足りない。一族の事件だけに絞ったのは正解だろう。

1920年代オクラホマ、主人公が叔父「キング」の下を頼って行った時から全ては企まれていたようである。運転手をやってみないか?女と知り合いになれるぞ、なんて見えざる指示を出す。
また主人公のアーネストというヤツがかなりフラフラとしたいい加減なチンピラで、それは冒頭の駅に着いてすぐの行動で明らかにされる。でも彼があまり嫌なヤツだと思えないのはへの字口のディカプリオが演じているせいだろうか。

そして粛々と悪事は進められる。神の代わりに金が全てを支配する地ではなんでも可能である。日常的に何気なく行われる悪と差別--社会構造として存在するこのような悪が、いかになされるのかをスコセッシは丹念に描いている。これは米国の裏面史であるが、裏ばかりで一体「表」はどこに存在するのだろう。

じわじわと押してくるデ・ニーロに適当に流されていくディカプリオ。ほとんど二人の顔ばかり眺めてた気がする。そしてその間にモリー役のリリー・グラッドストーンが挟まるという次第。今夜の夢に出てきそうだ。
この三者が具になって縦に巻かれている長い太巻寿司を思い浮かべる。全部食べて消化するのは大変だ。

かように力作にして問題作であるが、難点はやはり長くて⏳晦渋だということ。後半はもう少し短くできるのでは(^^?なんて思っちゃったりして。長時間作品は脳ミソの容量がパンクしてしまう~(老化現象かしらん)。
それと、ヒロインたるモリーの心理状態の描写が今一つ男たちに比べて薄いというのもあった。

さて、前評判通りアカデミー賞は10部門候補となった。だが事前の噂では確率が高いのはリリー・グラッドストーンの主演女優賞のみという予想らしい。またもこれまでと変わらぬ展開か。
なお作曲賞候補のロビー・ロバートソンはこれが遺作とのこと。

裁判の検事と弁護士は登場時間の短さの割に豪華キャスト過ぎで驚いた🌟(なぜにジョン・リスゴー、B・フレイザー?) 他にもミュージシャンが何人も出ているらしい。
リリー・グラッドストーンについては初めて見る役者と思っていた。しかしケリー・ライカートの『ライフ・ゴーズ・オン 彼女たちの選択』に出ていると知って焦った。全く覚えてなかった😑
これは3つエピソードによるオムニバス映画で、ローラ・ダーンやミシェル・ウィリアムズのエピソードはよく思い出せないのだけど……クリステン・スチュワート扮する夜間講座の講師にストーカーまがいにくっ付いてくる若い娘が彼女だったのだ! 何考えてんの、この娘はーっ(>O<)と叫びたくなる怪演である。

【追記】アカデミー賞確実だとされていたグラッドストーン、やはり取れなかった。またもスコセッシ無冠に……💧

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2024年2月26日 (月)

「クリーデンス・クリアウォーター・リヴァイヴァル トラヴェリン・バンド」:音楽は永遠に若い

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監督:ボブ・スミートン
米国2022年

CCRについてはしばらく前に1970年4月英国での(幻の)公演のテープが50年ぶりに発見されたということが話題になった。それはディスクでは既に発売になっていて、私はすぐに買って聞いていた。
ところがなんと映像も残っていたというのである。BBCが収録放送したとのことだ。

このドキュメンタリーで初めの3分の1ぐらいはまずバンドの成り立ちが語られる。「中学時代に同じクラスになって--」だそうな。そこにヨーロッパ・ツァーでの映像・インタビューが織り交ぜられている。
強行スケジュールで観光する余裕もなかったということもあり、4人揃っている映像はあまりなかった。フランスの庭園を歩いてる場面ぐらいかな。ジョン・フォガティだけホテルに籠ってたりとか。

彼らの当時の立ち位置について、ビートルズにことさら結び付けようとしていたのは若い人向けの説明だろうか? まあ確かに4人組なのは同じだけどさ。
当時はあまりそういう印象はなかったと思う。

その後は全12曲のコンサート記録を丸ごと投入だ。演奏曲目やアンコールをやらなかったのはツァーの全公演で同じだったらしい。
映像で改めて接するとジョン・フォガティの揺るぎなき才人ぶりをまざまざと見せつけられたという印象だ。全曲パワー溢れるボーカルを取り常にギターの強烈なリフを繰り出してバンドをリードし、さらに全てオリジナル曲では作詞作曲を担当なのだから相当な才能である。思わず興奮っ\(◎o◎)/!

もっとも実際にバンドを支えていたのはドラムのダグだというのが定説らしい。確かに的確にして力強い演奏、そしてジョンを常に注視している。
この一年後ぐらいにはバンドは空中分解状態になってしまうから、既にこの頃はガタガタしていたはずだがそんな事はとても信じられないほどの演奏である。

傑出したワンマンバンドの常である不協和音、加えて兄弟バンドという不吉にして不和な要素、解散そして訴訟……といったその後のトラブルには踏み込まず、ライブの高揚した終了と共に映画もスッパリ終わっちゃうのであった🈚

思えば傑出した天才であってもその才能が発揮されるのは、バンドのアンサンブルがあってこその話かもしれない。その相互作用がどのように働くのかは全く推測もできぬ。
独立して生き生きと活動する者がいれば、その同数ぐらいバンド時代ほどにパッとしないままになってしまう者もいる。難しいもんである。

作曲担当とそれ以外のメンバーの対立という点ではザ・バンドに似ているように思えた。年齢はザ・バンドの方が数年年上だが大体同じ頃にアルバムを出してスポットライトを浴びるようになった。CCRが若いといっても(まだ25歳ぐらい?ジョンはヒゲもはやしてなくてツルリンとしている)中学の頃から不動のメンバーでやってきたというから、この時は既に十年選手なのだった。

アンディ・ウィリアムズ・ショーに出演した映像があって驚いた。
全曲訳詞が付いていてヨカッタ。あらためてジョンの歌詞は意味深だなあと感じる。
♪いい知らせを聞くといつも影が後ろから忍び寄る
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2024年2月19日 (月)

「コカイン・ベア」:シングルマザー強し

監督:エリザベス・バンクス
出演:ケリー・ラッセル
米国2022年

ある日~森の中クマさんに♪
時は1985年、密売人が飛ばしていたセスナ機から山中にコカインが投下された。地元のギャングが回収するはずだったのが、なんとクマが食べてしまったという。このような実話に基づいて作られた映画であります。
しかし実話ベースなのは「食べた」までで、その後はテキトーな方向へ暴走します。
そもそも事件解説の出典がウィキだと堂々と記されているいうところから笑わせてくれちゃいますね。

コカインでラリったのは子連れの母グマ、人間が近寄ろうものなら容赦なし⚡ 襲撃する描写はかなりエグくリキが入っております。はっきり言って襲われるのは善人悪党関係ない💀
一方人間同士も殺し合いに余念がありません。ブツを回収しようとする男たち、売人のボス、ギャング逮捕に執念を燃やす刑事、森林公園の管理官など。
その間をウロウロしてしまうのが迷子を探す母親であります。
そして最後はパワハラ・ボス親父と子連れ母の闘いに収斂していく。ここで母グマと人間の母親が相似的に対置されているのは言うまでもないでしょう。母の強さと恐ろしさが伝わってきます。

かなり死人が出まくるとはいえ、それぞれ「殺されるには訳がある」的な描写をしっかり入れているので後味はスッキリ--とまではいかずも、悪くはないという配慮がなされております(^O^)

B級映画っぽいクサみもありますが、何といってもクマの迫力と毛並みの描写はA級並み。ぜひ上映環境の良い鑑賞をオススメしたい。
それからなんとボス役のレイ・リオッタについては遺作とのこと。ご本人は「しつこい悪役」を楽しんでやっているようなので、ファンは必見ですね(^^)b
それから彼にこき使われる黒人の手下役はアイス・キューブの息子だそうで……あまりにソックリなので「クローン❓❗」とか思っちゃった。

日本でもクマの被害が続出しておりますが、それはひとまず置いといて、別ものとしてゆるく気を抜いて楽しめる一編と言えましょう。
なお念のため、ワンコは無事です🐶

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2024年2月15日 (木)

「熊は、いない」:国境線は見えずとも消えているわけではない

監督:ジャファル・パナヒ
出演:ジャファル・パナヒ
イラン2022年

イラン政府から映画製作禁止&出国禁止中にもかかわらず、新作を発表するパナヒ監督である。近年の作品同様、自ら自身を模した役で主演している。

主人公は出国できない監督、でも映画は撮る。舞台は隣国で偽パスポートでさらに遠くへ逃げようとするカップルの話だ。自分は行けないからスタッフを送り込み国境近くの小さな村からリモート監督している。
加えてその作品は演じている二人の役者自身が、作中の境遇と重なっているという半分ドキュメンタリーのようなものらしい。冒頭から事実と虚構が錯綜する。
しかし、当然ながらそんな田舎の村ではネット環境は極めて悪い。パソコン持ってウロウロヽ( ̄△ ̄ゞ=ヾ ̄△ ̄)ノ さらに怪しい政府の回し者が出没する。果たして映画は完成できるのか。

自らをネタに混乱と偏狭と抑圧を描く根性は大したものと言わねばなるまい。テーマや展開はかなり絶望的なものだが、なぜか飄々としてシニカルである。
村人たちは「先生」と呼んでくれるがその実際は--と最初からイヤミが炸裂💥こういうところが好きだ~。そして村の閉鎖性が主人公をどんどん詰めてくる。

闇に溶け出す国境。気付かないうちに越えている。しかし見ている者はどこからか見ているのだ。追い詰められる者はどんどん追い詰められる。おまけにここは熊が出るかもしれない🆘 もはやどこにも行き場なし。そんな状況だ。それが観客にも伝わってくる。
それでも儀式の場で余計な一言を言わずにいられないのが彼の本分だろう。

そんな性格のせいではないだろうが(多分)、なんと本作完成後に監督は収監されてしまったという。早期の釈放を願う。

ところで後から騒動のタネになるあの「撮影」は実際のところどうだったのかな。あの場面、よく覚えていないのよ。
一番タルくて気を抜いたような場面が重要だったとは……(~_~)ウムムム

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2024年2月 6日 (火)

「クライムズ・オブ・ザ・フューチャー」:老いてますますアート

240206 監督:デヴィッド・クローネンバーグ
出演:ヴィゴ・モーテンセン
カナダ・ギリシャ2022年

お久しぶり!前作からはや8年、久々の新作はクローネンバーグ節が炸裂である。
人類から「痛み」の感覚が無くなった世界。体内に新しい臓器を生み出し、それを切除するパフォーマンスをアートとして見せる「特殊芸術家」の男が主人公だ。
彼の腹に内視鏡突っ込んでグリグリしたいのう💓 女たちは欲望にかられてやり方は異なれどそれぞれに突撃し、男たちもやる勇気はないけどつい周囲をウロウロしてしまう。C・スチュワートが純情乙女風にズイッと迫ってくるのと同様に、男も遠慮せず迫っちゃえばいいのに--と思うが、監督はそういう方向に興味はないようで。

映像的に見れば、主人公を演じるヴィゴの肉体を欲して男女関係なく隙あらば突っ込んでくるという状況。こりゃ、いかがわしさエロさ爆発で正視もできぬ(でもしちゃうが)。
そのためか彼は人目を避けて、常にニンジャのような黒衣をまとい背を丸めてこそこそと歩くしかないのであった。
そしてなぜか「情報屋」として街外れの廃墟で刑事と会って度々密告を行なう。これはもしかして「逢引き」というヤツでしょうかな(^^?

異様な設定の説明はセリフによるものが多く、気を抜くと理解できぬまま進行してしまう。変なヤツが複数登場するが何をなんのためにやっているのかもよく分からん。
主人公の身体が「老い」を表しているという説を後から知ったが、そう言われれば奇妙な形の寝台や食事椅子、解剖台は確かに介護用品ぽくてなるほどと思った。
古い油の匂い漂うような老朽化した世界に老いた男が生きる。そういう映画だろうか。(パートナー役のレア・セドゥはまだ若くてエロくピンピンしているけどな)

幾つか作中に登場するパフォーマンス場面は80年代アートシーンの流行を懐かしく想起させるものだった。廃工場みたいな場所で行われるのを含めて。少年の〇体の描写さえもだ。「耳男」👂には笑いました。
それが「昭和」っぽくならないのはさすがのクローネンバークであろう--まあそもそも日本人じゃないから関係ないか。

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2024年1月30日 (火)

これも女の生きる道・その3「ウーマン・キング 無敵の女戦士たち」

監督:ジーナ・プリンス=バイスウッド
出演:ヴィオラ・デイヴィス
米国2022年

アマプラにて鑑賞。いつ公開してくれるかと待っていたら、残念無念(T^T)の国内劇場公開なし&配信スルーという扱いに決着してしまった。
西アフリカに実在したという王国の女戦士軍団の闘いを描く。国王のハーレムにはきれいなおねーさんが大勢いて、軍隊には肉体を鍛えまくる女性兵士が大勢いるという状況である。

前半は老練な上官と厳しい将軍が見守る中、男子禁制の兵舎で生意気な新入り娘が鍛えられるという「新兵もの」の定型通り進む。
だが中盤あたりで衝撃の事実が発覚。その後は旧弊な社会や戦場の中で女がいかに暴力にさらされるか、そしてそれを克服できるかというシリアスかつフェミニズムなテーマが入ってくる。

一方でアクション場面は迫力あり。刀と槍と縄と(たまに銃)が飛び交う戦場だがカメラワークは明確で混乱はしない。
演じる女優さんやスタントの方々はお疲れさまとしか言いようがない。終盤で宿敵を待ち構えるヴィオラ・デイヴィスはまるで鬼神のごとく(>y<;) 彼女はもういい歳なのに身体作って役に挑んでいて、昨年のアカデミー賞主演女優候補から押し出されてしまったのはさぞかし無念だったろう。
日本での配信スルーもなんなのよ。黒人女性が主役の映画は冷遇され過ぎじゃないの。

とはいえダンス場面は皆さん楽しそうに踊っていた。王国は一種の理想郷と設定されているようである。奴隷貿易との関わりについて史実と違うと批判されたようだが、シリアス作品というより日本のマンガの『キングダム』路線と考えればいいのではないか。
ということで『ブラパン2』に満足の行かなかった諸嬢諸氏はこちらを見ることをオススメする。

妻がウン十人(?)いる少しニヤけた王様見たことあるなあと思ったらJ・ボイエガだった👀
貿易相手の白人はポルトガル人という設定か? それにしても南部の農場主とか奴隷商人の役に「美男だが軟弱な青二才」がキャスティングされるのが多いのはなぜですかな。

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2024年1月29日 (月)

これも女の生きる道・その2「エリザベート1878」

240129 監督:マリー・クロイツァー
出演:ヴィッキー・クリープス
オーストリア・ルクセンブルク・ドイツ・フランス2022年

これまで戯曲・ミュージカル・映画・ドラマ・マンガ等で描かれてきた、言わずと知れたオーストリアの皇后エリザベート。40歳を迎えたその年を切り取って描いたものである。
しかし映画館へ出かける5分前に気づいた……私はエリザベートについて何も知らぬ💥

本作はエリザベート中級者以上向けで、彼女の生涯や当時の国際関係を知っているという前提で作られている。史実を踏まえた上でさらにひねった物語に仕立てたようだ。女性がほとんどを占める観客はミュージカルのファンだろうか。
予告を見て興味を持ったが実際に見ると印象はかなり異なる。「だましたな~(^_^メ)」とまでは言わないが。

皇后という地位にあっても中年になって花の美貌が色あせれば、もはやあらゆる意味で御用済み。気に入った男にちょっかい出しても逃げられる。
大昔の貴族なら若い娘の生き血の風呂に入って若返りを図るところだが、19世紀も後半となればそうも行かない。
夫はいつもエラそうで腹が立つ。まあ皇帝だから実際偉いんだが( ̄д ̄)

大文字の「歴史」には女の死屍累々。彼女も例外ではない。チラシやポスターに使われている写真を見ても、色々ごねて異議申し立てしても結局中指立てるぐらいしかできないのかと思ってしまう。
歴史上の不遇な人物(女)が最後に踊りまくるというのは『ミス・マルクス』の影響だろうか。踊ってごまかされてもなーという気分になった。
お付きの侍女(女官?)の一人に対する扱いはひどいと思った。あれを肯定的に描かれても困るわな。
とりあえず、次から歴史ものを見る時は事前の予習を欠かさないようにしたい。

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