映画(タイトル「サ」「タ」行)

2021年4月 5日 (月)

「ザ・バンド かつて僕らは兄弟だった」/「ラスト・ワルツ」再見:共同幻作

210405「ザ・バンド かつて僕らは兄弟だった」
監督:ダニエル・ロアー
出演:ロビー・ロバートソン
カナダ・米国2019年

ザ・バンドについては完全に門外漢だけど見に行っちゃいましたよ。
ロビー・ロバートソンが過去を振り返るドキュメンタリーである。

自らの生い立ちから始まり、ロニー・ホーキンスのバンドに参加、レヴォン・ヘルムと知り合って独立してバンドを結成し、やがてボブ・ディランのツァーでバックを担当する。
御存じの通り、このツァーはどこへ行ってもディランがブーイングでヤジり倒された。彼らにとっても本当に嫌でストレスだったのが語られる。レヴォンに至っては途中で逃走してしまった(ーー;)

アルバムを出して人気を得るものの、その間に自動車事故が起こったり、酒とドラッグでツァーが崩壊状態になったりして、ロビーはもうバンドとして続けていくことができないと思うようになる。そして解散へと心が傾いていく。
当時の映像が全て残っているわけではないが、写真などでうまく繋いでいるのでインタビュー中心でも飽きることはない。

間にホーキンス、スプリングスティーン、クラプトンなどが出てきてザ・バンドへの愛を語る。ピーター・ガブリエルが登場したのは驚いたけど、名前が出るまで誰だか分らなかったというのはヒミツだ(;^_^A
笑ったのはクラプトンで、彼らの音楽を聴いて大感動して参加させてくれと頼んだが断られたそうな。
スコセッシも数回出てくる。映画の話より、当時のザ・バンド自体についての言及が多い。

しかしこれはあくまでもロビーの語りである。今でも存命しているメンバーは他にガース・ハドソンだけで、しかも彼のインタビューはないのだ。
「兄弟」であった男たちの絆が崩壊し『ラスト・ワルツ』に至って終了する--という、ある種感傷的な流れで物語としてうまくまとまっているが、まとまり過ぎの感がある。
ファンの人はどう思うのだろうか。

『ラスト・ワルツ』からのコンサート映像も使われている。おかげでもう一度見たくなった。私が見たのは昔に一度だけで、共演してたミュージシャンのこともろくに知らなかった頃である。
ザ・バンドというのはあの時代では特殊な立ち位置で、比べられるのはリトル・フィートぐらいしか思いつかない。今だったら、ルーツ・ロックとかアメリカーナとか分類されるかもしれないが。
それと5人編成のロックバンドでキーボード2人というのも珍しくないか!?


「ラスト・ワルツ」
監督:マーティン・スコセッシ
出演:ザ・バンド
米国1978年

というわけで結局また見てしまった『ラスト・ワルツ』である。ツ〇ヤでレンタルしたらちょうどケーブルTVで放映していた。トホホ(+_+)
もっともDVDには特典のコメンタリーや映像が付いている。
前に見たのはどうもリバイバル上映で1999年らしい。それでも20年は経過しているわけだ。

今回改めて驚いたのは歌詞の字幕が付いてないことである。最近のコンサート映画は付いていることが多い(『ザ・バンド』でも同じ演奏場面にはあった)。ファンは分かっているからいいだろうけど、私のような門外漢にはキビシイ。
それどころか曲名も途中に出さない。エンドクレジットにまとめて記されているだけだ。

一度通して見てからコメンタリー付き(しかも2種類ある)で飛び飛びに見直したりして2倍以上の時間かかってしまった。何をやっているんだ(~_~;)

ゲストでまだ若くてツルピカのジョニ・ミッチェルが登場している。思わずそこは二度繰り返して見てしまった。
ニール・ダイアモンドは他の出演陣に比べると完全に「外様」で、公開当時「場違い」みたいな言い方をされてたのを思い出した。ロビーの人脈で出演したらしいが、確かに微妙な距離感である。

ヴァン・モリソンは激熱のパフォーマンスをやってみせた。なのに、あの変な衣装はなんなのよ(?_?)……と思ったら、2種類のコメンタリーともこの衣装のことを触れてたので皆同じに感じるらしい。
ボブ・ディランについては撮影しない約束で弁護士が見張っていて、撮り始めると猛抗議してきた。それを、ビル・グラハムが会場から叩き出したという話には笑った。
当時の撮影スタッフのコメントではスコセッシが相当に細かくうるさくて辟易してたらしいのがうかがえる。

以前見た時には印象に残らなかったが目を引いたのは、インタビュー場面でリック・ダンコがフィドルを小脇に挟むようにして持って弾いてみせたことである。当然弓は上下垂直に動かす。こんな弾き方があるのかとビックリした。
これじゃ、ルネサンスやバロック期のような昔に楽器をどんな持ち方してたかなんて、今では完全には分からんわなあ。

見直してみて、スコセッシはロビー・ロバートソンを主演に据えた映画(テーマは有終の美学✨)を作りたかったのだなあ、と思ってしまった。コンサートの準備段階から関与していたというのだからなおさらである。もうこれは「共作」と言っていい。ドキュメンタリーでありながら「虚構」のような。
そうしてみると『ザ・バンド』の方は、結局そのテーマをさらに後から補強する役目を果たしているようである。
問題は他のメンバーが解散を考えてなかったということだわな💥
とすれば、40年後のロビーの語りは「弁明」とも受け取れる。

後に知られるようになったことだが、ライブ場面の音はほとんど後から差し替えやタビングしてあるらしい。あちらのコンサート映画では珍しくないことだそうだ。
差し替えてないのはレヴォン・ヘルムとマディ・ウォーターズだけとのこと。
マジですか(!o!) ますます虚構味が……💦

| |

2021年3月26日 (金)

「ストレイ・ドッグ」:怒りをこめてぶち壊せ

210326 監督:カリン・クサマ
出演:ニコール・キッドマン
米国2018年

ニコール・キッドマンがアル中やさぐれ中年刑事になって薄汚れたLAの街を徘徊する。そのやさぐれ度・ヨレヨレ度が中途半端ではない。「え~~っ❗あのニコールが。うっそーΣ( ̄□ ̄ll)ガーン」という衝撃が発生するほど、まるで別人だ。

しかし、かといって超人的な活躍をするヒーローというわけではない。ひたすら地べたを這いずり回るように捜し歩く。あまりに強引な無法刑事ぶりにはビックリだ。
他者も自分も顧みることなく突き進む様子は邦題の「野良犬」よりも原題の「デストロイヤー」の方がふさわしいだろう。自分の娘がいてもその関係は完全に壊れている。

そんな風になったのは、過去にFBIと組んだ潜入捜査で致命的なトラブルが起きたためである。長年経っても彼女はその失敗を忘れられず片を付けようとする。
彼女が常に内心に怒りを抱いているのは恋人を殺した犯人に向けてか、それとも破滅へと誘った自分自身へなのか。彼女にも分からないようだ。

一方で、回想の中のニコールの姿は美しくてその落差がスゴイ(!o!) NHKでやってたトム・クルーズについてのドキュメンタリーで若い頃の彼女が回顧映像に登場するが、その時よりも可憐に見える。特に男を悪事に誘う時の青い眼が美しい。

その行き着いた果て、終盤の展開にはあっと驚かされた。これまた衝撃である。某有名監督の初期作品を思い出した。(タイトル出すとネタバレになりそうなのでヒミツ)
ただ、さらにその後の雪山のくだりは取って付けたような気がしなくもない。
何より彼女の怪激演が突出し過ぎてて、映画の他の要素が追い付いていないのではと思った。それと主人公の無法度があまりにひどくて観客が置いてけぼりになってしまいそうだ。

おかげで彼女は2018年のゴールデン・グローブ賞にノミネートされた(受賞したのは『天才作家の妻』のグレン・クローズ)。
セバスチャン・スタンは登場時間の割には儲け役である。ファンは要チェックだろう。
クサマ監督にはぜひマイクル・コナリーの女刑事もの『レイトショー』の映画化(またはTVシリーズ)をやってもらいたいもんである。

ところで2018年の映画が2年経って今さらのように日本で公開されたというのは、新作米国映画が入って来なくなったせいなのかね(?_?)
まだ隠し玉があるのならさっさと出してくれ~👊

| |

2021年2月22日 (月)

「ダンサー そして私たちは踊った」:明日なき舞踏

210223b 監督:レヴァン・アキン
出演:レヴァン・ゲルバヒアニ
スウェーデン・ジョージア・フランス2019年
DVD鑑賞

個人的にはほとんどなじみがない国ジョージアが舞台。ジャンル分けしたら青春ものプラス、ダンスといったところか。
伝統的な民族舞踏があり、その舞踏団の研修生たちと同性愛を絡ませて、社会に充満する因習と閉塞感からの解放を描いている。
なので公開当時はかなり物議をかもしたらしい。ちなみに監督はスウェーデン系ジョージア人とのこと。

国立の舞踏団だというのに床は剥げてるし手すりは壊れてるし、本当に「未来はない」感が甚だしく伝わってくる。まさに青春の悶々……そのせいか若者たちはみなタバコ吸いまくりだ🚬(最近の映画では珍しい)

ただ挿入される伝統音楽は素晴らしい。ダンスの伴奏で奏でられるパーカッション、そして静かに加わってくるアコーディオンの響き。
さらに、誕生日の集まりに男たちが歌う美しいアカペラ曲。ブルガリアンヴォイスの男声版のようである。

主人公の青年は頭のてっぺんからつま先まで完全ダンサー体型、目が大きくて小顔である。実際に本物のダンサーだそうだ。
彼がヤケになって自室のポスターや何やらはがしまくる場面があるのだが、ヨレヨレになった『千と千尋』のカオナシのポスターだけ思いとどまるシーンがある。なぜにカオナシ?(ちなみに演じているご本人の私物だとか)
それほどまでに好きだとは……✨ 遠い異国まで達するハヤオの威力恐るべし。

あと見た人はみんな思うだろうが、バイト先レストランの肉まんとギョーザ足したような郷土料理食べてみたい(^^)

| |

2021年2月20日 (土)

「スウィング・キッズ」:前半よいよい後半はこわい

監督:カン・ヒョンチョル
出演:D.O.、ジャレッド・グライムズ
韓国2018年
DVD鑑賞

朝鮮戦争中、米軍が管理する捕虜収容所あり。対外メディア向け宣伝のために、捕虜の中でダンスチームを結成させて踊らせようとする。任務を任されたのはタップダンサー出身の黒人兵士である。
というわけで、定番『ロンゲスト・ヤード』風にまずダンスできそうなヤツをスカウトすることから開始だ。

デコボコなチームがなんとか息を合わせ晴れて踊りまくる--という感動系ドタバタコメディかと思って見ていると大間違い(!o!)
確かに前半は完全笑わせモードなのだが、後半は一気に陰惨で暗い展開に。こんな話になろうとは誰が想像したであろうか💥ってなもん。

しかも収容所が極めて変な設定になっている。北朝鮮側の捕虜が入れられてるのが、韓国側支持に回る者たちが現れ、二つのエリアに分かれて対立して暮らすようになる。
その中で互いにいがみ合おうと殺し合おうと管理者たる米軍は放置。外部のスパイがウロチョロしようと気にしない。それどころかとばっちりで米軍兵士が被害を受けても何もしないのである。

こんな収容所実際にあったのか?と思ったけど、これはまさに朝鮮半島そのものの状況を象徴しているのではないか。となればハッピーエンドになるわけもない。対立と混乱と死者だけが積み上がっていく。
気合の入ったダンスシーンは楽しいだけにつらい。

なお、兵士役はブロードウェイの一流ダンサーを招いたとのこと。エンドが出た後を注目するべし。

 

| |

2021年2月 7日 (日)

ネトフリ温故知新「シカゴ7裁判」「Mank/マンク」

「シカゴ7裁判」
監督:アーロン・ソーキン
出演:サシャ・バロン・コーエン、エディ・レッドメイン
米国2020年

「Mank/マンク」
監督:デヴィッド・フィンチャー
出演:ゲイリー・オールドマン
米国2020年

ネットフリックス配信前の限定劇場公開作品で過去の事件を知る。便利な世の中になったもんです。

今は昔、1968年8月にシカゴで民主党大会の際に暴動あり。どこかで聞いたような気が……と思ったら、シカゴ(←こちらはバンド名)がこれを題材に曲を作ってましたな。
ベトナム反戦運動がらみで警官隊や州兵と衝突👊、首謀者とされて逮捕されたシカゴ・セブンこと、7名の裁判は米国法廷史に残るほどの悪名高いものであった。

市民デモと公権力の対決となると、本作公開時にまだくすぶっていたBLM問題を嫌でも想起せずにはいられない。まさに時節にあった内容と言えるだろう。
共謀したと訴えられても7人は立場も所属する団体も思想も異なっていて、告訴されたという以外はバラバラである。そんな7人や関係者を演じる役者はまさに「豪華出演陣」と強調文字で書きたくなる。
ただ人物が多過ぎで名前が覚えられない事案が発生。老化脳でスマン(^^ゞ

特に皮肉とジョークで全てをはぐらかせていくホフマン(サシャ・バロン・コーエン)と、真面目な活動家ヘイデン(エディ・レッドメイン)は衝突必至の対照が面白い。トム・ヘイデンて聞いたことある名前だと思ったらジェーン・フォンダと一時結婚してたのね。
それと裁判官のフランク・ランジェラの超悪役ぶりも見事だ。

アーロン・ソーキンは脚本を書いてスピルバーグの監督で話が進んでいたが、結局ダメで自分で監督することになったらしい。
題材は興味深いし、脚本にも文句はないけど、正直言って「もし他の人が監督していたら……」なんて想像してしまうのも事実である。終盤の盛り上がりが怒涛の勢いになるはずが、感動するより先に観客を置いてけぼりにして、音楽がうるさいほどに盛り上がってしまうのはかなりの問題ではないだろうか。


210207 続いての『Mank/マンク』はオーソン・ウエルズの『市民ケーン』の内幕を描く--となれば、オールドな映画ファンは見ずにはいられないだろう。
とはいえ、私は『市民ケーン』自体は昔(●十年前)に数回見たきりである。今さら見返すのもなんだかなあということで、あらすじをネットで確認するだけの手抜き復習で見に行ってしまった。

内幕と言っても、基本的には脚本家のハーマン・J・マンキウィッツが一軒家に閉じこもって(怪我をして動けない)『市民~』の脚本を書く経過をたどるだけである。
彼が監督のジョセフ・L・マンキーウィッツの兄とは知らなかった。一応、ウエルズと共同で書いたということになっているが実際には諸説紛々らしい。本作ではハーマンが一人で書いたことになっていて、ウエルズはほとんど登場しない。

そして戦前のハリウッド事情、モデルとなった資産家とハーストとその愛人マリオン、MGMのメイヤー、大恐慌などについてハーマンの回想が交錯する。かなり暴露的内容なので完成前から噂が噂を呼ぶ。
それだけにハリウッドの歴史を知らないと分かりにくいだろう。要・事前学習(人名も多いし)である。

モノクロ画面で冒頭のタイトルから当時の映画のスタイルをなぞっているのは大変なこだわりだ。レズナー&ロスの劇伴音楽もそれっぽいし。画面にフィルム交換のマーク(だよね?)まで入れているのは笑った。
ただ白黒のコントラストが少なくて照明も暗いので、かなり不明瞭な映像である。その割にはスクリーン・サイズがスタンダードではないのは手抜きではないか。配信前提だからかな(^^?

ゲイリー・オールドマン演じるハーマンはかなりアクの強い人物である。アルコールが手放せず、反骨精神に満ち誰に対しても常に皮肉満載の辛辣な物言いをする。
主人公とそっくりな人物どこかで見た(アル中と家族への態度以外)……と思ったら『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』だった。こういうのが理想の脚本家像なのであろうか。

分からないのは、事前に脚本家としてのクレジットは無しというのを念押しされて頷いてたのに、結局なぜそれを翻したのかである。それに関しては描かれていなかったような。
また、本来の「バラのつぼみ」の意味を分かって書いていながら、マリオンに対して「君のことじゃない」とどうして平然と言えるのか。そりゃ無理だろう、と言いたくなる。
さらにこの映画が何を描こうとしているのかも曖昧としている。つまらなくはないけど。
私としては、ウェルズとハーマンが共謀して「ケケケ、やったぞ。ざまーみろ」とほくそ笑むような話が見たかったかな(^◇^)

当時の選挙と捏造ニュースの件りについては、トランプ政権下の米国を重ね合わせていることがよーく分かった。ただ、公開された頃には既に選挙でバイデン勝利が決まっていたために、ちょっと時機を逸した感があったのは残念である。


さて、『市民ケーン』についてケネス・アンガーの『ハリウッド・バビロン』にどう書かれてるか見たくて本棚から必死に堀り出した。
「新聞界のおぞましき帝王」ハーストとマリオンについては「周知の事実でも、一度として新聞は、その関係を報じたことはない」。

そして自分のヨットでマリオンとチャップリンがイチャつくのを目撃したハーストは銃を発砲。しかし撃たれたのは別の人物で、病死としてもみ消してしまったのであった。
また彼女の演技をけなしたメエ・ウエストには、風紀団体を隠れ蓑にして誹謗中傷を繰り返した。

L・B・メイヤーは「イタチのようにずる賢く、根っからの女好き」。
「金物屋」から成り上がった彼はボクシングの腕に覚えあり、シュトロハイムとチャップリンをぶん殴ってKOしたエピソードが載っている。

映画公開されて、作中の主人公があの言葉をつぶやくことが性行為(どういう行為かはご想像)を思い起こさせるためハーストは激怒した。しかし「ピストル沙汰に及ぶこともなく、オーソンとマンキーウィッツはなんとか勝利をくすねとり、カネでは買えない栄誉をものにした」とある。

そして「『市民ケーン』、映画史上に燦然と輝く悪ふざけ」と締めくくっている。
やっぱりハリウッドって所は……(◎_◎;)


ネトフリで温故知新--『シカゴ7』は劇場公開する予定がコロナ・ウイルスのせいで配信に回されてしまい、『マンク』はフィンチャー監督が父親が書いた脚本をなんとか映画化したくてネトフリでようやく可能に、と経緯は異なれど作品自体の「帯に短しタスキに長し」という印象は相変わらずであった。

| |

2020年12月29日 (火)

「幸せへのまわり道」:ホノボノのホは、ホラーのホ

監督:マリエル・ヘラー
出演:トム・ハンクス
米国2019年

米国に国民的子ども向け番組あったそうな。その名は「ミスター・ロジャースのお隣さん」。三十数年も続いた長寿番組だ。
この映画は大人気司会者のロジャースにまつわる感動実話である……と思ったら大違いですのよ、奥さま(!o!)

主人公は「エスクァイア」誌の記者で、皮肉でシニカルな記事を得意としているらしい。しかも私生活では家族を捨てた父親を恨んでいて、姉の結婚式で殴り合いを始める始末。家でも子どもが生まれたばかりで妻とはどうもうまく行っていない。要するに暗くてうっとうしいヤツなのである。
それがロジャースの取材を命じられる。時は1998年、既に番組は30年続いていて超有名人。だが主人公は子ども番組なんか興味はないと不満ブツブツ💢だ。

かなり変な映画である。作品全体がカウンセリングみたいで、主人公のアンガー・マネジメントをやっているような構造なのだ。
さらに件のTV番組はミニチュアの町に住むロジャースがお隣さんを招いて悩みを聞くという形式を取っている。その番組自体の形式とも重なるのである。

怒りを内心にため込んでいる主人公はしぶしぶ取材に行って、謎対応をされる。自分が質問しても逆に探られているようだ。果たして内面を探っているのは自分なのか、それともロジャーズの方なのか段々と怪しくなってくる。
ジワジワと染みてくるイメージ。あるいはブラックホールみたいに吸い込まれていく感じ……(>y<;)

一体、彼は世間がそう見ているように、本当に裏表なき「善人」なのだろうか。そもそも、それほどの善人がこの現実に存在しうるのか。全くつかまえ所がない。
こんな男が独裁者とか新興宗教の教祖じゃなくてよかった。もしレクター博士がこのロジャースみたいだったら、1万人血祭りにあげても誰も気にしないだろう。
そんな人物をトム・ハンクスが神技で演じている。

このように繊細で不気味な演技を彼ができるとは今まで知らず。月影先生なら「トム、恐ろしい子!」と言うだろう。オスカーとゴールデン・グローブの候補になったのも納得だ(ブラピに負けちゃったけどな(^^;)。

笑ったのは二人で地下鉄に乗る場面だ。主人公が「いつも使っているんですか?」と驚いていると(この頃のニューヨークは治安が非常に悪かったはず)周囲の乗客が一斉に番組の主題歌を歌いだす。戸惑ってあたりを見回せば、絶対に子ども番組には縁のなさそうな黒人のアンチャンたちまで楽し気に歌っているではないか。そりゃそうだろう、彼らだって昔は子どもだったのだから。
それにノレずに自分一人だけ疎外感を味わう気まずさ。うわー、いたたまれねえ~💨

一方、コワかったのは「古ウサギに会いたい」とロジャースが操る人形に言われるところ。この時、画面の中心にあって主人公に迫ってくるのは、操る彼ではなく人形の方なのである。記憶に隠された内奥のさらに奥まで侵入してくるこれは何か。まさにニーチェの「深淵を覗く時、深淵もまたこちらを覗いているのだ」そのままではないか。
私はこの場面を見た時にあまりの恐ろしさに「ギャーッ(>O<)」と叫びたくなった。
これは感動実話ではない。最恐のホラーである。

人形と言えば最初にTVのスタジオを訪ねた時に、彼が姿を隠して人形を操っているのを半分だけ見せる(表情は見えない)場面も印象的だった。
監督は誰かと思ったら『ある女流作家の罪と罰』のマリエル・ヘラーではないですか。他の役者の演技の引き出し方もうまい。音楽の使い方も。

ロジャースは主人公の悩みを解き放つ。彼の番組の「お隣さん」のように。そして主人公が住む家もまた彼のミニチュアの中に納まったのだ。
でもロジャース自身は幸福になれたのかな……(^^?

この映画のチラシはゲットし損ねたのだが、宣伝やソフトのパッケージに使われている写真は、まさに番組にお隣さんとして招かれた主人公が幸せそうに微笑んでいる場面だ。しかしこんな場面は作中には存在しないんだよね。
この写真もそれを知って見るとジワジワと来る。


実は見るかどうか長いこと迷っていて公開期間の終了ギリギリになってしまったけど、見てヨカッタ(^.^)b
ただ、なんでこういう邦題にしたのかは全く不明である。いい加減にしてくれー👊

| |

2020年12月15日 (火)

「シチリアーノ 裏切りの美学」:我が追憶の犯罪

201215 監督:マルコ・ベロッキオ
出演:ピエルフランチェスコ・ファヴィーノ
イタリア・フランス・ブラジル・ドイツ2019年

マフィア実話ものであるが、コッポラやスコセッシの米国製とは全く異なる感触の作品。さすが本場イタリアもんは濃い~のなあ♨

主人公はシチリア島のマフィアの派閥リーダーの一人。抗争のため海外で逃亡生活を送るも、故郷では身近な者が次々と殺される。
ここら辺は義理も人情もヘッタクレもなしの殺戮戦(死者数のカウントが画面に出てきて冷汗である💦)であり、その描写は『仁義なき戦い』を思わせる。
しかし現地警察に逮捕されて本国へ移送。そこで、マフィアの一掃を目指す判事に協力を依頼され、組織を裏切ることにするのだった。

一転、後半は彼が証言する裁判劇となりまさに「仁義なき法廷」となる。よく映画で様々な国の裁判を見るとそれぞれに違うなあと感心することが多い。ここでも密告で逮捕された大勢のマフィア(100人ぐらい?)が法廷内の鉄格子のはまった小スペースに入れられて立ち会うというオドロキの状態だ。しかもヤジを飛ばし放題。まさに「野獣の檻」である。

こりゃ話を面白くするための誇張ではないの(^^?と思っちゃうが、新聞のインタビューで、ベロッキオ監督は裁判のマフィアたちの醜態は実際あった通りだと語っていた。
本作の副題に「美学」とあるが果たしてそんなものはあったのだろうか。そんな疑問を抱くのは間違いない。

その後の展開もヒヤ~ッ(;・∀・)となるようなもの。車の爆破場面はあまりに恐ろしくて呆気に取られてしまった。(あれって高架ごとやったんだよね?)

抗争勃発から経過をたどり、終盤には主人公は老境に達して回想モードとなる。思い起こすは自らの行なった犯罪である。
--というのはどこかで見たような(?_?) 思えば『アイリッシュマン』のラストもそんな感じだったな。あれも実話が元だが、犯罪と共に生きた人間は似通うのか。
製作時81歳のベロッキオ、老境どころか濃すぎる映画を作ったのだった。

難点は、人物が多数現れては消えていくのでとても覚えられないこと。特に最近とみに物忘れがひどくなってるんでキツイ(^^;ゞ
なお主人公の最後の回想に出てきた人物が誰だか分からない、という感想を幾つか見かけたが、「いつも息子と一緒にいる男」ですよ。あの場面があるとないとでは大違いだ。

シチリアの方言のなまりが強すぎて法廷で理解できないと苦情続出という場面があった。日本公開では普通に字幕が出ていて理解できたんだけど、吹替えはどうするのだろうか。いっそハナモゲラ語に……💥

それから「カミカゼ」という言葉が出て来たのも驚いた。『バハールの涙』のクルド語に続いてイタリア語でも使われているのだ。「カロウシ」と共に完全に国際語になっているのかね。
日本コワイよ(>_<)

| |

2020年11月 9日 (月)

「SKIN/スキン」:チクチク来る

監督:ガイ・ナティーヴ
出演:ジェイミー・ベル
米国2019年

白人至上主義者の若者の実話だそうである。今なおBLM問題密かに進行中、差別する側に焦点を合わせ密着して描いた本作はまことに時節に合っているといえよう。

冒頭に同じタイトルの短編(アカデミー賞獲得)が併映になってて、先にそれを見ただけでもう倒れそうになってしまった。内容は本編とは異なるのだがあまりにも驚異的な描写である。

その後にさらにプラスして本編2時間弱はヘヴィ過ぎだった。
少年の頃に白人至上主義グループのリーダー夫婦に拾われ、親代わりと思って活動してきた主人公。その身体には差別的なシンボルのタトゥーだらけだが、しかし心の方は段々と疑問を抱くようになっていた。

重苦しくて耐えられなくてつらい--このつらさを見続けるのは限度を越える。結末が前向きだからかろうじて救われるが、正直もう少しテンポよく短くしてほしかった(=_=)
それと、どうして主人公がグループを受け入れがたく思うようになったのかが描かれていない。(シングルマザーと出会う前から既に兆候があった)
差別主義グループを描いた映画としては『帰ってきたヒトラー』の監督の過去作『女闘士』の方が完成度は高かったかなあ。
ただタトゥー除去の場面は……絶句としかいいようがない⚡

ヴェラ・ファーミガが暖かくて冷たい矛盾した存在の「ママ」を好演。メアリー・スチュアート・マスターソンが出ていたのに全く分からず、後になって知ってようやくFBIか(!o!)と気付いた。
なおワンコ🐶が好きな人は見ないことをオススメする。

| |

2020年10月26日 (月)

「透明人間」:見えなきゃ怖いが見えたらもっと怖い

監督:リー・ワネル
出演:エリザベス・モス
米国2020年

『アップグレード』がB級ぽいとはいえ好評だったリー・ワネル、新作は立派にA級の完成度だった。
既に古典と化している透明人間ネタとストーカーの恐怖を合体させた発想はお見事である。

DV男である恋人の豪華な邸宅から女が密かに逃走する。友人の家に匿ってもらうのだが……誰もいないはずが何かの気配が(>O<)
「誰かがいる、見張られている!」とヒロインが主張しても、観客以外の人物にはその恐怖はノイローゼか精神錯乱としか見えない。

周囲で不可解な出来事が起こり平静が保てず、身近な人間をどんどん失っていくつらさと絶望はまさにストーカー被害者の孤立だろう。そして最大の恐怖とは女の心身を支配したいという相手の男の欲望に他ならないことが明らかにされていく。
何もない空間を意味ありげにとらえるカメラ、波の轟音から微細な気配まで感じさせる音響が巧みだ。(音の良い映画館がオススメです)
音楽もかなりなもん。エンドクレジットで弦の音がグルグルとスクリーンを囲んで回っている(ように聞こえる)のには仰天した。

展開も二転三転、気が抜けずにハラドキしながら注視である。
ほぼ出ずっぱりのE・モスはスクリーンを一人で背負って立つ力演だった。正気を失った表情が迫力あり。
監督にはこれからも期待したい。

ただ、主人公と刑事の関係が今一つ不明だった。「異性だけど親しい友人」でいいのかな?(説明なかったような) 本当なら女刑事にした方がシックリくると思うのだが。それだと「男対女」みたいになっちゃうから避けたのか。

予告に出てくる場面なので書くが、この透明人間は白いペンキをかけられるよりコーヒーの粉の方が効果があるのでは?
監督の前作でも本作でも、孤独な若い富裕な男が超モダン建築な家(海辺というのも同じ)に住んでいるのだが、モダン邸宅ってこの手の映画では定番過ぎの設定だろう。
たまには緑と自然あふれるベニシアさんの庭✨みたいな家に住んでる富豪が見たいのう。

| |

2020年10月24日 (土)

「ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語」:結婚は女の墓場か花道か

201024 監督:グレタ・ガーウィグ
出演:シアーシャ・ローナン
米国2019年

恥ずかしながら原作未読であります(^^ゞ
ということで事前にあらすじと作者オルコットの生涯について解説してある求龍堂グラフィックの「若草物語 ルイザ・メイ・オルコットの世界」を図書館で借りてきて、手っ取り早く予習した。

その上でこの映画を見ると、作者自身の実話とジョーを完全重ね合わせたメタフィクションの構造となっている。で、公開決定時から「なんじゃ、この邦題は~💢」と非難轟轟だったタイトルが、この構造を実は示していた事に驚いた。……でも、やはりサブタイトルに回した方がよかったとは思うがな。
それも含めて美術や衣装から役者のキャスティングまで色々な要素がよく出来ていて完成度が高かった。
だからと言って手放しでほめたいかというと微妙である。まあ単に好みの問題だが。

あと、過去と現在形の部分を映像の色調を変えているけど区別しにくいし、過去の方が暖色系というより黄色っぽくて汚ならしい色なのが難点である。

テーマについては、「女」の問題は現代も昔も変わらないねえ。
「結婚は女の花道」とか「自立か従属か」とか「先立つものは金」とか……。
ここに口出してくるローリーって、鬱陶しいヤツだなと思っちゃった(^^;ゞ 原作でもあんな感じの男なのかしらん?

彼は長女のメグに合コン(?)目的のダンスパーティーで出会って、難癖付けて偉そうに説教するんだけど、この場面でピンクのドレス着たエマ・ワトソンがまたよく似合っててかわいいんだよねー。(衣装さん、もっとダサいドレス選んで~🆑……アカデミー賞の衣装デザイン賞取ったけどさ)
お前のようなチャラ男には言われたくねえな~(`´メ)という感じだ。逆に、女が美貌を武器にエエ男を探して何が悪い👊すっこんでろと言いたくなっちゃう。
もちろん、演じているT・シャラメはそのイヤミな部分もちゃんと出していて適役だと思いましたよ(^^)

四姉妹でどう見てもベスよりエイミーの方が年上に見えるのはわざとなのか。役者の実年齢もそうらしいけど。ベス役は『シャープ・オブジェクツ』の妹役だった。だから「妹」感が強いのかな。
脇も母親ローラ・ダーンに伯母メリル・ストリープという最強の布陣のキャスティングである。ただ、クリス・クーパーは分からなかったですよ……💦

| |

より以前の記事一覧