映画(タイトル「サ」「タ」行)

2024年12月 7日 (土)

「シビル・ウォー アメリカ最後の日」:ウォーリー……じゃなくて、大統領をさがせ!ワシントンだいそうさく

241207a 監督:アレックス・ガーランド
出演:キルステン・ダンスト
米国・イギリス2024年

米国では半年も前に公開されたのに、あえて大統領選一か月前まで日本公開を引き延ばしたというそのヤマっ気や良しっ👍
おかげで最近の洋画ではめっきり少なくなった公開週末の興収第1位というのはメデタイ限りである。

舞台は近未来--というより「近現在」の米国。冒頭で状況が早口でサーッと説明されるが、とても追いつかない。こういう時はパンフレット(千円ナリ)を参照だいっ。
広告の宣伝文句には「アメリカが2つに分断され」とあるが、正確には4つに分かれている。大統領が独裁体制を敷き3期目も居座る連邦政府、南部のフロリダ連合、カリフォルニアとテキサスがくっついた西部勢力、さらに新人民軍(「マオ派」が支配って、毛沢東主義者のこと?)という状況だ。

日本公開当時でも「カリフォニアとテキサスが同盟なんてそんなバカな」という意見があった。しかしその後実際の大統領選挙戦で共和党のガチ正統保守勢が民主党を支持なんてことが実際起きたし、当選したトランプは三期目やる気マンマンぽいし、「FBIをぶっ潰す⚡」などとこの映画の大統領と同じような言動をしているので、あながちデタラメというわけではない。

4人のジャーナリスト(うち一人は見習い中)が大統領のインタビューを敢行しようと、戦時警戒体制のニューヨークからワシントンへ混乱の中をドライブしていくというのが基本設定である。
『地獄の黙示録』が引き合いに出されているが、実際見てみると確かに物語の構造はほとんど同じだ。一人の人物を求めて進む道中に異様な場所と人々が次々と出現して彼らを惑わす。遊園地の狙撃戦や平穏を装う町の描写に至っては、シニカルなユーモアさえ感じられる。異なるのは舞台が米国なのと、中心人物が兵士でなくてジャーナリストであることだろう。

もっともカメラマンにとってカメラとは銃の代わりになるらしい。以前戦場カメラマンのインタビューで、カメラを持って兵士たちの後ろから付いていくと自分も銃を持っているような感覚で突撃してしまうという話を聞いたことがある。ある時、ふと気づくと自分が部隊の先頭に立って突進していたという(~_~;)
こちらもやがてそのような状態になる。しかもプレス印をつけていればどの側でも基本出入り自由で受け入れてもらえる……はず。うまく行かない時もあるけどな😑

しかしたどり着いた先のカーツ大佐ならぬ肝心の大統領が「中身がない」状態なのはどうしたことよ。現実の大統領を皮肉っているのだろうか。
途中まで引っ張ってきたベテランカメラマンのリーは報道最前線から自ら撤退し、若くて未熟だったジェシーが「決定的瞬間」をモノにする。そこで、見事に引き継ぎがなされたのを観客は思い知るのである。

どの場面も印象的な構図で思わず見入る。音響は銃声が耳にグサグサ突き刺さる。迫力充分だ。音楽のミスマッチな使い方も効果的である。賛否いずれにしても語りたくなる作品なのは確かだろう。ガーランド監督の手腕は認めるほかない。
リー役キルステン・ダンストの愛想ゼロの仏頂面がよかった。

思い返してみると、私がこの映画で引き付けられるのは社会的政治的な部分ではなく、黙々とワシントンへと移動する部隊、燃え上がる山火事、明るい陽光の下で「冬」を演じる遊園地、夜のホワイトハウスへの一斉突入--のようなシーンのイメージなのである。
それは脳ミソにじんわりとしみこんで離れないのだ……。


さて、この映画の設定だが冒頭に書いた基本事項はいいとしても、細かいところを見て行くと不自然なものがある。
*あんな自治体壊滅状態なのにインフラが生きているのはおかしい(ショッピングセンターなんか真っ暗なはず)。州都の周辺はまだしも田舎では水も電気も停止しているだろう。そもそもガソリンスタンドに給油車は来るのか、とか考えだすと止まらない。
ネットはどうか。思い返すと最初の方でホテルでリーがノートパソコンを開いて「速度が遅い💢」とブチ切れていたけれど、NYの外では使えないのか?
*作中でスマホを使っている場面がない(多分)のも不自然。ネットが繋がらなければスマホを使わないかというと、そんなことはないだろう。兵士たちはスマホで自撮りしまくってもおかしくないはず(敵を殲滅した時の記念とか)。
まあそれをやっちゃうと「誰でもカメラマン」状態になってしまいフォトジャーナリストを中心に据えた意味がなくなるだろう。それにスマホ掲げて敵に突進する姿はあまりに滑稽である。
*戦争描写でも最も陰惨な状況は注意深く避けられている。戦闘は基本的に武装した兵士・自警団同士で行われていて、年寄りや子供が犠牲になる場面は排除されている(実際の紛争の犠牲者では多いはず)。最も陰惨な赤サングラスの男登場場面でも犠牲者は成人だけのようだった。
また性暴力についても同じく描かれない。あのガソリンスタンドでてっきり「おっ、おねーちゃんが2人いるな(一人は年増だけど)。現金の代わりにこっち来いや」などと言われると思ってドキドキ(・・;)したが、そういうことはなかった。

これらを捨象した一種の幻想(ファンタジー)と考えられる。その点ではリアリティに欠け、かなり意図的に構築された世界だといえよう。

【追記】ついでに例の赤いサングラス男が「どのアメリカだ?」発言について。予告で見ると国内の勢力のどこを支持しているのかという問いに解釈されているが、本編では続けて「中南米も南米だってあるぜよ」と言っているので、ラテン系の記者(役者はブラジル出身)に対して米国人かどうかを問いただしていると思える。ここで「ブラジル」とか答えたら終了❌だろう。
241207b

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2024年11月25日 (月)

映画落穂拾い・ツイッターX編

ブログに感想を書きそこなった映画です。たまっております。

なぜか書く気が失せちゃったやつ。
『哀れなるものたち』

『12日の殺人』

実話系。
『ダム・マネー ウォール街を狙え!』

『コール・ジェーン 女性たちの秘密の電話』

『ミセス・クルナス vs. ジョージ・W・ブッシュ』


アーティストもの。
『Shirley シャーリイ』

『画家ボナール ピエールとマルト』


まだ続きあり。

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2024年10月11日 (金)

映画落穂拾い・ツイッターX編

ブログに感想を書けなかった映画の備忘録がわりです。

追い詰められ型。主人公が追い詰められちゃいます。

「リアリティ」

「キリング・オブ・ケネス・チェンバレン」

「インスペクション ここで生きる」

ヒーローもの特集。

「スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース」

「マダム・ウェブ」

「ザ・フラッシュ」

小学生の女の子が主役。

「コット、はじまりの夏」

「窓ぎわのトットちゃん」

まだ続く。

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2024年9月 5日 (木)

映画落穂拾い・ツイッターX編

そもそも当ブログの宣伝という目的ツイッター(当時)を始めました。当初は鑑賞後に140字内で簡単に感想を書いてその後にブログに長文で書いていました。しかし、やがてツイッターの文章が段々長くなり、暇と余裕がなくてブログに書き直しもできず……という状態になってしまいました。無念であります。

さらに最近は老人脳のせいで見たこと自体を忘れてしまうようなケースもあるため、そこでせめてタイトルだけは載せてツイッターXのリンクを張ることにしました。かなり適当に書いているので、単なる記録ということです。
それにしてもツイッターXもいつまで続くのか心配ですね(^^;

まずはロズニツァ監督編
「ミスター・ランズベルギス」

「新生ロシア1991」

「破壊の自然史」


「ジ・オファー ゴッドファーザーに賭けた男」
これはTVシリーズです。

「パリタクシー」

「ぼくたちの哲学教室」

「ロスト・キング 500年越しの運命」

まだまだ続きます。

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2024年7月21日 (日)

「ソウルフル・ワールド」:生きながらジャズに葬られ

240721 監督:ピート・ドクター
声の出演:浜野謙太
米国2020年

コロナ禍で2020年の劇場公開中止、配信のみとなったピクサー・アニメ。しかし待ち続けた甲斐あって、ようやく短期限定だけど劇場で公開となった。ただし残念ながら吹替のみだ。

主人公はミュージシャンを目指す中年黒人男性。でも現状はハイスクールのしがない音楽講師である。
しかし長年の夢だったジャズクラブ出演が遂に決定🌟 したはいいが、直前に事故で無念の死を遂げる……はずだったのをあまりの無念さに断固拒否。あの世に送られ魂が吸収される直前に逃走して、ジタバタした挙句に地上世界への復帰を目指す。
音楽一途の執念とはこのことか🎹
これから生まれる魂が準備のため集められる世界があってそこに紛れ込むが、逆に生まれることを断固拒否中の魂22番を巻き込んで無理やり現世へ戻ってしまう。

人間に生まれるためには全ての「要素」が揃わないと……というのはいかにも『インサイド・ヘッド』の監督らしい発想だろう(そのため22番は逸脱しているわけだ)。
一方、生まれる前の魂が集う世界が存在するというスピリチュアル系ぽい設定はちょっと苦手である(^^;
魂たちはコロコロしてかわいいし、その風景はパステルカラーで美しいのであるが。

正反対の現実世界ニューヨークの生き生きとした描写は遥かに勝る。それも小汚い部分を詳細なまでに再現している。廃墟とかの暗さではなく、生活感あふれる汚さなのだよね。床屋のワヤワヤ感とか。
どうでもいいような、些細なモノが美しい。食ベ残しのピザの端さえ生命感に輝いて見える。実写だったらこんなことはあるまいよ。
主人公が全く冴えない独身男なのも、猫がかわいくないブチャ猫なのもいい。

そして楽器を弾く時の指の動きには魅せられる。ジャンルを問わず音楽好きな人にはオススメしたい。地下クラブのサックス、階段のトロンボーン🎶
……しかし主人公は音楽一途だったからこそ見失っているものもある。それが22番とのかかわりの中で分かってくる。

人生で生きるよすがを失った中高年向けに推奨--と最初見た時には思ったが、後でよくよく考えると若いモンは22番に共感するかもしれない。
リンカーンだろうがマザー・テレサだろうがエラい人の言うことなんか信用しない。現実なんか絶対認めねえぞ( ̄へ  ̄ 凸ケッてな感じだ。

2020年アカデミー賞で長編アニメーション賞を、レズナー&ロス、J・バティステが作曲賞受賞とのこと。
吹替じゃなくてオリジナルで見たかった(聞きたかった)。


街角で細長い看板を店の前に立って腕や背中でくるくる回して宣伝する場面が出てきた。『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』にも登場するがこちらが先だろう。
あれは米国ではよくやる宣伝方法のかな(^^? よほどの体力ないとやってられないような。ダイエットにはいいかもしれないけど。

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2024年7月12日 (金)

「DUNE/デューン 砂の惑星」「デューン 砂の惑星PART2」「砂の惑星」:ホドロフスキーは見てません

★「DUNE/デューン 砂の惑星」
監督:ドゥニ・ヴィルヌーヴ
出演:ティモシー・シャラメ
米国2020年

★「デューン 砂の惑星PART2」
監督:ドゥニ・ヴィルヌーヴ
出演:ティモシー・シャラメ
米国2024年

★「砂の惑星」
監督:デヴィッド・リンチ
出演:カイル・マクラクラン
米国1984年

過去の作品を見た限りではどうもヴィルヌーヴ監督とは相性が悪い。『砂の惑星』を再映画化したと知っても敬遠していた。
しかし正月に大作ものを見たくなりパート1をオンデマンドで鑑賞。前半見たなら後半も見ずばなるまい。どうせ見るならIMAXだっ⚡ということで料金を奮発。なお原作は第1部を学生時代に(今を去ることウン十年前)読んだ……が当然忘れている。

そもそも原作は砂漠で啓示を受けたムハンマドをモデルにしているそうで宗教的側面が強いのと同時に、「未開の民族の女戦士と知り合いそれを踏み台にして彼らのリーダーとなる」という定番の英雄譚でもある(「白人酋長」ものというらしい)。

バート1は前哨戦という感じで、皇帝率いる帝国で二つの領家が衝突、お家騒動があってさあどうするよ--だが、SFというよりはなんとなく『ゲーム・オブ・スローンズ』ぽい。まあ、こちらの原作の方が元祖だけどさ。
ゲースロと違うのは、砂漠の惑星アラキスで住人によるゲリラ戦が起こっていること。主人公がそこに巻き込まれていくこと。加えてコワい女性宗教集団ベネ・ゲセリットの存在もあり。宇宙のお家騒動話ともどもアクションやら戦闘場面を交えてまとめているのは大したもんである。

予告ではゼンデイヤが大きく活躍していたが、実際には終わりの方にちょろっと登場しただけで終了。観客の期待を大いに裏切ってくれた。後半が間延びしていて、主人公は中途半端なまま。次作を前提にしているとはいえもう少し何とかならなかったのか。
ただ、ヴィジュアルや音響はド迫力💥お見事の一言である。
主役のT・シャラメは実生活では色々言われているが(;^_^A 役者としての才能は疑いようがないだろう。

パート2は引き延ばし感があった前作に比べて、今度はギュウ詰めで消化不良で胃もたれし見てて疲れるほど。さらに豪華すぎる出演陣がそれに拍車をかける。レア・セドゥなんかもったいない使い方だ。
敵役ハルコンネンの暗い「帝国」描写は、なんとなく洗練されたイモータン・ジョーの砦ようにも見えた。

完成度高く終わった後の満足感は大きかったが、「こんなもの見たことねえ~~」と驚くような場面はなかった。それと話の途中が飛んでいるようなところが何カ所かあったのも謎である。そのうち完全版で補足されるとか?
大画面3Dで役者の顔のドアップを見せられるのはキツかった(^▽^;) ついでに音が大きいのもまいった。デカけりゃいいってもんじゃねえぞ💢
相性悪い監督だけど、ここまでまとめた力業は認めねばなるまいよ。

事前にパート3もあるらしいと噂が流れてきたが、最後まで見ると続きを作る気満々のようである。原作の第2部まで踏み込むらしいが、今作の結末が原作と異なっている(ゼンデイヤ扮するチャニの動向)のでどうするのかね。さらにまた豪華出演陣を投下するのか。TVドラマシリーズにするのだけは止めてほしい。
リンチ版と原作にあった変態味がなかったのは残念である。


結局、リンチ版もオンデマンドにあったので見直してしまった。公開時に見て……その間にレンタルビデオでもう一度くらいは見ただろうか(?_?) とにかくほとんど忘れていたのは確か。でも途中で思い出したところもあった。
で、印象を一言でいうと

変態残酷醜悪❗❗

正確には三言ですね(^^;
これらの要素はヴィルヌーヴ版にもあったという意見あるかもしれないが、やはりリンチは性根が違うと言わざるを得ない。隠そうとしても滲み出てきてしまうものが……まあそもそも隠そうとしていないのだが。双方ともレーティングはGだが、こちらは「良い子」はもちろん「良い大人」にも見せられねえ~🈲

1万年後ぐらいの未来世界のはずが、冒頭からなんだか古めかしい軍服やら宮廷場面が登場する。どこかで見た覚えが--と思ったら『アラビアのロレンス』だった。かなり意識しているように見える。確かに植民地(星)での特殊な資源の収奪戦というのは、当時の中東情勢と重なる。
それからヴィルヌーヴ版ではほぼ省かれていた宙航士のギルドが第三の勢力としてしっかり登場する。その醜悪な姿には思わずギャーと叫びたくなるが、皇帝を恫喝するほどの権力を持っているのだ。(なぜ彼らの存在を省いたのかは不明。話が分かりにくくなるからか?)

こちらもなにげに豪華出演陣ではある。パトリック・スチュワートが出ていたのは完全に忘れていた。スティングは昔見た時は生臭くってイヤだなあ~などと思ったが、今見ると雰囲気にピッタリとはまっているではないか(^O^)
侍女の一人としてキャサリン・ハンター(『哀れなるものたち』の娼館のマダム)が登場していてビックリ--「えっ、今とほとんど変わってない👀」。しかしクレジット見たらなんとリンダ・ハントだった。でもこの二人似てないか。遠い親戚じゃないの(^^?
あと公爵が抱えていたワンコは原作にもいるのだろうか。宇宙を股にかける未来にも犬はペットとして存在するのか。などと疑問を巻き起こしながらもちゃんと最後の対決場面に登場していた。

その他長くなるので箇条書きにすると
*字幕の訳はひどい。多分、昔SFが分かってない担当者が訳したのがそのままになっているようだ。最近のソフトやリマスター版は直っているのかね。
*特撮はかなりムムムなレベルである。昔とはいえ『スター・ウォーズ』以後である。やはり予算が足りなかったのであろうか。
*終盤の戦闘場面については大勢のエキストラ使ってクレーン撮影もやっていて、人海戦術で圧倒だ。それからサンドワームについてはデザインも含めてヴィルヌーヴ版よりこちらの方が迫力がある。人もちゃんと乗れそうだし(^.^)
*これは原作読んだ時も感じたのを覚えているが、気軽に原子爆弾を使用などと出てきて驚いた。生態系SFと銘打っている割には核で汚染しちゃっていいのか。まあ、未来では汚染の除去も簡単にできるんだろうけどさ。

全体に短縮版のようで、特に後半は駆け足状態で訳が分からなくなり洗練度にも欠けるが、忘れがたき怪作といえるだろう。

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2024年6月10日 (月)

「Saltburn ソルトバーン」:萌えるが勝ち

監督:エメラルド・フェネル
出演:バリー・コーガン
イギリス・米国2023年
アマプラ視聴

米国で中ぐらいヒットしたと思ったら、なぜか日本ではあっという間に配信スルーになってしまった一作。しかも配信開始当初、検索できない見つからないと騒ぎになった。劇場公開したら女性客中心に結構入ったのではないかと思うのだが(?_?)

頑張ってオックスフォード大学に入ったはいいけれど😑……という貧乏学生、周囲の金持ち子弟になじめず友人もできない状態でクサっていた。しかし魅力たっぷり人気者✨の名門貴族の息子と知り合い、誘われて夏の休暇を実家で過ごすことになる。

あまりに豪華なお城(~o~)に目もくらむが、どうもその息子は過去に同じような「友人」を連れてきては、一家で半ばバカにしながら観察するのを繰り返しているようなのだ。ロザムンド・パイクの扮する母親が微妙にイヤミ。

この鼻持ちならない一家が彼を珍獣みたいに見るのは『ゲット・アウト』ぽく、広大な庭園の迷路は『シャイニング』を思い起こさせる。
しかし一番の影響は『ブライズヘッドふたたび』(原作は未読です(^^;ゞ)ではないか。巨万の富を持ちながらあまり幸せそうでもなく、一方魅力的でもある貴族一家の悲劇を目撃する--というような話になるかと思ったら、途中でグイと方向転換してしまう。
えっ、そっちに転がっていくのかと驚いた。終盤はひたすら強引な力技で展開する。

ラストシーンに至ってはこれが主人公の望んだものなのかと困惑した。それともメイドが主人公の某映画からの引用かな。あっちは踊ってはいなかったけど(ーー;)

どうでもいい場面に時間をかけて描写している割には肝心な部分は手抜きかスルーなので、一体彼が何をしたかったのかよく分からない。それどころかどういう人物なのかも理解できなかった。大体にして冒頭と後半、主人公の人格変わりすぎじゃないの。

と思ったらフェネル監督の前作『プロミシング・ヤング・ウーマン』についても同じような事を書いてたので、どうも私とは相性が悪いということだろう。
ただバリー・コーガン(キオガン?)やジェイコブ・エロルディを初め役者たちの魅力は充分発揮されているので、萌えたい人💗は見るが吉である。

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2024年5月20日 (月)

実録女の肖像・その3「ティル」

240520 監督:チノイェ・チュク
出演:ダニエル・デッドワイラー
米国2022年

配信スルーになりそうだったのがめでたく劇場公開された。
「エメット・ティル事件」というと公民権運動前(1955年)、黒人少年がリンチされて殺害された--という一行分ぐらいでしか知らなかった。しかしこれを見ると事件発覚前と発覚後も、裁判中にも色々とあったのがよーく分かった。
黒人人権団体もこの事件をアピールして地位向上を……みたいな計算が先に来てた節もあり。さらには母親の個人的なスキャンダルが書き立てられたりと、一筋縄ではいかない状況だったようだ。

それにしても当時のミシシッピ州恐ろし過ぎよ。裁判所内には黒人用の傍聴席はない(完全立ち見)。真実を証言したら町から逃走しなければならない。

基本線は、少年のひどい遺体写真をあえて公開した母親に置かれている。彼女を最初から聖母マリアと重ねているように思えた。事件の前から母親は悲劇を予兆しているように常に悲しみの表情を浮かべ、さらに息子の遺体の接し方にも宗教画を連想させるところがあった。
それゆえにマリア様中心の絵画の如く、演じるデッドワイラーに寄りかかり過ぎになった感がある。
脚本のせいか劇中でどれくらい時間経過したのかよく分からなかったり、母親の意識変化のどの部分を強調したかったのか不明瞭に思えた。
一方、衣装やセットのデザインはよかった。壁紙を思わずしげしげ観察したり(^^)

デッドワイラーはオスカー主演女優賞候補は確実と言われていたのに、諸般の事情ではじき出されてしまったのは残念だった((+_+))
なお、プロデューサーをやっているウーピー・ゴールドバーグが特別出演している。最初、見ても分からなかったりして……。
あと公式HPや映画サイトの情報がかなりいい加減だった。なんとかして~💢

 

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2024年5月10日 (金)

実録女の肖像・その1「シモーヌ フランスに最も愛された政治家」

240510 監督:オリヴィエ・ダアン
出演:エルザ・ジルベルスタイン
フランス2022年

シモーヌ・ヴェイユというと哲学者の?と思い浮かぶが、この映画の主人公は同姓同名らしくフランスの保健相として活躍しさらに女性初のEU議長となった人物である。全く知らなかった(!o!)

1974年に怒号飛び交う国会で中絶法を通し、刑務所内での囚人の待遇改善やエイズ患者救済など功績は数知れず。
その背景にはユダヤ人収容所での壮絶な体験がある。その描写がまた半端なものではない。女性の収容者の忌憚ない体験談は珍しいかも。長年に渡り記憶に苦しめられるのも納得の恐ろしさだ。しかも一番恐ろしいところは描けなかったのではないか……。
さらに、フランスに生還しても収容所サバイバーは無力な者とされ、「なかったこと」にされてしまうコワさよ😑

彼女の数々の功績と収容所体験、みっちり描けば140分になってしまうのも仕方ないだろう。
だが、あまりにも複数の時代を頻繁に行き来するのでかなり混乱。人物が多くて誰が誰だか分からなくなってしまう。

それから、家庭で夫を支えてきた彼女が突然法律を学ぼうと決意する、その大転換のきっかけが何なのかが分からなかった。肝心なところなのだけど全く説明や描写なしだ。
どうもずっとそこが引っ掛かってしまった。

当時のフランスでも「中絶を合法にしてしまったら次は同性婚が来るぞー」なんて反対勢力がいる状況、今の日本と似てるじゃないですか(・・;)
でも逆から見れば、あと50年経てばさすがに日本も改善されるということ。だからみんな頑張るんだヽ(^o^)丿
まあ、私は生きてないけどな💀

「フランスに最も愛された政治家」ってサブタイトルはおかしくないか? 「フランスで」じゃないのね。
父親はフランスを愛したのに、その後の行く末を考えると相当に皮肉ではある。

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2023年11月 8日 (水)

映画落穂拾い2023年前半編その2

まだ前半が残っています。やばいです(-_-;)

「アルゼンチン1985 歴史を変えた裁判」
監督:サンティアゴ・ミトレ
出演:リカルド・ダリン
アルゼンチン2022年

アマプラで鑑賞。アカデミー賞の国際長編映画賞にノミネートされた作品である。
独裁政権下で軍が行なった拉致・拷問などの犯罪を起訴する裁判を描く実話もの。主人公の検事も実在で当時の記録映像が入る。
証言してくれる証人集めから裁判の論告まで苦闘の経過が描かれる。様々な妨害にも負けず真実を希求するが、被告はまだ現役で軍や政府にいるのだから大変だ。
論告は実際のものを再現しているのかな? かなり長いものでクライマックスとして設定されている。

見ててなんとなく韓国の裁判映画を連想した。公権力による犯罪の法廷ものという点で重なる部分が多いし、演出とか脚本などかなり影響を受けているのではないか。

劇中に出てくる言葉「人殺しの集団が大勢殺しても誰も気付かない」……は場所や時代を問わず起こりうることだ。
人数はさすがに異なるが、軍隊ならずとも日本でも入管施設とか警察署内で同じようなことが起こっているではないか。
もはや民主主義以前の危険水域に近づいているなあ💀

一つ疑問なのはセリフが英語だったこと。自国で公開するなら当然スペイン語だよね。作中の文書はスペイン語だし。二つのバージョンがあるということ?


231108b「母の聖戦」
監督:テオドラ・アナ・ミハイ
出演:アルセリア・ラミレス
ベルギー・ルーマニア・メキシコ 2021年

身代金目的で娘が犯罪組織に誘拐される。メキシコでは日常的によくある事件というのが恐ろしい。
娘を取り戻すための母親の苦闘は「聖戦」というより「執念」に近い。また父親が全く役に立たないのよ👊 しかし彼女のあくなき追及はさらに暴力を引きずり出してしまう。見ていると観客はグツグツと煮詰められていく気分だ。
それを特定の人物に密着するドキュメンタリー風の手法でひたすら追っていく。主演のラミレスは女優賞ものだろう。

話が進むうちにますます緊張が高まっていくのでかなり疲れた。しかも陰惨なトーンである。しかしラストについてはどう考えたらいいのだろう? 観客がそれぞれ解釈するしかないのか。作り手側の未来への願いといえようか。
なお、これは実話を元にしていてモデルとなった母親はその後殺害されたとのこと。

途中に、何かの決意を示す時に女が髪を切るという定番の描写があった。なら男はこういう時何をするのかしらん(^^?


231108「聖地には蜘蛛が巣を張る」
監督:アリ・アッバシ
出演:ザール・アミール=エブラヒミ、メフディ・バジェスタニ
デンマーク・ドイツ・スウェーデン・フランス2022年

イランで現実に起こった事件を元にしたサスペンス。サイコスリラーと見せて犯人は早々に正体を現し、社会のひずみを描く方向に向かう。
娼婦殺人とヒロインが受けるセクハラは同根であることが暗示され、犯人の正義を偽った欲望が暗い渦に飲み込まれていく。

なので、見ていてかなり気力が削られるのは確か。特に殺人と暴力の詳細が繰り返ししつこく描写されるのはかなりゲンナリする。そこまで詳しく見せなくてもいいんじゃないの? 元気な時に鑑賞を推奨したい。
当時実際に犯人を支持する人々がいたそうだが、今の日本でも同じようにSNSで吹きあがるヤツが出てきそうである。そういう意味でも『タクシードライバー』を裏側から眺めたような感がある。

ジャーナリスト役のエブラヒミはカンヌで女優賞を取ったそうだが、犯人役もなかなかのイヤ~ンな演技。こわいよ~(>y<;)
なお作中の某所にボカシがかからなかったのは物体が「偽物」ということが明らかだからなのかな?(「これは偽物です」と自己申告するのか)

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