映画(タイトル「サ」「タ」行)

2023年9月16日 (土)

見たら今イチだった! 世評は当てにならない映画その3:「サントメール ある被告」

230916 監督:アリス・ディオップ
出演:カイジ・カガメ、グスラジ・マランダ
フランス2022年

事前に伝わって来た評判がよくても実際見てみたら、自分にはどうもなあ~という案件の最後です。

ヴェネチア映画祭で銀獅子賞(審査員大賞)を取り、絶賛する人も多数の作品。
セネガルからの留学生が幼い娘を海で殺害した実話の裁判劇である。だからといって社会派作品というわけではなく、様々な文化と概念が衝突する混乱を突き詰める思弁的な作品だった。
裁判場面は法廷での発言をそのまま再現したということで、事件の謎が明確に解かれるわけではない。
厳然たる差別が証言者を通して表出する。特に大学教授の発言はひどい。犯人の学生の話すフランス語は完璧だが文章だと不十分だなどと証言する。

並行して監督の分身とおぼしき作家が、傍聴を通して悶々とする様子が描かれる。犯人と自分を重ねて見ているのだ。彼女が自らの母や現状を受け入れる過程が主眼だろう。
しかし、肝心の犯人はほとんど語らず何を考えているのか分からない。普通の法廷ものだと弁護士と面会したり話したりする場面が出てくるが、この映画は全くそういう部分がない。作家のリアクションを通して観客は「恐らくそうなのであろう」と推測するしかないのだ。

ということで、起伏が少ない上に作品のテンポが自分に合わず、気を緩めると眠気のループに入りそうになっちゃう。特に法廷内の映像は動きが少ないこともあり。
また、自らの子を殺したギリシャ神話の王妃メディアについて、パゾリーニの作品をかなり長々とそのまま作中で使用しているのには「こんなんでいいんかい😶」と驚いた。「引用」を越えている。自分の言葉や映像で表現しようという気はなかったのだろうか。既存曲の使い方も『アフターサン』っぽい。

最後に弁護士が語る「キメラ現象」にはおぞけを振るってしまった。女は妊娠すると胎児の細胞が体内を回り脳にまで達するというのである。
な、なんだって~~(>O<)ギャーッ
でも、胎児の遺伝子って半分は相手の男のものだよね……。すると、3人の男と付き合っては別れ、それぞれ子どもが生まれていた場合3人分の男の遺伝子が体内に残っているということか💀 嫌になって別れた相手でも遺伝子が残ってるなんて恐ろしい。

なお、映画は母を称揚する言葉と共に裁判を傍聴する女たちの顔を一人一人映していくが、子どもというのは父親もいなくちゃ生まれないんじゃないの(?_?)
お願いだから母と娘の無限の円環に私を入れないでくれ❌

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2023年8月24日 (木)

「TAR/ター」:立てば指揮座れば作曲歩く姿はハラスメント

230824 今年度上半期最大の話題作・問題作なのは間違いなし⚡
ケイト・ブランシェットが、ベルリン・フィル初の女性主席指揮者にして同性愛者、激しい権力志向、セクハラ、パワハラ当たり前という特異な人物を、事前の予想を遥かに超えて見事に体現していた。主人公の秀でた才能(と実は必死の努力も)と共に尊大さ、卑賎さを容赦なく描き出している。
彼女の個人芸をみっちり見せられたという感があり、もう頭からしっぽまでケイト様がギュギュッ🈵と詰まっていると言ってよい。

人事権を振り回し、能力無視でお気に入り奏者をえこひいき、専横のナタで一刀両断、小学生に対しても手心は加えず。返す刀で「差別野郎のバッハの音楽は聞かない」という学生を厳しく問い詰めてとことんやり込める。

だが一筋縄にはいかない。映画としては持って回ったようないわくありげなシーン続出、どうも鼻をつままれたような気分だ。そもそも常に彼女を隠し撮りしているのは誰だ? ラインで悪口書き合っている二人も誰かは明確でない。演出脚本編集映像、何一つそのままには受け取れぬ。頭が混乱してくる。
一体どう見たらいいのか(◎_◎;) そもそも一回見ただけでは分からない(一瞬で通り過ぎる場面が重要だったり)箇所が多数というのもなんだかなー。

ホラーっぽいのも余計に混乱に拍車をかける。幽霊やら怪奇現象が主人公の混乱による幻影でなくて、実際に出没しているという設定ならもはや何でもありだ。
そのせいか、人によって解釈が様々に分かれる。いや、見た人の数だけ解釈はあると言っていいだろう。

そもそも敵が多いうえに、栄光の極みでキャンセルカルチャーがらみで失脚する。その没落後の描写に結構時間をかけているのに驚いた。これが鼻持ちならない横暴な中年男だったらラストシーンは皮肉だと思えるが、ブランシェット扮する主人公はあまりに魅力的なのもあって、どん底を脱した前向きな結末に見える。

ラストをアジア蔑視、ゲーム音楽差別と見る人も多いようだ。しかし、それまでを思い返してみると指揮者と演奏家(あと作曲家も)の中だけで展開して「聴衆」は登場しない。なにせ冒頭のインタビューで「リハーサルですべて完成してしまう」と語っているぐらいだから、本番の演奏で聴衆がどう反応しようと関係はないのだ。
作曲家-指揮者-演奏家で成立する閉ざされたサークル--しかしラストで初めて聴衆が登場するということは、主人公にとって新たなフェーズに入ったことを示している。過去の因縁の堆積、栄光と失敗の歴史などからほぼ逸脱しているジャンルと聴衆だからこそ新しい未来は可能となる🌟と思えた。

変な映画に違いないが面白かったのは確か。158分もあっという間だ💨 ただトッド・フィールド監督の作品は初めて見たが、他のも見たいという気にはあまりならなかったりして……。
ケイト・ブランシェットは実際にオーケストラを指揮したり、バッハをピアノで弾きながら講釈したりと驚くべき役作り。さらにほぼ画面に出ずっぱりだが全く飽きさせない。
最終的にアカデミー主演女優賞を取り損ねた問題については、たとえ神技に近い怪演といえどアカデミー賞の性格上、投票者が「ケイトはもう既に貰ってるし、これからもまたチャンスがあるはず」と考えてミシェル・ヨーに投じても仕方ないなと思う。私だってそうしたかも。

また、クラシック音楽についてのウンチク話や議論がかなり多かった。指揮者論に始まり、音楽と時間の関係、過去の作曲家についてなどやたらと長く語られる。クラシックファンが食いつきそうな内容なのだが、燃え上がっているのは映画ファンの方が圧倒的に多かったのは不思議だ。
クラシック音楽業界の歴史というかゴシップというか、あまり詳しくないのでこちらのブログ評はかなり参考になった。過去の指揮者の因縁、レコード蹴っ飛ばし場面の意味、英国音楽は下に見られている、などなど。

そして問題の「バッハは20人も子どもを産ませた差別主義者だから作品を聞かない」である。まあ、わざと分かりやすくバカバカしい例を選んだのだろうと思うけど(^^;
この発言した学生への攻撃を主人公はやり過ぎだという意見を幾つも見たが、冗談ではない。私だったら廊下の端まで投げ飛ばしてやる~(`´メ)
バッハ先生の名誉のために、同時代作曲家の子どもの数を調べてみた。正直言って作品数はあるが実際の子どもについては記述のないものが多い。

テレマン10人、ドメニコ・スカルラッティとブクステフーデ5人、シュッツとラインケン2人。ヘンデルは諜報活動にいそしんでいたためか0人、あとヴィヴァルディもなし--って一応カトリックの司祭だから当たり前か。
ということでバッハの20人はさすがに多いという結論になる。もっとも最初の奥さんと添い遂げてたらこんなに多くはなかったと思うが。
そんなことを言ったら、今の世に8人目の子どもができたと発表したジョンソン元英首相はどうなる。ミック・ジャガーも8人いるらしいがあくまで公称で、はて実際は😑

それと現在だって子どもが多くても犯罪にはならない。一方、ジェズアルドなんか浮気した妻と相手の男とついでに自分の子どもまで殺害している。現在の日本の基準で言えば死刑間違いなし(゚д゚)! でもジェズアルド作品は普通に聞かれてるよねー。


今回他の人の解釈を知りたくて色々と検索したが、文章よりYouTubeでの動画投稿で語っている人が遥かに多いのに驚いた。米国からスクリプト取り寄せてまで分析している人がいたり。
もはやテキストベースで周回遅れで映画の感想書いている時代ではないのね(+o+)トホホ 自らの無知を反省である。

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2023年7月 6日 (木)

映画落穂拾い2023年前半編その1

遂に「落穂拾い」発動🌟 感想書いてない映画がたまりまくっています。

「SHE SAID/シー・セッド その名を暴け」
監督:マリア・シュラーダー
出演:キャリー・マリガン、ゾーイ・カザン
米国2022年

有名プロデューサーH・ワインスタインの長年に渡る性犯罪を報道したニューヨーク・タイムズ報道チームを描いた実録ものである。

原作は出版時に読んだが、およそ映像化には向いていないような地味な内容だ。ひたすら取材対象を探し、探し出したら説得し、記事にしたら告訴されないように検討を社内で検討を重ね……よくうまく映画にできたと感心した。

二人の記者の私生活の描写を結構入れているのは、固いイメージになり過ぎないのと、平凡な日常生活を送る人間が記事を書いていることを印象付けている。それを横糸として、さらに一方で冒頭に登場した女性がその後どうなったかを縦糸として入れてメリハリをつけていた。
ただ、出てくる名前が多くてやっぱり混乱しちゃう(@_@;)

美しい風景のシーンが多いのは殺伐としている話の中和剤代わりかな。
文句を付けるところはないのだが見ててハラドキする要素に欠ける。社会的意義は大きい作品と思うけどさ……💦
背景にトランプの台頭・当選という時代の憂鬱が見て取れた。

邦題はオリジナルのタイトルと邦訳本の書名を合体させたものだ。もう少し何とかしてほしかった。同じ題材で評判となったニューヨーカー誌のローナン・ファローの本も読んでみたくなった。しかし積読にならない自信がない(--〆)

230706a
「マッドゴッド」
監督:フィル・ティペット
出演:アレックス・コックス
米国2021年

特撮職人フィル・ティペットのストップモーション・アニメ、久方ぶりの新作である。アレックス・コックスが役者として出演している(本業の監督の方はどうなってるの?)ということもあって見てみた。

作品の背景としては、ティペットが30年ぐらい前に地道に作りためていたシークエンスをCG時代が来たため放り出してたものの、近年にスタジオの若手たちが「モッタイナーイ」と言ったかどうかは知らないが(^^;完成させたという。なので一つの作品としての統一感は全くない。

カタストロフ後の地球の地下世界、全編リキの入ったグロテスクでドロドロした描写に覆われている。ただ強過ぎる刺激が続くと、耐性ができて慣れてしまうのが難だ。
突然ストーリーが中断して『ニューヨーク1997』風のエピソードが展開したり、モロに『2001』になってモノリスが何枚も飛んだりする。これだったら数篇に分けてオムニバス形式にした方がよかったかも。さらにA・コックスは顔出し程度だった。

見ていて、酉島伝法の『皆勤の徒』をこれで映像化するとぴったりではと思った。「社長」みたいなキャラクターも出てくるし(^◇^)

観客層はてっきり中年以上の特撮SFオタク男性ばかりかと思ったら、なんと男女半々だった。ビックリだ❗❗

先日『スターシップ・トゥルーパーズ』を再見したが、ティペットの仕事ぶりは見事というしかない。虫🆖が苦手な人間には厳しいけどな(歳取ると段々耐久力が減ってくるのよ)。

230706b
「トリとロキタ」
監督:ダルデンヌ兄弟
出演:パブロ・シルズ、ジョエリー・ムブンドゥ
ベルギー・フランス2022年

ダルデンヌ兄弟の新作の主人公は、アフリカ大陸からベルギーへ渡って来た十代の疑似「姉弟」である。本当は他人なのだが、事情があってそのように称しているのた。
隙あらば搾取しようとする周囲の大人たちに対して二人は協力してなんとかやり過ごし、あわよくば上前を撥ねようとする。
その苦闘と非情の世界を描いて容赦がねえ~⚡とはこのことだいっ。

長ーい映画が多い今日この頃、上映時間89分はある意味潔い。余分な描写は一切なし。無駄をそぎ落として直截に迫ってくるものがある。

「姉」のロキタは大柄で母性を感じさせるが実際は繊細で弱々しい。ローティーンの「弟」トリの方が落ち着いていて機転が回り、支えているような印象だ。
彼らは危ない橋にどんどんとはまり込み渡っていく。子どもがこんなことやって大丈夫なのか(~_~;)ハラハラ--と観客が保護者目線で見てしまうほどだ。
しかしゼニ💸がなくては生きてはいけぬ。そして世間は血も涙もない。感傷を一切挟まない静かな「視線」がかえって饒舌にこちらを圧倒してくる。

ダルデンヌの「音」の使い方には特徴がある。『ある子供』で札の枚数を延々と数えるヌルヌルという音。まさに容赦ない資本主義の響きとして迫ってくる。
今回はベルトの金具だ。普通に使われているような音だがここでは不快の極みで禍々しい。思わずギャーと叫びたくなった。
はて(?_?)こういうのも音響効果というのであろうか。
それと相変わらず「動作」の描写が秀逸だ。(少年が自転車をこぐところ、厨房のシェフなど)

それにしてもいくら金のためとはいえ、あそこに3か月もいるというのはつらい。引きこもり者ならできるかしらん🆘

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2023年6月19日 (月)

「対峙」:話せば分かる、分からない、分かる時、分かれば

230619 監督:フラン・クランツ
出演:リード・バーニー
米国2021年

教会の一室に集う二組の夫婦。最初は曖昧でぎこちない会話が見えない中心部を避けるようにグルグル回って続くうちに、やがて核心へと踏み込んでいく。
彼らは数年前に起こった学校での銃乱射事件の被害者と加害者の両親である。対面して話し合いを行なうという、いわゆる修復的司法のヴァージョンの一つなのだろうか。基本的に主要人物は4人だけだ。

やがて4人の誰もが最初に見た通りの人物ではないことが明らかになる。
そして夫婦であってもまた一心同帯ではなく、その間にピリピリと亀裂が走る。観客は一体誰に感情移入して見ればいいのか分からなくなってしまう😱 どの人物にも安易な共感はできない。

あまりにも緊張でドキドキして見ていたので、途中でスクリーンサイズが変わったのも気が付かなかった(^^;ゞ
ラストの後にさらにもう一押しあるという脚本もうまい。脚本兼監督は本業は俳優で、初監督作品とか。なんとなく演劇向けな話なのはそのせいか。
「幸せになりたくない!」は衝撃的だった。

「花」を初めとして小物(写真、ティッシュ……)の使い方もよかった。あの最後のテープも。
ただ、被害者の母が部屋を出る時に眺めていた絵が、次のカットで消えてたのはどういうことよ(?_?) まさかのウッカリミスとか🆖
時折響くノイズみたいな音はなにかな? 劇伴音楽か区別が付かなかった。

それにつけても、同じシーンを何テイクも撮っただろうにあのテンションをずっと再現できるのは驚いた。役者ってすごいものだとつくづく感じる。
加害者の母役は『ハンドメイズ・テイル』のリディアおばさんだったのね(!o!) どこかで見た顔だなあと思いつつ分からなかった。

この作品で思い出すのは、昔の警察ドラマ『ホミサイド』である。いつものキャストが登場しない異例のエピソードがあった。
一回見たきりなので記憶が曖昧なのだが、自助グループらしき集まりで殺人事件被害者の家族数組が一室で心中を語り合う。舞台は動かず、その室内で始まりそして終わる。

話すうちにそれぞれの立場や状況の違いが露わになってきて、最後にはなぜかつかみ合いのケンカになってしまう。そして何の救いもなく終了するのだった。

 

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2023年6月14日 (水)

「セールスマン」:天は自ら支払う者を助く

230613 監督:アルバート・メイズルス、デヴィッド・メイズルス、シャーロット・ズウェリン
米国1969年

60年代末の米国、雪のボストンから常夏のフロリダへ、高価な美麗聖書を売り歩く4人のセールスマンに密着するドキュメンタリー。

メイズルス兄弟というのはドキュメンタリー映画史では有名な監督らしい(『ローリング・ストーンズ・イン・ギミー・シェルター』も担当)。自ら撮影も担当し、ナレーションや音楽なしの手法の開拓者だという。その代表作の一つがこれである。

各地でモーテルに泊まりながら車で移動するというハードな毎日を送るセールスマンたちに貼り付き、さらに一緒に家へ入り込んでセールストークや手練手管もバッチリと収録している。
当然、相手の住人の許可を得ているんだろうけどよく撮れたなあと感心してしまう。当時は機材もデカいだろうし。

お高い聖書にもかかわらず売りつける相手は決して豊かそうではない人々だ。
「欲しいんだけど、うーん、うーん」さんざん逡巡した挙句に一ドルも余裕がないと断るシングルマザー。セールスの押しの一手を見るより、なぜそんなに分厚い聖書を欲しがるかの心理に興味がわく。昔の日本での「百科事典」「文学全集」のようなステイタスを示す「家具」の代わりなのだろうか。

4人のうち最も辛辣で口の悪いベテランが「もうやってらんねー💢」とブチ切れてどうするのか--と突然の展開。この稼業はつらいよと言えばそれまでだが、夢も希望もない殺伐とした郊外の町に住む人々の生活と共にジワジワと迫ってくるものがある。

チラシには「神と会社のため」聖書を売るとあるが「金と会社のため」の間違いではないかな(^^;

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2023年4月12日 (水)

「ジャンヌ・ディエルマン ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地」:衝撃の3分30秒

230412b 監督:シャンタル・アケルマン
出演:デルフィーヌ・セイリグ
ベルギー1975年

1975年作ながら昨年日本公開。10年に一度の「英国映画協会史上最高の映画100選」2022版で突如の第1位選出--。
ある意味、超話題作である。ケーブルTVのチャンネルでアケルマン監督特集をやっていたので録画して見た。ちょうどこの時期ヒュートラ渋谷でも特集上映をやっている。

話題の所以の一つは上映時間200分❗で、しかもそのほとんどが主婦の平凡な日常を延々と長回し固定カメラで撮っていることにある。
主人公のジャンヌは40代半ばの未亡人で高校生の息子とアパートに暮らしている。彼女の三日間--正確には1日目の午後から3日目の夜までをひたすら追う。
バスタブを洗う、靴をみがく、夕食の支度をする(昼食が手抜きのサンドなのは主婦あるあるだ)、買い物に出る等々が繰り返され、カメラはじっとそれを執拗なまでに撮り続ける。
これがアイドルの密着配信映像だったらどうだろう。親しみが増すだろうか。でも、ここでは見れば見るほどジャンヌは遠くなっていくようだ。

そもそも彼女は規則正しい繰り返しの生活を信条としているらしい。息子が今夜は遅いから日課の散歩をやめようと言っても「ダメ」と許さない。訪問者さえ定刻通りにやって来るのだ。
その時間通りの生活が2日目にズレていくのはたまたま外部の偶然のせいか、それとも彼女の内面に何事かの変化が生じたためだろうか。もしきっかけがあるとしたら息子との会話かもしれない。

家事の反復は退屈か? 少なくとも自分で行なうよりは、それをただ眺めている方が退屈と思える。それをあえて見せるのはなぜなのか。
切れ味があまり良くなさそうなナイフの皮むき場面はなんとなく緊張感を感じてドキドキする(ピーラー使わないのか)。だが、皿洗い場面に至っては見えるのは流し台に向かうジャンヌの後ろ姿だけ。後は長々と水音とブラシのシャッシャッという音を聞かされるのみなのだ。

恐らくは「定刻通り」「同じ行為」こそが彼女の本質であり拠って立つ全てなのだと思える。従って最後の「事件」が起こった理由は、相手が「いつも通り」ではなかったからだろう。それは許せないことだ。
日常に潜む瑕疵、それが大きくなって壊れゆく--そんな様相を描いているのか。しかし作品内では何事も断定されず、ゆえに観客も何も断言できない。

今回、私は家のTVで録画を数日かけて鑑賞という邪道な方法を取った。これではちゃんと見たことにはならないと言われてしまうかも。本来は映画館のスクリーンでイッキ見するべき映画であるはずだ。
しかし正直言って、映画館だったら途中で眠りこけないという自信はない(ーー;) いや、眠りこける自信があると断言しよう。目が覚めてもまだ同じ場面(もしかしたら翌日の💦)だったりして……。
ちなみに台所で肉をこねる場面の経過時間を確認したら(本当に肉をこねているだけ)3分半もあった。

見ていてアケルマン監督は自分の母親をモデルにしたのではないかと思った。少なくとも、スピルバーグの母親(食器を洗わなくていいように毎回使い捨てにする)みたいだったらこんな映画は作るまい。
そもそも監督がこの映画を撮った時は25歳だという⚡ ジャンヌよりも高校生の息子の方に年齢が近いのである。

それとM・ハネケがかなり影響受けているのが分かった。ジャンヌが室内や廊下を行き来する様子に、『ピアニスト』の主人公が自宅でペチペチとサンダルの音を立てて歩いている姿がすぐに思い浮かぶ。
破壊の場面を延々と映した『セブンス・コンチネント』はもろに「主婦」から「家族」へとの拡大版といえる。しかも「3日間」ではなくて「3年間」だ。
--という発見もあった。

今回、アケルマン特集放映したザ・シネマはHPやツイッターでほとんど宣伝してないのはちと残念。もっと宣伝すれば映画マニアが全国で8人ぐらいは加入してくれたかもよ。

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2023年1月 5日 (木)

「スペンサー ダイアナの決意」:皇太子妃、三界に屋敷なし

監督:パブロ・ラライン
出演:クリステン・スチュワート
イギリス・チリ・ドイツ・米国2021年

ダイアナ妃が離婚の決意に至る心理をたどる作品。
正攻法で順を追っていくのではなく、結婚10年目のクリスマスの三日間に全てを凝縮して描くという手法を取っている。
一般人の妻でも正月に親類が集まる夫の実家に行くという「儀式」は憂鬱なことがほとんどだろうが、その上夫とは別居中、人里離れた暗~い屋敷で(暖房もない!)厳格な当主であるエリザベス女王はまさに家父長の権化のようである。

その様相はJ・グリーンウッドの音楽のせいもあってかゴシックホラーっぽい。周囲を亡霊ならぬ過去(と現在)の人々に囲まれて、もういつ陰鬱な廊下の奥に双子が立っててもおかしくないというほどだ。監督は『シャイニング』などの過去作品を意識しているのが見ててよーく分かる。
怖い「家長」の他に監視役の侍従がいるのもゴシックホラーの定番だ。重苦しい晩餐に加えてトイレやバスルームが恐怖の吹き溜まりとなる。
幸福だった子どもの頃を過ごした実家の屋敷は崩壊寸前、カカシが懐古的な何事かを訴えてくる。

しかしそれらを取っ払ってしまうと、夫にうとまれた女が「母」であることと「父の娘」であることに生きがいを見つけるしかない、というのはあまりにも狭苦しい結論ではないか。そして女の世界を「娘」「妻」「母」の三つに区切っているのは誰なのよと思わざるを得ない。
ホラー手法や役者の演技には感心するが、テーマの描き方は大いに不満となった。

摂食障害であるダイアナが頻繁に吐く場面が出てくるのだが、映画で「吐く」のは女限定の行為なのだろうか。男が心理的に追い詰められ吐いているというのは、どうもあまり見た記憶がない。

クリステン・スチュワートは熱演。年度末の賞レースで連続してノミネートし、アカデミー賞も主演女優賞確実と言われていたが途中で流れが変わって結局受賞には至らなかった。
侍従のティモシー・スポールは慇懃無礼芸が炸裂💥
ラストに流れるマイク&ザ・メカニクスの歌詞はぜひ字幕を付けてほしかった。なんで重要なところで手抜きになるのさ。

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2022年11月19日 (土)

映画落穂拾い2022年後半編その1

一部、今年の前半に見た映画も入っていますが、細かいことは気にしないように。

「タミー・フェイの瞳」
監督:マイケル・ショウォルター
出演:ジェシカ・チャステイン、アンドリュー・ガーフィールド
米国2021年
*オンデマンド視聴

アカデミー賞の主演女優賞とメイクアップ&ヘアスタイリング賞を見事獲得した本作、日本では配信のみであった。もっともそれも仕方ないだろう。実話を元にしているのだが、日本ではほとんど知られていないからだ。

主人公は貧しくも信仰深い生活の中からTV宣教師となり絶大な人気を博した女性で、その一代記である。
最初はA・ガーフィールド扮する夫とまるで夫婦漫才を演じているようなコミカルな展開だ。しかし人気絶頂となってから段々と不正の道(資金横領)へ踏み込んでしまう。素朴に神に感謝を示して人に愛を与え続けるだけでは物足りなくなるものなのだろうか。
さらに加えて夫婦関係にも問題発生。ガーフィールドは裏表ないような笑顔を見せまくって、実はウラがあるという役を着実に演じている。
全体に誇張された描写が続いてなんだか作り物めいた作風ではあるものの、それこそがこの夫婦の真実なのかもしれない。

チャスティンは数十年の経過をそっくり派手メイクで演じ、流行歌風讃美歌も達者に歌いまくった。まさに賞取りレースに果敢に挑んでいる。笑ったのは、宣教師仲間の奥さんのミンクコートを一瞬だけギロッと羨望のまなざしで見るという演技。さすがである。

ただ、問題なのは同じ実話映画化の『愛すべき夫妻の秘密』とかなり題材と内容がかぶっていること。しかも主演女優賞候補で激突だ~💥
向こうはアーロン・ソーキン監督・脚本だから見た印象はかなり異なるけど。冷静に比べればニコールよりもジェシカの方に軍配を上げざるを得ない。
ところで実在の人物を演じるのが各演技賞へ近道なんですかね(^^?


221119「神々の山嶺」(字幕版)
監督:パトリック・インバート
声の出演:堀内賢雄、大塚明夫
フランス・ルクセンブルク2021年

夢枕獏の原作小説を谷口ジローがマンガ化、さらにそれをフランスでアニメーション化したものである。(なお小説・マンガ双方とも未読です)
他国では配信のみらしいが日本だけ映画館でも上映となったらしい。吹替が付いてるのも日本版だけだそうだが、声優はあちらからのご指名とのことである。

エベレストの前人未到ルートに執着する登山家、さらにその男をカメラマンが執念深く追う。
何より高山の描写が美しい。晴れた時の陽光、夕焼けに染まる雪、けぶるように迫ってくる嵐。そして画面を覆う「白」……それらが本来の主人公と言っていいほどだ。あまりの迫力に、語る言葉が全て無化していくようである。
雪崩の予兆のコキーンという音響も迫力だった。こわいこわい(>y<;)
とても上映時間94分とは信じられない中身の充実ぶりである。見終わってグッタリした気分。原作では女性が登場するそうだが、そこら辺はバッサリ切られている。

今後機会があるかどうか不明だが、ぜひ大きな画面での鑑賞をオススメしたい。
昭和の終わりぐらい(?)の日本の描写が色々と登場することも話題となった。また、居酒屋の場面に高畑&ハヤオが一瞬姿を見せるとか。
現金封筒を郵便ポストに入れる場面が何度か登場するが、実際は送れないので真似しないように注意しましょう。

作中の一つのエピソードを見て、突然に大学の時に実際にあった話を数十年ぶりに思い出した。登山部の男子が富士山で歩けなくなった見ず知らずのおじーさんに遭遇して、ずっと背負って下山したというのである。彼は私と同じくらいのチビで、おまわりさんに小学生と間違われたほどなのだが(;^ω^) よほどの体力がないとできません。

221209
「L.A.コールドケース」
監督:ブラッド・ファーマン
出演:ジョニー・デップ、フォレスト・ウィテカー
米国・イギリス2018年

4年前製作の作品を今なぜ公開なの(?_?)という疑問は置いといて、90年代に起こった人気ラッパー連続銃撃事件(2パックとノトーリアス・B.I.G.)の真相に迫る実録犯罪サスペンスである。

扱う事件は派手にもかかわらず映画のテイストは一貫して「晦渋」だ。派手な場面や展開はなく、見ていて「うむむ」と唸ってしまうようなトーンである💦
ほとんど偶然のような形で事件捜査に関わり、深入りし過ぎてついには警察から追われてしまう元刑事。そして十数年後にジャーナリストが彼に接近する。その真相は、謎と嘘が重なって真実が分かると皆が困るという迷宮状態だ。

明らかになるのはラッパーをめぐる音楽ビジネスの闇--かと思ったら全く違って、LA警察の腐敗であった。腐敗といっても暴力警官がいるというレベルではなくて、暴力団の類いがバッジと銃を持って「警察」と名乗っているようなもんである。犯罪やってもおとがめなしよ( ̄▽ ̄)
BLMが盛り上がった時に同じようなことを指摘したドキュメンタリー(確かTVで)を見た覚えがある。恐るべし。
ということなので見終わってスッキリしないのは仕方ない。あまりにもスッキリしなさ過ぎだ。

平日の昼間に見たので、ラッパーには縁のなさそうな年寄りの観客多数だった(;^_^A


さて、シネコンのチラシコーナーを見ていたら、後ろから中年女性がエコバッグをパッと広げて近づいてきた。何をするかと思ったらチラシを選んでニ、三十枚ガバと取ってバッグに入れていくんである。中には根こそぎ全部持っていってしまうチラシもあった。
ビックリである。
そんなに持って帰ってどうするのだろう。ネットオークションの類いに出すのだろうか。謎である。
よく「一作品一枚でお願いします」という注意書きを出している映画館があるが、まさにその犯行現場を初めて見たですよ👀

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2022年9月28日 (水)

映画落穂拾い2022年前半編その2

220928a 忘れた頃にやってくる落穂拾い、書いてる本人も忘れています。

「白い牛のバラッド」

監督:ベタシュ・サナイハ、マリヤム・モガッダム
出演:マリヤム・モガッダム
イラン・フランス 2020年

冤罪死刑問題をテーマにしたイラン映画である。国内では上映中止になったらしい。
夫が死刑に処された後に冤罪が明らかになった未亡人のところに、夫の旧友を名乗る男が現れて親しくなっていく。
ところがその男の正体は……というとサスペンスぽいが、罪をめぐる人間の葛藤と構造的な社会問題を取り上げた作品だ。

彼女は障害児を抱えたシングルマザーでアパート入居断られたり、夫の親族が強引でもめるとか、冤罪が判明しても国側が賠償金出し渋るなどトラブル続きである。そこに立ちはだかる困難はイラン特有というよりは日本でも起こりそうな事案だ。
男はそれを親身になって手助けしてくれるのだった。

ただ、無理筋な展開を押し込めた感じはややぬぐえない。それと男の行動はあまりに自分勝手が過ぎるのでは?
それとラストをどう解釈したらいいのか分からなかった。見る人によって大きく異なっていて釈然としない。なんとかしてほしい(--〆)

一方、映像面では印象的なカットやカメラワークが多数登場。特に、あのカメラが道路を渡ってゆっくり戻ってくる場面はドキドキしてしまった。
でも一番怖かったのは、車を運転しながらCD探すところだった。いつ事故になるかとハラハラした。や~めてくれ~(>O<)

イラン映画で女性がスカーフ取って髪を全部出したのを見たのは初めてのような👀

220928b
「英雄の証明」
監督:アスガー・ファルハディ
出演:アミール・ジャディディ
イラン・フランス 2021年

もはや巨匠と呼ばれるファルハディ監督の新作、日本公開直前にケチが付いてしまった。
若い女性監督のドキュメンタリーを盗作したという疑惑が起こり、裁判沙汰になったのである。まだ係争中らしいが、アカデミー賞の候補に漏れたのはそのせいではないかなどと噂が噂を呼んだ。

取りあえずそれは置いといて\(^-^\) (/^-^)/ ←あえて昔の顔文字を使ってみた。

借金問題で受刑中の男が一時外出中に金貨の入ったバッグを拾う。そしてそれを持ち主に返したという美談がマスメディアで評判になる。
しかしその裏の真実は……嘘を一つ付けばそれを隠すためにさらに嘘に嘘を重ねて、様々な人を巻き込み肥大化して転がっていく。一体どう進んでいくのか先の見えない展開でハラハラしてしまう。

主人公の後先考えないプッツンぶりも悪いが、刑務所側もかなりひどい。かなり容赦なく描かれている。
また、そもそもこの事件が実際起こったことというのがまたビックリである。(世間で騒がれた事件なので、件のドキュメンタリーを盗作したわけではないという弁解も成り立つらしい)

ファルハディ監督の過去作に比べると今一つキレと余裕がないように思えた。とはいえラストシーンは極めて印象的だった。
子役の使い方は相変わらずうまい。息子だけでなく二人のいとこ役もよかった。主演俳優については口元がいつもニヤついているのがちと気に入らず(ーー;)

邦題については過去のレイフ・ファインズ主演作品に全く同じものがあるじゃないの。何とかしてくださいっ💢

220928c
「親愛なる同志たちへ」

監督:アンドレイ・コンチャロフスキー
出演:ユリア・ヴィソツカヤ
ロシア2020年

激動のロシア情勢、一体今見ずしていつ見るか~🔥という中で日本公開になったコンチャロフスキー監督作品だ。

スターリン後のフルシチョフ時代のソ連、食糧不足と賃下げにより工場ストライキが起こる。大規模な抗議行動は突然に流血の惨事に--という、1962年にウクライナ近くの都市で起こった虐殺事件を元にしている。
ヒロインはスターリン支持者だが現体制に忠実な共産党幹部、しかし娘は工場ストライキへ。一方年老いた父はスターリンをひたすら懐かしむ、という世代によって分断されている状況である。

軍は群衆に発砲をためらうが、KGBが陰で暗躍して事態は急展開する⚡
次々と銃撃される市民、集められる遺体、封鎖された街、迫力あり過ぎな描写で描かれている。現在のウクライナを想起させる場面も出てくる。怖い(>y<;)
スト参加の娘を探すうちに、主人公は自らの価値観が引き裂かれていく。

ただ、やはりロシア近現代史・ソ連史の知識がないと真の理解は難しいかも。それとKGB男が彼女にあれだけのことをしてやった理由が明確に描かれていなくてどうも解せない。
母娘のラストシーンをどう解釈していいのかも戸惑った。


なお、コンチャロフスキー監督とニキータ・ミハルコフ(プーチンの熱烈支持者らしい)って兄弟だったのか。初めて知った。また主役を演じるユリア・ヴィソツカヤは監督の36歳年下の奥さん、とのこと。

彼は朝日新聞のインタビューでウクライナをどうとらえているか、こう述べている。
《西欧と東欧の対立は何世紀にもわたる古い問題だ。西側のリベラルな哲学に誘惑されたウクライナ人に深い同情の念を抱いているが、彼らは東欧の人間で西欧の人間とは違う。》

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2022年9月 2日 (金)

祝🎀パゾリーニ生誕100年「王女メディア」「テオレマ」

220902a「王女メディア」
監督:ピエル・パオロ・パゾリーニ
出演:マリア・カラス
イタリア・フランス・西ドイツ1969年

見てからかなり時間がたってしまったが取りあえず書いてみる。
自らをよくよく顧みればパゾリーニってこれまで見たことないな💦という、ふがいない映画ファンなのであーる。
ギリシャ悲劇「メディア」の映画化ではあるけど、原作のセリフを削りまくり(よく喋るのはケンタウロスのみ)あくまで映像と音を優先。作り上げられたイメージはあまりに毒気タップリ💀野蛮💥洗練のセの字もなしっ(@_@)で目が回りそうである。

私は芝居の「メディア」は過去に様々な劇団の公演を鑑賞しているが、この強烈な映画がその後の上演に影響を及ぼしただろうことは疑うまでもない。「元ネタはこれか(!o!)」と納得した。

荒れ地を舞台に原初的で残酷な生贄の儀式が描かれ、そのまま神話のメディアのエピソードへと流れ込む。
マリア・カラス扮するメディアは見るからにコワい(>y<;) イアソンに「にーちゃん、その女だけは止めておけ」と言いたくなる。でも彼は「軽薄な若者」枠なので何も考えておらずズルズルと引き込まれてしまうのだ。
ただ後半が飛躍し過ぎで元のストーリーを知らないと訳が分からなくなる状態だろう。

日本も含む世界各地の伝統音楽・衣装・美術がゴッタ煮状態で使われていて、またそのパワーが有無を言わせぬ。ロケ地の浮世離れした風景がそれに拍車をかける。
参りました~m(__)mガバッ

それにしても殺される者が必ず笑っているのはなぜなのかな。

220902b
「テオレマ」
監督:ピエル・パオロ・パゾリーニ
出演:テレンス・スタンプ
イタリア1968年

長いこと一部の人々に「テレンス・スタンプが美しい✨」の一言で伝えられてきた(多分)伝説の一作。

いや、確かに彼は美しいんだけどさ……。前半、いくばくもたたぬうちに彼は消えてしまってもう登場しないではないか。その後に残るは奇跡のみか??
私は宗教に縁なき衆生の一人とはいえ、普通に解釈すれば嵐のように現れて嵐のように去っていく若者はキリストの再来であり、中心となるのはそれに触れた人々の変容の方なんだろうぐらいは分かる。

彼は退廃したブルジョワ一家の大邸宅に出現して家政婦を含む全員と関係を持つと、相手の一家の方は聖人や芸術家や寝たきりになる。中でも変貌激しいのは主人とその妻であり、全てを投げうち自暴自棄としか言えない行動をとる。
まこと金持ちが天国に行くのはラクダが針の穴を通るより難しい🚫ということであろうか。

本筋から外れるが、見てて気になったのは奥さんの行動。「娼婦になった」とされているけど、どちらかというと「有閑マダムが若いツバメを買う」という行動っぽい。いずれにしろ田舎町の側溝の中で……って、首絞められて財布と車取られたらどーするの(+o+)などと震え上がってしまった。

T・スタンプの股間に向けてグイグイ食い込んでいくカメラや、男の下着を注視するように撮るフェチぶりには笑った。

レコーダーのハードディスクの中にパゾリーニ監督作が一つぐらい沈んでいるはずなので、さらに見て修行したい。
折角の記念イヤーならば、W・デフォーがパゾリーニを演じた映画も公開してほしかったぞ。

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