映画(タイトル「サ」「タ」行)

2023年1月 5日 (木)

「スペンサー ダイアナの決意」:皇太子妃、三界に屋敷なし

監督:パブロ・ラライン
出演:クリステン・スチュワート
イギリス・チリ・ドイツ・米国2021年

ダイアナ妃が離婚の決意に至る心理をたどる作品。
正攻法で順を追っていくのではなく、結婚10年目のクリスマスの三日間に全てを凝縮して描くという手法を取っている。
一般人の妻でも正月に親類が集まる夫の実家に行くという「儀式」は憂鬱なことがほとんどだろうが、その上夫とは別居中、人里離れた暗~い屋敷で(暖房もない!)厳格な当主であるエリザベス女王はまさに家父長の権化のようである。

その様相はJ・グリーンウッドの音楽のせいもあってかゴシックホラーっぽい。周囲を亡霊ならぬ過去(と現在)の人々に囲まれて、もういつ陰鬱な廊下の奥に双子が立っててもおかしくないというほどだ。監督は『シャイニング』などの過去作品を意識しているのが見ててよーく分かる。
怖い「家長」の他に監視役の侍従がいるのもゴシックホラーの定番だ。重苦しい晩餐に加えてトイレやバスルームが恐怖の吹き溜まりとなる。
幸福だった子どもの頃を過ごした実家の屋敷は崩壊寸前、カカシが懐古的な何事かを訴えてくる。

しかしそれらを取っ払ってしまうと、夫にうとまれた女が「母」であることと「父の娘」であることに生きがいを見つけるしかない、というのはあまりにも狭苦しい結論ではないか。そして女の世界を「娘」「妻」「母」の三つに区切っているのは誰なのよと思わざるを得ない。
ホラー手法や役者の演技には感心するが、テーマの描き方は大いに不満となった。

摂食障害であるダイアナが頻繁に吐く場面が出てくるのだが、映画で「吐く」のは女限定の行為なのだろうか。男が心理的に追い詰められ吐いているというのは、どうもあまり見た記憶がない。

クリステン・スチュワートは熱演。年度末の賞レースで連続してノミネートし、アカデミー賞も主演女優賞確実と言われていたが途中で流れが変わって結局受賞には至らなかった。
侍従のティモシー・スポールは慇懃無礼芸が炸裂💥
ラストに流れるマイク&ザ・メカニクスの歌詞はぜひ字幕を付けてほしかった。なんで重要なところで手抜きになるのさ。

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2022年11月19日 (土)

映画落穂拾い2022年後半編その1

一部、今年の前半に見た映画も入っていますが、細かいことは気にしないように。

「タミー・フェイの瞳」
監督:マイケル・ショウォルター
出演:ジェシカ・チャステイン、アンドリュー・ガーフィールド
米国2021年
*オンデマンド視聴

アカデミー賞の主演女優賞とメイクアップ&ヘアスタイリング賞を見事獲得した本作、日本では配信のみであった。もっともそれも仕方ないだろう。実話を元にしているのだが、日本ではほとんど知られていないからだ。

主人公は貧しくも信仰深い生活の中からTV宣教師となり絶大な人気を博した女性で、その一代記である。
最初はA・ガーフィールド扮する夫とまるで夫婦漫才を演じているようなコミカルな展開だ。しかし人気絶頂となってから段々と不正の道(資金横領)へ踏み込んでしまう。素朴に神に感謝を示して人に愛を与え続けるだけでは物足りなくなるものなのだろうか。
さらに加えて夫婦関係にも問題発生。ガーフィールドは裏表ないような笑顔を見せまくって、実はウラがあるという役を着実に演じている。
全体に誇張された描写が続いてなんだか作り物めいた作風ではあるものの、それこそがこの夫婦の真実なのかもしれない。

チャスティンは数十年の経過をそっくり派手メイクで演じ、流行歌風讃美歌も達者に歌いまくった。まさに賞取りレースに果敢に挑んでいる。笑ったのは、宣教師仲間の奥さんのミンクコートを一瞬だけギロッと羨望のまなざしで見るという演技。さすがである。

ただ、問題なのは同じ実話映画化の『愛すべき夫妻の秘密』とかなり題材と内容がかぶっていること。しかも主演女優賞候補で激突だ~💥
向こうはアーロン・ソーキン監督・脚本だから見た印象はかなり異なるけど。冷静に比べればニコールよりもジェシカの方に軍配を上げざるを得ない。
ところで実在の人物を演じるのが各演技賞へ近道なんですかね(^^?


221119「神々の山嶺」(字幕版)
監督:パトリック・インバート
声の出演:堀内賢雄、大塚明夫
フランス・ルクセンブルク2021年

夢枕獏の原作小説を谷口ジローがマンガ化、さらにそれをフランスでアニメーション化したものである。(なお小説・マンガ双方とも未読です)
他国では配信のみらしいが日本だけ映画館でも上映となったらしい。吹替が付いてるのも日本版だけだそうだが、声優はあちらからのご指名とのことである。

エベレストの前人未到ルートに執着する登山家、さらにその男をカメラマンが執念深く追う。
何より高山の描写が美しい。晴れた時の陽光、夕焼けに染まる雪、けぶるように迫ってくる嵐。そして画面を覆う「白」……それらが本来の主人公と言っていいほどだ。あまりの迫力に、語る言葉が全て無化していくようである。
雪崩の予兆のコキーンという音響も迫力だった。こわいこわい(>y<;)
とても上映時間94分とは信じられない中身の充実ぶりである。見終わってグッタリした気分。原作では女性が登場するそうだが、そこら辺はバッサリ切られている。

今後機会があるかどうか不明だが、ぜひ大きな画面での鑑賞をオススメしたい。
昭和の終わりぐらい(?)の日本の描写が色々と登場することも話題となった。また、居酒屋の場面に高畑&ハヤオが一瞬姿を見せるとか。
現金封筒を郵便ポストに入れる場面が何度か登場するが、実際は送れないので真似しないように注意しましょう。

作中の一つのエピソードを見て、突然に大学の時に実際にあった話を数十年ぶりに思い出した。登山部の男子が富士山で歩けなくなった見ず知らずのおじーさんに遭遇して、ずっと背負って下山したというのである。彼は私と同じくらいのチビで、おまわりさんに小学生と間違われたほどなのだが(;^ω^) よほどの体力がないとできません。

221209
「L.A.コールドケース」
監督:ブラッド・ファーマン
出演:ジョニー・デップ、フォレスト・ウィテカー
米国・イギリス2018年

4年前製作の作品を今なぜ公開なの(?_?)という疑問は置いといて、90年代に起こった人気ラッパー連続銃撃事件(2パックとノトーリアス・B.I.G.)の真相に迫る実録犯罪サスペンスである。

扱う事件は派手にもかかわらず映画のテイストは一貫して「晦渋」だ。派手な場面や展開はなく、見ていて「うむむ」と唸ってしまうようなトーンである💦
ほとんど偶然のような形で事件捜査に関わり、深入りし過ぎてついには警察から追われてしまう元刑事。そして十数年後にジャーナリストが彼に接近する。その真相は、謎と嘘が重なって真実が分かると皆が困るという迷宮状態だ。

明らかになるのはラッパーをめぐる音楽ビジネスの闇--かと思ったら全く違って、LA警察の腐敗であった。腐敗といっても暴力警官がいるというレベルではなくて、暴力団の類いがバッジと銃を持って「警察」と名乗っているようなもんである。犯罪やってもおとがめなしよ( ̄▽ ̄)
BLMが盛り上がった時に同じようなことを指摘したドキュメンタリー(確かTVで)を見た覚えがある。恐るべし。
ということなので見終わってスッキリしないのは仕方ない。あまりにもスッキリしなさ過ぎだ。

平日の昼間に見たので、ラッパーには縁のなさそうな年寄りの観客多数だった(;^_^A


さて、シネコンのチラシコーナーを見ていたら、後ろから中年女性がエコバッグをパッと広げて近づいてきた。何をするかと思ったらチラシを選んでニ、三十枚ガバと取ってバッグに入れていくんである。中には根こそぎ全部持っていってしまうチラシもあった。
ビックリである。
そんなに持って帰ってどうするのだろう。ネットオークションの類いに出すのだろうか。謎である。
よく「一作品一枚でお願いします」という注意書きを出している映画館があるが、まさにその犯行現場を初めて見たですよ👀

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2022年9月28日 (水)

映画落穂拾い2022年前半編その2

220928a 忘れた頃にやってくる落穂拾い、書いてる本人も忘れています。

「白い牛のバラッド」

監督:ベタシュ・サナイハ、マリヤム・モガッダム
出演:マリヤム・モガッダム
イラン・フランス 2020年

冤罪死刑問題をテーマにしたイラン映画である。国内では上映中止になったらしい。
夫が死刑に処された後に冤罪が明らかになった未亡人のところに、夫の旧友を名乗る男が現れて親しくなっていく。
ところがその男の正体は……というとサスペンスぽいが、罪をめぐる人間の葛藤と構造的な社会問題を取り上げた作品だ。

彼女は障害児を抱えたシングルマザーでアパート入居断られたり、夫の親族が強引でもめるとか、冤罪が判明しても国側が賠償金出し渋るなどトラブル続きである。そこに立ちはだかる困難はイラン特有というよりは日本でも起こりそうな事案だ。
男はそれを親身になって手助けしてくれるのだった。

ただ、無理筋な展開を押し込めた感じはややぬぐえない。それと男の行動はあまりに自分勝手が過ぎるのでは?
それとラストをどう解釈したらいいのか分からなかった。見る人によって大きく異なっていて釈然としない。なんとかしてほしい(--〆)

一方、映像面では印象的なカットやカメラワークが多数登場。特に、あのカメラが道路を渡ってゆっくり戻ってくる場面はドキドキしてしまった。
でも一番怖かったのは、車を運転しながらCD探すところだった。いつ事故になるかとハラハラした。や~めてくれ~(>O<)

イラン映画で女性がスカーフ取って髪を全部出したのを見たのは初めてのような👀

220928b
「英雄の証明」
監督:アスガー・ファルハディ
出演:アミール・ジャディディ
イラン・フランス 2021年

もはや巨匠と呼ばれるファルハディ監督の新作、日本公開直前にケチが付いてしまった。
若い女性監督のドキュメンタリーを盗作したという疑惑が起こり、裁判沙汰になったのである。まだ係争中らしいが、アカデミー賞の候補に漏れたのはそのせいではないかなどと噂が噂を呼んだ。

取りあえずそれは置いといて\(^-^\) (/^-^)/ ←あえて昔の顔文字を使ってみた。

借金問題で受刑中の男が一時外出中に金貨の入ったバッグを拾う。そしてそれを持ち主に返したという美談がマスメディアで評判になる。
しかしその裏の真実は……嘘を一つ付けばそれを隠すためにさらに嘘に嘘を重ねて、様々な人を巻き込み肥大化して転がっていく。一体どう進んでいくのか先の見えない展開でハラハラしてしまう。

主人公の後先考えないプッツンぶりも悪いが、刑務所側もかなりひどい。かなり容赦なく描かれている。
また、そもそもこの事件が実際起こったことというのがまたビックリである。(世間で騒がれた事件なので、件のドキュメンタリーを盗作したわけではないという弁解も成り立つらしい)

ファルハディ監督の過去作に比べると今一つキレと余裕がないように思えた。とはいえラストシーンは極めて印象的だった。
子役の使い方は相変わらずうまい。息子だけでなく二人のいとこ役もよかった。主演俳優については口元がいつもニヤついているのがちと気に入らず(ーー;)

邦題については過去のレイフ・ファインズ主演作品に全く同じものがあるじゃないの。何とかしてくださいっ💢

220928c
「親愛なる同志たちへ」

監督:アンドレイ・コンチャロフスキー
出演:ユリア・ヴィソツカヤ
ロシア2020年

激動のロシア情勢、一体今見ずしていつ見るか~🔥という中で日本公開になったコンチャロフスキー監督作品だ。

スターリン後のフルシチョフ時代のソ連、食糧不足と賃下げにより工場ストライキが起こる。大規模な抗議行動は突然に流血の惨事に--という、1962年にウクライナ近くの都市で起こった虐殺事件を元にしている。
ヒロインはスターリン支持者だが現体制に忠実な共産党幹部、しかし娘は工場ストライキへ。一方年老いた父はスターリンをひたすら懐かしむ、という世代によって分断されている状況である。

軍は群衆に発砲をためらうが、KGBが陰で暗躍して事態は急展開する⚡
次々と銃撃される市民、集められる遺体、封鎖された街、迫力あり過ぎな描写で描かれている。現在のウクライナを想起させる場面も出てくる。怖い(>y<;)
スト参加の娘を探すうちに、主人公は自らの価値観が引き裂かれていく。

ただ、やはりロシア近現代史・ソ連史の知識がないと真の理解は難しいかも。それとKGB男が彼女にあれだけのことをしてやった理由が明確に描かれていなくてどうも解せない。
母娘のラストシーンをどう解釈していいのかも戸惑った。


なお、コンチャロフスキー監督とニキータ・ミハルコフ(プーチンの熱烈支持者らしい)って兄弟だったのか。初めて知った。また主役を演じるユリア・ヴィソツカヤは監督の36歳年下の奥さん、とのこと。

彼は朝日新聞のインタビューでウクライナをどうとらえているか、こう述べている。
《西欧と東欧の対立は何世紀にもわたる古い問題だ。西側のリベラルな哲学に誘惑されたウクライナ人に深い同情の念を抱いているが、彼らは東欧の人間で西欧の人間とは違う。》

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2022年9月 2日 (金)

祝🎀パゾリーニ生誕100年「王女メディア」「テオレマ」

220902a「王女メディア」
監督:ピエル・パオロ・パゾリーニ
出演:マリア・カラス
イタリア・フランス・西ドイツ1969年

見てからかなり時間がたってしまったが取りあえず書いてみる。
自らをよくよく顧みればパゾリーニってこれまで見たことないな💦という、ふがいない映画ファンなのであーる。
ギリシャ悲劇「メディア」の映画化ではあるけど、原作のセリフを削りまくり(よく喋るのはケンタウロスのみ)あくまで映像と音を優先。作り上げられたイメージはあまりに毒気タップリ💀野蛮💥洗練のセの字もなしっ(@_@)で目が回りそうである。

私は芝居の「メディア」は過去に様々な劇団の公演を鑑賞しているが、この強烈な映画がその後の上演に影響を及ぼしただろうことは疑うまでもない。「元ネタはこれか(!o!)」と納得した。

荒れ地を舞台に原初的で残酷な生贄の儀式が描かれ、そのまま神話のメディアのエピソードへと流れ込む。
マリア・カラス扮するメディアは見るからにコワい(>y<;) イアソンに「にーちゃん、その女だけは止めておけ」と言いたくなる。でも彼は「軽薄な若者」枠なので何も考えておらずズルズルと引き込まれてしまうのだ。
ただ後半が飛躍し過ぎで元のストーリーを知らないと訳が分からなくなる状態だろう。

日本も含む世界各地の伝統音楽・衣装・美術がゴッタ煮状態で使われていて、またそのパワーが有無を言わせぬ。ロケ地の浮世離れした風景がそれに拍車をかける。
参りました~m(__)mガバッ

それにしても殺される者が必ず笑っているのはなぜなのかな。

220902b
「テオレマ」
監督:ピエル・パオロ・パゾリーニ
出演:テレンス・スタンプ
イタリア1968年

長いこと一部の人々に「テレンス・スタンプが美しい✨」の一言で伝えられてきた(多分)伝説の一作。

いや、確かに彼は美しいんだけどさ……。前半、いくばくもたたぬうちに彼は消えてしまってもう登場しないではないか。その後に残るは奇跡のみか??
私は宗教に縁なき衆生の一人とはいえ、普通に解釈すれば嵐のように現れて嵐のように去っていく若者はキリストの再来であり、中心となるのはそれに触れた人々の変容の方なんだろうぐらいは分かる。

彼は退廃したブルジョワ一家の大邸宅に出現して家政婦を含む全員と関係を持つと、相手の一家の方は聖人や芸術家や寝たきりになる。中でも変貌激しいのは主人とその妻であり、全てを投げうち自暴自棄としか言えない行動をとる。
まこと金持ちが天国に行くのはラクダが針の穴を通るより難しい🚫ということであろうか。

本筋から外れるが、見てて気になったのは奥さんの行動。「娼婦になった」とされているけど、どちらかというと「有閑マダムが若いツバメを買う」という行動っぽい。いずれにしろ田舎町の側溝の中で……って、首絞められて財布と車取られたらどーするの(+o+)などと震え上がってしまった。

T・スタンプの股間に向けてグイグイ食い込んでいくカメラや、男の下着を注視するように撮るフェチぶりには笑った。

レコーダーのハードディスクの中にパゾリーニ監督作が一つぐらい沈んでいるはずなので、さらに見て修行したい。
折角の記念イヤーならば、W・デフォーがパゾリーニを演じた映画も公開してほしかったぞ。

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2022年7月12日 (火)

「ドンバス」:不道徳かつ不健全な真実

220712 監督:セルゲイ・ロズニツァ
出演:タマラ・ヤツェンコ
ドイツ・ウクライナ・フランス・オランダ・ルーマニア・ポーランド2018年

今見ずしていつ見るか👀というテーマのロズニツァ監督作品、登場である。
ドキュメンタリー「群衆」三部作は面白いんだか面白くないんだか判然としないままに全作つい見てしまったのだが、彼が作る劇映画というのはどういうものなのか、一度見てみたいと思っていた。
それがロシアによるウクライナ侵攻によって急遽、緊急公開となったらしい(もっとも、そもそもはドキュメンタリー『マイダン』をやるつもりだったとか)。

内容はオムニバス形式で13のエピソードを円環状につないだもので、一部の人物が次のエピソードに登場したりするがほぼ相互関係なく続いていく。舞台は2014年から親ロシア派が支配するウクライナ東部ドンバス地方である。
いずれも実際に起こった出来事を元にしたというが、少し前だったら正直バカバカしすぎて「こんなんあるか👊」と信じがたい不条理な内容ばかりだ。でも最近のウクライナのニュース映像を見た後だと、ほとんどそのまんまなのである(゜o゜)

地下シェルターで暮らす人々、検問所、破壊されたバス、捕虜をいたぶる市民、フェイクニュース、突然襲う砲撃(音響がすごい)←特にこれは少し前に見た香港のジャーナリストが砲撃受ける映像が、ほぼ同じような感じだった。コワ過ぎである。

しかしながら、それらの出来事はブラックユーモアを混ぜて突き放して描かれていて、そこには社会性とかヒューマニズムとか感動の類いは何もない。そういうものを期待してはイカンのである。
結婚式の場面に至ってはただただ醜悪でバカらしい。しかも、新郎新婦役を演じているのが本物の夫婦だという……💨

一番イヤ~ッ(>O<)と思ったのは、取材に来たドイツ人ジャーナリストが兵士たちから「ファシストファシスト」と呼ばれた挙句「お前はファシストじゃなくても、お前のじーさんはファシストだったろ」と詰められる場面。
日本人も所と場合によっては似たようなことを言われそうかも(?_?;

逆に言えば、今回の戦争がなかったら果たして日本公開されたかどうか分からないほどの取っつきの悪い内容である(そもそも紛争の背景とか地理関係とかほとんど理解できなかったかも)。
ここまで人間の醜悪さを見せる作品であるから観客を選ぶことは確かだろう。心してご覧くだせえ。


なお、ロズニツァ監督はベラルーシ生まれで、ウクライナ育ち。学校を出て当地で働いていたが、ソ連崩壊後にモスクワの映画学校に入ったという複雑な経歴である(現在の本拠地はドイツ)。しかも母語はロシア語で名前もロシア語読みだという。
ウクライナ侵攻が始まった時にヨーロッパ映画アカデミーのロシアへの対応がぬるいと批判して退会を表明。
一方、ウクライナ映画アカデミーがロシア映画ボイコットを呼び掛けた際に、自国政府を批判するロシア人監督の作品まで含めるのはおかしいと異議を唱えたところ、こちらは除名処分にあってしまった。

さらに今年の秋に日本公開予定のドキュメンタリーは内容的にかなり問題作だったもよう。
「私はこれまでの人生で、いかなる共同体、グループ、協会、または、「圏」を代表したことはありません」(プログラムより引用)
しばらくロズニツァから目が離せないようである。

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2022年6月23日 (木)

「スティルウォーター」:全てを得て、全てを失う

監督:トム・マッカーシー
出演:マット・デイモン
米国2021年

「見ると聞くとは大違い」というのをまざまざと実感した一作である。
実際に見る前の、目にした予告や宣伝の印象だけだとこんなストーリーに違いないと思った。
《フランスに留学中の一人娘が殺人の嫌疑を受けて獄中に💥 米国オクラホマの田舎町に住む父親は怒り心頭に発し急遽フランスに渡り、言葉も通じぬ中で真犯人を探し回る。
ひょんなことから知り合ったシングルマザーの女性と衝突しながらも協力し、米国とは異なる制度の中で弁護士に食い下がり、マルセイユで不良と渡り合い、執念の調査を続ける中で遂に真実への糸口をつかむのであった--。》

こりゃ、よくある星条旗を背負ったアメリカ人が他国フランスに殴り込みかけて暴れるというパターンではないか。しかも主役がマット・デイモン(ジェイソン・ボーンを想起せよ)とあってはなおさらである。見る気な~し<(`^´)>
--と決め込んでいたら「そういう話じゃない」という感想を幾つか読んだ。そして考えを変えて見ることにしたのだった。

主人公は建築現場で働いているが不況で仕事は少ない。そんな中でも彼は定期的にフランスへ出かけては、数年前から収監されている娘と面会する。差し入れをして洗濯物を受け取り、弁護士に事件調査の進展状況を聞く。
娘を救おうとする地道な繰り返しに男の性格がうかがえる。食前には必ず祈り、他人との会話では丁寧に「サー」と「マム」を付ける。

しかし一方でフランス語をあまり覚えようとはせず、アメフトがスポーツの頂点でありサッカーなど児戯に等しいと考えている。平均的な保守派白人男性であり、選挙では当然トランプに投票する。
娘はそもそもそのような父親に反発して、フランス留学に行ってしまったらしいのだ。

長くフランスにとどまるうちに彼は異文化と接さざるを得ない。
応援するチームが勝ったにもかかわらずサポーターが暴れて火をつけるサッカー場。移民が多く、恐ろしい暴力と敵意に満ちた港町マルセイユ👊こわっ(>y<;)
知り合ったシングルマザーの女性にしても、マイナー劇団の女優であり排外主義を憎むリベラルな人物である。米国にいたら接点は全くない人物だろう。

やがて物語は驚く展開を遂げる。男の意外な真の姿も露わになってくる--いや、意外なことはないのだ。それは事前に全てあらかじめ告げられていたことなのだから。

あらすじを思い返せば確かに紆余曲折波乱万丈なのだが、淡々と話が進んでいくので全くそういう印象はない。だから余計にしみる。
すべての原因が結局主人公に帰していくのは見ててつらい。結末の後に思い返すと目がショボショボしてしまう。
指折り数えて人生で得たものより失ったものの方が多くなったような年齢の人間には、さらに心に刺さるものがあるだろう。静かなる力作と言える。

監督は『スポットライト 世紀のスクープ』のトム・マッカーシー。私はこちらの方が気に入った。次作に期待である。
主役のマット・デイモンについては、実はこれほどうまい役者だとは思っていなかった(すいませんm(__)m)。普段言いなれない皮肉をシングルマザーに向かって言おうとする場面とか。
そのフランス女性を演じているのは『ハウス・オブ・グッチ』で「愛人」役だったカミーユ・コッタンである。あちらではパッとしなかったけど、ここでは溌溂と魅力的で別人のよう。
娘役のアビゲイル・ブレスリン、なんと『リトル・ミス・サンシャイン』のあの子役がすっかり大きくなって✨ 私も歳を取るはずだわなー(+o+)


感想書くのが遅れて、ドタバタしている間にソフトが出て配信にもなってしまった。反省である。

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2022年6月 9日 (木)

「シチリアを征服したクマ王国の物語」(字幕版):食われる前に騙れ

220609 監督:ロレンツォ・マトッティ
声の出演:レイラ・ベクティ
フランス・イタリア2019年

原作はイタリアの作家ブッツァーティの児童文学、フランス在住のイタリア人監督がアニメ化したものである(言語は仏語)。
見ればアッと驚くのはうけあい、とにかく物語も語り口も絵柄もぶっ飛んでいる。

町を回っては芝居を見せる旅芸人の老人と少女の二人組。一夜の寝床を求めて洞窟に入ると、巨大なクマが突如出現する。食われないために二人はクマが登場する持ちネタを必死で披露しようとする。
それは、クマの王の息子が人間にさらわれてしまい亡国の危機に陥る。そのため人間の支配するシチリアへと向かうという波乱万丈の物語だった。

独特の造形・色彩による自然描写に目を奪われる。全体のイメージもキリコのパロディあれば、戦争場面はロシア構成主義が元ネタだろうか。
雪玉を転がし幽霊と踊る。変なものが色々と登場し、イノシシ風船と化け猫には笑ってしまった。魔術師にシチリアの大公--人間も怪しいキャラに欠かない。
次々と起こる奇想天外⚡子どもが吹替版で見ればさぞ楽しいことだろう。

でも、お話の方は色々と含蓄がありそうで一筋縄ではいかぬ。語り手が変わると、当初予定されていた「本編」だけでは終わらない。語り方の巧みさが面白さを2割増ししているようだ。

後から知ったが、原作には少女(たち)は登場しないそうだ。また、後半の展開も映画のオリジナルらしい。どうりでなんとなく今どきのファンタジーぽい感じがした。
とはいえ、突飛な面白さは保証付き。82分という長さもちょうどよい。

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2022年5月19日 (木)

「スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム」「ザ・バットマン」:歳をくっても青二才

220519a「スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム」
監督:ジョン・ワッツ
出演:トム・ホランド
米国2021年

「ザ・バットマン」
監督:マット・リーヴス
出演:ロバート・パティンソン
米国2022年

最も能天気に始まった本『スパイダーマン』シリーズ、一年目は部活にパーティ、二年目は修学旅行、そして三年目は--一気に雰囲気チェンジ⚡ 能天気なお子ちゃまメンタルだった若者が、全てを手放し自己の確立と自立への道を歩むというシビアなものであった。

思いがけない邂逅と、全てを覚悟した最後の決断。ついにこれで学校も「卒業」だ。これまでのシリーズを知る人間には、涙と感動でスクリーンを見る眼が曇るのは必至だろう。

……とは思うものの、心の隅で「やり過ぎじゃないの?」とか「なんだかなあ」などと感じちゃったのも否定できぬ。そこまで畳みかけて感動させたいか??というのは言い過ぎかな。

やはりこれはスパイダーマンが本当に好きな人にこそふさわしい映画なのだろう。
私のように各シリーズを適当につまんで見ている人間には向いてないようだ。そもそも過去作復習するの面倒くさい、などと思っている段階で失格だ~。

それにしても豪華出演陣には目がくらむ✨ 一体これで採算がとれるのか(?_?)などと心配しちゃったが、公開するなり特大大大ヒットで、あっという間に取り戻せたらしい。
まあ、とりあえずウィレム・デフォーとアルフレッド・モリナのファンは見て損なしとだけは言っておこう。

ただ、クライマックス後の状態がどういうものなのか今一つよく分からなかった。少なくともIDは存在しているんだよね。そうじゃなきゃ不法入国者と同じになっちゃう。

それにしてもパラレルワールドにマルチバース💥両方揃ったらもはやなんでもありじゃないの、などと思ったりして。


220519b 続いて『ザ・バットマン』、SNS上の略号は「ザバ」だ。
これまでのバットマンは表の顔は推定年齢30代、富豪の軽薄なプレイボーイだった。しかし、この度のシリーズでは一転してバットマンなり立てホヤホヤのまだ2年。当人は、若くて資産があるのに暗い洞窟内で孤独に暮らすヒッキーの変人として市民に認知されている。
冒頭数分見ていると「あー、今度の主人公は鬱陶しいヤツだ」と悟れる仕組みだ。

出だしはサイコホラー風に始まるのだが、主人公の謎の解明方法は旧弊なハードボイルド式だ。つまり、怪しいと思われる関係者に突撃👊し、新たな方向を示唆する証言を得て、またその対象に突撃して新たな証言を--というのを繰り返していくのである。
これではいくらリドラーが謎を出しても甲斐がないだろう。

しかも相手がシリアルキラーだったのがいつの間にか社会に不満を持つテロリストになり、最後にはバットマンに個人的恨みを抱く●人になってしまう。一体お前は何がしたいんだ。
格差問題持ち込んで「持たざる者の不幸」と言っても、たくさん持ってる奴もやはり不幸で陰々滅滅とした顔をしてるのだからどうしたらいいのかね。

街は暗い割には普通にニューヨークにしか見えず、格闘シーンは妙にモサモサしている。これはわざとだろうか?

折角のパティンソンはマスクをかぶっている時は2割、かぶってない時も前髪のせいで5割ぐらいしか顔が見えない。困ったものよ(-_-メ) これでは『ライトハウス』の方がよほどたっぷりパティンソンを眺められるぞ。ヒゲはやしてるけどな。
リドラーやペンギンはほとんど顔が分からず、中身が誰でも変わらないのではとか思ってしまった(^^;

良かったのはゾーイ・クラヴィッツとジェフリー・ライトかな。
キャットウーマンのマスクは鼠小僧っぽかった。ネズミならぬ猫娘かっ=^_^=


以上の二作に描かれたような若いモンを生暖かく見守ってやれないというのは、自分がまだ未熟者だということであろう。猛省したい。

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2022年4月 5日 (火)

「ダ・ヴィンチは誰に微笑む」「皮膚を売った男」:アート界の一寸先は金

220405a「ダ・ヴィンチは誰に微笑む」
監督:アントワーヌ・ヴィトキーヌ
フランス2021年

「皮膚を売った男」
監督:カウテール・ベン・ハニア
出演:ヤヤ・マヘイニ
チュニジア・フランス・ベルギー・スウェーデン・ドイツ・カタール・サウジアラビア2020年

『ダ・ヴィンチは誰に微笑む』はカネにまみれた美術市場を題材にした仰天のドキュメンタリーである。

突如、出現したレオナルド・ダ・ヴィンチの絵画「サルバトール・ムンディ」。
なぜか米国の民家の廊下に飾られていたのが「発見」され、2005年にニューヨークの美術商が13万円で購入。「修復」して鑑定を行ったものの結果は曖昧なまま真作として公に英国の「ダヴィンチ展」で展示される。

そのまま様々な国の色んな人物が絡んで値段がどんどん上がっていく。
怪しいと判断してサザビーズが扱わなかったものを、クリスティーズが現代アート路線のような派手な宣伝をして競売にかける。
裏付けもなく確実ではないものに大金を出す。最後の落札額はなんと510億円💴
証言するのは、美術商、研究者、ジャーナリスト、オークション会社、学芸員、匿名の(モザイク入り)フランス政府関係者などなど。もはや虚像でしかない価値に振り回される様相を、ドキュメンタリーとして確実に洗い出していくのであった。

うさん臭い人物が次から次へと登場するのがたまらない( ̄▽ ̄)
『テネット』にそっくりなロシアの実業家(まさにこれが「オリガルヒ」というヤツであろう💥)も一時の所有者となる。自由港を所有してそこの倉庫に美術の収集品を保管してあるって、そのまんまじゃないですか。モデルにしたのかしらん。

結局、今あの絵がどこにあるのかは判然としないそうだ。
名作も一寸先は闇。アートの世界は奇々怪々⚡転がる絵画に苔は付かない……けどマネーは増える。もうバカバカしくて面白い。

ところで、過去に紹介した『アートのお値段』というドキュメンタリーで最後に登場するのが実はこの「サルバトール・ムンディ」だった。
これを見た時に投機の対象となる現代作品をなぎ倒して最高額を得たのがこの「古典」作品だったというオチで驚いたのだが、実は現代アート売買の手法を取っていたというのならさもあらん、である。

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さて同じ現代アートつながりの『皮膚を売った男』、こちらは劇映画だ。

シリアで迫害を受け難民となってレバノンに逃亡した男が、なんとか恋人のいるベルギーに行こうとする。その時、アーティストから奇抜な申し出を受ける。背中にアート作品としてのタトゥーをして、自ら「美術品」となってビザを取得するというのである。
もちろん、美術展で「展示」される義務など負わなければならない。

人間ならダメだけど芸術作品なら移動できるとはどういうことだろうか。現代アートと難民と自由の問題に鋭く迫る着想だ。

……ではあるが、発端は辛辣でもその後の展開はなんだかパンチに欠けている。見てて消化不良な気分になった。コメディタッチで世界の矛盾を皮肉る作品と解釈すればいいのかね。

実際に存在する(人間の背中にタトゥー)作品によって着想したらしい。その作者自身も端役で出演している。従って、現代アートの在り方にかなり親和的である。
アーティストの大半は詐欺師同然などと思っている人間にとってはやや肩透かしな内容だ。

ただ美術館のシーンなどは撮影の工夫が凝らされ非常に美しい。モニカ・ベルッチが特出。
アートの未来を躊躇なく信じられる人向け。

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2021年12月18日 (土)

映画落穂拾い2021年後半編その2

211218a「ジャスト6.5 闘いの証」
監督:サイード・ルスタイ
出演:ペイマン・モアディ
イラン2019年

イランの犯罪サスペンスもの。
冒頭の追跡劇からつかみはオッケー。大物麻薬ディーラーを追う部長刑事が逮捕のためにはなんでもあり、違法でもキニシナイという強引な捜査を繰り返す。
ようやく捕まえたはいいけれど、相手はしたたかな犯罪者なんでそのままでは終わらない。

前半が刑事編、後半は犯人編となって一本で映画二本分の濃縮度である。あまりの濃さに見終わってどっと疲れた。面白かったけど(;^_^A
まだ監督32歳、二作目だって? そうとは思えぬ完成度である。イラン映画界から目が離せません。

スラムの一斉摘発、ギュウ詰めの拘置所、留守電の会話、トイレ、ラストの●●シーンなど印象的な場面が多数あった。
でも、突如登場したあの3人の太った男たちは何(^^?
あと「日本」が何度も出てきたのは意外。日本スゴイぞ(ほめられません)。


211218b「ウォーデン 消えた死刑囚」
監督:ニマ・ジャヴィディ
出演:ナヴィド・モハマドザデー
イラン2019年

『ジャスト~』と同時期に公開されたイラン映画。あちらは映画館で見たけど、こちらは後からDVD鑑賞した。

古くて取り壊し予定の刑務所、ただ今引っ越し作業中だ。囚人も移送する。ところがその合間に囚人が「一人足りな~い(>O<)」案件が発生。しかも死刑囚だ。昇進を控えた所長は必死に捜索するも要として行方知れずとなる。
人ひとり、一体どこに消えたのか。

所長が中間管理職の悲哀みたいなのを背負ってて笑えるところが多数ある。女性の保護司が来るとカッコつけたりして。
『ジャスト』はシリアスで暴力度大だったけど、あちらに比べるとずっと気軽に楽しめた。
ラストでもうひとひねり欲しかったとはいえ、エンタメ作でもイラン映画あなどれぬと感じ入った。

なお所長役は『ジャスト』ではギャングの凶悪ボスをやってた人。事前に知らなきゃ分かりません❗


211218c「83歳のやさしいスパイ」
監督:マイテ・アルベルディ
チリ・米国・ドイツ・オランダ・スペイン2020年

予告を見た時に「えっ、これ本当にドキュメンタリー?フィクションじゃないの」と思ったけど、見終わってからもやはり「これドキュメンタリーなのかね💨」と思った。

探偵社が老人ホームに潜入調査するにわか調査員を募集。その段階からクルーが撮影していて、ある高齢男性が選ばれる。
ホームに入ると、人柄が良さで周囲の入居者にモテモテ状態になる。
その調査活動を密着取材して追ううちに、高齢者と家族の在り方の問題があぶりだされてくるのだった。

--という結論はいいとして、元の依頼者の意図が不明な上に、先にホームに取材カメラが入っている(目的を偽った?)のは変な感じ。大体、入居者がメモ帳持って廊下ウロウロしていたら怪しいと思わないか。

この内容(結構シリアス)で映画として老人ホーム側や関係者が公開を許可したのも驚きである。なんだか現実を舞台にしてその場にいるシロートがドラマを演じているみたい。(リアリティ・ショーか?)

などなど謎な点は多いが、主人公の人物像が好感度大なので他の些細な点は帳消しになっちゃう。取材対象である主人公がドキュメンタリーとして肝心というのは『ハニーランド』と似ている。
この映画も『コレクティブ』と同じ時にアカデミー賞長編ドキュメンタリー賞ノミネートされた。なおチリの作品がアカデミー賞候補になったのは初めてとのこと。

映画館は、見た後に身につまされる世代の中高年層多数だったですよ(;^ω^)
私も身につまされました。

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