映画(タイトル「ナ」「ハ」「マ」行)

2024年10月28日 (月)

イタリア映画祭2024

241028 非常に遅くなってしまいましたが、一応鑑賞記録として書きます(^^;ゞ
今年はLFJのチケ争奪戦に完敗したのでイタリア映画祭に参戦することになった。もっとも朝から晩まで朝日ホールに籠る元気はありませぬ(-_-;)
てへきれば来年はLFJも両方頑張りたい。

「グローリア!」
監督:マルゲリータ・ヴィカリオ
出演:ガラテア・ベルージ
イタリア・スイス2024年

241028b ヴェネツィア、女子孤児院が舞台ときてこのタイトルとなれば当然ヴィヴァルディ🎻かと思うが、時代設定は1800年なのでもっと後の話である。
教会付属孤児院の女子オーケストラが人気となっているが、楽長である神父は音楽的才能には欠けている。

そこへ教皇が訪問するということで新曲を作って披露しなければならぬ……なんとかせねば😱と焦ることに。
そんな権力志向の塊で鼻持ちならない神父を娘たちが協力して最終的に打倒する。そこで重要な役割を果たすのがまだ世に出る前の試作品のグランドピアノ、そして喋らず楽器も弾けぬメイドの娘だ。

オーケストラは当時の曲を演奏するがつまらなくて堅苦しいというイメージで描かれ、コンマスの娘は天才肌で気位が高い。
一方、メイド娘が気ままに奏でるのは完全に現代のポップスである。そこら辺はファンタジーということらしい。個人的にはあまり面白い音楽とは思えなかった。民族音楽味が入ってればいよかったのに。
当時の風俗の再現度は高く映像は美しいが、各エピソードが散漫に綴られていて求心力に欠けるのが難。

241028c 上映後に監督のQ&Aがあった。元々シンガーソングライター兼女優で、初監督作とのことだ。
当時の女性奏者も作曲したはずだがほとんど残されていない。そのような状況は今でも変わらず、女の子たちにエールを送る意図があった。
音楽はモダンなので、映像としては当時を厳密に再現した。
キャスティングは時間がかかった。女優達に弦楽のコーチを付けて2か月半練習させた。
チェロ担当娘役は、本業は歌手で演技は初めて……などなど。

質問はすべてQRコードでスマホから送る方式。おかげで質問よりも長々と持論を述べる映画ファンが遮断されてよかった。

終了後、エレベーターで一緒になった人が「去年はすごい豪華ゲストだった、サイン貰った」などと話していた。
しかしこんな円安ではうかつに海外からゲストも呼べないのう(*_*;


241028d「ルボ」
監督:ジョルジョ・ディリッティ
出演:フランツ・ロゴフスキ
イタリア・スイス2023年

180分⌚正直言って長かった(◎_◎;) 舞台は大戦前のスイス、流浪の民イェニッシュ(「ロマ」とは起源が異なるらしい)の男が兵役に取られた間に一家離散の憂き目にあう。
実際、彼らはロクな教育を施さないからという名目で子どもたちの連れ去りが行なわれたらしい。

しかしそれは口実で子どもたちは劣悪な環境で労働力としてこき使われるのが関の山だったもらしい。主人公は子どもを探そうと悪戦苦闘し、うまく成り上がっていく。
主役のF・ロゴフスキは七つの顔を持つ男の如き活躍。ある時は移動生活者として日銭を稼ぎ、ある時は裕福な貿易商、寒さに震える国境警備兵、伊達男の女殺しなどなど。

主人公の人間像がどうも不明。大道芸で日銭を稼いでた男が、いきなり金銭を得て紳士然とした振る舞いをできるかね(?_?) なんだかロゴフスキありきで何とか成立しているような印象だった。
彼の熱心なファンのみに推奨。
過去のイタリア映画祭で同じディリッティ監督作を見た時の感想はこちら


241028e「僕はキャプテン」
監督:マッテオ・ガローネ
出演:セイドゥ・サール
イタリア・ベルギー・フランス2023年

過去に2回カンヌで授賞し、本作はヴェネチア映画祭で監督賞(新人俳優賞も)獲得し、さらにアカデミー賞国際映画賞にノミネート……というガローネ監督であるから、この後てっきり日本で公開されると思って、鑑賞予定から外していた。
とっころが(!o!)この時点ではまだ日本公開が決まっていないということが分かり、あわてて前日にチケットを入手したのであった。(結局公開されずじまい)
評論家筋には評価が低かったらしいのも一因か。

セネガルでくすぶる若者二人。冴えない毎日に飽き飽きして、ヨーロッパへ渡って音楽で一旗揚げようじゃないか(^O^)/と金を貯めていざ出発する。止めてくれるな🛑おっかさん、そして妹たちよ。しかしうまい話など世界中のどこにも存在しないのだった。
セネガル→マリ→リビア……その後はひたすら恐ろしい方向へゴロゴロと転がっていく。

「ご都合主義」「ファンタジー仕立てにして逃げている」--などという批判も見かけるが、とことんリアリズムに振ったら正視もできないような話である。
それよりラストシーンをあの時点で止めたのをどう解釈するかだ。その後に来るのは果たしてハッピーエンドなのか不吉な結果なのか。イタリア人が見れば明確にわかるのだろうか。
そういう意味ではまさにイタリア映画なのかも。

移民・難民の悲惨な実情を描いたものは最近では『人間の境界』があった。同じ年のヴェネチア映画祭でこの二つはなんと監督賞を分け合っている。
あちらでは様々な理由で自国にいられなくなり家族ごと出国する形がほとんどである。一方、こちらは食い詰めたわけでもなく単にヨーロッパに憧れて渡ろうとする。この二つを並べていいものか(・・? こんな奴らは来ないでくれとイタリア人なら言いたくなるかも。
だが、洋の東西を問わず軽薄な若者が考えなしなのはいつの時代も同じ。彼らは充分にその報いを受けたのである。


「まだ明日がある」
監督:パオラ・コルテッレージ
出演:パオラ・コルテッレージ
イタリア2023年
*オンライン視聴

どんな内容なのか全く分からず(チラシの紹介文は曖昧な文章だった)、結局後から評判がいいと聞いて映画祭のサイトでオンライン視聴をした。

1946年のイタリア、夫から激しいDVを受けている妻は何かを心待ちにしているようである。折しも古くから知り合いの修理工の男が町を出ていくという--。

フェミニズムやシスターフッドを描いて評価が高かった本作、監督兼主演のコルテッレージはイタリアでは有名な喜劇女優とのことである。そのせいとは思えないけどなんだか非常に重くてシリアスな中に笑える場面が混じっていて、ホッと一息つくというよりは「えっ、これ笑っていいの(・д・ ≡ ・д・)キョロキョロ」みたいになってしまうのは困ったもんだ。

バカ息子たちのバカ騒ぎぶりには笑いよりも殺意を抱くほどだし、夫が暴力を振るう場面は加工した映像使ったりしてぼやかしてはいるが、事前に経験者への警告を出しといた方がいいレベルである。
ということで見ててカドカドした感触がどうも合わずに終始した。

ラストはなるほどそうだったのか!と思った。イタリアと同じく敗戦国であった日本もこんな感じだったのだろうか。今では隔世の感としか言いようがない。

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2024年10月11日 (金)

映画落穂拾い・ツイッターX編

ブログに感想を書けなかった映画の備忘録がわりです。

追い詰められ型。主人公が追い詰められちゃいます。

「リアリティ」

「キリング・オブ・ケネス・チェンバレン」

「インスペクション ここで生きる」

ヒーローもの特集。

「スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース」

「マダム・ウェブ」

「ザ・フラッシュ」

小学生の女の子が主役。

「コット、はじまりの夏」

「窓ぎわのトットちゃん」

まだ続く。

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2024年9月13日 (金)

「人間の境界」:観客の限界

監督:アグニェシュカ・ホランド
出演:ジャラル・アルタウィル
ポーランド・フランス・チェコ・ベルギー2023年

しばらく前にCS放送のニュースで、難民をトルコからベラルーシまで航空機に乗せて連れていき、わざと国境からポーランドに不法に送り込む。国境警備兵は彼らを探して捕らえる。しかし周辺の住民の一人は「難民が来たら助ける」と答えていた。
その時はそんなこともあるのかと流し見をしていたのだが、これはまさにその問題を描いた映画だった。

ベラルーシ側は混乱と嫌がらせのために国境の鉄条網を潜らせて難民を送り込む。ポーランドは彼らを発見したらまた鉄条網を通して戻してしまう。でまたベラルーシが……と、国境沿いでそんな人間のキャッチボール(「人間ピンポン」というらしい)を何回も繰り返すのだ(>O<)
その反復の間に、トランクを押してこぎれいな旅行者然とした彼らは持ち物や衣服をどんどん失っていく。あまりに容赦なく恐ろしい場面の連続で見ているだけでも生きた心地がしない。特に妊娠した女性が動けなくなった件りはあまりにひどくて大ショック⚡ 言葉を失うほどだった。

そのような状況をポーランド側の警備兵、支援活動家、住民の女性、そして難民の視点から描いている。それぞれに様々な立場があり、支援者にしても「順法派」と「過激派」がいるし、住民の多くは「関わらず」の立場である。難民も国や民族・立場によって異なる。
アフガニスタンから来た中年女性が主要な人物の一人になっていて、英語を話せるのだがここでは英語は共通語として機能しない。彼女が最後までメガネにこだわり探し回る姿は他人事ではなくてドキドキした。私もド近眼+乱視+老眼なのでメガネがなかったら生きていけなーい(>O<)ギャー
そんな中でも良心ある人々がいることが救いである。

緊張感がマックスのままなので見てるだけでくたびれ果てた。トシですのう(^_^メ) ウクライナ難民がらみのラストは皮肉がキツかった。
ホランド監督の求心力ある演出には感服した。本当はドキュメンタリーで撮りたかったらしいが、政府の妨害などあり無理だったらしい。代わりに実際の当事者を出演させて24日間で撮影したとか💨 めげずに作ったのはすごい。
さらに完成後も政府は上映を阻もうとしたとのこと。しかしそれをはねのけ年間第2位のヒットとなった。

今年最大の問題作の一つには違いない。
一方、このような状況で自分がもし住民の一人だったら何ができるだろうかなどと考えてしまった。ラスト近くの小さな町で、お母さんに連れられた子どもがやったような事さえできる自信がない……(~_~)

ついでに、捕まった活動家の女性が拘置所に入れられる時に全裸&全穴検査💥をされて、ポーランド警察はひどいという意見を散見したが、日本の警察でも昔からやってて少し前に緩和されたのがまた最近復活したらしいですぞ。

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2024年9月 5日 (木)

映画落穂拾い・ツイッターX編

そもそも当ブログの宣伝という目的ツイッター(当時)を始めました。当初は鑑賞後に140字内で簡単に感想を書いてその後にブログに長文で書いていました。しかし、やがてツイッターの文章が段々長くなり、暇と余裕がなくてブログに書き直しもできず……という状態になってしまいました。無念であります。

さらに最近は老人脳のせいで見たこと自体を忘れてしまうようなケースもあるため、そこでせめてタイトルだけは載せてツイッターXのリンクを張ることにしました。かなり適当に書いているので、単なる記録ということです。
それにしてもツイッターXもいつまで続くのか心配ですね(^^;

まずはロズニツァ監督編
「ミスター・ランズベルギス」

「新生ロシア1991」

「破壊の自然史」


「ジ・オファー ゴッドファーザーに賭けた男」
これはTVシリーズです。

「パリタクシー」

「ぼくたちの哲学教室」

「ロスト・キング 500年越しの運命」

まだまだ続きます。

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2024年8月18日 (日)

映画落穂拾い・いつまでも見られると思うな劇場未公開作品特集

★「こいつで、今夜もイート・イット アル・ヤンコビック物語」
監督:エリック・アペル
出演:ダニエル・ラドクリフ
米国2022年

WOWOWで本邦初公開。ある年代以上の洋楽ファンならみんな知っているアル・ヤンコビックの伝記……とは名ばかりの怪作・奇作・珍作である。全体の92%はデタラメとパロディだろう。でもご当人を知らない若いモンは半分信じちゃったりするかも(;^_^A

ダニエル・ラドクリフはアルを熱怪演(歌は吹替らしい)しているが、トレードマークのメガネとチリチリ髪とアロハシャツを取っ払うと、外見で似ている部分はほぼない。逆に言えばこの3点があれば誰でもアルになれるぞ👍
なお、ご本人もひそかに特出している(見てても分からなかった)。

成り行きでアコーディオンを手にした若者が、替え歌で一世を風靡するも方向転換してオリジナル曲で勝負。すると逆に替え歌にされたって……ウソも大概にせえよ💥である。
推測するに、実話なのは両親との葛藤部分とレコード会社で「替え歌なんか誰か聞くか」と罵られたところぐらいか。さらに物語はぶっ飛んだ方向へ進んでいく。
テーマは例え変であってもそんな自分自身を認めよ、と一応言っておこう。

パーティー場面ではピーウィー・ハーマン、ウルフマン・ジャック、ディヴァインにダリやウォーホルなどがウロウロする。
マドンナについては主要人物になっているのだがかなりひどい悪女扱い(エヴァン・レイチェル・ウッドが怪演)。ご本人は怒らなかったのかね(^^?

誰も予想しえなかった衝撃の結末😱に続き、エンドクレジットが始まってしばらくすると笑撃のシーンが出現するので見逃さぬように。

さて、この邦題は苦肉の策でひねり出したのだろうか。でもそもそもアルを知らない人は『イート・イット』も知らないだろうから完全に意味不明なのでは?


★「レンフィールド」
監督:クリス・マッケイ
出演:ニコラス・ホルト、ニコラス・ケイジ
米国2023年

ダブル・ニコが豪華共演!ということでごく一部で話題ながら未公開だった問題作を、ケーブルTVの配信で鑑賞した。

舞台は現代、ニコケイのドラキュラに下僕レンフィールドがこき使われて幾年月が経過していた。教会の自助グループに参加して、パワハラ上司の悩みをつい告白してしまうのであった。
レンフィールド自身は吸血鬼じゃないのね(初めて知った(^^;)。

そこへ街にはびこるマフィアと熱血警官(全くわきまえないオークワフィナ)が絡んできて、血がドバドバ飛ぶのは当然だが腕やら脚やらも飛ぶし、派手なアクションがこれでもかと繰り広げられる。思わず口アングリの過剰な迫力である。スタントの方々オツ✨ですと言いたくなるほど。

みどころはなんと言っても、ドラキュラを嬉しそうに演じながらいじめるニコケイに、長身を縮めるようにしていぢめられるホルトであろう。これは見逃せねえ~👀
果たして強圧的なボスから逃れられるか--極めて現代的な問題でもある。古の産物ドラキュラとのギャップがバカバカしい。

監督はクリス・マッケイ。『レゴ・ムービー』とか『レゴ・バットマン』やった人なのに、これの前作は全く話題にならなかったようだし、どうなってるんですかね?


★「ベスト・オブ・エネミーズ 価値ある闘い」
監督:ロビン・ビセル
出演:タラジ・P・ヘンソン、サム・ロックウェル
米国2019年

アマプラ鑑賞。黒人女性が主人公なので日本では例の如く配信スルーである。
1971年ノースカロライナ、タラジ・P・ヘンソン扮する公民権運動活動家とKKK団支部長(サム・ロックウェル)が親友になるという嘘のような実話だ。

ヘンソンは地元住民に何かあれば白人議員に抗議をいとわぬウルサ方で、返す刀でエリート黒人もバッサリ⚡ ロックウェルはKKKに入って初めて自己を承認されて居場所を見出した男である。役者二人とも後ろ姿だけでもその人物像を的確に表現しているのに感心した。
他にお懐かしやアン・ヘッシュが彼の妻役で出演。

この対照的な両者がどうあっても仲良くなるなど考えられない。そんな状況がユーモア交じりに描かれるが段々と笑えない事態へ……(-_-;)
演出はテンポよくツボを外さず面白かった。テーマとしては町の騒動の顛末と男の自己回復が中心なので、どちらかというとロックウェルの方が主人公だろう。

両者の問題解決の手法として「シャレット」(アクセントは後半にある)なる方式が採用される。聞いたこともないが、作中でも知っていた人物はほとんどいないと描かれている。
対立する住民同士の時間をかけた検討会(?)みたいなものだが、さすが米国ならではという印象。日本では成立しそうにない。

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2024年4月 1日 (月)

「マエストロ:その音楽と愛と」:悩み相談・妻が段々コワくなっていきます。どうしたらよいでしょうか?

240401 監督:ブラッドリー・クーパー
出演:ブラッドリー・クーパー
米国2023年

ネトフリ配信前の劇場公開で鑑賞。
レナード・バーンスタインの半生を描いた作品ということで、クラオタな方々の間で話題沸騰💥……というようなことはなくて一部の映画ファンがザワザワしていたようだ。なにせプロデューサーにスコセッシやスピルバーグが入っている。
さらに直前には監督・主役を兼ねるB・クーパーの付け鼻が「いくらユダヤ人が鼻が大きいといったって大きすぎでは」と批判されたというどうでもいいニュースまで流れた。

実際見てみるとバーンスタイン像のうち「音楽」は2ぐらいで「愛」が8くらいの割合を占めている。よって彼の音楽家としての活動をよく知っている人が見るのが前提だろう。何も知識のない人が見たら、多分「音楽の偉い人」としか思えないはず。

妻とのなれそめとその後の結婚生活の紆余曲折を描いたといっても、妻の方は女優としてのキャリアを放棄したことについて不満を持っているのかどうかまず不明。子どもができてスターの妻として彼を支えてどう思っているのか。「浮気」については出てくるけど不和の原因はそれだけだったのか。

その根本のところがはっきりしないので「なぜか妻が段々コワくなっていく」という不条理な話になっちゃう。バーンスタインの方の事情も曖昧な描写なので判然とせず。
結局のところ夫婦の出会いといさかいに終始した印象だった。ドラマとして見ていて面白いかというと、観客それぞれというしかない。
まあ子どもたちが本作を全面支援しているようだから仕方ないのかね……。

美しい映像や凝った構図、面白いカメラワークには目が奪われる。巨大「スヌーピー」の出現するタイミングに驚いたり。でも前半モノクロで後半カラーにした意図は不明だ。いや、意図はあるんだろうけど効果的なのかは疑問である。

ブラッドリー・クーパーのソックリなり切りぶりは迫力である。監督・主演だけでなくさらに脚本・製作にも入っているという大活躍だ💨 妻役のキャリー・マリガンはキュートかつ怖いが果たしてオスカーにノミネートされるほどだったかはどうかな。

メイクアップはソックリぶりを助けるだけでなく、高齢になってからのシワやシミの作り込みも力業である。オスカーのメイクアップ&ヘアスタイリング部門候補も納得の出来(獲得はできなかったが)。
上映が終わった後に数人の女性客が、最後に登場する(エンドロール中に)指揮場面は本人かどうかでさかんに議論していた。
あれは本物の映像でしょう。まあそんなに分からなくなるほどにクーパーがそっくりだったというわけだ。

もう一つ印象に残ったのは喫煙場面がやたらと多いこと。みんなタバコ吸いまくっていて、それこそキスする時も吸いながらなのである。食卓で食事しながらも当たり前だ。確かに昔はみんなどこでも吸っていたが、いくらなんでもここまでやるか💀だ。

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2024年3月23日 (土)

「ブラックベリー」「AIR/エア」:むかしむかし男たちがおってな

★「ブラックベリー」
監督:マット・ジョンソン
出演:ジェイ・バルシェル
カナダ2023年
*アマプラ鑑賞

ブラックベリーと言えばスマートフォン出現直前にやたらと流行っていたケータイというイメージだ。しかし日本ではあまり使われなかったせいもあって実物を見たことはない。よく見かけたのはTVドラマ『ロー&オーダー』無印で、打ち切りになる寸前あたりで刑事たちがやたらと使っていたのだった。どれほどの流行り具合かというと一時期ケータイ市場で45%のシェアを占めたそうな。

これはカナダ産元祖スマホとも言うべきブラックベリーの栄枯盛衰を描いたご当地カナダ映画だ。ただしあくまで「実話にインスパイアされ」た内容……のわりには全て実名で登場する。
舞台となる時代は1996年から2008年まで、息もつかせず目まぐるしく展開するが主要な人物は3人のみで、しかも彼らの私生活など余計な事は描かれない。

そもそもスタトレ・オタクの二人が起業したRIM社。マイクは優秀な開発者だが外交性には欠け、一方相棒のダグは陽気で喋りまくる超オタク技術者である。
彼らが起業して生ぬるく運営していたヲタ集団会社に、他企業から流れ着いたパワハラの塊のようなモーレツ営業マンが共同経営者となり、急発進して強引に売り込みを始める。

これがほとんどアイデアだけで何の形にもなっていないものをモデル(というか模型)を作ってプレゼンし、なんとか金を引き出そうとするという綱渡りのような行為だ。まさしく絵に描いたモチを売り込むのだから。
金が全て、金がなくちゃな(~o~) さもなくばいかなる発想も天才も技術も無意味❌ 実現できはしない。そのことが容赦なく描かれる。

売り込みの甲斐あって、マイクは複数の機能を持つモバイル端末というアイデアを考案実現し一時代を築く。会社は大きくなったがもはやオタクの楽園のような環境ではない。
そしてiPhineの登場が全てを打ち砕くのだった。
最後にマイクが行なった新製品のプレゼンの場面は、時代の先端にいた天才がその座を滑り落ち、もはや追いつくことができないことを残酷なまでに見せつける。

思わず、盛者必衰の理をあらわす~🈚などと唱えたくなっちゃう。私はこの業界について知識がないが、この無常さにはいたく感じ入ってしまった。
そしてラストに至って判明する、真の勝者が誰であるかという皮肉も効いている。どうしてこんな事態になるのか分からない。弱肉強食の一寸先は闇である。

大いに気に入ったヽ(^o^)丿……けどカナダ映画でほとんど役者は知られてないし、ブラックベリーというもの自体日本ではポピュラーではないので、配信スルーは仕方なかったのだろうか。残念である。

暑苦しい相棒ダグを演じているのは監督ご本人だ。
SF映画オタクで会話の7割ぐらいは映画のセリフを引用。『インディ・ジョーンズ』から懐かしや『ゼイリブ』、リンチ版『砂の惑星』。さらに『ウォール街』を参考に相棒にビジネス交渉指南をする。
恐ろしいことにこういう人間が実際いるんだよね~😑
使われている当時のロックは有名曲というよりマイナーな曲が多い。監督はロックについてもマニアなのか、それとも使用料を節約したのかね。

マイケル・アイアンサイド、どこに出ているのか?と思ったらかなり恰幅がよろしくなっていたようで(;^_^A 一瞬誰なのか分からなかった。とりあえず健在でよかった。


★「AIR/エア」
監督:ベン・アフレック
出演:マット・デイモン
米国2023年
*アマプラ鑑賞

同じ製品開発の内幕ものとして『ブラックベリー』が陰ならこちらは陽という評判作。確かに外からはうかがい知れぬ裏話を描くというのは似ている。公開時に見損なったのでやはり配信で鑑賞。

1984年当時、業績不振だったナイキはバスケ部門での浮上を目指して新人の若者に目を付ける。彼に契約してもらうために新たなシューズを開発してなんとしても売り込まねばならぬ。
そのためにはまず彼の親(特に母親)にアタックすべし💨

成功したという結果は既に分かっていてもドキドキさせられる。バスケもシューズもよく知らない人間が見てもだ。「プロジェクトX」を思い出させる。
テンポよい畳みかけ具合といいカメラワークといい、ベン・アフレックの監督としての才能は疑うべくもないだろう。

ジョーダン役を正面から出さないのは正解だと思える。なぜなら彼は人間じゃなくて「概念」になるということなのだから。
それにしてもまだ高校を出る前から成果を上げることを期待されていて、既に決まっているようにそれを実現しなければならない--というのは大変なことだ。まあ、実現できるからこそ天才なのだが。

ナイキ公認だろうとはいえ、ライバルのコンバースやアディダスあんな風にクサしていいのか💦と思っちゃった。
キング牧師の原稿の話は後半のあそこへ繋がるのだと、他人の感想での指摘を読むまで気が付かなかった(^^;ゞ

脇を固める母親役ヴィオラ・デイヴィス、クリス・タッカーなども印象に残る。
バルバラ・スコヴァの名前がクレジットにあってどこに出てたのか❓と思ったらアディダスの社長役だった。シューズ・デザイナー役はスカルスガルド兄弟の一人らしい(何人兄弟なのよ)。なにげに豪華出演陣である。

1984年当時の懐かしいヒット曲が多数使われていて、相当に権利使用料かかったのではないか。そこら辺は『ブラックベリー』に大きな差をつけているかも。


さて内幕話を描くこの二作、描いている対象は同じようでもテーマは異なる。『AIR/エア』は勝利を描くが、『ブラックベリー』はそこに意味はないことを示す。
私はどちらを取るかと言えば『ブラックベリー』だ。なぜってそういうお年頃だからなんですう(*^o^*)ポッ

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2024年1月28日 (日)

これも女の生きる道・その1「バービー」

240128a 監督:グレタ・ガーウィグ
出演:マーゴット・ロビー
米国2023年

見る前🌟「バービーの世界と現実の世界を股にかけたドタバタしたファンタジーかな。楽しくアッケラカンかつ痛快にジェンダーの問題を描いてくれると期待」
見た後😶「なんか……よく分からん(・・? 難しい」

ガハガハ笑えるだろうと大いに期待して行ったら、実際見てみるとかなりひねくれてて皮肉っぽい印象であった。さらに近年のアメリカの社会状況や文化知らないと真に理解できないのではないかと思ったり。

バービーとケンが現実世界へ渡ったことで生じた瑕疵から大きな断裂へ。で、ユートピアのはずだったバービーランドは変質しその本質をさらす。それは現実(映画を見ている観客の)の写し鏡でもある。さてどうするよ--(~o~)

このような流れだとは思うのだが、ラストも分かりにくい。なぜ、そこでその一言??と思っちゃう。キツネにつままれた気分だ。
そもバービーというものが分かっていない者には、この映画は難解過ぎるようだ。

ファンタジーとして楽しむにはウラがあり、明確なフェミニズムが打ち出されていると考えるにはひねりが多く、共感するにはぼかされたり曖昧な部分が目につく。いちいち笑うのに解説が必要という具合。いかんともしがたい。

ただピンクと水色を基調として隅から隅まで統一したデザインはお見事としか言いようがない。事前の小出しの宣伝戦略も大したものだった。
しかし確実と言われたアカデミー賞監督賞・主演女優賞の候補からはもれてしまった。賞は水もの、サプラ~イズ😱

 

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2023年12月29日 (金)

「X エックス」「Pearl パール」:ミア、恐ろしい子!

「X エックス」
監督:タイ・ウェスト
出演:ミア・ゴス
米国2022年

「Pearl パール」
監督:タイ・ウェスト
出演:ミア・ゴス
米国2023年

『X』、前から気になっていたのをTV放映で見た。そうしたらどうしても続編の『Pearl パール』も見たくなってしまった。
なぜ『X』で迷っていたかというとスプラッタホラーは超苦手だからだ。しかしあらすじ聞くと興味をひかれる……とグダグダしていたけど遂に見た! 前半は順調に見られたものの後半はギャーッ⚡と叫びたくなった。どうせ殺すならサッサとやってくれ~。

テキサスのド田舎の農場を借りたポルノ映画の撮影隊6人。母屋には老夫婦が住んでいて、当然なことに怪しさ満載である。その後は数々のホラー過去名作の引用場面が続く。といっても私はこのジャンルはあまり見てないので『シャイニング』以外は「何かの引用らしい」としか分からぬ。
教訓:外を歩く時は最低靴だけは履きましょう。イテテテテ(>_<)

とはいえ面白かった🈵
下手すると高齢者への偏見を増加させそうな内容である。でも「二役」によって避けているのがうまい。
ポルノ映画で一旗揚げようという気概がいかにも1979年という時代を反映している。あとベトナム帰りの存在とか。


さてその続編--というか正しくは前日譚である『パール』である。内容は「余はいかにしてコワイ老婆になりしか」。農場の老夫婦が殺人鬼になる因縁と過程を描く。
時代は1910年代、田舎の農場に暮らしていても歌って踊れる輝くスターを目指すパール。厳し~い母親の目をかいくぐってオーディションに参加して栄光への道を踏み出そうとする。

期待し過ぎたせいか今一つな印象だった。もっとパロディでハッチャケてるのかと思ったら、満たされない田舎娘の怨念がドヨーンと襲ってきて、見てて少し疲れた。
ここまで濃いこだわりの描写で展開していくとは😶 車椅子の父親、風呂場、映写室、納屋、オーディション、特に畑のカカシの場面は(!o!)オオ
パール役のミア・ゴスにはオスカー候補になってほしかったなあ。今作では製作と脚本も兼ねているから才人には違いない。

母親についての解釈が二通りあって直接的には娘への虐待に近いのだが、猛毒母ゆえなのかそれとも娘の本性を知っててわざと厳しくしていたか明確にはされていない。私は後者の説を取りたい。
なおワニの寿命を調べたら大きいものは人間と同じぐらいらしい。ということはあの沼に住んでいるヤツは……💀
あの時ワニも若かった~♪

三作目は「X」のヒロインがまた登場するとの噂。今度は父親が出てくるのかな。公開時に見るかどうかは考え中だ。


さて、女優を目指すパールを見て誰でも思い出す(多分)であろうのが『ガラスの仮面』の北島マヤである。
ということで、ミア・ゴス版『ガラかめ』を考えてみました~っ(;・∀・)
なお、単なるイメージで実年齢などは考慮してません。

北島マヤ:ミア・ゴス
姫川亜弓:ケイト・ブランシェット
月影先生:シャーロット・ランプリング
速水真澄:マシュー・グード
桜小路優:ジョシュ・ハッチャーソン

秘書水城:ジャネール・モネイ
青木麗:エリザベス・デビッキ

演出家小野寺:ケヴィン・スペイシー(いつの間にかしれっと復活)
黒沼龍三:ブレンダン・グリーソン
姫川歌子:ヘレン・ミレン
北島春:イメルダ・スタウントン
鷹宮紫織:クリステン・スチュワート

乙部のりえ:ジェニファー・ローレンス
小林源造:ジャファル・パナヒ(特別出演)
里見茂:ティモシー・シャラメ

皆さんも考えてみましょう🌟

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2023年12月17日 (日)

「マイ・エレメント」&「私ときどきレッサーパンダ」:移民二世女子の憂鬱と爆発

231216「マイ・エレメント」(字幕版)
監督:ピーター・ソーン
声の出演:リーア・ルイス
米国2023年

そもそも恋愛ものはどうも苦手だし、近作を見てると「もうピクサー印はいいかな~」と全く見るつもりなかった。しかしネットでは好評ばかり流れて来るので「本当に面白いんかい(・・?」と見に行ったら……本当に面白かった!

四種類の元素人間がそれぞれテリトリーに別れて暮らす都市とは、もろにニューヨークっぽくて人種のアレゴリーだろう。
過去に火気人間のヒロインの両親が旅立ってきた地は中華風である。では都市を最初に作り上げた水気人間は白人なのか。

そんな設定で今さら『ズートピア』みたいな移民ネタやられてもなーとは思ったものの、実際にはそれぞれ水・火・土・風のエレメントの表現や小ネタの連続の見事さに思わず感心。特に水のピチョン💧とした描写や炎の燃え上がる様子はあまりに見事で理屈を超えるものがあった(土と風は出番が少ないだけにちと手抜きか)。

ヒロインは両親の作り上げた店を手伝って働き、有能でしっかり者で勝気だけど常に今一つ自信がない。不安定なため時折感情のコントロールができず燃え上がる爆発的発作を起こす。
そういう若い女性が親の期待(特に父親)にどう応えるのかという問題と、移民二世の葛藤がうまく合わせ技で描かれている。最後にそれにカタを付ける。

恋愛ものとしても楽しかった。貧しい下町で生まれ育ち何かと切羽詰まっているようなヒロインに対し、相手の水男は涙もろくて汗かきでいかにも育ちのいいボンボン風という組み合わせ。互いに補強し合っている関係である。
それにしても水男の涙もろさがあそこでああなるとは想像だにせず。
久々に泣いて笑ってピクサー印に満足できましたヽ(^o^)丿

さて字幕版に関しては日中にはやらず夕方以降だけで、しかも小さめのシアターなのでほぼ満員。当然子どもはいなくて若者率なんと98%だ❗ えっ、もしかして私が場内でよもやの最高齢?(思わず周囲を見回す)
ウッソー、そんなのイヤ~~っ(゚д゚)!
ま、照明落ちて暗くなってしまえば分からんけどな。

隣の若いカップルの女性の方に気を取られた。作中の笑うべきところで笑い、小ネタには律儀に反応し、意外な展開の場面では「あーっ」と声を小さく出し、もちろん最後は号泣。(私もマスクの隅を濡らしましたよ😢)
彼氏の方もヨシヨシとかしてないで一緒に泣いてやれよ、コノヤロー( -o-)/☆

彼女こそ映画の理想的な観客であると感じた。
日頃、平均年齢高過ぎなミニシアターをうろついてて「ピクサー新作だって?最近今イチだよなー」みたいなアラ探しモードで最初から斜めに見ているような、自称ファンの濁った眼と心とは全く異なるのである。
深~く反省しました。

なお、なぜ海外アニメを上映館や回数が少なくても字幕版で見るかというと、大手のアニメは映像の完成よりも声優のセリフを先に録音する方式を取っているからだ。そのオリジナルを味わいたいのよ。
もちろん字幕優先といっても例外はある。『シンプソンズ』とか『ダウントン・アビー』(実写だけど)はさすがに吹替だわな。


「私ときどきレッサーパンダ」(吹替版)
監督:ドミー・シー
声の出演:ロザリー・シアン
米国2022年

CATVで視聴。残念ながら吹替版しかなかった。
『マイ・エレメント』と設定が似ているが、同じピクサー印でもこちらはもっと若い子向けだった。
主人公はトロントに住む中国系の女の子13歳。家業を手伝い、母親の前ではよい子である。

一方、学校では個性的すぎる友人たちとつるみ、アイドルに夢中でお転婆に過ごす--という毎日だったはずが、ある朝目を覚ますと自分が寝床の中で一匹の巨大なレッサーパンダに変わっているではないかっ💥
すったもんだの挙句、感情をコントロールできずに爆発させるとパンダが発現することが分かった。
……ということは、パンダにならないためにはこれからは全てを抑えて大人しく生きていかねばならぬ。これが「大人の女」になるための規範を象徴していることは言うまでもないだろう。
しかも母親が常に監視モードの恐るべきストーカー過保護母なのだ。コワッ(>y<;)

思春期と反抗期と女の子らしくなければならないプレッシャーがパンダ現象に凝縮されている。そして恐ろしくもぶっ飛んだ方向へ物語は展開する。女の子たちのアイドル熱狂ぶりもすごいが、それと同じくらい破壊の描写がこれでもかと来て迫力である。
ただ屈託のないラストがヤングアダルト向けという印象だ。

時代は2002年に設定されている。恐らくスタッフたちの子ども時代にあたるのだろう。お懐かしやたまごっち。スマホは存在せず金持ちの少年だけがケータイを持っている。
それにしても、一番ありそうでなさそうなのは友人3人の存在。あんな友達なかなか作れないよねえ。( -o-) sigh...


この二作の共通点は非常に大きい。登場する家族設定と同様、監督も東アジア系だ。
『マイ・エレメント』ではヒロインは父親の意に沿おうと頑張る。こちらでは娘が母の意図に押しつぶされそうになるも、立場を理解して互いに歩み寄り仲良くなる。
しかし『パンダ』の主人公の成長した姿がやがてそのまま『エレメント』になるのは間違いない。
さて、彼女が将来異なる民族の彼氏を連れてきたら母親はどうするだろうか😑

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