映画(タイトル「ナ」「ハ」「マ」行)

2025年3月19日 (水)

つらい職場特集・スポーツ界編「ボストン1947」

250319 監督:カン・ジェギュ
出演:ハ・ジョンウ
韓国2023年

1936年のベルリン五輪マラソン競技で不本意ながら日本国籍の「孫基禎」として金メダルを獲得したソン・ギジョン。その時、ユニフォームの日の丸を隠したという理由で引退させられてしまった。しかも記録は「日本代表」のものなのである。戦後、コーチとしてボストンマラソンで若手選手を韓国として優勝させるまでの彼の復活譚をドラマチックに描いている。監督は懐かしや『シュリ』の人だ。

戦前の部分は日本人からすると冷汗をかく場面が出てくるかと思ったが、導入部として短めに通り過ぎた。コーチとなって途中までは選手発掘や資金集めの苦労を中心に人情路線多めの感動話となっていて、やや下世話な感じの展開である。庶民の貧しさの描写が半端ない。
ボストンマラソンへの出場を目指したものの、当時の韓国は米国占領下であり、初めは占領軍の支援を得られず資金もなし、困難に見舞われる。

ようやくボストンにたどり着いたら、今度は占領下なのだから星条旗を付けろ、さもなければ出場できないと言われてしまう。クリアすべき壁が次から次へと現れる。
そもそも日本が植民地化したことが原因でこんなことになったわけだが……(> <)

終盤のマラソン本番場面は予期せぬほどの迫力だった。手に汗握る立派なスポーツものである。ロケ地にオーストラリアが上がっているけど、当時のボストンの街並みはCGかな? とはいえ多数の見物客などレース復元には金がかかっている。
学生役の若者にまじって走った「先輩」役のペ・ソンウ(役は35歳だが実際は51歳だったらしい)はご苦労さんでした。

見ていて、国家・国旗・国歌とスポーツの関係についてつらつら考えさせられた。
ジョージ・クルーニーが監督した、戦前の大学ボート部がベルリン五輪に出場する映画『ボーイズ・イン・ザ・ボート』では弱小大学なのでやはり資金が集められず、裕福な伝統校に妨害されるというエピソードがあった。スポーツもカネと権力次第なようだ。

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2025年2月15日 (土)

「密輸 1970」:勝つのは誰か?五つ巴の死闘

250215 監督:リュ・スンワン
出演:キム・ヘス
韓国2023年

この映画を紹介するのは難しい。知り合いに「すごく面白い」とすすめようとしたけど「韓国の港で、1970年代の、えーと海女さんがいて--密輸品の--海底で--サメが、えーと--💦」って、説明すればするほど訳が分からなくなってくる。
どうしたらいいんじゃい(~O~)
後は「とにかく面白い👍」と繰り返すしかない。

あえて紹介を試みると、化学物質で汚染された港で漁業が成り立たなくなったため日本から密輸が横行。洗濯女として日銭を稼ぐしかなかった海女たちは、海底から荷の引き上げを手伝う。
通常は酒、たばこ、電化製品の類いだが、中にはヤバイご禁制の品物もあり。それをめぐって海女集団、密輸業者、地元のチンピラ、税関が入り乱れて四つ巴の争いとなるのだった。いや、サメ🦈も加えて五つ巴かな。

とにかく展開がスピーディーで、あらゆる要素がてんこ盛りで次から次へと出現して飽きさせない。中でも、中年女同士(プラス若い女も)の友情が紆余曲折の中で存分に発揮されるのが楽しい。それ以外の些細なことは気にしない。
それにしてもベトナム帰りの密輸王(チョ・インソン)カッコ良すぎだろう。最高の見せ場は十数人のチンピラに手下と共に二人で対決するところだ(見てて痛いっ)。
当時の韓国歌謡ロックが次々と流れて脳ミソを震撼させる♬ 70年代ファッションもバッチリ。こりゃ、たまらねえ~。

監督はあの豪腕アクション『モガディシュ』を作ったリュ・スンワン、おなか一杯🈵の気分になれてごっつぁんでした。

冒頭に「1970年代半ば」と出るのに邦題が「1970」なのはどうよ?
密輸品は日本から来るということで、一定の年代以上の者には懐かしい製品や企業名が次々と登場する。しかも税関事務所にズラッとファイルが並んでいる所を見ると長年行われてきたのか。
さらに、そもそも港を汚染した化学工場は日本企業ではないかという疑いも……すいませんm(__)m ご迷惑かけております。

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2025年2月 6日 (木)

美術ドキュメンタリー特集・その1「美と殺戮のすべて」

250205a 監督:ローラ・ポイトラス
出演:ナン・ゴールディン
米国2022年

ナン・ゴールディンは1970~80年代の作品がフェミニズム・アートとしてクローズ・アップされた写真家である。その文脈はあくまで自傷的なまでにさらけ出した「私」の部分にあったと思う。例えば男に殴られて目の周りにアザ作っているセルフ・ポートレートなど強烈な印象を残した。
その彼女が鎮痛剤の中毒問題について製薬会社へ抗議を行うという「公」の社会的行動は意外だった。自身も医者に処方されて中毒になってしまったそうな。

このドキュメンタリーは片方にナンの生い立ちとアート、もう片方に抗議活動(製薬会社と、その援助を受ける美術館に対する)の記録をVの字型に配置、交互に描いていくという構成を取る。そして最後に二本の線が合体するのだ。
そのVの字の根本に来るのがかつてエイズを題材にした展覧会を開こうとしたことである。過去にそのような例はなく猛反発を受け、「政治的な内容」に助成金は出せないと言われたそうな(最近の日本でも似たような事があったな)。
それに対して彼女が取った毅然とした態度こそが、後に製薬会社への忍耐強い抗議へとつながるのが描かれていた。

両親との軋轢、姉との関り、友人たち、ゲイカルチャー……彼女の写真作品にも表されてきた複雑な背景が浮かび上がる。
同時に鎮痛剤オピオイドは恐ろしすぎ💀 米国で20年間に50万人死亡って信じられないほどだ(確かプリンスの死の原因でもあったはず)。製薬会社側はそれを放置したのである。
会社オーナー一族から寄付を受ける美術館へのアクションは、同時にまた一つのアート活動のようでもあった。

背後に流れる音楽の選曲はかなり特徴的。冒頭はヘンデルの合唱曲だったかな?
邦題の「殺戮」というのがどうも今一つピンと来ない。作中の字幕では「苦痛」とか「血まみれの残酷」などと訳されていた。
アカデミー賞ドキュメンタリー長編賞候補&ヴェネチア国際映画祭金獅子賞。
監督は過去に『シチズンフォー スノーデンの暴露』を撮っている。この時にはアカデミー賞を獲得した。

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2025年1月29日 (水)

「フェラーリ」:車と納骨堂

250127 監督:マイケル・マン
出演:アダム・ドライヴァー
米国2023年

なぜか巨匠たちに愛される男💖アダム・ドライバー。今回の彼が演じるはフェラーリの創始者だっ。いくらなんでも60歳には見えないなどという批判が相次いだが気にしない。どのみち自分が世界の中心の王様だと思っている人物を描いているのだから、年齢など意味はないしイタリアなまりの英語だって構いやしないのだ。

自社の業績よりレース第一🏁  勝利するために全てを優先。レーサーが事故で死んでも支障にはならない。
舞台となる1957年は息子が若くして亡くなったばかりである。気落ちする一方で愛人との間に生まれた子どもを後継者にしようかなどと考える。その愛人を立派な邸宅に住まわせていて、周囲にはナイショで通う日々である。

そんな彼の最大の敵はライバル社よりも、家で待ち構える共同経営者にしてコワ~い古女房だ。演じるペネロペ・クルスの背後には怨念💢が溜まっている。
愛人からは子どもの認知を迫られ、自分の母親からはうとまれて……と3人の女の三つ巴をもっと描いたら面白かったのではないか。もっとも監督がマイケル・マンゆえ、そういう方向には行かないのである。

ともあれ作中で起こる不吉な出来事の7割以上は主人公のせいに違いない。その極めつけは終盤クライマックスの「ミッレミリア」というレースだ。三十年も続く伝統があり、なんと公道を延々と走ってイタリア全国を巡る。そこで優勝を目指すが、恐ろしいアクシデントが起こる。
その場面は描写がダイレクト過ぎて、見る者は皆あっけに取られるだろう。もっとも、実際はさらにひどかったというからコワ過ぎである。ヒュルルル(血が引く音)😱
一般道をあんな高速で走るとは正気の沙汰ではない。事件のことは知らなかったので見てて思わずギャーッと叫んだ。

周囲を顧みず我が道を行き文字通り死屍累々となった男の肖像が浮かび上がる。しかし世の人の何割かはそれを男らしいとほめたたえるであろう。
利害のあるタテの関係は深掘りされている。では、ヨコの人間関係はどうだったんだろうか。描かれないままだし、そもそもそんな関係が存在しない人物だったのかなどと考えてしまった。
彼が墓地で一家の納骨堂を訪れる場面があるのだが、『夜の外側』でもモーロ元首相が同様に納骨堂に行く場面があった。イタリア人壮年男性特有のこだわりなのかな(?_?)

レース場面についてはこれまで見た同じような題材の映画とは異なる印象で、ゴツゴツした感触がありスマートな映像ではない。それがかえって印象に残る。
とりあえず、マイケル・マン健在でよかった👍


♪ 命を賭ける マシンはフェラーリ~ 🎵
あ、また大貫妙子歌っちゃった(^^;ゞ

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2025年1月19日 (日)

これも見たぞドキュメンタリー編・その2「ビヨンド・ユートピア 脱北」

監督:マドレーヌ・ギャヴィン
米国2023年

見る前から気が重かったドキュメンタリー映画。北朝鮮からの亡命希望者を手助けする韓国の牧師と、実行する二組の家族に密着する。特に5人家族の方の行程は中国→ベトナム→ラオス→タイ……と東南アジアの密林をぬけていくなど壮絶の一言。船で直に韓国に行くのはダメなのか🙄と思った私は無知であります(*_*;

とはいえ全体には淡々とした調子で進み、下手に緊張や感動を盛り上げたりはしない。
恐ろしいのは亡命者を見つけたブローカーがおばーさんと子連れの家族じゃ売春組織には売れないから、牧師の方に連絡してくるという件りだ。要するにどうすれば一番金になるかどうかということらしい。コワイ💀

終盤、高齢の母親が北のことを語る部分が洗脳が解けていないと評判である。むしろその後半で今まで米国人は鬼だと教えられてきたのに、目の前にいる取材者たちが優しいのに戸惑っている様子が内心の葛藤を表していて、泣けてきてしまった(T^T)

以前、亡命してきても韓国社会になじめない人もいるという話を聞いたことがある。あの一家の幸福を祈る。

作中で北の実情について「一つのメディアしか存在せず同じことしか報道しない」とナレーションが入ったが、メディアの数はたくさんあってもみな同じことしか報道しない国というのもあるからな……。

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2025年1月18日 (土)

これも見たぞドキュメンタリー編・その1「燃えあがる女性記者たち」

監督:リントゥ・トーマス、スシュミト・ゴーシュ
インド2021年

インドで最下層の女性たちが立ちあげた新聞社あり。さらにニュースサイトを作ってネット配信へと踏み出すところから始まる。その中の数人の記者に密着する。
若いけど英語のアルファベットも分からずスマホも使えない新人、あるいは結婚してから学校へ通ったという子持ち主任記者など。

マフィアが仕切る採石場、粉塵で真っ白の村、トイレがない住居問題など地域特有の問題かと思ってしまうが、その周辺には事件を放置する警察、貧困差別、誹謗中傷の書き込み、宗教右派の台頭など日本と変わらない障壁が取り巻いている。

記者の一人が、問題を取材して発信しなければメディアはただの広報と同じだと語り、その毅然とした態度に感じ入った。日本でも耳の痛いメディア関係者がいたのではないのかな(^^;
しかし彼女も家庭に戻れば色々と大変なのだ。

事前の予想よりずっと迫力あって面白かった。
どうも邦題はかなり変な日本語に思えるのだが……。原題に倣えば「炎の如く書け!」(または「書く!」)だろう。あるいは「忖度無用🔥燃える記者魂を見やがれ」だ。

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2024年12月31日 (火)

まだあるぞ2024年鑑賞作「HOW TO BLOW UP」

241231 監督:ダニエル・ゴールドヘイバー
出演:アリエラ・ベアラー
米国2022年

見る直前まで存在も知らなかったマイナー作品だけど、なかなかに面白かった。
様々な出身、境遇、思想の若者たち8人が石油企業告発のために無血エコテロを仕掛けるために集合する。準備の進行と共に各人の過去が描かれる。なぜ彼らは計画に至ったのか。冒頭ではバカげた計画と思えるが、見ているうちに納得してしまう。
社会の現状への怒りが渦巻き合体していく様子は、もはや非暴力の手法は無効だと感じさせる。

一方で爆弾作りの場面ではドキドキだ~。終盤のトラブルにはハラハラ(~o~)して、思わず応援したくなっちゃうのは困ったもん。ひねりを忘れず、サスペンスアクションの趣もありだ。編集もうまい。
原作はフィクションではなく社会変革の活動を論じた理論書(?)ということで、まさにその実践を映画にしたわけらしい。

原題は「HOW TO BLOW UP A PIPELINE」。なぜ邦題で「パイプライン」を外したのか。カタカナ題ならともかく英語そのままに使うのだったら中途半端だろう(・・;)

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2024年12月30日 (月)

まだあるぞ2024年鑑賞作「バティモン5 望まれざる者」

241230 監督:ラジ・リ
出演:アンタ・ディアウ
フランス・ベルギー2023年

『レ・ミゼラブル』が話題を呼んだラジ・リ監督の新作。
前作は警察対民衆という構図だったが、今回は行政がテーマである。利権にしがらみのないクリーンな人物を市長代理に選んだら、開発のため後先考えない強硬路線を取るという日本でもありそうな話だ。
ただそれを支持して拍手する市民は登場しないし、社会体制の矛盾というようなものも描かれない。あくまでも市長と移民出身者たちとの二者対立と軋轢が描かれる。

見終わった直後の感想は「あそこまでやったならなぜ火を着けぬ(ー_ー)!!」だった。
対立が高じて若者が極限状態で過激な行動に走るものの、結局女・子ども・老人・同じ出自の年長者を怖がらせていぢめただけという(足を折られるという被害に遭った者もいる)。しかし肝心の白人市長は全くの無傷とは納得できねえ😑
その煮え切らない印象は作中で描かれる体制への怒りでなく、映画への不満と転化してしてしまうのであった。

4人の人物が中心となっているが、なんだか対立構図の絵解き役としてしか動いてないような感じを受けた。強引な団地住民追い出し場面(混乱の極み👊)のドキュメンタリーっぽい迫力は相変わらずではあるが。
三部作だそうなので、次作に期待したい。

あらすじなどで舞台の団地が「パリ郊外」という曖昧な言い方がされているので、パリ市内の話だと勘違いしている人が見受けられる。
パリの外の県(郡?)が舞台だよね。日本だと埼玉とか千葉の東京に近い市にあたる(まさに川口とか💦)。

ところで素朴な疑問だけど、遺体を収めた棺桶を下ろす時に団地の狭い階段で四苦八苦するというくだり。この描写で移民の住む団地の状況が端的に分かるとはいえ、棺桶を部屋に入れる時はどうしたのか?ベランダから釣り上げた? 謎である。
重さが違うといってもな……。

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2024年12月16日 (月)

「ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ」:クリスマスに苦しみ増す人々

241216 監督:アレクサンダー・ペイン
出演:ポール・ジアマッティ
米国2023年

内容は明らかにクリスマス・ストーリー。しかし日本ではなぜか初夏の時期に公開……もう少し何とかならなかったのか。一応、アカデミー賞5部門候補で助演女優賞を取ったんだからさ。

舞台は1970年ボストンの寄宿制の名門高校だ。12月のクリスマス休暇ともなれば皆家に帰るはずが、訳あり&成り行きで教師・学生・女性料理長各1名ずつがガランとした学校にとどまることになる。

イヤミと毒舌で教室に嵐を巻き起こす教師は、頭の中が全て西洋古代史だけで組み立てられている専門オタクのように融通が利かない。しかし同時に権威には絶対に妥協せず。一方、成績優秀でも素行不良の学生は衝突するしかない。共通項は嫌われ者か(;^_^A
それを脇から見ている料理長はなぜ学校に留まるのか。
学生の屈折した境遇、教師の驚きの過去、料理長の悲しみがやがて明らかになっていく。

基本的には人情味あふれるクリスマス・ストーリーといえる。しかも冒頭わざわざ古めかしいオープニングタイトルに画面や音にノイズを入れて、70年代映画を擬古的になぞっている。機内上映で予備知識なしに見て昔の作品だと思い込んだ人がいたのもおかしくはない。作中の挿入歌もそれっぽい選曲だ。
当時の作品にあまり思い入れのない私のような人間は、そこまでやる必要があるのか?などと思ったりして。それと障害や病気の扱いはどうよ🆖という部分があり、そこまで70年代並みにしなくてもいいのでは。

個人的には、いい話過ぎて私には身に余る。感動的だけどねーとしか言えない。
でも登場人物たちがうかつに変化しない点は好感だった。ただ教師の行く末は大いに不安である(~_~;)

P・ジアマッティの若い頃から学内に暮らして全人生が染みついているようなベテラン教師の演技から目を離せなかった。
学生役のドミニク・セッサはほぼ演技経験なしとは信じられない(!o!) よくぞ見つけてきたものよ。ロケした学校でオーディションしたって本当か。確かにルックスといい存在感といい、冒頭に出てくる他の学生役の若い男優たちとはかなり異なっている。
ダヴァイン・ジョイ・ランドルフはこの年の助演女優賞を総なめした価値はあり。

A・ペイン監督作は初めて見た。手堅い演出だが今回の脚本は書いていない(過去に2回オスカーの脚本賞を取っているのだけど)。
邦題のサブタイトルは野暮ったいのでなんとかしてほしかった。

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2024年11月25日 (月)

映画落穂拾い・ツイッターX編

ブログに感想を書きそこなった映画です。たまっております。

なぜか書く気が失せちゃったやつ。
『哀れなるものたち』

『12日の殺人』

実話系。
『ダム・マネー ウォール街を狙え!』

『コール・ジェーン 女性たちの秘密の電話』

『ミセス・クルナス vs. ジョージ・W・ブッシュ』


アーティストもの。
『Shirley シャーリイ』

『画家ボナール ピエールとマルト』


まだ続きあり。

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