映画(最近見た作品)

2024年11月11日 (月)

こだわりのテーマか? ベロッキオと誘拐事件特集

241110a「エドガルド・モルターラ ある少年の数奇な運命」

監督:マルコ・ベロッキオ
出演:パオロ・ピエロボン
イタリア・フランス・ドイツ2023年

イタリア映画祭続きでベロッキオ監督作を。これは確か昨年の映画祭で上映して、今年本邦劇場公開となった。
ついでに--2010年の映画祭でベロッキオが来日した時のエピソードをこの記事の後半に書いた。ここでは彼の返答した内容は書かなかったが、「どこの国にもそれぞれいいところと悪いところがある」(だから自国を断罪しても仕方ない)というような意味の発言だった。

1850年代半ば、ボローニャのユダヤ人家族から教会の指示を受けて6歳の少年が連れ去られる。理由は赤ん坊の時に洗礼を受けたから……。そうするとキリスト教徒になるという理屈らしい。そもそも洗礼って聖職者でなくても誰でもできるんかいっ(!o!)などと異教徒には理解不能な事案である。
誘拐事件として当時は周辺国だけでなく米国にも伝わって大騒ぎになったという。

少年は修道院に入れられ環境が激変する。社会への衝撃よりも、取り戻そうとする両親の苦闘と少年の困惑に重点が置かれて描かれる。
それから傲慢の塊のような教皇の醜態も相当なもんである。ロスチャイルド家から多額の借金をしながら、地元のユダヤ人コミュニティに対してはちまちまと脅して恫喝する……思わずムカーッ<`~´>
イタリア映画祭の『グローリア!』も合わせて見ると、イタリア社会の一部では教皇を頂点とする教会の権威主義が相当憎まれていると思えた。

役者の演技と重厚な画作りは素晴らしいが(ちょっと画面暗めだけど)、成人になってからのエドガルドの心理状態がよく分からなかった。家族から引き離され異質な世界に放り込まれたことによるアイデンティティの不安定さなのか、それともPTSDなのか。
イタリア近代史とカトリック信仰を知らないと難しい部分がある。この事件がきっかけで内戦が起きたということなのかな(?_?)

終了後、パンフレットの見本を手に取って中身を見るふりをしながらスマホで撮影しているヤツを目撃した(某評論家の論考ページだった)。
諸物価高騰の折、仕方ないとはいえるけどセコイ👊セコイ過ぎるぞっ🆖

241110b
「夜の外側 イタリアを震撼させた55日間」

監督:マルコ・ベロッキオ
出演:ファブリツィオ・ジフーニ
イタリア・フランス2022年

そもそも全6編のTVシリーズとして制作されたようなのだが、イタリアでは放映前に前後編に分けて劇場公開。日本も同様の形で公開となった。私は映画館に2回通ったが、朝から籠って通しで鑑賞した人も多かったようだ(^^;

ベロッキオ監督はモーロ元首相誘拐事件を以前にも描いている。それなのに再び、しかも今度は全6話で人物ごとのオムニバス形式で作るとはよほどのこだわりだ。それだけの大事件だったわけだが。
結果は……重量級340分を見たかいがあった\(~o~)/

前半3章はモーロ本人と解決に奔走する者たち(内相と教皇)を描き、後半は犯人の女性テロリストとモーロ夫人が主人公、そして終章を迎える。確かに配信ドラマシリーズっぽい構成ではある。
そんな中で何やら怪しい陰謀が背後にうごめいているのがちらちらと垣間見えるのであった。そして第一章冒頭の「え、これはどういうことか?」と疑問符が浮かぶ謎の場面の意味が判明する。

教会で一番偉い教皇が救おうと力の限りに祈っても神は応えない。ならば他の誰が祈っても無理だろう。さらに地位とコネを使って身代金を集め交渉しても無駄に終わるのなら、地上の権力など意味はないということだろうか。もっとも、イエスのように十字架を担いで歩いている者をもはや救えるわけはないのだが。
それなら政界の権力者はどうなのか🙄 そこには神ならぬ妖怪どもがうごめいているようだ。
狐や古狸が跋扈するイタリア政界は日本に似ている所がある。政権を取ると大臣や政務官のポジションを順に回したり。さすがにイタリア料理店でディナー食べながら密談をしたりはしないようだ(^O^)
当時の政治状況をやはり予習していくべきだったと思った時には後の祭りだった。人物の把握のためにも結局プログラムを買う羽目になった。

長丁場とはいえグイグイ引っ張っていく。既に起こったことを変えようもないが、激動の歴史を渾身のパワー(ベロッキオ85歳🌟)をもって今新たに問い直す力作といえるだろう。
映像的には照明の使い方が目を引いた。役者についてはそもそもベテラン勢ぞろいだが、元々監督は「目力の強い女」を描くのを得意技としてきたということで、モーロ夫人役のマルゲリータ・ブイが複雑な心境をを好演。


なおついでに声を大にして叫んじゃうのだが、上映館ル・シネマのオンライン・チケットのサイトやたらと使いにくいぞ~💢 嫌がらせじゃないかと思うほど。なんとかしてくれ。
241110c

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2024年10月28日 (月)

イタリア映画祭2024

241028 非常に遅くなってしまいましたが、一応鑑賞記録として書きます(^^;ゞ
今年はLFJのチケ争奪戦に完敗したのでイタリア映画祭に参戦することになった。もっとも朝から晩まで朝日ホールに籠る元気はありませぬ(-_-;)
てへきれば来年はLFJも両方頑張りたい。

「グローリア!」
監督:マルゲリータ・ヴィカリオ
出演:ガラテア・ベルージ
イタリア・スイス2024年

241028b ヴェネツィア、女子孤児院が舞台ときてこのタイトルとなれば当然ヴィヴァルディ🎻かと思うが、時代設定は1800年なのでもっと後の話である。
教会付属孤児院の女子オーケストラが人気となっているが、楽長である神父は音楽的才能には欠けている。

そこへ教皇が訪問するということで新曲を作って披露しなければならぬ……なんとかせねば😱と焦ることに。
そんな権力志向の塊で鼻持ちならない神父を娘たちが協力して最終的に打倒する。そこで重要な役割を果たすのがまだ世に出る前の試作品のグランドピアノ、そして喋らず楽器も弾けぬメイドの娘だ。

オーケストラは当時の曲を演奏するがつまらなくて堅苦しいというイメージで描かれ、コンマスの娘は天才肌で気位が高い。
一方、メイド娘が気ままに奏でるのは完全に現代のポップスである。そこら辺はファンタジーということらしい。個人的にはあまり面白い音楽とは思えなかった。民族音楽味が入ってればいよかったのに。
当時の風俗の再現度は高く映像は美しいが、各エピソードが散漫に綴られていて求心力に欠けるのが難。

241028c 上映後に監督のQ&Aがあった。元々シンガーソングライター兼女優で、初監督作とのことだ。
当時の女性奏者も作曲したはずだがほとんど残されていない。そのような状況は今でも変わらず、女の子たちにエールを送る意図があった。
音楽はモダンなので、映像としては当時を厳密に再現した。
キャスティングは時間がかかった。女優達に弦楽のコーチを付けて2か月半練習させた。
チェロ担当娘役は、本業は歌手で演技は初めて……などなど。

質問はすべてQRコードでスマホから送る方式。おかげで質問よりも長々と持論を述べる映画ファンが遮断されてよかった。

終了後、エレベーターで一緒になった人が「去年はすごい豪華ゲストだった、サイン貰った」などと話していた。
しかしこんな円安ではうかつに海外からゲストも呼べないのう(*_*;


241028d「ルボ」
監督:ジョルジョ・ディリッティ
出演:フランツ・ロゴフスキ
イタリア・スイス2023年

180分⌚正直言って長かった(◎_◎;) 舞台は大戦前のスイス、流浪の民イェニッシュ(「ロマ」とは起源が異なるらしい)の男が兵役に取られた間に一家離散の憂き目にあう。
実際、彼らはロクな教育を施さないからという名目で子どもたちの連れ去りが行なわれたらしい。

しかしそれは口実で子どもたちは劣悪な環境で労働力としてこき使われるのが関の山だったもらしい。主人公は子どもを探そうと悪戦苦闘し、うまく成り上がっていく。
主役のF・ロゴフスキは七つの顔を持つ男の如き活躍。ある時は移動生活者として日銭を稼ぎ、ある時は裕福な貿易商、寒さに震える国境警備兵、伊達男の女殺しなどなど。

主人公の人間像がどうも不明。大道芸で日銭を稼いでた男が、いきなり金銭を得て紳士然とした振る舞いをできるかね(?_?) なんだかロゴフスキありきで何とか成立しているような印象だった。
彼の熱心なファンのみに推奨。
過去のイタリア映画祭で同じディリッティ監督作を見た時の感想はこちら


241028e「僕はキャプテン」
監督:マッテオ・ガローネ
出演:セイドゥ・サール
イタリア・ベルギー・フランス2023年

過去に2回カンヌで授賞し、本作はヴェネチア映画祭で監督賞(新人俳優賞も)獲得し、さらにアカデミー賞国際映画賞にノミネート……というガローネ監督であるから、この後てっきり日本で公開されると思って、鑑賞予定から外していた。
とっころが(!o!)この時点ではまだ日本公開が決まっていないということが分かり、あわてて前日にチケットを入手したのであった。(結局公開されずじまい)
評論家筋には評価が低かったらしいのも一因か。

セネガルでくすぶる若者二人。冴えない毎日に飽き飽きして、ヨーロッパへ渡って音楽で一旗揚げようじゃないか(^O^)/と金を貯めていざ出発する。止めてくれるな🛑おっかさん、そして妹たちよ。しかしうまい話など世界中のどこにも存在しないのだった。
セネガル→マリ→リビア……その後はひたすら恐ろしい方向へゴロゴロと転がっていく。

「ご都合主義」「ファンタジー仕立てにして逃げている」--などという批判も見かけるが、とことんリアリズムに振ったら正視もできないような話である。
それよりラストシーンをあの時点で止めたのをどう解釈するかだ。その後に来るのは果たしてハッピーエンドなのか不吉な結果なのか。イタリア人が見れば明確にわかるのだろうか。
そういう意味ではまさにイタリア映画なのかも。

移民・難民の悲惨な実情を描いたものは最近では『人間の境界』があった。同じ年のヴェネチア映画祭でこの二つはなんと監督賞を分け合っている。
あちらでは様々な理由で自国にいられなくなり家族ごと出国する形がほとんどである。一方、こちらは食い詰めたわけでもなく単にヨーロッパに憧れて渡ろうとする。この二つを並べていいものか(・・? こんな奴らは来ないでくれとイタリア人なら言いたくなるかも。
だが、洋の東西を問わず軽薄な若者が考えなしなのはいつの時代も同じ。彼らは充分にその報いを受けたのである。


「まだ明日がある」
監督:パオラ・コルテッレージ
出演:パオラ・コルテッレージ
イタリア2023年
*オンライン視聴

どんな内容なのか全く分からず(チラシの紹介文は曖昧な文章だった)、結局後から評判がいいと聞いて映画祭のサイトでオンライン視聴をした。

1946年のイタリア、夫から激しいDVを受けている妻は何かを心待ちにしているようである。折しも古くから知り合いの修理工の男が町を出ていくという--。

フェミニズムやシスターフッドを描いて評価が高かった本作、監督兼主演のコルテッレージはイタリアでは有名な喜劇女優とのことである。そのせいとは思えないけどなんだか非常に重くてシリアスな中に笑える場面が混じっていて、ホッと一息つくというよりは「えっ、これ笑っていいの(・д・ ≡ ・д・)キョロキョロ」みたいになってしまうのは困ったもんだ。

バカ息子たちのバカ騒ぎぶりには笑いよりも殺意を抱くほどだし、夫が暴力を振るう場面は加工した映像使ったりしてぼやかしてはいるが、事前に経験者への警告を出しといた方がいいレベルである。
ということで見ててカドカドした感触がどうも合わずに終始した。

ラストはなるほどそうだったのか!と思った。イタリアと同じく敗戦国であった日本もこんな感じだったのだろうか。今では隔世の感としか言いようがない。

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2024年10月 9日 (水)

「ありふれた教室」:職員室あるある

241009 監督:イルケル・チャタク
出演:レオニー・ベネシュ
ドイツ2023年

見てる間きっとイヤな気分になるだろうなと思いつつ行ったら、やっぱりそうなった。ドイツの学校の話である。99分で最近の映画にしては短くスッパリと終わるのが唯一の救いだ。

中学校で盗難事件が続発する。一年生の担任の新人教員が自分のクラスの子どもに嫌疑がかけられた上に、勝手に対処を決められそうになったことから怒って極端な行動に走る。
怒ったとはいえいくらなんでも彼女は飛躍し過ぎ💨と思うが、そういう設定だから仕方ない。
映画の原題は「教室」ではなく「職員室」である。根本の問題は子どもたちではなく教職員そして「学校」という体制の方にある。そのすべてが周囲から容赦なく主人公を包囲してチクチクと来る。保護者・同僚・管理職・上級生……。
そういう気分が十分に味わえる映画だ。恐ろしい(>y<;)
教師にも外国からの移住者がいるという点がまた職員室内で微妙な齟齬を生んでいる。

起こった謎の解明が主眼ではないのは『落下の解剖学』と同様である。大人たちの板挟みになって一番被害を被るのもまた同じく少年だ。
仕事で余裕なく追い詰められる若い女性の視点から捉えるというのは『アシスタント』を連想した。
アカデミー賞国際長編部門候補。『関心領域』でなくこちらがドイツ代表✨よ。

それにしても全編「学校あるある」といった感じで日本でも似たことは起こりそう。生徒たちに「先生に合わせてあげてたんだよ」と言われる件りは、若い教員なら震え上がるだろう。
なお日本でも学校での盗難、特に生徒同士のものはよく起こるらしい(ーー;)

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2024年9月30日 (月)

「関心領域」:マイ・スイート・ホーム、お隣りさんは気にしない

240930 監督:ジョナサン・グレイザー
出演:クリスティアン・フリーデル、ザンドラ・ヒュラー
米国・イギリス・ポーランド2023年

日本でも公開前から賛否両論・議論沸騰・毀誉褒貶で(一部が)かまびすしかった本作である。そのせいか「収容所もの」としては公開規模が大きく、ポップコーンとドリンク持って鑑賞する人たちも結構いた(一説によるとホラー映画と間違えた、とか?)。

こぎれいな邸宅と丹精込めた平和な庭園。見る前の予想だとそこに遠くから微かに音が聞こえてくる--みたいな設定かと思ったら全く違った。それどころか不審な音のド真ん中に住居があってガンガン響いて来るじゃないですか~(>O<)
職住接近も極まれり、ヘス所長宅からユダヤ人収容所まで通勤時間10秒である。しかし夫人はそんなことも気にせず美しい庭を造り、当然の権利として快適ライフを楽しんでいるのだった。

「何も起こらない」という意見があったがそんなことはないだろう。ずーっと何かが起こり続けているという話である。
そんな生活を楽しんでいるのは夫人だけだろうか。夫の所長も変な部分が徐々にチラ見せされてくる。長男が「歯」を眺めているところも恐ろしい。
赤ん坊は泣きっぱなし、子守り役はノイローゼ、夫人の母親が遊びに来たもののすぐ帰ってしまう。庭土には怪しい白い粉をまいている。なるほどこれはホラーに違いない💦

しかし告白せねばなるまい。「ルドルフ・ヘス」って二人いた!とは知りませんでしたっ。最初ヒトラーの側近かと思ったら別人で、正しくは綴りも発音も違うらしい。

密かにリンゴを作業地に置いていくレジスタンスの少女や、所長から異動になった先のベルリン生活も描かれるが、「家」を離れた場面は総じて冗長に思える。
部分的にあざとい、わざとらしい、これ見よがしな表現があり、これは各人の好みによってそれをどう評価するかは分かれるだろう。例えば終わり近くに突然挿入される(掃除している)場面。これは必要なのか。
また、階段でゲーゲーやってるから罪の意識を感じているというのも無理があるのでは。
しかし、賛否どちらでも色々と考えてしまうのは確かだ。


なお、アカデミー賞5部門ノミネートで国際映画賞と音響賞を獲得。イスラエル✖ハマスの戦闘継続する中、授賞した際にユダヤ人である監督が何をスピーチするのか一部注目を集めていた。イスラエルだけでなくガザの被害者にも言及したことで、結果として他のユダヤ系映画人から非難を受けたもよう。(『サウルの息子』のラースロー監督とか)
でも全世界に放送されるのが分かっているのだから相当に勇気がいったはずである。なおスピーチの最後に読み上げた女性の名前は、作中のリンゴ少女だったらしい。

なんの躊躇もなく庭づくりにいそしむ夫人役のザンドラ・ヒュラーが印象的。彼女は『落下の解剖学』でオスカーにノミネートされていてにわかに「ザンドラ祭り」となった。

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2024年9月13日 (金)

「人間の境界」:観客の限界

監督:アグニェシュカ・ホランド
出演:ジャラル・アルタウィル
ポーランド・フランス・チェコ・ベルギー2023年

しばらく前にCS放送のニュースで、難民をトルコからベラルーシまで航空機に乗せて連れていき、わざと国境からポーランドに不法に送り込む。国境警備兵は彼らを探して捕らえる。しかし周辺の住民の一人は「難民が来たら助ける」と答えていた。
その時はそんなこともあるのかと流し見をしていたのだが、これはまさにその問題を描いた映画だった。

ベラルーシ側は混乱と嫌がらせのために国境の鉄条網を潜らせて難民を送り込む。ポーランドは彼らを発見したらまた鉄条網を通して戻してしまう。でまたベラルーシが……と、国境沿いでそんな人間のキャッチボール(「人間ピンポン」というらしい)を何回も繰り返すのだ(>O<)
その反復の間に、トランクを押してこぎれいな旅行者然とした彼らは持ち物や衣服をどんどん失っていく。あまりに容赦なく恐ろしい場面の連続で見ているだけでも生きた心地がしない。特に妊娠した女性が動けなくなった件りはあまりにひどくて大ショック⚡ 言葉を失うほどだった。

そのような状況をポーランド側の警備兵、支援活動家、住民の女性、そして難民の視点から描いている。それぞれに様々な立場があり、支援者にしても「順法派」と「過激派」がいるし、住民の多くは「関わらず」の立場である。難民も国や民族・立場によって異なる。
アフガニスタンから来た中年女性が主要な人物の一人になっていて、英語を話せるのだがここでは英語は共通語として機能しない。彼女が最後までメガネにこだわり探し回る姿は他人事ではなくてドキドキした。私もド近眼+乱視+老眼なのでメガネがなかったら生きていけなーい(>O<)ギャー
そんな中でも良心ある人々がいることが救いである。

緊張感がマックスのままなので見てるだけでくたびれ果てた。トシですのう(^_^メ) ウクライナ難民がらみのラストは皮肉がキツかった。
ホランド監督の求心力ある演出には感服した。本当はドキュメンタリーで撮りたかったらしいが、政府の妨害などあり無理だったらしい。代わりに実際の当事者を出演させて24日間で撮影したとか💨 めげずに作ったのはすごい。
さらに完成後も政府は上映を阻もうとしたとのこと。しかしそれをはねのけ年間第2位のヒットとなった。

今年最大の問題作の一つには違いない。
一方、このような状況で自分がもし住民の一人だったら何ができるだろうかなどと考えてしまった。ラスト近くの小さな町で、お母さんに連れられた子どもがやったような事さえできる自信がない……(~_~)

ついでに、捕まった活動家の女性が拘置所に入れられる時に全裸&全穴検査💥をされて、ポーランド警察はひどいという意見を散見したが、日本の警察でも昔からやってて少し前に緩和されたのがまた最近復活したらしいですぞ。

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2024年8月30日 (金)

「アイアンクロー」:鉄の爪にガラスの心

240830 監督:ショーン・ダーキン
出演:ザック・エフロン
米国2023年

米国で実在する有名なプロレス一家の物語である。普段、プロレスとは縁がない人間だが前評判が良かったので行ってみた。

時は1980年代初め、農場で鍛錬する若者たちの姿があった。父親はプロレス界で活躍したが、現役時代に果たせなかった望みを自らの息子たち4人に託そうとしている。そして……託し過ぎてもはや押し付けとなるのだった。それは強圧となって彼らを叩き潰す。

では、母親はどうなのかというとキリスト教の熱心な信者である。息子の一人が高校のバンドのライヴに行きたいと言うと、強固に反対する(父親も行かせてやれというぐらい)。その場面では理由は語られないが、恐らくは強固な信仰のためだろうか。

いくら肉体を鍛えても心は鍛えられない。不安定になった時に父や母に相談しても返ってくる答えは「兄弟で解決しろ」で、子どもたちの悩みに向き合ってくれず。これでは行き場もないのだ。
元々長男は子ども時代に亡くなっているのだが、事故、病気、ドラッグ、メンタル不調と次々とトラブルが彼らを襲う。リングの上ではパワーを誇示する彼らが実はガラスのように不安定で壊れやすい。(でもラッシュの「トム・ソーヤー」がかかるところはカッコよかった)

このような困難な家族の肖像が、主に次男のケヴィン(実質的には長男)の視点から描かれる。それ以外にもプロレス興行の実態、州ごとの団体やランキングなど、内幕が素人にも分かるようになっていた。

実話ベースとはいえ、本当は六男までいたというのには驚いた。あまりに悲惨になってしまうので削ったらしい。四男の経緯も実際はもっと複雑とのこと。
終盤でケヴィンが見るヴィジョンは、突然にリアリズムを逸脱して唐突な気がした。でも彼の願望だからあれでいいのか。彼の息子たちの言葉が救いである。

主演のザック・エフロンの肉体鍛錬度はスゴイ(!o!) 演技も良かったしオスカーの前哨戦に名前も上がらなかったのは納得できねえ😑
母親役はモーラ・ティアニー。妻のリリー・ジェームズは美人過ぎ~🎵
監督のショーン・ダーキン作品は以前『マーサ、あるいはマーシー・メイ』を見ていた。10年も前であまりよく覚えてないが、主人公がグツグツ煮詰まっていく様子を密着して描くのが得意技のようだ。


観客は往年のプロレスファンと思しき白髪頭の男性多数だった(来日して試合もやってたらしい)。ただ私はやっぱりプロレスは苦手だなと思った……我が家は完全ボクシング派だったんでな。多分、祖母が熱狂的なプロレスファンだったのでその反動だろう。

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2024年8月18日 (日)

映画落穂拾い・いつまでも見られると思うな劇場未公開作品特集

★「こいつで、今夜もイート・イット アル・ヤンコビック物語」
監督:エリック・アペル
出演:ダニエル・ラドクリフ
米国2022年

WOWOWで本邦初公開。ある年代以上の洋楽ファンならみんな知っているアル・ヤンコビックの伝記……とは名ばかりの怪作・奇作・珍作である。全体の92%はデタラメとパロディだろう。でもご当人を知らない若いモンは半分信じちゃったりするかも(;^_^A

ダニエル・ラドクリフはアルを熱怪演(歌は吹替らしい)しているが、トレードマークのメガネとチリチリ髪とアロハシャツを取っ払うと、外見で似ている部分はほぼない。逆に言えばこの3点があれば誰でもアルになれるぞ👍
なお、ご本人もひそかに特出している(見てても分からなかった)。

成り行きでアコーディオンを手にした若者が、替え歌で一世を風靡するも方向転換してオリジナル曲で勝負。すると逆に替え歌にされたって……ウソも大概にせえよ💥である。
推測するに、実話なのは両親との葛藤部分とレコード会社で「替え歌なんか誰か聞くか」と罵られたところぐらいか。さらに物語はぶっ飛んだ方向へ進んでいく。
テーマは例え変であってもそんな自分自身を認めよ、と一応言っておこう。

パーティー場面ではピーウィー・ハーマン、ウルフマン・ジャック、ディヴァインにダリやウォーホルなどがウロウロする。
マドンナについては主要人物になっているのだがかなりひどい悪女扱い(エヴァン・レイチェル・ウッドが怪演)。ご本人は怒らなかったのかね(^^?

誰も予想しえなかった衝撃の結末😱に続き、エンドクレジットが始まってしばらくすると笑撃のシーンが出現するので見逃さぬように。

さて、この邦題は苦肉の策でひねり出したのだろうか。でもそもそもアルを知らない人は『イート・イット』も知らないだろうから完全に意味不明なのでは?


★「レンフィールド」
監督:クリス・マッケイ
出演:ニコラス・ホルト、ニコラス・ケイジ
米国2023年

ダブル・ニコが豪華共演!ということでごく一部で話題ながら未公開だった問題作を、ケーブルTVの配信で鑑賞した。

舞台は現代、ニコケイのドラキュラに下僕レンフィールドがこき使われて幾年月が経過していた。教会の自助グループに参加して、パワハラ上司の悩みをつい告白してしまうのであった。
レンフィールド自身は吸血鬼じゃないのね(初めて知った(^^;)。

そこへ街にはびこるマフィアと熱血警官(全くわきまえないオークワフィナ)が絡んできて、血がドバドバ飛ぶのは当然だが腕やら脚やらも飛ぶし、派手なアクションがこれでもかと繰り広げられる。思わず口アングリの過剰な迫力である。スタントの方々オツ✨ですと言いたくなるほど。

みどころはなんと言っても、ドラキュラを嬉しそうに演じながらいじめるニコケイに、長身を縮めるようにしていぢめられるホルトであろう。これは見逃せねえ~👀
果たして強圧的なボスから逃れられるか--極めて現代的な問題でもある。古の産物ドラキュラとのギャップがバカバカしい。

監督はクリス・マッケイ。『レゴ・ムービー』とか『レゴ・バットマン』やった人なのに、これの前作は全く話題にならなかったようだし、どうなってるんですかね?


★「ベスト・オブ・エネミーズ 価値ある闘い」
監督:ロビン・ビセル
出演:タラジ・P・ヘンソン、サム・ロックウェル
米国2019年

アマプラ鑑賞。黒人女性が主人公なので日本では例の如く配信スルーである。
1971年ノースカロライナ、タラジ・P・ヘンソン扮する公民権運動活動家とKKK団支部長(サム・ロックウェル)が親友になるという嘘のような実話だ。

ヘンソンは地元住民に何かあれば白人議員に抗議をいとわぬウルサ方で、返す刀でエリート黒人もバッサリ⚡ ロックウェルはKKKに入って初めて自己を承認されて居場所を見出した男である。役者二人とも後ろ姿だけでもその人物像を的確に表現しているのに感心した。
他にお懐かしやアン・ヘッシュが彼の妻役で出演。

この対照的な両者がどうあっても仲良くなるなど考えられない。そんな状況がユーモア交じりに描かれるが段々と笑えない事態へ……(-_-;)
演出はテンポよくツボを外さず面白かった。テーマとしては町の騒動の顛末と男の自己回復が中心なので、どちらかというとロックウェルの方が主人公だろう。

両者の問題解決の手法として「シャレット」(アクセントは後半にある)なる方式が採用される。聞いたこともないが、作中でも知っていた人物はほとんどいないと描かれている。
対立する住民同士の時間をかけた検討会(?)みたいなものだが、さすが米国ならではという印象。日本では成立しそうにない。

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2024年8月11日 (日)

「アメリカン・フィクション」:不良作家と呼ばれて

監督:コード・ジェファーソン
出演:ジェフリー・ライト、スターリング・K・ブラウン
米国2023年
アマプラ鑑賞

アカデミー賞を作品賞はじめ5部門ノミネートながら配信スルーになってしまった本作。やはり黒人が主人公だと公開難しいのかなどと思いつつ鑑賞。全く見ることができないよりはマシか。

主人公は売れない純文学作家兼大学の教員。皮肉を飛ばしまくるタイプで学生には辛辣。さらに昔の黒人が登場する文学を題材にしようとしたら、白人学生から「差別的」と指弾され休職を言い渡されてしまう。
その後は二つのトラブルが彼を襲う。
一つは実家で高齢の母親と同居していた姉(妹?)が急死。介護問題が勃発するも兄(弟?)は離婚したばかりのゲイで遊ぶ気満々、関わる気はない。

もう一つは文学・出版関係。文学賞の審査員を担当することになるがその内情のいい加減さにあきれる。さらに自分の新作を出してもらえないため、ヤケになっていかにも「黒人風」な文体・ストーリーの作品を書いたらかえって大ウケしてしまうという事態に(;一_一)

家族についての部分は中高年にはかなり身につまされる。でも若い者が見てどう思うかは疑問である。そもそもこの一家は最初から分解していたのであり、歳月が経ったからといって再生するわけでもないのだ(-_-;)

後者のテーマは「黒人」らしさとか「多様性」の欺瞞が描かれていて、米国内事情を知ってないと分かりにくい。だが、日本でもエンタメ系小説がどんどん大部になっている今、果たして直木賞の選考委員は最後まで読んでいるのかアヤシイなどとと囁かれている。また作者自身と小説の主人公を重ねることの問題など、共通の部分がある。

結局「作家」こそが厄介な「人種」なのだろう。ほめられてもけなされても不満。どうしようもない😑 彼はそこに開き直る。
それ以外にも、出版社の編集者(社長?)がホロコーストを逃れたユダヤ人の子ども世代だったり、主人公は「差別なんか気にしねーよ」と思いつつもタクシーを止めようとして逃げられたり、一時的に暮らす別荘地が周囲は黒人ばかりで住み分けになってたり、と色々細かいところがチクチク来るのであった。

こう書いてくるとかなり下世話な内容かと思えるが、実際には段々とシュールかつ諧謔的な領域に入ってきて、フィクションか現実か曖昧になってくる。終盤は一回見ただけでは分かりにくい。現実の主人公は何もせず帰った、でいいんだよね(?_?)

主役のジェフリー・ライトを始め助演陣も充実。主演・助演男優賞のオスカー候補となった。結果はジェファーソン監督が脚色賞を受賞。
「ハリウッド大作一作の予算を10人の、いや100人の若い脚本家に回してあげてください」と授賞スピーチして感動と涙を呼んだ。

それとは別にアマプラの日本語字幕のひどさが話題になった💢 事前に流れてきたあらすじでは「弟」だったのに作中では「兄」になっている。さらに、母と暮らしていたのは「姉」なのか「妹」なのかも疑わしい。
加えて全ての文末に「?」印が付いたり、文頭にやたらと引用符があったり……いい加減にしてくれ~(>O<)

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2024年7月31日 (水)

「リトル・リチャード アイ・アム・エヴリシング」:我が音楽を行く

240731 監督:リサ・コルテス
出演:リトル・リチャード
米国2023年

私はリトル・リチャードについてほとんど知らない(!o!)ことに気付き、ロック者としてこれではイカン⚡と思い立った。
ドキュメンタリーだがご当人は2020年に亡くなっており、過去の映像、インタビュー、友人知人・関係者の証言から構成されている。CNNの制作らしい。

貧しい子ども時代から音楽業界へ入っり家族11人を養ったという経緯の中で、ロックンロールの創始者としての強烈な自負が語られる。JBもジミヘンも弟分で教えてやったし、デビュー時のビートルズやストーンズからは崇拝されたのも事実だ。(ただしデビュー時のプレスリーには敵愾心を抱く)

当時としては珍しくゲイであることを公にし奇抜で強烈なステージは模倣者を生んだ。しかし実際には彼ではなく、後進のミュージシャンの方が大成功するのだった。さらに神への信仰との間で引き裂かれ、ロックンロールから足を洗い結婚する--など激しく揺れ動く。
クイアな在り方を示すことで他人を解放したが、自分自身を解放するのは困難だったという指摘がしみる。

様々な素材の編集も手際よく、卓越したミュージシャン・パフォーマーの伝記として、若者文化胎動期の米国時代背景や黒人ミュージシャンの困難などがよく分かった。才能豊かではあるが偉人ではない、天才の肖像画でもなく、生ける矛盾のような存在である。
見て聞いて興味深いドキュメンタリーだった。長年の不遇から、終盤のようやくの授賞式シーン(1997年)ではちょっともらい泣きしちゃった(T^T)
ただ途中で3曲ばかり挿入される、現在の無関係なミュージシャンの演奏はなんだったのよ💀

あれだけヒット曲作ったのにほとんど印税貰えなかったとは💸ひどい話だが、当時の黒人ミュージシャン契約あるあるですかね。
某有名バンドの某有名曲が彼の曲をモロにパクっていたことを後から知った。とすれば、彼が自分が不当に扱われてきたと怒りと不満を見せても仕方ないだろう。

ジョン・ウォーターズは崇拝のあまり、口ひげは彼を真似しているとか。知らなかった。
「クイア」の意味が少し分かりました。

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2024年7月21日 (日)

「ソウルフル・ワールド」:生きながらジャズに葬られ

240721 監督:ピート・ドクター
声の出演:浜野謙太
米国2020年

コロナ禍で2020年の劇場公開中止、配信のみとなったピクサー・アニメ。しかし待ち続けた甲斐あって、ようやく短期限定だけど劇場で公開となった。ただし残念ながら吹替のみだ。

主人公はミュージシャンを目指す中年黒人男性。でも現状はハイスクールのしがない音楽講師である。
しかし長年の夢だったジャズクラブ出演が遂に決定🌟 したはいいが、直前に事故で無念の死を遂げる……はずだったのをあまりの無念さに断固拒否。あの世に送られ魂が吸収される直前に逃走して、ジタバタした挙句に地上世界への復帰を目指す。
音楽一途の執念とはこのことか🎹
これから生まれる魂が準備のため集められる世界があってそこに紛れ込むが、逆に生まれることを断固拒否中の魂22番を巻き込んで無理やり現世へ戻ってしまう。

人間に生まれるためには全ての「要素」が揃わないと……というのはいかにも『インサイド・ヘッド』の監督らしい発想だろう(そのため22番は逸脱しているわけだ)。
一方、生まれる前の魂が集う世界が存在するというスピリチュアル系ぽい設定はちょっと苦手である(^^;
魂たちはコロコロしてかわいいし、その風景はパステルカラーで美しいのであるが。

正反対の現実世界ニューヨークの生き生きとした描写は遥かに勝る。それも小汚い部分を詳細なまでに再現している。廃墟とかの暗さではなく、生活感あふれる汚さなのだよね。床屋のワヤワヤ感とか。
どうでもいいような、些細なモノが美しい。食ベ残しのピザの端さえ生命感に輝いて見える。実写だったらこんなことはあるまいよ。
主人公が全く冴えない独身男なのも、猫がかわいくないブチャ猫なのもいい。

そして楽器を弾く時の指の動きには魅せられる。ジャンルを問わず音楽好きな人にはオススメしたい。地下クラブのサックス、階段のトロンボーン🎶
……しかし主人公は音楽一途だったからこそ見失っているものもある。それが22番とのかかわりの中で分かってくる。

人生で生きるよすがを失った中高年向けに推奨--と最初見た時には思ったが、後でよくよく考えると若いモンは22番に共感するかもしれない。
リンカーンだろうがマザー・テレサだろうがエラい人の言うことなんか信用しない。現実なんか絶対認めねえぞ( ̄へ  ̄ 凸ケッてな感じだ。

2020年アカデミー賞で長編アニメーション賞を、レズナー&ロス、J・バティステが作曲賞受賞とのこと。
吹替じゃなくてオリジナルで見たかった(聞きたかった)。


街角で細長い看板を店の前に立って腕や背中でくるくる回して宣伝する場面が出てきた。『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』にも登場するがこちらが先だろう。
あれは米国ではよくやる宣伝方法のかな(^^? よほどの体力ないとやってられないような。ダイエットにはいいかもしれないけど。

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