「シンプル・アクシデント/偶然」:愛国者は誰か
監督:ジャファル・パナヒ
出演:ワヒド・モバシェリ
フランス・イラン・ルクセンブルク2025年
去年のカンヌでパルムドールを獲得。メデタイ!
しかし、このパナヒ監督の新作はこれまで常にあった苦くて脱力系のユーモアが中盤には出てきはするが、全体的に見れば影を潜めていると言えるだろう。
かつて不当に投獄された男が収容者たちを虐待した看守を偶然に発見する--といっても目隠しされていたからそいつの顔は分からない。しかし、主人公は衝動的に捕まえて監禁してしまう。しかし本当にその看守なのか??
で、監禁はしたけれど……かつての収容所仲間たちを巻き込んで街中をウロウロしたり、なぜかその人物の家族を助けたりする羽目に。その合間にイラン社会の不条理や滑稽な面が描かれるという次第だ。
やがて結末に向けて徐々に過去の苦悩やトラウマが蘇り、そして「殺すか生かすか」への葛藤へとなだれ込む。
しかし、そのように葛藤することこそが善人の証し。悪党だったら悩まないだろう。
固定したカメラの前で繰り広げられる終盤のシーンはあまりに苛烈な批判に満ち、その恐ろしさに私は震え上がった。
「こ、こんなものを撮ったら国は許さない……」
パナヒはこの映画の公開キャンペーンで欧米を回っていたようだが、帰国したら収監されるというのは分かっていたそうな。だから帰国せずに国外で映画を作り続けるという手もあったのではないのか--と部外者は勝手に考えたりして。
しかしパナヒはそれを承知で戦下の故国へ戻っていった。まこと彼こそ「愛国者」というべきであろう。
ところで街中のロケシーンが多くてそれはゲリラ撮影をしたらしい。ということは花嫁姿の女優さんを見て「結婚おめでとう」と声をかけた人たちは勘違いした本物の通行人だったのかな?
アカデミー賞脚本賞・国際長編映画賞ノミネート。日本の公開時には来てくれなくて残念であった。
平日の昼間とはいえ、観客がやたら高齢者ばかりで(しかも映画館に慣れていない)久々の「岩波ホール」状態だった。
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