映画(最近見た作品)

2022年1月 3日 (月)

「モーリタニアン 黒塗りの記録」:正義のための不正義

監督:ケヴィン・マクドナルド
出演:ジョディ・フォスター、タハール・ラヒム、ベネディクト・カンバーバッチ
イギリス・米国2021年

あるモーリタニア人男性が家族の目の前で突然連行され、911事件の首謀者として逮捕された実話--と書いたところで疑問に思ったのが、はてモーリタニアってどこら辺なのよ(爆)。今さらながらであるが、アフリカ北西部で西サハラ、アルジェリア、セネガルなどに隣接し、土地の9割が砂漠とのことである。

彼はグアンタナモ米軍基地に移送され尋問を受ける。
数年後、裁判が行われることになり男とその弁護士、米軍側の起訴を担当する中佐の三者から経緯が描かれていく。

弁護士たちはわざわざ飛行機に乗ってキューバまで行かねばならず、男に面会しても警戒され不信感露わな態度を示される。さらに資料を請求すれば「ノリ弁」状態だ(黒塗りって日本だけじゃないんですね💥)。
将校の方も資料請求しても機密情報として却下される。これでは起訴できない。
ということで双方にとって迷宮状態になるのだった。

そもそもは裁判前の調査という地味な作業が中心の話である。最終的には役者の演技合戦が中心となる。
困惑・狂乱を熱演のタハール・ラヒム、あくまで筋を通す実直を絵に描いたような中佐役カンバーバッチ。とはいえさすがに年季の差か、信念を持つベテラン弁護士というより頑固ばーさんに見えるジョディ・フォスターには二人とも勝てなかったようである。彼女がエンドロールに登場する実物とはかなり異なった印象の外見にしたのもわざとかな。

判決後の後日譚もなかなかにひどい。もはや正義のためには正義を逸脱しても構わないとしか思えない。そんなことは許されるのだろうか。
マクドナルド監督の手腕は着実な描写の積み重ねで十分に発揮されていた。
ただ、見てて拷問前と「現在」の区別が付けにくいのが難点だった。

グァンタナモでの拘束の様子はなかなかに辛い。
拷問場面が必ず出てくるだろう、いつ出てくるのかとドキドキしていたけど(なら最初から見るなって話だが)、フラッシュが炸裂するので要注意だろう。冒頭に注意書きを出すべきレベルではないか⚡
なお同じ問題を別方向から取り上げたのが『ザ・レポート』である。

ついでだけど、カンバーバッチのシュッとした背筋の軍人姿勢は、日本の役者さんが兵士を演じる時にはぜひ参考にしてもらいたいですね(^◇^)

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2021年12月18日 (土)

映画落穂拾い2021年後半編その2

211218a「ジャスト6.5 闘いの証」
監督:サイード・ルスタイ
出演:ペイマン・モアディ
イラン2019年

イランの犯罪サスペンスもの。
冒頭の追跡劇からつかみはオッケー。大物麻薬ディーラーを追う部長刑事が逮捕のためにはなんでもあり、違法でもキニシナイという強引な捜査を繰り返す。
ようやく捕まえたはいいけれど、相手はしたたかな犯罪者なんでそのままでは終わらない。

前半が刑事編、後半は犯人編となって一本で映画二本分の濃縮度である。あまりの濃さに見終わってどっと疲れた。面白かったけど(;^_^A
まだ監督32歳、二作目だって? そうとは思えぬ完成度である。イラン映画界から目が離せません。

スラムの一斉摘発、ギュウ詰めの拘置所、留守電の会話、トイレ、ラストの●●シーンなど印象的な場面が多数あった。
でも、突如登場したあの3人の太った男たちは何(^^?
あと「日本」が何度も出てきたのは意外。日本スゴイぞ(ほめられません)。


211218b「ウォーデン 消えた死刑囚」
監督:ニマ・ジャヴィディ
出演:ナヴィド・モハマドザデー
イラン2019年

『ジャスト~』と同時期に公開されたイラン映画。あちらは映画館で見たけど、こちらは後からDVD鑑賞した。

古くて取り壊し予定の刑務所、ただ今引っ越し作業中だ。囚人も移送する。ところがその合間に囚人が「一人足りな~い(>O<)」案件が発生。しかも死刑囚だ。昇進を控えた所長は必死に捜索するも要として行方知れずとなる。
人ひとり、一体どこに消えたのか。

所長が中間管理職の悲哀みたいなのを背負ってて笑えるところが多数ある。女性の保護司が来るとカッコつけたりして。
『ジャスト』はシリアスで暴力度大だったけど、あちらに比べるとずっと気軽に楽しめた。
ラストでもうひとひねり欲しかったとはいえ、エンタメ作でもイラン映画あなどれぬと感じ入った。

なお所長役は『ジャスト』ではギャングの凶悪ボスをやってた人。事前に知らなきゃ分かりません❗


211218c「83歳のやさしいスパイ」
監督:マイテ・アルベルディ
チリ・米国・ドイツ・オランダ・スペイン2020年

予告を見た時に「えっ、これ本当にドキュメンタリー?フィクションじゃないの」と思ったけど、見終わってからもやはり「これドキュメンタリーなのかね💨」と思った。

探偵社が老人ホームに潜入調査するにわか調査員を募集。その段階からクルーが撮影していて、ある高齢男性が選ばれる。
ホームに入ると、人柄が良さで周囲の入居者にモテモテ状態になる。
その調査活動を密着取材して追ううちに、高齢者と家族の在り方の問題があぶりだされてくるのだった。

--という結論はいいとして、元の依頼者の意図が不明な上に、先にホームに取材カメラが入っている(目的を偽った?)のは変な感じ。大体、入居者がメモ帳持って廊下ウロウロしていたら怪しいと思わないか。

この内容(結構シリアス)で映画として老人ホーム側や関係者が公開を許可したのも驚きである。なんだか現実を舞台にしてその場にいるシロートがドラマを演じているみたい。(リアリティ・ショーか?)

などなど謎な点は多いが、主人公の人物像が好感度大なので他の些細な点は帳消しになっちゃう。取材対象である主人公がドキュメンタリーとして肝心というのは『ハニーランド』と似ている。
この映画も『コレクティブ』と同じ時にアカデミー賞長編ドキュメンタリー賞ノミネートされた。なおチリの作品がアカデミー賞候補になったのは初めてとのこと。

映画館は、見た後に身につまされる世代の中高年層多数だったですよ(;^ω^)
私も身につまされました。

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2021年12月11日 (土)

「アイダよ、何処へ?」:敵と共に生きる

211211 監督:ヤスミラ・ジュバニッチ
出演:ヤスナ・ジュリチッチ
ボスニアヘルツェゴヴィナ・オーストリア・ルーマニア・オランダ・ドイツ・フランス・ノルウェー・トルコ2020年

またも辛い映画を見てマスクを涙で濡らしてしまった(;_:) 歳取って涙もろくなったのかしらん。
舞台はボスニア紛争時の都市。安全地帯のはずの町にセルビア軍が乗り込んでくるが、国連は何も手を打たない。一応、武力行使はしないと約束のポーズはしているものの、彼らを怖れた何千人もの住民が国連軍の基地めがけて逃げてくる。(実際、市長などは早々に殺害されている)

現地で雇われた女性通訳の目(と耳)を通してその恐ろしい事件の一部始終が描かれる。見る前の予想と異なって、国際紛争問題を大局的に捉えるというのではなく、あくまで自分の家族を救おうとする彼女個人の視点を通して全てを見ている。そして彼女と共にカメラが疾走する。
しかし昔の教師時代の教え子が敵の武装兵士になっているのに出会うのは怖いのう。

セルビア軍にいいように手玉に取られる国連軍。結果は選別、排除、殺戮……。
かつてのユダヤ人虐殺はもちろん、現在のアフガニスタンをも想起させてウツウツしてしまう。基地から撤収が始まった時に、現地スタッフの彼女に向かって「行けるのは本人だけ。家族は連れていけない」という通告もアフガンと同じじゃないですか(>y<;)

今もなお禍根を残す事件について、監督は相当の剛腕&大胆さである。公開後、主演の夫婦役を演じた役者(セルビア人)たちは自国で非難されたらしい。
ただ、前に公開された監督作『サラエボ,希望の街角』も見たけど、それと同じく希望のある結末になっていたのがよかった。思わずホッ(^。^;)とした。


この時に予告で『皮膚を売った男』をやっていた。これで『アナザーラウンド』『少年の君』『コレクティブ』、この「アイダよ」と昨年のオスカー国際長編映画賞候補作が全て公開されて洋画ファンとしてはメデタイ限りである。

*一部、事実と異なった部分を訂正しました。

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2021年12月 5日 (日)

映画落穂拾い2021年後半編その1

いったん中断していました落穂拾いシリーズですが、ちゃんと感想を書こうとするとやたら時間がかかってしまい、更新の回数が減ってきたので、取り合えずメモ程度でも載せておこうと復活しました。
内容は手抜きです(^^ゞ

「キーパー ある兵士の奇跡」
監督:マルクス・H・ローゼンミュラー
出演:デヴィッド・クロス
イギリス・ドイツ2018年

五輪中継を見なかった代わりにスポーツものを、ということで選んでDVD鑑賞した。
第二次大戦中、ドイツ軍の捕虜が英国の収容所に入れられ、そこでサッカーのキーパーとしての才能を見出される……という、無さそうで実際にあったオドロキの実話である。

敵国で生きていくことの困難や恋愛ドラマのほかに音楽、小道具なども注目である。細心に復元された大戦前後の生活や、敵国民選手の登場でブーイングに揺れるサッカー場など見どころは多い。

ただ肝心の主人公の内奥が曖昧にしか描かれてなくて、見てて彼はどういう人間なのかどうもよく分からなかった。
実話だから却って深入りできない部分があるのか--なんてうがって見たくなっちゃう。

敵対する男が二人殴り合いをして和解--とまではいかなくとも互いに理解する、という場面あり。これはあの『ライトハウス』にもあった図式ではないか❗
男同士の関係では定番なんだろうか(^^? 愛情はこぶし👊から💕


「パーム・スプリングス」
監督:マックス・バーバコウ
出演:アンディ・サムバーグ
米国2020年

TV放映視聴。公開当時「傑作」と評している意見が幾つかあって期待したが、実際見てみると「よくできたB級」ぐらいだった。(期待しすぎた?)
まあ、この手の映画は他人に激推ししたくなるものだから仕方ないか。

当人のみならず、親族にとっても他人にとっても様々な思い(と行為)が交錯するというイベントが結婚式だろう。それとタイムループを引っかけたアイディアは面白い。「終わりなきハレの日」がダラダラと続く中に安住するのか、そこから跳躍するのか。
二人の男女の関係に重ねた展開が明確なメッセージを観客に届ける。

--なんだけど、やはりそこの見せ方があか抜けないのがB級かどうかを分かつようである。もちろんB級で構わんという意見もあるだろう。

ここまで来ると「量子力学」は「魔法」とほとんど変わらないターム化している。
ループ内には主人公たち以外に少なくともあと二人いる、ということでいいのかな(^^?


211205「東京クルド」
監督:日向史有
日本2021年

辛い映画を見てしまった。難民申請中で入管の仮放免状態であるクルド人の若者二人を取材したドキュメンタリー。
小さい頃から家族と日本で暮らしていたのは同じだが、来日の経緯や家庭の状況はそれぞれ異なる。しかしこの国で生きづらさの壁にぶち当たるのは同じである。
進学もできず働くことも許されず……となったら「ヒモ」稼業でもやれというのか。ふざけるなと言いたい。
しかしそれが現実だ。

文明国ならば出自の如何を問わず未成年者には保護や教育を与えるのが当然だろう。まあ、「文明国」じゃないからな……(`´メ)
自分の国が非文明国で恥ずかしいっ💦
東京入管はそびえたつ昏い監獄のようだ。あるいは『指輪物語』の塔みたい。
入学式の「日の丸君が代」がすご~く皮肉だった。

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2021年11月23日 (火)

「コレクティブ 国家の嘘」:オールド・アンド・ホープレス

211124 監督:アレクサンダー・ナナウ
ルーマニア・ルクセンブルク・ドイツ2019年

ルーマニアのライブハウスでバンドが公演中に火災が発生、客が逃げ場を失って死傷者200人超の大惨事になる(2015年)。問題はそこで終わらず病院で次々に火傷の症状が悪化し、亡くなる人が倍増したという。一体何が起こったのか--その問題を追及するドキュメンタリーである。

冒頭、バンドの頭上で炎が燃え上がるスマホ映像が怖い。その後、前半は事件を徹底追及するスポーツ紙の取材班に密着する。「スポーツ紙」といっても東スポみたいなのじゃなくて、紙面は日本の雑誌「ナンバー」風でスポーツ界関連で社会問題を取り上げるような感じである。
それによって発覚したアヤシイ事案の数々、病院の不正と行政の責任。死人まで出てマフィアの関与も浮かび上がったのであった。
並行して、怪我から立ち直ろうとする被害者の姿も描かれる。

一転、後半は事件のため辞職してしまった保健大臣の代わりにピンチヒッターとして民間から登用された人物に許可を得て密着。
しかしスポーツ紙の記者には脅迫が来て、大臣には妨害と論点ずらしの攻撃が襲う。マスメディアもグルである。ん(?_?)こりゃどこかの国でも見たような。
カメラはひたすら追いかけていく。

結末は救いがない。
選挙は超低投票率(特に若い人)、結局「古くさい国」「希望のない国」なのをあからさまにしてに終わるのだった。
やっぱり日本と同じだ~(>O<)イヤーッ
でも、逆に「日本だけじゃないんだ🆗」ってホッとしたりして……。

そういう実情をあくまでも忖度なく、直截に描き切ったドキュメンタリーであった。

と思ったら--最近の監督のインタビューによると、その後若い人たちの意識も変化し改革を求める動きが出て来たという。
やっぱり日本だけなのか(´・ω・`)ショボ

アカデミー賞国際長編映画賞ノミネート→結果『アナザーラウンド』が獲得。
同じくドキュメンタリー長編賞ノミネート→結果『オクトパス』。
残念でした💧
なお「コレクティヴ」とは火事になったクラブの名前。分かりにくい。

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2021年11月17日 (水)

「ミス・マルクス」:父の娘の夫の妻

211117 監督:スザンナ・ニッキャレッリ
出演:ロモーラ・ガライ
イタリア・ベルギー2020年

この映画を見るまで「マルクスの娘」のことは知らなかった!
彼には4人の娘と2人の息子がいたそうだが、他の子は幼い頃に亡くなったそうで映画内に登場するのは娘3人である。主人公は末っ子のエリノアだ。
彼女は政治・文学の才能があり、死後に父の跡を継ぐ存在となる……はずなのが、浪費家&プレイボーイのダメ男に引っ掛かったのが不幸の始まりであった。
そもそも妻帯者である上に浮気し放題、借金しまくりのためあきれてエリノアの友人たちも徐々に離れていくという次第。

彼女の社会活動家・フェミニストとしての面も描かれているが、映画の中心として描かれているのはこの疫病神っぽい夫(内縁の)との関係と葛藤だった。
なぜそんな関係を続けたのかというと、偉大な父親の影を相手の男に求めてしまうためのようだ。典型的な「父の娘」である。
夫をかばって彼なしには暮らしていけない姿は、一種の共依存のように見える。
ただ、作品内では彼はどうにも冴えない男にしか見えず、主人公を含めて複数の女を垂らし込んだほどの魅力があるとはとても思えないのが難である。

パンクロックをバックに流して威勢良さげに見せても、その真実は旧弊な「父の娘」から抜け出せなかったというのが結論とあっては、甚だしく落ち込む。「旧弊さ」に反抗しても、結局それに吸い取られていくのが女の宿命だと語っているようだ。

党の集会で演壇に上がっているのは男だらけで、女はエリノア一人--という場面が出て来て、今も昔も女の立場は変化がない(`´メ)と思わせる。
しかし一方で「親の七光り」と書いている映画評を目にした。確かに彼女がマルクスの娘でなかったら一顧だにされなかったろう。
そういう意味では「父の娘」であることは有効なのかもしれない。

それにしても伝記映画で、その人の業績よりも男女間や家庭のイザコザに比重を置いて描かれるのが多いのはどうなのよ💢 例えばジミ・ヘンドリックスを主人公にした『JIMI:栄光への軌跡』なんかその最たるものだろう。
逆に人生で波乱がほとんどなかった人物(例:バッハ)はどんな業績があろうと映画にはなりにくいのだ。

教訓:男の不実さに主義主張は関係なし
付記:エンゲルス、善い人過ぎ~💨

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2021年10月29日 (金)

「戦火の馬」と「計画」なき家父長

211029 ナショナル・シアター・ライヴの『戦火の馬』(2014年)を見た。

原作はマイケル・モーパーゴの児童文学(1982年)で、過去にスピルバーグが映画化している(未見)。
舞台版では馬が3人がかりで操る巨大なパペットとして登場し、その動きと戦闘場面の大仕掛けが見ものとなっていた。

見ていて気になったのが主人公である若者の父親の存在だ。その父は自分の兄と非常に仲が悪く、馬の競売で買う予定もないのに一頭の馬を兄と競り合いを始めて、意地で最後に競り落としてしまう。そして借金を返すために持っていた大金を全て費やす。
しかもその馬は競走馬で、自分の農場では役に立たないのだ。

馬を連れて帰ると母が罵る。結局、父は息子に競走馬として調教することを押し付けてその場から去ってしまう。

馬が競走馬として立派に育った頃、父はまた自分の兄と無謀な賭けをする。競走馬なのに農耕機をつけて畑を耕すというのだ。彼は自分で馬に機具を付けようとして失敗する。そしてまたしても息子がその役目を負うのだ

やがて第一次大戦の影響が英国の田舎町にまで迫って来た時には、なんと父は勝手に馬を軍用馬として政府に売ってしまう。馬が金になったと喜んで帰宅すると、自分の分身のように思っていた息子は衝撃を受け、その年齢に達していないのに馬を追って軍に志願するのだった。

いくらなんでもいい加減すぎる父親である。しかし、どうも見ていて「こういう父親どこかにいたような(^^?」と既視感を抑えられなかった。
と、見終わってしばらくして思い出した。『ハニーランド』だっ(ポンと手を打つ)⚡

こちらはドキュメンタリーだが、女性養蜂家の隣に越してくる大家族の父親がよく似た感じなのである。
そもそもは家畜を飼っていたのだが、主人公の見よう見まねで養蜂を始める。ド素人にもかかわらず彼女に教えを乞うたりはせず、いきなりハチを自宅の庭に持ってきて子どもたち(幼児もいる)は刺され放題となり大騒動だ。
その後も強引なやり方で息子と衝突したり、主人公に迷惑かけたり、周辺のハチの生態をぶち壊したりする。

このように父親の無謀な思い付きで無計画にことを行ない、妻や子どもを巻き込んだ挙句に自分だけは無傷に終わる(しかも妻子は従い続ける)--というのが共通しているではないか。

そこでもう一つ思い出したのが『パラサイト』である。
これを見た時に今一つ分からなかったのが「計画」という言葉である。セリフに何度も登場するが、これは何を指すのだろうか? はて、文字通りの意味なのか、それとも韓国では特別な意味を持つのか。感想や批評を幾つも読んだがこの「計画」について触れたものはなかった。

『パラサイト』の父親は、先に挙げた二作品のような父権を振り回す強引な人物ではない。しかし、家族から「計画はあるの?」と聞かれれば「計画はある」と力強く頷いて見せざるを得ない。でもその後で息子にだけ「実は計画はない」ともらすのだ。
この「無計画」の結果どうなったか。やはり妻子や周囲を巻き込んで取り返しのつかない事態になる。さらにここでも父親だけは無傷なのである💢

これら三作品に共通なのは、計画を持たない父親の決定や行為がいかに家族を翻弄し混乱させて苦痛を与えるか、その弊害を描いていることだろう。
『戦火の馬』では母の「あの人も昔、家を背負って苦労した」という言葉で家族の絆に回帰する。
『ハニーランド』では家族自体が主人公と観客の目の前から突然消えてしまう。(恐らく父親はあのままだろう)
『パラサイト』となると、もはや父親が家長として復活するのはありえない事が最後に明示される。息子がそれを継ぐのも不可能だ。
「父」や「夫」の価値が称揚されることなく沈没していく。『パラサイト』はそんなシビアな社会状況を提出している。


さて、私はこれまでコロナ禍への日本政府の対策の混迷ぶりを見て「ああ『パラサイト』の〈計画がない〉というのはこういうことだったのか」としみじみ思った。
このような「無計画」の極みを成し混乱と苦痛を生んだ当事者の行く末は、果たしてどうなるのだろうか……。

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2021年10月17日 (日)

「ユダ&ブラック・メシア 裏切りの代償」:主役はどっちだ?

監督:シャカ・キング
出演:ダニエル・カルーヤ、レイキース・スタンフィールド
米国2020年
DVD視聴

アカデミー賞5部門候補になり2部門獲得!なのによもやのDVDスルーとはどうしたこったい(!o!) 『プロミシング・ヤング・ウーマン』も同じく5部門候補で、獲得したのは一つだけでも公開されたっていうのにさっ💨 やはり黒人が主人公だと敬遠されるのかね。
などと文句を言いつつツ●ヤの新作棚から早速借りてきた。

60年代末の米国シカゴ、ブラックパンサーの州支部に若干21歳で頭角を現した若い幹部がいた。FBIは危険人物としてマークし、ケチな車泥棒で捕まった男をスパイとして内部に送り込む。

教養豊かで演説がうまく統率力あるハンプトンという人物と運転者役で潜り込むオニールを、『ゲット・アウト』コンビであるD・カルーヤとL・スタンフィールドがそれぞれ対照的に演じる。
ハンプトンは投獄された挙句、最後には謀殺されるのだから確かに「救世主」と「ユダ」に違いない。さらに「ユダ」の後日譚もまた……。

ただ予想に反して、この二者が直接に親密な関係を示す場面は少ない。あくまで近くにいながらも部下の一人である。リーダーたるハンプトンに対し、オニールは側にいる脇役でしかない。両者の共通項は「裏切り」の実行者と被害者ということだけだ。そのことが後者の目を通して冷静に描かれる。
従って国家による犯罪が堂々と行われるというショッキングな内容とはいえ、人間関係の盛り上がりとドラマ性を求める人にはやや物足りなく感じられるかも。

演説場面に見られるように、卓越したカリスマをカルーヤはまさに熱演している。一方、スタンフィールドは裏切りの泥をかぶって生きるしかない男の卑小さを演じ、甲乙つけがたしである。
ここで、誰もが思うであろう疑問💣 この二人が揃って各賞で「助演」男優賞候補というのはなんでなの? どの部門に該当するのかは映画会社の方で決めるらしいが、この年の「主演男優」はC・ボーズマンに決まっているから勝てないと考えて二人とも「助演」にしたのだろうか。

アカデミー賞では二人とも同一部門ノミネートで、結果カルーヤが獲得した。通常だったら彼が「主演」でスタンフィールドが「助演」のダブル受賞もあったかもしれないのに、割を食ってしまったといえる。
他にFBI役ジェシー・プレモンスもよかった。

ところで、アカデミー賞授賞式後の記者会見で、カルーヤは他作品でノミネートされていたレスリー・オドム・ジュニアと間違えられて質問されたという非常識な事件が発生したらしい。
世評では「よく怒らないでガマンした」ということだったが、ここでブチ切れると「だから黒人は……」とか言われちゃうんだよね。つらい(=_=)

さて、ブラックパンサーというと「危険」⚡「過激」💥「暴力」👊というイメージが思い浮かぶ。しかしここに描かれているFBIの策謀を見ていると多分に情報操作があったのだろうと思えてくる。真実はどうだったのかね。
それとハンプトンは『シカゴ7裁判』にも登場していた知ってビックリ(◎_◎;) ちゃんと役名がクレジットされているではないの。最初だけ共同被告になっていた黒人の支援者で、傍聴席にいた人物だろうか?(よく覚えていない)

そういえば、マルコムXの場合も護衛係が密告者だったはず。至る所にスパイあり、だ。
もっともこういう手法はFBIに限らずどこの公安警察も使用するもののようだ。日本でも組合や学生運動盛んな時代はスパイを送り込んでいたらしい。どの集団だか忘れたが、確かナンバー2にまで上り詰めた例もあった。こうなると組織の乗っ取りである。

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2021年10月 7日 (木)

「ホロコーストの罪人」:善き隣人の犯罪

監督:アイリク・スヴェンソン
出演:ヤーコブ・オフテブロ
ノルウェー2020年

ノルウェーでユダヤ人家族に起こった実話を映画化。辛い話で、見てて涙でマスクの内側が濡れてしまったほど(T^T)クーッ

主人公は若いボクサーで、親の意向に反して宗教熱心ではない。ノルウェーの国旗を背負って試合をし、結婚相手もユダヤ人ではない女性を選んだぐらいだ。
しかし、いくら自分ではノルウェー人だと思っていてもナチスドイツが侵攻して占領下に入ると、見逃してはもらえない。

劇的なことが起こるわけでもなく、静かに調査・確認・峻別・隔離が進んでいくところが怖い。市民がユダヤ人に対してを面と向かって罵倒するわけではないが、粛々とお上の意向に従って排斥に協力する。

収容所への移送計画を立てる警察副本部長は立派な集合住宅に住んでいて、隣室はユダヤ人の弁護士一家である。恐らくは、日常は善き隣人として付き合いをしているのだろうがいざとなれば平然と迫害を行うのだ。
そんな描写がとても恐ろしい(>y<;)
そしてラストの突然の無音シーンがさらに恐怖と衝撃を与えるのだった💥

ノルウェー政府が「強制連行」(直接虐殺したわけではないからだろう)の罪を認めたのは、なんと今から10年前だそうだ。それを考えるとよくぞここまで厳しく描いたという印象だ。推測するに、占領下で命令されて仕方なくアウシュヴィッツに送ったんだから罪はない--というような理屈があったのだろうか。
原題は訳すと「最大の犯罪」だそうで、邦題は似て非なるものだと言いたい。

主人公が国内の収容所で将校からボクシングの相手をしろと言われる場面がある。
それで思い出したのは、『生きるために』(1989年)という映画だ。ギリシャが舞台でウィレム・デフォーが実在したユダヤ人のボクサーを演じていた。
そちらではナチスの将校たちの前で試合をやらされるのだが、ボクサーのどちらか片方が死ぬまで終わらないという恐怖の試合だったですよ……👊

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2021年10月 1日 (金)

「グリード ファストファッション帝国の真実」:ローマは安価にして成らず

監督:マイケル・ウィンターボトム
出演:スティーヴ・クーガン
イギリス2019年

英国に実在するファストファッション経営者をモデルに、虚飾以外に何もない男をブラックユーモアで描いている。イギリスでは有名な人物らしいからこの映画の存在自体、スキャンダルの一端と言えるかもしれない。しかも実際に彼の部下だった人物が出演していたりする。

若い頃から既に傲岸不遜にしてあくどいやり口で資産を増やしていく。これを果たして経営と呼べるのであろうかと言いたくなるレベルだ。
富を築いてからは『グラディエーター』の台詞をいつも口にして、自分をローマ皇帝に模した誕生日パーティーを開こうとする。もっともその計画は非常にいい加減だ。

母親がまた強烈な人物で、元妻や娘はまるでリアリティショーのセレブ家族のように振舞う。見ててバカバカしいことこの上ない。
そして、並行してファッション業界の東南アジアを中心にした搾取的な労働の告発に至る。

--というのはいいんだけど、ウィンターボトム監督の作品っていつも中途半端な印象なのだが本作もそうだった。つまらなくはないのだが(ーー;)
強欲な人物のブラックなドタバタ劇にするのか、ファッション産業に内在する搾取の社会的な告発にするのか、疑似ドキュメンタリーの形式を取るなら取るで一貫してほしかった。
主役のS・クーガンはバカバカしい人物をうまく演じているけど、あまり報われていないように思えた。

ところでパーティーに来てたキース・リチャーズは偽物だよね? かなり辛辣なボノへの告発があったけど本気かな。

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