映画(最近見た作品)

2019年7月19日 (金)

「たちあがる女」:アイスランディック・ソウル 不屈の闘い

監督:ベネディクト・エルリングソン
出演:ハルドラ・ゲイルハルズドッティル
アイスランド・フランス・ウクライナ2018年

「変な映画」は数あれど、それにプラスして面白いというのはあまりない。しかし、このれがまさにそうであった。こんな映画を生み出したアイスランド恐るべし。

表の顔は中年女性、アマチュア合唱団の指導者。しかしてその実体は--環境を守るため破壊工作に日夜はげむコードネーム「山女」であったのだ!
疾きこと風の如し、矢を放っては送電線をぶっ壊し、大地や風の動きで追っ手を素早く察知、姿を潜める。
ただ、逃走経路は計画段階でちゃんと確保した方がいいと思うんだけど……💨

映画の感想では「女ランボー」などと評されていたが、不動の意思をもって美しい野山をひた走る主人公はさながら中年ナウシカのように見える。
宮崎駿の原作マンガでは結末でナウシカは市井の人に戻ったと書いてあるが、あたかも中年になったナウシカが環境破壊に怒り再び立つ(*`ε´*)ノ☆となったら、こういう感じではないか。なにせドローンの接近を素早く聞きつけちゃうんだから。

現在の標的は拡張計画中のアルミ工場で、中国資本がらみらしいのが描かれる。以前、この本を読んだ時に中国のアフリカ大陸への食い込み具合に驚いたが、実際ヨーロッパにもかなり進出しているそうだ。アイスランドというと、日本と違ってもっとゆったりとした国だというイメージがあるものの、監視カメラやドローン・警察のヘリによる追跡、ネット盗聴など物騒な面も登場する。

しかしこの映画の一番の驚きは、本来劇伴として背景に流れるはずの音楽を実際にミュージシャンが画面に登場して演奏することなのだ(!o!) オルガン、ドラム、スーザフォン(変わった組み合わせ)の奏者が付かず離れずヒロインと共に行動して(たまに休憩したりする)、その状況に合わせて音楽を奏でるのだ。
こんな発想見たことも聞いたこともねえ~。驚きである。
途中からは地声3人の女性コーラスも加わる。ブルガリアン・ヴォイスっぽいけどアイスランドにもあるんだーと思っていたら、ウクライナの伝統音楽らしい。

音楽だけでなく映像のセンスや編集のテンポもいい。この監督、これが2作目だというからこれからも期待大だろう。
あと、ヒロインの「活動」に巻き込まれて毎度必ずトバッチリを受ける外国人観光客のおにーさん。笑っちゃうのだけど、監督の前作にも登場しているそうな。次作にも出して欲しい。

ラストの光景はぼーっと見ていて気付かなかったのだが、主人公の活動と直に関わっていたのだった。恥ずかしながら他のネットの感想読んでて気付きましたよ(^^ゞ ヒントは自室で流れているTVニュースである。
最後まで演奏団を付き従え、断固として進む彼女の姿に感動である。

また邦題に文句つけたい。主人公はとっくに「たちあがって」いるのだから(「立ち上がる」じゃないので検索もしにくい)、ここは一つ「不屈の女」ぐらいにして欲しかった。

ところで、本作はジュディ・フォスターの監督・主演でハリウッド・リメイクの予定らしい。彼女がやったら余計に中年ナウシカっぽいかも。

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2019年6月29日 (土)

ルース・ベイダー・ギンズバーグ祭り「ビリーブ 未来への大逆転」&「RBG 最強の85才」

190629a「ビリーブ 未来への大逆転」
監督:ミミ・レダー
出演:フェリシティ・ジョーンズ
米国2018年

85歳にして米国の現役最高裁判事、女性では史上二人目だというルース・ベイダー・ギンズバーグ。その人生をたどる。
法律家を志し名門ハーバード大学院に入学するも、なんと当時の女性の割合は0.1パーセント以下。しかし、家事が彼女より得意な夫と共に家庭を築きつつ首席で卒業。
だが、どこの法律事務所も女を雇ってはくれなかったのである……。仕方なく大学の教員業に。

伝記ものの問題は、大きな功績を成し遂げた人物が波乱万丈な人生を送っているかというとそうとは限らないことだ。
画期的な裁判を勝ち抜いてきたとはいえ、殺人事件のような犯罪ではなく行政訴訟の類いだから、衝撃の事実が今明らかに(!o!)なんてことはなく、あくまで弁論で進行する。しかもすこし気が緩むと「あれっ、今なんて言ってた?」てな字幕見逃しが頻発するのだった。

娘との世代対立など盛り込むも、監督の演出は一本調子でメリハリに欠ける。内容からして客は女性が多いのかと思ったら、意外にも中高年男性がほとんど。どうも社会派映画だと受け取られたらしい。後ろの席ではイビキが聞こえ、近くの高年男性は途中で帰っちゃった。
主役のフェリシティ・ジョーンズは「よくやってる」感はあるけど、実際のご本人はもっと興味深い人物なんじゃないの💨などと思ってしまった。むしろ家事でも仕事でも妻を支える優れものの夫役アーミー・ハマーの方が、好感ポイントが上だったのは仕方ないだろう。

個人的には、大学の授業で取り上げられた事件の判例の一つが少し前に日本で起こったのと似ていて(ひどいDVを夫から受けていた妻が逆襲したのを、罪を問われる)、性差別案件は米国の50年遅れなのが分かってガックリきた。

既に今年の最凶邦題賞に決定確実なタイトルであるが、「ドリーム」「ビリーブ」と来て……次は「トラスト」かな。長音入るなら「スピーク」「ウォーク」あたりか。


190629b「RBG 最強の85才」
監督:ベッツィ・ウェスト、ジュリー・コーエン
出演:ルース・ベイダー・ギンズバーグ
米国2018年

さて、そのRBGご本人を取材したドキュメンタリーである。
アカデミー賞では長編ドキュメンタリーと歌曲の2部門でノミネート。さらにMTV映画賞ではリアルライフ・ヒーロー賞に加え、格闘シーン賞「ルース・ベイダー・ギンズバーグ対不平等」👊でも候補になるという評判ぶりだ。

冒頭彼女の大衆的な人気の高さが描かれる。若い女性を中心に支持され、グッズが作られ、SNLでもネタになるというぐらいキャラクター化しているのだった。これはトランプ以後に最高裁判事(大統領が任命する)のリベラル×保守の比率を彼女の存在が握っているという理由もあるだろう。とにかく日本では想像も出来ない人気なのだ。(その分、毀誉褒貶が様々にあって大変そう)

その半生は『ビリーブ』で描かれたのと大体重なる。そして肝心の本人は、小柄で特徴ある華奢な声で穏やかに喋る。予想より遙かに静かでチンマリとした外見。ただし、弁舌を振るう時を除いて、だ。
彼女の人物像を語る人々としてビル・クリントンやグロリア・スタイネムも登場するとは知らなかった。

しかし、さらに予想を裏切ったのは夫マーティンであろう。映画で好評だったアーミー・ハマー版よりももっとユーモアあって楽しい好人物だった(料理得意なのは事実)。こういう人が共にいたから先駆的な活動が出来たのだなあとヒシ感じた。
というわけで、やはりフィクションより実物の方が面白かったのだった。

マスコミやTVで騒がれていることについて、娘と息子が「母は家のTVの付け方知らないはず」と言っているのには笑ってしまった(*^O^*)

なお、取り上げられている裁判例の一つに、妻を早く亡くした夫が子育てをしているのに男は育児手当を貰えないのはおかしいと行政を訴えたものがあった(映画だと介護手当になっていた)。その夫は「男性差別」だとG・スタイネムに文句を言っていたけど、それはお門違いであろう。
そもそも男女の伝統的な性別役割分業に基づいて、当時は「介護や保育は女の本能であり、男のやることではない」「男であればそんなことはしない」「そんなことをする者は男ではない」という観点から手当は女にしか支給しないと決められたのである(それを決めたのも男であろう)。そしてそのトバッチリを受けたわけで、根源は男女の格差なのだ。

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2019年6月17日 (月)

「キャプテン・マーベル」:あなたの掻いた左目が痛い

190617 監督:アンナ・ボーデン、ライアン・フレック
出演:ブリー・ラーソン
米国2019年

アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』の最後の最後に名前だけ登場して気を持たせたヒーローが満を持して登場である。
                      ここにグースのシッポが❗→

しかも巷の噂によると女性でMCUシリーズ最強のパワーだというじゃありませんか💥

期待大で見に行った。がしかし、これもまた情報量が多くてあっという間に二転三転と話が進む(@_@) 「あっ、見逃した」「あれ?今なんて言った」状態が多発。とても脳ミソの活動がついて行けません。
もう一度見て色々と確認したかったけど行く機会を逃した。レンタルかTV放映待ちである。

話のツボは記憶を失った主人公が自らの過去を見いだし取り戻し、さらに真の敵を認識すること。そして、それがかつて「女だから」と押さえつけられていた抑圧を跳ね返す姿と同期することである。
こう、文字にすると教条的で真っ当すぎる印象だが、ストーリーと映像の合わせ技で見せられると感動が押し寄せてくるという次第だ。

舞台は90年代でまだお肌がツルピカなフューリーが登場する。現在のS・L・ジャクソンが演じた映像を修正したそうな。スゴイね、もう何でもありだ。
背景の描き方を見るともはや90年代も懐古の対象になったかという印象である。
バックに流れるのはグランジ系。ナイン・インチ・ネイルズあたりはメジャーだけど、他は名前は知ってる程度、あるいは名前も聞いたことないバンドもあり。やはりこの時代はロックの細分化が進んだ時代だからか。

もう一つの注目点は猫のグースの大活躍。猫ファンは必見だね(^_^)b フューリーは「ネコちゃ~ん=^_^=」とまさに「飼わせていただいている」状態のかわいがりよう。でも『アベンジャーズ』シリーズには出てこないからその後どこに行っちゃうの?
ここは一つ、岩合さんによる「銀河ネコ歩き」を制作してもらいたいものである。
「今回は視聴者のご要望によりブラックホールに来てみました。やあグース、いい猫(こ)だね~。はい、ブラックホールの淵でゴロゴロしてみて」

主演のブリー・ラーソンは、闘う女性ヒーローとして終始仏頂面を維持。愛想笑いも見せねえぞという気概を感じさせるキャラクターで、ここまでくると潔い。
遂に彼までヒーロー物に参戦かい(!o!)と感慨を抱かせるジュード・ロウは「謎の上司」として登場しつつ、ちょっとコメディ・タッチが入ってたようだ。

そして『インフィニティ・ウォー』の続編ではきっと大活躍を見せてくれるに違いないと思っていたのだけどね、この時は……。

ところで、フューリーは『ウィンターソルジャー』では信頼していた人物の裏切りにあって片目を失ったと語っていたらしいが(観たけど忘れました)いいのか(?_?)こんな経緯にして。
ネコがらみでは、とある場面で昔懐かしTVドラマ「素浪人・月影兵庫」を思い出してしまったのは私だけであろうか。(一定の年齢以上じゃないと分からないネタ) 焼津の半次~♪ってヤツですよ。

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2019年6月13日 (木)

「金子文子と朴烈(パクヨル)」:アナーキー・イン・JP

190613_1 監督:イ・ジュンイク
出演:イ・ジェフン、チェ・ヒソ
韓国2017年

私が金子文子に興味を持ったのは、岩波書店のPR誌「図書」でブレイディみかこが連載してた「女たちのテロル」を読んでである。こんな人物がいたのかと初めて知って驚いた。
で、もっと詳しく知りたいと思ってご近所の図書館に行って借りたのが、なぜか大逆事件についての本。完全に管野スガと取り違えていたのだった。無知である(+_+)トホホ

時は1920年代初め、「社会主義おでん屋」で働く文子は差別を強烈に描いた朴烈の詩を読んで彼に惚れ込み、二人でアナキストグループを作って活動。ここに破天荒な無政府主義カップルが誕生したのである。
しかし関東大震災発生、朝鮮人虐殺が起こってその騒ぎに乗じて彼らも逮捕されてしまう。さらに爆弾計画が発覚、死刑宣告となり社会を揺るがす。

と書くと暗い話だが、映画のトーンは深刻ではなく、わざと軽いノリを加えている。特に検事の尋問や裁判場面など笑えるシーンも多い。
神も仏も、国家も陛下も信じないのさ、ルン♪みたいな感じで一貫している。

しかし、何せ人物や事件自体が強烈で目立ちすぎるので、映画自体の出来はゆるみがあるのが残念。まあでも日本映画では取り上げられないような題材なので一見の価値はある。
それから朴烈はその後あっちへ行ったりこっちへ来たりと、ジェットコースタードラマのような波乱万丈の人生を送ったらしいのだが、そこら辺は全く描かれていない(その点について批判があった)。思い込んだら突っ走る性格の人なのかね。
原題では朴烈の方が主人公のようだが、金子文子も負けず劣らず中心人物である。ここは邦題通りカップルで主人公ってことでよろしく。

韓国人の役者の日本語は皆さんうまくて感心した(もちろん日本人や在日の俳優も参加している)。ただ肝心の「十五円五十銭」の若者役の人についてはちょっと怪しかったかも……(ーー;)
文子役のチェ・ヒソはすごい美人💡 美人過ぎて出てくるたびに見とれてしまった。

「怪写真」事件はやっぱり謎である。何であんな写真が撮れたのだろうか(チラシは怪写真をそのままなぞっている)。単に昔は警察も検察もユルユルだっただけなのか。

なお、ブレイディみかこの連載をまとめた単行本『女たちのテロル』は岩波書店より発行されたばかり。金子文子だけでなく『未来を花束にして』の登場人物も取り上げられている。

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2019年6月 8日 (土)

「あなたはまだ帰ってこない」:ファントム・オブ・ラブ 死者に繋がれ生きるのなら

190608 監督:エマニュエル・フィンケル
出演:メラニー・ティエリー
フランス・ベルギー・スイス2017年

予告や宣伝を見ると、戦争中の夫婦愛を謳う悲劇作っぽいものになっていたが、原作がマルグリット・デュラスとあっては絶対違うだろう(>o<)と行ってみたら、予想通りやはり違っていた。

原作は戦争中の日記や手記をそのまま載せたというだけあって、明瞭な起承転結があるような物語ではない。
ナチス占領下のパリで密かに夫と共にレジスタンス活動をしていたデュラスであったが、ゲシュタポに夫を逮捕されてしまう。一体夫はどこへ連行されたのか。不確かな情報として流れる他国の収容所の噂。そこで何が行われているのか。

そこへゲシュタポの男が彼女に接触してくる。向こうは夫の情報をちらつかせ気があるそぶりを見せるが、互いに秘密を探ろうともする。

これらの描写はかなり幻想的だ。アウトフォーカスや鏡を使った場面も頻出し、デュラスの心象風景が執拗なまでに描かれる。

パリが解放されても夫は帰ってこない。収容所の残酷な噂も、人々は気にしてないようだ。浮かれるパリに違和感を感じつつ彼女は夫の影を探し回り街をさまよう。
期せずして、私は大貫妙子の『Tango』にある「激しく不在にさいなまれて」という一節を思い浮かべてしまった。

ここで意外だったのは--いや当時としては当然のことなのかもしれないのだが、パリ市民は近隣国の収容所で虐殺が行われているなどということは想像もしてなかったということだ。聞いたとしてもそんなバカなことをするわけがない❗と思うのが普通の反応なのだろう。

その後、結末にいたる彼女の言動は不可解である。不可解ではあるが、不可解であるということは理解できる(変な言い方だが)。
果たして不在こそが愛の実在だったのか。そして幻想が全てを覆う。

監督は日本では作品初公開らしいが、息苦しいまでのデュラスの惑乱を見事に描いていた。
すっぴんメイクのメラニー・ティエリーもその世界になりきっている。
一方、ゲシュタポ役のブノワ・マジメルにはビックリである。ものすごく恰幅よくなっちゃって、そのまま暗黒街の顔役になれそう(!o!) 『グリーンブック』のヴィゴは太ってても分かったけど、こちらは事前に出演していると知らなければ確実に気付かなかったに違いない💥それほどに別人感あり。
別に太ってるのが必要な役柄とは思えんが……今は素でこんな体格なのか(?_?)

字幕の訳者として寺尾次郎のクレジットが出てきたのは驚いた。映画の公開は死後数か月経った頃だと思う。よほど前から訳していたということだろうか。


さて、結末についてだが、ちょうどこの映画を見たのと同じ頃にマーガレット・アトウッド『昏き目の殺人者』を読んでたのだが、それぞれのラストシーンがすごくよく似ているのだ。以下、引用する。

だが、女は見られない。男に焦点を定めることができない。男はじっとしていない。輪郭がぼやけて、キャンドルの炎のように揺れているが、明るさはない。ああ、彼の目が見えない。
 死んでいるのだ、当然。当然ながら死んでいる。だって、訃報を受け取ったではないか?

これはどういうことか。監督がアトウッドに影響受けたのか? それともアトウッドの方がデュラスをなぞったのか。(原作を読んでいないので不明)

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2019年5月27日 (月)

「ちいさな独裁者」:上官は思いつきでものを言う

190527 監督:ロベルト・シュヴェンケ
出演:マックス・フーバッヒャー
ドイツ・フランス・ポーランド2017年

全員悪人--とまでは言えないが、少なくとも全員善人にあらず、という恐ろしい内容である。
第二次大戦も末期、ドイツ軍はもう敗走状態。逃亡兵たちが食料を求めて農家の納屋に忍び込んで強奪。一方、農民たちも負けてはいない。泥棒を発見したら容赦なくブチ殺すのであった。

そんな若い兵士の一人が広野をさまよううちに捨てられた軍の車と将校の制服を発見。たまたま着ていたところ、別の兵士に将校と勘違いされる。そして次々と勘違いしてついて行く者が増えていくのだった。
嘘も百人信じれば真実になる--いや例え一人でもいればそれはもう真実なのだ。
もちろん、半分疑っているヤツもいる。途中から疑い始めたけど今さらもう引き返せないヤツ、どころか最初から偽物だと見抜いているが、自らの保身のために利用するヤツもいる。

そもそも、主人公は嘘をついて全く臆することはなく、窮地に至ってもペラペラと言い逃れる、いざとなれば平然と他者を犠牲にするのだった。(こういうのをサイコパス気質というんだっけ?)
実際にこういうヤツは存在するんだよね。以前、職場にいて周囲は大変な迷惑を被っていたものだ。

さらに将校の制服の威力の甚大さ💥 本人は童顔で小柄な若者なのに、周囲はひたすらその権威に服すしてしまう。さらには、制服がなくとも権力を行使するような場面まで登場する。
制服は周りに影響を及ぼすが、着ている本人の中身もまた変えるのか。とすれば人間の本質はどこにあるのか。そもそもそんなものはないのかね。

そして成り行きで恐ろしい事態へと転がっていくのだった。
しかし、さらに恐ろしいのはこれが実話だということだ(!o!) なんてこったい。
監督は『ヒトラー 最期の12日間』を見て、ヒトラーだけに悪をすべて押しつけて他の人間は善人だったというような内容に怒りを感じ、「良いナチスが一人も出てこない映画を作りたかった」と語っている。その意気や良し👊

いや、マジに善人が一人も出てこないドライな徹底ぶりに感動した\(^^@)/
脱走兵の収容所で開かれる将校のパーティーでの余興、これが収容されている兵士の漫才で、徹頭徹尾最低最悪くだらなさの限り(しかも面白くない)で見ていてあきれるばかりだ。やる方も見て笑ってる方も正気を疑いたくなるほど。これに比べれば『第十七捕虜収容所』なぞ極楽のようなものだろう。

アイデアだけでなく、映像による心理描写も巧みである。重低音でドヨ~ンと入ってくる音楽もいい。
「サウルの息子」っぽい映像もあり。エンドクレジットの部分は完全に『帰ってきたヒトラー』のパロディとなっている。
主演の若者役もうまい。飄々とツルツルと言い抜けていく無神経さがよく表現されていた。

なお、この作品は元々モノクロだったらしいのだが、なぜか日本ではカラーで上映したというので一部で話題になった。と言っても、かなりセピアっぽい色味ではあるけど。モノクロだと世間でウケないという話を聞いたことはある。でも内容的からするとカラーだから客が増えるという映画でもないだろうに(^^?
それから、一カ所ボカシが入っていたが、遠方のシルエットなんでほとんど分からない代物である(むしろボカシで目立つ)。『ROMA ローマ』なんかモロに映っていたのにボカシなし。基準が分からない。レイティングの関係だろうか。

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2019年5月16日 (木)

「女王陛下のお気に入り」:コート・オブ・ジェラシー 愛さないの愛せないの

190516 監督:ヨルゴス・ランティモス
出演:オリヴィア・コールマン、エマ・ストーン、レイチェル・ワイズ
アイルランド・米国・イギリス2018年

アカデミー賞に9部門大量ノミネートされて話題となったこの映画、どんなもんかと見に行った。予告では正統的な歴史物かと思えたのだが……。

やっぱり変な映画でした~!(^^)! グリーナウェイの名前が挙がっていたけど、確かにそれっぽい雰囲気あり。
衣装とか美術がかなりリキが入って見事なの本格的史劇っぽいが、全体にはシニカルで史実をおちょくったような感じである。

時は18世紀初頭、イングランドのアン女王宮廷では女王の幼なじみであるサラが政治を取り仕切っていた。そこへ没落貴族の若い娘アビゲイルが転がり込み、女王のご寵愛の座を虎視眈々と狙うのであった。
これが「陰謀劇」というようなものでなく、バレエシューズに画鋲を入れるのとあまり変わらぬレベルなのだ。

そもそもアン女王がわがままで、かなりコマッタチャンな人物。
例えると、部活で大好きな先輩が受験勉強に入ったのでかまってくれなくなって、つまんな~い。あら、今度入ってきた新人の後輩、カワイイじゃない。こっちの子と遊ぼうっと💓 もういいもん、先輩なんかキライ(~o~)--みたいな調子だろうか。

これだけだと歴史上のどうしようもない女たちをクサした話かと思ってしまうが、ご安心あれ(^^)b 男たちの方はもっとどうしようもない奴らばかりなのである💥
笑える場面が何カ所もあったのに、なぜか場内誰も笑っていなかったけどな。

で、結局最後の勝者が誰かということになるとハッキリとしないままフェイドアウトしてゆくのであった。
見てて唯一の疑問は、女王が長い付き合いがあり、万事において有能なサラをなぜ疎遠にしたかということだ。実は女王は狡猾な人物だとする解釈もあり、本能的に動いているようにも見え、よく分からない。
この人も田舎貴族の奥さんぐらいの立場だったら幸せだったかもね、などと思ってしまった。17回子供ができたが一人も成人しなかったなんてあんまりである。

アカデミー賞については、女王役のオリヴィア・コールマンが主演女優賞を獲得した(他部門は残念)。
ただ、3人の女性のうち女王が主役かというとかなり疑問だ。物語の視点は大半をアビゲイルが占めていて、しかも常にアクティヴに動いているキャラクターである。だからエマ・ストーンが「主演」でも全くおかしくない。
もっとも誰が主演なのかというのは、映画会社が賞のリストに出す時に決めるそうなので単に獲得合戦の戦略でそうしたのだろうと思われる。

女優3人は誰が賞を取ってもおかしくないと思える演技だったが、男優の方はというと……折角のニコラス・ホルトも、別に彼ならこれぐらいは通常運転だろうというような印象だった。
監督のヨルゴス・ランティモスはギリシャ人とのこと。よく英国は外国人に自分の所の宮廷をおちょくったような話をやらせるなあと感心。しかも英国アカデミー賞では11部門で候補になり、7個も取ったのである。
ちなみに同監督の過去作『ロブスター』を見た知人に、この映画を誘ったところ「あの監督じゃ絶対イヤだ!」とのこと。未見だけどそんなに変な映画だったのか(^^?

さて、音楽面については劇中にパーセルのコンソート曲とダウランドの歌曲を演奏する場面あり。ただ、今時の古楽のコンサートでこんな演奏したら座布団投げられるだろうというようなレベルである。
劇伴音楽としてヘンデルが使われているが時代的には合わない。宮廷でのバロックダンス場面が登場するも、途中から現代風のダンスになってしまう。


ついでにグチる。
映画館で隣に中高年夫婦がいて、私のすぐ横は夫の方だった。そいつが映画の最初から最後までずーっとポケットティッシュを手に持っていて、二、三分おきに握ってはビニールの音をシュワシュワさせるのだ。おかげで集中できなかった。しかも映画が退屈らしくて途中でケータイ開いて見始めたのである。
さすがに頭に来て「眩しいんですけど」と注意したら止めたが、エンドロール始まった途端にまたケータイ開いてた。夫婦割引の弊害かね。退屈なら夫婦で別の映画見てほしい。

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2019年5月 5日 (日)

「ジュリアン」:ウィークエンド・ファミリー 愛より怖く

190505 監督:グザヴィエ・ルグラン
出演:ドゥニ・メノーシェ
フランス2017年

昨今、社会問題として大きく浮上している家庭内DV・児童虐待を題材にしたサスペンス。観客に差し出されたDVの様相はあまりに恐ろしくて見続けるのがつらいぐらいだ。
見てて「うわあ」「いやだー」「やめてくれ(><)」「ギャーッ」「ヤダヤダヤダ」「なんとかしてくれ」みたいな言葉しか脳内に浮かんでこない。

冒頭、夫のDVが理由で離婚した両親の調停場面、少年ジュリアンは母親と暮らすことに決まる。しかし、共同親権のため隔週末に父親の家に行かねばならなくなる。
すると父親は家に行く度に、秘密にしてある母の住所や電話番号を教えろと執拗に迫るのであった。
そしてしつこく母の周囲に出没し始める。ここら辺は完全ストーカーである。そして遂に事態は最悪の方向に向かって爆発する。その恐怖は並大抵のものではない。DV被害者は常にこのような感情を味わっているのだろうかと、想像するしかないのだ。

後味悪いホラーかサスペンスという印象で、見終わってもホッとするよりドヨ~ンとしたままである。映画館で見てよかった。ネットやソフトで見始めたら、絶対途中で見るの止めたくなるに違いない。

--のではあるが、その後しばらくするとどうも「これでいいのか」感がなんとなく湧いてくるのであった。
終盤、エスカレートしてきた父親が襲撃してくるのはいいが、完全に怪物と化している。
特にホラーっぽいと感じるのはここの点で、実際監督は『シャイニング』を参考にしているらしいのだ。な、なるほど……。

作中の父親はいかにも凶暴で今にもバクハツしそうな外見なのだが、実際にはDV男は家庭外での外面は良くて、ズル賢く世間を欺くらしい。
また、ようやく子どもと一緒に夫から別居しても今度は、DVを目撃し被害に遭ってきた子が母親に暴力を振るうなどという例もあるそうな。
かように、映画の描写をそのまま受け取っていいものかという疑惑が浮かんでくるのは仕方ないのだった。

というわけで、これはあくまでホラー映画の怖さだということで差し引いて考えた方がよさそうである。
しかし演技でも父親役コワ過ぎて、子役の少年の精神衛生上大丈夫か気になってしまった。
いくつか意図がよく分からない描写があった。一番最初の家裁の判事(?)がマッタリとお茶を飲んでいるところ、ハイティーンの姉がトイレで恐らく妊娠検査をする場面、あと彼女が歌うライヴ場面もやたら長すぎる。

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2019年4月22日 (月)

「天才作家の妻 40年目の真実」:ベスト・カップル ぺンとしゃもじは一度に両方握れない

190422監督:ビョルン・ルンゲ
出演:グレン・クローズ
スウェーデン・米国・イギリス2017年

予告や事前情報を見て、妻が書いた作品を夫が横取りしたような話かと思ったが、実際には少し違っていた。

夫婦は元々、教授と教え子という関係でどちらも作家志望である。しかし、妻の方が文章がうまく有望視されるも発想がうまくないということで、夫が着想と編集者、妻が文を書くという分業体制を取り、夫の名で出した小説は幾つもベストセラーとなる。
遂にノーベル賞を取ることになり、ここで妻の方が爆発するのであった。

しかし、この設定にはどうも無理がある。若い頃には妻が執筆している間、ダンナの方が家事や育児(ついでに浮気も)してたというのに、年取った今では彼はあたかも自分が書いた(心からそう思い込んでいる)ようにふるまっているのである。

しかも今では日常生活が何事もルーズな夫はケアや家事を妻の方に頼りきりだ。この事自体は老年夫婦にはよくある光景だが、その逆転はいつ起こったのか。彼は一度病で倒れてその後は半ば引退生活を送っているようだから、その時からなのか。
いずれにしろ若かった時の輝きはもう存在はない。

とはいえ、全体のタッチは深刻ではなく下世話で軽妙。夫婦ゲンカしては何か起こってうやむやになり……を繰り返す。他所の家の夫婦をチョイと覗き見する気分である。ラストの大ケンカは手持ちカメラでグルグル回って撮り、これでもか👊と迫る勢いだ。

ここに至って、私が期待していた「小説家の業」みたいのは関係ない、いやそもそも作家じゃなくても成り立つ話だと理解したのであった。
早い話、この夫婦の家業が「町工場」とか「パン屋」でも全く構わない。夫婦で作り出した独創的なパンを発売して評判になりコンテストでも賞を取ったパン屋の亭主が、「いやー、ウチの女房はパンに触りもしない」などと喋ったらどうなるか、という事である。

ただし役者は素晴らしい。グレン・クローズは惜しくもオスカー逃したけど、取ってもおかしくない迫力。相手役のジョナサン・プライスは本当にイヤ~ンな加齢臭漂ってくるような見事なオヤヂ演技だった。
ルポライター役をやったクリスチャン・スレイターはいつの間にかG・オールドマン風狡猾さを身に着けていて、これもよかった。

まあ、全体としては私の期待とはズレていたんで仕方ないってことですね。
ラストシーンはまだ自分で書く気マンマンとも解釈できるが、どうなのだろうか。だって一番おいしいネタが残ってるじゃないの。

 

作家の夫婦って難しい(円満な人もいるが)。日本だと高橋和巳・たか子、生島治郎・小泉喜美子あたりが有名だろうか。後者は夫が妻の才能を恐れて書くのを禁じたという噂もある。
T・S・エリオットはそれこそ「妻が半分書いた」説があり。以前見た映画『愛しすぎて 詩人の妻』では完全に悪妻になっていた。

最近明らかになったのは、井上光晴の奥さんである。彼が締め切りに追われた時に代理で短い随筆や旅行記を書いていたのとのことだ。
娘の井上荒野によると文才はあったのに、井上光晴が書かせなかったということだ。そういう「作家の妻」の怨念の物語をもっと知りたいのだ。

 

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2019年4月10日 (水)

「バハールの涙」:ノー・ウェイ・トゥ・ヘヴン 男子無用の戦場

190410
監督:エヴァ・ユッソン
出演:ゴルシフテ・ファラハニ、エマニュエル・ベルコ
フランス・ベルギー・ジョージア・スイス2018年

2014年、フランス人女性ジャーナリストがシリアでクルド人の女性兵士たちを取材する。彼女はそこでバハールという女性部隊の隊長と知り合い、戦闘地域へと赴く。
バハールの語る回想と現在の戦闘が交互に描かれる。

回想部分は過酷な場面が続く。バハールは自らも職業を持ち夫と息子と暮らしていたが、ISの襲撃によって成人男性は全て殺され、女は奴隷として売られることになる。
これが捕虜とかではなく、文字通り「奴隷」制度でありIS勢力の個人の家に売られていく。しかも奴隷市場で最も値段が高いのは彼女のような大人ではなく、少女だというのだ。ええーっ(>O<) どこの国でもお下劣野郎が考えることは同じだぜ💢

そして臨月の妊婦を連れての逃走劇。そこでの「人生で最も重要な30メートルよ!」は心を刺すセリフだと誰もが思うだろう。

戦闘場面もまたかなりの迫力である。イスラム教徒は「女に殺されると天国に行けない」と信じているとのことで、女性部隊が先頭に立って突進する。
興味深かったのは、戦闘で死んだばかりの敵兵士が持っていたスマホに電話がかかってきて、その男の兄と会話するくだりである。いかにもネット時代の殺伐とした状況だ。

バハールの瞳は常に悲しみに満ちているが、一旦戦闘となれば鬼神の如く容赦がない。演じているゴルシフテ・ファラハニは『彼女が消えた浜辺』で奥さん役やってた人だよね。心打たれる好演です。

一方で、女子の部活合宿を思わせるような女性兵士たちの日常あり、また夜間の爆撃シーンの壮絶な美しさ、湧き上がる噴煙の不思議な造形など引き付けられる描写も多い。
物語は壮絶だが、全て淡々としている。無機的な音楽も良い。

ただ、映画の宣伝でジャーナリストの存在についてほとんど触れられていないのはなぜだったのか。取材中に片目を失い、地雷で同じくジャーナリストの夫を亡くしたというやはり壮絶な人物(複数のモデルがいるとのこと)なんだけど(?_?)
ノーベル平和賞のナディア・ムラドに関連させてさかんに宣伝してたから、そちらは言及しなくてよいと判断したのだろうか。
彼女の役柄については桜井一樹が、「敵」と同時にさらに別の第三者の存在が物語を強靭にしていると書いていたのが、大いに頷けた。まさに彼女は不必要ではなく、いなくてはいけない存在だったのである。

なお、逆ベクデル・テストはパスしない(多分)。男性だけで会話する場面がほとんどないからである。

見てて疑問だったのは、主人公はイスラムではなくヤズディ教徒なのだが、戦闘中で敵から同じ部隊の兵士が「異教徒め」と罵られると、その兵士は「ばか、私はイスラム教徒だ」と答えたこと。
ISに奴隷にされていた女性を集めた部隊だから、宗教混合部隊とかあるのかね? ちょっと考えられない。
それとクルド語で自爆兵のことを「カミカゼ」と言っていたのは驚いた。日本スゴイ……のか💧

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