映画(最近見た作品)

2023年2月 2日 (木)

「グッド・ナース」:死んだ患者が見たものは……

230202 監督:トビアス・リンホルム
出演:ジェシカ・チャステイン、エディ・レッドメイン
米国2022年

ネトフリ作品限定公開で鑑賞。
米国で実際に起こった、なんと被害者が多過ぎて総数不明⚡という前代未聞の看護師による殺人事件を映画化したものである(原作はノンフィクション本)。
見どころはジェシカ・チャステインとエディ・レッドメインのアカデミー賞主演賞獲得者の共演だろう。

ジェシカ扮する看護師は二人の子どものために熱心に働くシングルマザー。持病があるので常に健康に不安を感じている。そこで新たに雇用された男性看護師と意気投合、職場の内外で助け合うようになる。
ところが❗病棟で入院患者の不可解な急死が発生……。

これまでは強力な人物の役が多かったので、ヨレヨレして疲れた役柄のジェシカは珍しい。さらに内奥を全く窺わせず、表層だけでシリアルキラーを描き出すエディの演技は一見の価値あると言える。現在でも犯人が大量殺人を行なった動機は判明していないらしい。わけの分からないものをわけを分からないものとして演じるのは相当に難しいはずだ。

不出来な映画では「登場人物が何考えているのか分からん❓」というのがよくあるが、それとは全く別の次元である。表面はツルツルして摩擦がなく好人物なのに、中身は真っ暗で不明というヌエ感を的確に演じている。
よき同僚にしてよき友人が不可解な犯罪を行なっている恐怖を、二人の演技を中心にじりじりとあぶりだしていくのはお見事だ。

そちらに重点がかかっているので、病院さらには医療業界の隠ぺい体質など社会問題的な面はやや薄めになっているのは致し方ないか。それでも捜査に来た警官に対して「来るな」と言うシーンがあって、かなりの権力だと驚いた。
そういう社会的にも問題ある💀ネタだからこそネトフリでしか映画化できなかったのかしらん、などとうがった見方をしちゃったりして……(^^;

問題は室内場面が暗くて非常に見にくかったこと。最初は演出でわざとやってるのかと思ったけど、ネトフリ作品ではよくある事らしい。

某シネコンで鑑賞したが、最初貸し切り状態でビビった(@_@;) 後からカップルが入って来たが向こうも最初貸し切りと思ったらしい。結局観客3人で終わった。
とはいえネトフリ未加入の私のためにこれからも劇場公開お願いします(^人^)

 

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2023年1月14日 (土)

今さらながら2022年を振り返る

230113 2022年はもはや記事の更新が全く追い付かない状態。それというのも、持病の悪化で入院するとかしないとかでもめたせいもある。結局入院せずに済んだのだが、何の予定も立たずやる気も起こらずかなりのストレスとなった。
コンサートのチケット買っても入院したら無駄になる。映画ならそんなこともないけど、公開予定を眺めてもその時に見に行けるか分からない。
つくづく健康は大事✨--肝に銘じましたよ(><)

【映画】
話題作・超大作の類いはほとんど未見のまま。結局10作選べなかったというふがいなさである。
なんとなく見た順。

『シチリアを征服したクマ王国の物語』:特に前半がぶっ飛んでいる。
『スティルウォーター』:あらすじ聞くと実際見るとじゃ大違い。もし一本選ぶとしたらこれか。身にしみました。
『リンダ・ロンシュタット サウンド・オブ・マイ・ヴォイス』:まだまだ続くよ音楽ドキュメンタリーの攻勢。リンダ像を大いに訂正してくれた。
『FLEE フリー』:99%はつらいがラストシーンが良い。
『PLAN75』:現実の日本でもプランがもうすぐ始まりそうです(*^^*)
『モガディシュ 脱出までの14日間』:全部乗せ特大大盛り、ごっつぁんです。
『NOPE/ノープ』:とにかく変なのは間違いない。
『バビ・ヤール』:突然出現する「ウクライナにユダヤ人はいない」の一節にガ~ン😱と衝撃を受けた。
*『キングメーカー』:政治内幕ものと見せて実は違った。対照的な二人の男たちの💫(以下略)

上記以外にパゾリーニの旧作を見て脳ミソがバクハツ状態\(◎o◎)/!となった。もっと早く見ればよかった。

部門賞
*監督賞 ジョーダン・ピール(『NOPE/ノープ』)
*俳優賞 マット・デイモン(『スティルウォーター』):今まで見損なっててすいませんでした<(_ _)>
 レスリー・マンヴィル(『ミセス・ハリス、パリへ行く』)

*ネコ賞 ソックス(『バズ・ライトイヤー』):正確にはネコロボだけどニャ🐾
*悪役賞 ティモシー・スポール(『スペンサー ダイアナの決意』
*予告賞 『ハウス・オブ・グッチ』:本編より予告の方がずっと面白かった。
*最凶邦題賞 『愛すべき夫妻の秘密』:見ると確かにそう付けたくなる気持ちは分かるが、もう少し何とかしてほしい。

*ちゃぶ台ひっくり返し賞 『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』(のエンドロール始まってすぐの追加シーン)
 この賞は、見終ってあまりの内容に思わず「なんじゃ、こりゃ~。観客をなめとんのか!」(ノ-o-)ノ ~┻━┻ガシャーン と、ちゃぶ台をひっくり返したくなる気分になった映画に与えられる栄光ある賞である。(あくまでも個人的見解)


【コンサート】
『《ラ・ペッレグリーナ》のインテルメディオ』
『Sacrum et Profanum 聖と俗の対話』
『大塚直哉レクチャー・コンサート バッハ"平均律"前夜』
『ヘンデル 王宮の花火の音楽』
『ヘンデル シッラ』
『カヴァリエーリ 魂と肉体の劇』
『レゼポペ』
*『リュリ アルミード』
チケットの値段とコンサートの満足度は決して比例しないことをよーく感じた年だった。


【その他】
『ガラスの動物園』(新国立劇場):生イザベル・ユペールの包丁ぶん回し演技を見られてヨカッタ。それ以上にあの銀色に輝くガラスの動物たちとドレスが忘れられぬ。

ゲルハルト・リヒター展:実物を見なければ何も分からない感が高かった。顔をくっ付けそうになるほどに凝視した。


閑古鳥が鳴く当ブログではありますが、昨年一年間で一番アクセスが多かったのは『ハスラーズ』の感想だった。なぜ2年も前の記事で大したことは書いてないのに……謎❗❓である。

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2023年1月 5日 (木)

「スペンサー ダイアナの決意」:皇太子妃、三界に屋敷なし

監督:パブロ・ラライン
出演:クリステン・スチュワート
イギリス・チリ・ドイツ・米国2021年

ダイアナ妃が離婚の決意に至る心理をたどる作品。
正攻法で順を追っていくのではなく、結婚10年目のクリスマスの三日間に全てを凝縮して描くという手法を取っている。
一般人の妻でも正月に親類が集まる夫の実家に行くという「儀式」は憂鬱なことがほとんどだろうが、その上夫とは別居中、人里離れた暗~い屋敷で(暖房もない!)厳格な当主であるエリザベス女王はまさに家父長の権化のようである。

その様相はJ・グリーンウッドの音楽のせいもあってかゴシックホラーっぽい。周囲を亡霊ならぬ過去(と現在)の人々に囲まれて、もういつ陰鬱な廊下の奥に双子が立っててもおかしくないというほどだ。監督は『シャイニング』などの過去作品を意識しているのが見ててよーく分かる。
怖い「家長」の他に監視役の侍従がいるのもゴシックホラーの定番だ。重苦しい晩餐に加えてトイレやバスルームが恐怖の吹き溜まりとなる。
幸福だった子どもの頃を過ごした実家の屋敷は崩壊寸前、カカシが懐古的な何事かを訴えてくる。

しかしそれらを取っ払ってしまうと、夫にうとまれた女が「母」であることと「父の娘」であることに生きがいを見つけるしかない、というのはあまりにも狭苦しい結論ではないか。そして女の世界を「娘」「妻」「母」の三つに区切っているのは誰なのよと思わざるを得ない。
ホラー手法や役者の演技には感心するが、テーマの描き方は大いに不満となった。

摂食障害であるダイアナが頻繁に吐く場面が出てくるのだが、映画で「吐く」のは女限定の行為なのだろうか。男が心理的に追い詰められ吐いているというのは、どうもあまり見た記憶がない。

クリステン・スチュワートは熱演。年度末の賞レースで連続してノミネートし、アカデミー賞も主演女優賞確実と言われていたが途中で流れが変わって結局受賞には至らなかった。
侍従のティモシー・スポールは慇懃無礼芸が炸裂💥
ラストに流れるマイク&ザ・メカニクスの歌詞はぜひ字幕を付けてほしかった。なんで重要なところで手抜きになるのさ。

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2022年12月25日 (日)

「ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー」:継ぐのは誰か?!主役・ヒーロー・王の三位一体

221225 監督:ライアン・クーグラー
出演:レティーシャ・ライト
米国2022年

「行った!見た!面白かった🌟」となった『ブラックパンサー』、その続編が紆余曲折の末、遂に来たっ。何が紆余曲折かというとコロナ禍もあるが、やはり主演のチャドウィック・ボーズマンが亡くなったことに尽きる。
あえて代役を立てることはせずに、シナリオを書き直したという--で、いきなり葬式の場面から始まるのだった。

主演俳優が死んだから演じていた役の方も死んだことになるとなれば、役柄の「後継者」問題も当然浮上。それも「ワカンダの王」と「ブラックパンサーというヒーロー」の二本立てだ。
そのためこの映画は虚実を超えて三つの「弔い」と「後継」が錯綜する羽目になってしまった。で、それがどうも裏目に出た感が……💦
前作のように「面白かった~ヽ(^o^)丿」とスッパリ楽しめないのは困ったもんである。なんか事前の期待が高くなりすぎちゃったせいもあるかなあ、というのが正直なところ。

新たに出現した「敵」は敵どころか本来は共に白人の植民地主義にさらされた過去を持つ。仲間同士で戦ってどうするよと思ってしまうが、同族嫌悪というヤツかしらん。
「あいつらは敵、お前は仲間のはずだろ、だから俺につけ」というのは昨今のロシア=ウクライナ情勢を想起させる。(脚本書いたのはずっと前だろうけど)
しかも海が舞台となって『○バター』か『○クアマン』か、みたいな光景が出てきてビックリだ。

160分もあるから内容のどこに注目するかは人それぞれ。だが、どの点を注目しても物足りない部分がある。
何よりもアクション映画として見てて今一つスッキリ感がない。前作ではあんなにカッコよかったオコエ姐さんも冴えなかったしな……(T_T)グスン
TVドラマシリーズのキャラクター(これから開始するのも含めて)が登場するのも、全く見ていない人間にとってはなんだかなあである。
唯一の得点ポイントはCNNのアンダーソン・クーパーが特出したことぐらいか(*^▽^*)


取りあえず幾つかの注目点の中で後継問題を考えてみた。すなわち「主役」「ヒーロー」「王」の「身体」と「地位」についてだ。


★注意!以下はネタバレモードになります★


★自己責任で読んでください(^^ゞ★


まず「主役」-上に書いた通り代役を立てることをせず脚本を変更した。つまりC・ボーズマンの「身体」はこのシリーズおいて交代不可能であり、「後継」は存在しないとしたのだ。

次に「ヒーロー」-妹のシュリがブラックパンサーを襲名したわけだが、これは「妹」だからなのか、科学者として薬草を再生できたからなのか判然としない。
他のヒーローものを合わせて見てみると、「二代目」とか「三代目」が当たり前のように登場する。
その身体はスーツや薬物、装置などで補強可能であり唯一無二のものではないようだ。つまり後継者はいずこからか出現するように思える。

最後に「王」-ワカンダの王は何もなければ血統で引き継がれるけど、各部族から挑戦者が現れた場合はタイマンで決める……ということでいいのかな(^^?
他の人の感想で「なんで王の座を原始的な決闘で決めるのか」というのを複数見かけた。確かに科学技術が発達したワカンダのイメージにそぐわない。(ただし今回、伝統を重視し過ぎて旧弊だという設定が出てきたが)
肝心な王位を非近代的な(に見える)力ずくの決闘によって決めるということは、逆に言えば血統よりも個人の身体性を重視していることでもある。

「主役」唯一無二の身体。代替不可能ゆえ後継者なし。
「ヒーロー」自薦他薦にしろ後継者は出現。身体性は引き継がれる。
「王」血統より身体優先で決定。
全てのレベルで身体が重視されていることになる。
逆から見れば「主役」を殴り合って決められないからこそ、ボーズマンの代役は立てられなかったのである。
ということで、この三者は現実と虚構を飛び越えてゴッチャになって、互いにねじり合い絡み合っているのだ。

さてここで作中に戻って、問題なのはシュリはヒーローはやる気があるけど王はやる気なしで放棄したいようだ。(ラストのエムバクの言動だとそうなるよね)
となると、エンドクレジットの途中で登場するあのシーンが大変だ~⚡
先々代の王に隠し子が(!o!) しかもお子ちゃまだけどなんだか王様やる気満々。どうするシュリよ。てな感じで、次はお家騒動になるのか。さらにはブラックパンサー襲名問題まで発展するのだろうか。

なんにせよ、段々とどうでもいい感が増してくるのであったよ(ーー;)

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2022年12月15日 (木)

「奇跡の丘」「アポロンの地獄」:ハードディスクの底をさらって駆け込み鑑賞、パゾリーニ生誕100年記念イヤー終了直前

かなり前に録画したまま放ったままにしておいたパゾリーニの『王女メディア』『テオレマ』を、今年が記念イヤーということで発掘して感想を書いてから、はや数か月経過。
まだ残っているのではないかと探してみたらなんと2作もありました❗❗(というか、さっさと見ろよって話ですね)
ということで今年が終わる前に鑑賞&感想であります。

「奇跡の丘」
監督:ピエル・パオロ・パゾリーニ
出演:エンリケ・イラゾクイ
イタリア・フランス1964年

パゾリーニと言ったらバリバリの共産主義者とのことだが、なのになぜ新約聖書からキリストさんの伝記を映画化するのか--と、見てみれば納得。原始キリスト教といいましょうか、ひたすら素朴で簡素な味わいあり。
旧弊な秩序と伝統に反抗し、貧しい民衆のために説教して歩くイエスと弟子たちの姿が率直に描かれている。

演じるのは全て素人、淡々と描かれる荒野の生活(この頃から荒野が好きだったのね)。背景に流れるはバッハの曲、かと思えば黒人霊歌と時代と地域を無視した選曲手法もこの頃からなのだった。
イエス役の青年も相当にインパクトありだが、一番迫力なのは若い聖母マリア役。美人だけど眼差しが強烈だ。ヨセフがタジタジしてしまうのも当然であろう。
なお年老いたマリア役はパゾリーニの母親が演じている(監督も共にしっかり出演)。

奇跡も描かれるが説教の場面に結構比重が置かれているので、睡眠不足の時は避けた方がいいだろう。


「アポロンの地獄」
監督:ピエル・パオロ・パゾリーニ
出演:フランコ・チッティ、シルヴァーナ・マンガーノ
イタリア1967年

『王女メディア』より2年前、同様の手法でギリシャ悲劇『オイディプス王』と、その元となった神話をを映画化したものである。

不吉な神託が出た赤ん坊を殺すために山の中へ……という神話の発端から、王宮内を除いてほとんどが荒野を舞台に展開する(ロケ地はモロッコとのこと)。
成人したオイディプスが再び神託を受けに向かう神殿は、砂漠の中に立っている数本の樹でしかない。またスフィンクスは岩山にいる仮面を付けた男で、謎かけ問答もなしに死んでしまう。
などなど筋立ては神話に沿っていても相当にぶっ飛んだものだ。

やはりここでも音楽は日本の神楽やらケチャやら最後はモーツァルトまで使われている。
衣装は太い糸でザックリ編んだような長衣で、仮面や帽子は世界各地のものを集めたのだろうと思われる変なものがたくさん登場する。いずれも強烈なパワーを発している。

しかし問題はプロローグとエピローグだ。冒頭、第一次大戦後のイタリアとおぼしき所で赤ん坊連れの裕福な夫人が若い将校と浮気しているような場面が描かれる。一方、ラストはオイディプスが放浪する地はまさに映画が撮られている時点での「現在」のイタリアで、冒頭の場所に戻ってくる。
時代や境遇はパゾリーニ自身と合致していて、この映画が「パゾリーニの個人的願望を描いたものだ」と評されるゆえんだ。
つまり、超マザコン……(◎_◎;)

しかしそんな事情をさっぴいても、神話部分は面白い。あまりの野蛮さに見ていてドキドキしてしまう💫 彼が荒野の中の道で出会った「老人」を殺害する場面でのドタバタぶりは見ものだろう。
兵士の鎧や兜は変な形で手作り感が横溢している。特に主人公がぶら下げている剣はどう見てもトタン板をぶっ叩いて作ったとしか見えない。

野蛮🔥野蛮💥 洗練さのかけらもねえ~~(>O<)とはこのことだいっ🌊

と、スクリーンからあふれ出んばかりの怒涛のパワーに思わず興奮である。
ということでハードディスクの底をさらっただけの価値はあった。さすがにもうパゾリーニ作品は残っていないようだが。

ところで終盤での王妃の全裸、あれはいくらなんでも本物のシルヴァーナ・マンガーノじゃなくて、いわゆるボディダブルというやつだよね。思わずボタン押して静止画面でガン見してしまった👀

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2022年11月26日 (土)

「バビ・ヤール」:ご近所の虐殺

221126 監督:セルゲイ・ロズニツァ
オランダ・ウクライナ2021年

次々と新作を発表しているロズニツァ監督のドキュメンタリーがまた公開された。自国ウクライナが蒸し返されたくない歴史を記録映像だけで掘り起こした問題作だ。

第二次大戦中1941年、ソ連邦の一部であったウクライナ西部をドイツ軍が侵攻した(もっとも元々はポーランド領だったという複雑な経緯があるらしい)。キエフまで進軍する中で市民は熱烈歓迎し、スターリンの絵を引き裂いてヒトラーの肖像を掲げる。また将校たちを招いて歓迎イベントを開く。
その熱狂ぶりは様々な折に記録されており発掘映像が続くのだった。

ところがキエフで公共施設のビルの連続爆破事件が起こり多数の死傷者が出る。この爆発映像はかなりの迫力だ。実際は違うにもかかわらずユダヤ人の行なったテロとされ、直ちに在住するユダヤ人全員に出頭命令が下る。
その数、3万4千人弱。ドイツ軍の指揮下で近くの渓谷地帯に集められ銃殺された。バビ・ヤールとはその渓谷の名前である。
その手順は戦争捕虜に広大な溝を掘らせ、ユダヤ人を殺害して落として埋めるというものだった。

さすがに虐殺自体の映像はない。残るは前後の状況を撮ったスナップ写真のみである。よくよく考えたらそんな映像をわざわざ残しておくはずもないわな。急に静止画像になってしまうのがまた怖い。
映像の代わりに存在するのは目撃者の証言である。そして「ウクライナにユダヤ人はいない」という詩の一節が流れる。
問題はキエフの一般市民はそれを見過ごした--どころか進んで協力した者もいたらしいということだ。

ところが1943年再びソ連軍がドイツ勢を追い払いキエフに戻ってくる。すると市民は今度はヒトラーの写真やナチスのポスターを引きはがして歓迎するのであった……。

事前の情報ではユダヤ人虐殺事件が中心の作品かと思っていたら、かなりの時間を割いてソ連→ドイツ→ソ連と支配者が交代するたびに、手のひら返しの熱烈なエールを送る民衆の姿を容赦なく暴きだしている。
もっともウクライナに限らず日本だって敗戦時の墨塗り教科書事案などがあるので、あまり他人のことは言えないだろう。

それにしても戦闘にしろ破壊にしろ80年前と現在とほとんどやってることは変わらないのはどうしたことよ。
平原を渡る戦車、爆破されたビル、壊された橋、捕虜の列、民家を燃やし遺体を埋め、掘り返して葬りなおす。統治者が変われば旗を引きずり落とす。現在でも行われていることだ。
こういうことについて「進化」はないのか。

さらに戦後すぐにソ連によるこの事件の裁判が開かれ、捕虜のドイツ兵を含む証言者の映像が登場する。
続くは、被告の独軍人たちの公開処刑の一部始終である。万単位の市民が広場を埋めて興奮し見守る。なるほど公開の絞首刑とはこういう風に行うのかなどと興味深く見てしまう……場合じゃなーい(>O<) これまたショッキング過ぎる映像だ。
もしかしたらユダヤ人虐殺を内心は肯定していたかもしれない市民が、今度はその犯人たちの死刑に熱狂する光景はなんとも形容できない思いが浮かんでくる。

このドキュメンタリーで描かれてきたのは死、暴力、破壊である。
その最後のダメ押しというべきなのが、戦後に事件の現場である渓谷をそのまま産業廃棄物で埋め立ててしまったことだろう。このラストの光景も圧倒的である。

ウクライナ映画アカデミーから除名されてしまった(こちらに経緯あり)ロズニツァによる、まさに「非国民」的作品である。
なお作中に遺体が度々出てくるので苦手な人はご注意を。


ところで以前『ドストエフスキーと愛に生きる』というドキュメンタリー映画を見たことがある。その時には全くと言っていいほど理解できていなかった主人公の背景が、今回の紛争の報道で少しは分かったような気がした。
父親がスターリンの粛清により亡くなり、通訳となってドイツ軍と共にウクライナを去る--それがどういうことだったのか。
高校生たちに授業を行ったのは確かキエフの学校だったかな? 明るい瞳をした彼らはもう30代のはず。今、戦争で辛酸をなめている世代だろう(T_T)ウウウ

注-地名については本作での表記に従いました。

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2022年11月19日 (土)

映画落穂拾い2022年後半編その1

一部、今年の前半に見た映画も入っていますが、細かいことは気にしないように。

「タミー・フェイの瞳」
監督:マイケル・ショウォルター
出演:ジェシカ・チャステイン、アンドリュー・ガーフィールド
米国2021年
*オンデマンド視聴

アカデミー賞の主演女優賞とメイクアップ&ヘアスタイリング賞を見事獲得した本作、日本では配信のみであった。もっともそれも仕方ないだろう。実話を元にしているのだが、日本ではほとんど知られていないからだ。

主人公は貧しくも信仰深い生活の中からTV宣教師となり絶大な人気を博した女性で、その一代記である。
最初はA・ガーフィールド扮する夫とまるで夫婦漫才を演じているようなコミカルな展開だ。しかし人気絶頂となってから段々と不正の道(資金横領)へ踏み込んでしまう。素朴に神に感謝を示して人に愛を与え続けるだけでは物足りなくなるものなのだろうか。
さらに加えて夫婦関係にも問題発生。ガーフィールドは裏表ないような笑顔を見せまくって、実はウラがあるという役を着実に演じている。
全体に誇張された描写が続いてなんだか作り物めいた作風ではあるものの、それこそがこの夫婦の真実なのかもしれない。

チャスティンは数十年の経過をそっくり派手メイクで演じ、流行歌風讃美歌も達者に歌いまくった。まさに賞取りレースに果敢に挑んでいる。笑ったのは、宣教師仲間の奥さんのミンクコートを一瞬だけギロッと羨望のまなざしで見るという演技。さすがである。

ただ、問題なのは同じ実話映画化の『愛すべき夫妻の秘密』とかなり題材と内容がかぶっていること。しかも主演女優賞候補で激突だ~💥
向こうはアーロン・ソーキン監督・脚本だから見た印象はかなり異なるけど。冷静に比べればニコールよりもジェシカの方に軍配を上げざるを得ない。
ところで実在の人物を演じるのが各演技賞へ近道なんですかね(^^?


221119「神々の山嶺」(字幕版)
監督:パトリック・インバート
声の出演:堀内賢雄、大塚明夫
フランス・ルクセンブルク2021年

夢枕獏の原作小説を谷口ジローがマンガ化、さらにそれをフランスでアニメーション化したものである。(なお小説・マンガ双方とも未読です)
他国では配信のみらしいが日本だけ映画館でも上映となったらしい。吹替が付いてるのも日本版だけだそうだが、声優はあちらからのご指名とのことである。

エベレストの前人未到ルートに執着する登山家、さらにその男をカメラマンが執念深く追う。
何より高山の描写が美しい。晴れた時の陽光、夕焼けに染まる雪、けぶるように迫ってくる嵐。そして画面を覆う「白」……それらが本来の主人公と言っていいほどだ。あまりの迫力に、語る言葉が全て無化していくようである。
雪崩の予兆のコキーンという音響も迫力だった。こわいこわい(>y<;)
とても上映時間94分とは信じられない中身の充実ぶりである。見終わってグッタリした気分。原作では女性が登場するそうだが、そこら辺はバッサリ切られている。

今後機会があるかどうか不明だが、ぜひ大きな画面での鑑賞をオススメしたい。
昭和の終わりぐらい(?)の日本の描写が色々と登場することも話題となった。また、居酒屋の場面に高畑&ハヤオが一瞬姿を見せるとか。
現金封筒を郵便ポストに入れる場面が何度か登場するが、実際は送れないので真似しないように注意しましょう。

作中の一つのエピソードを見て、突然に大学の時に実際にあった話を数十年ぶりに思い出した。登山部の男子が富士山で歩けなくなった見ず知らずのおじーさんに遭遇して、ずっと背負って下山したというのである。彼は私と同じくらいのチビで、おまわりさんに小学生と間違われたほどなのだが(;^ω^) よほどの体力がないとできません。

221209
「L.A.コールドケース」
監督:ブラッド・ファーマン
出演:ジョニー・デップ、フォレスト・ウィテカー
米国・イギリス2018年

4年前製作の作品を今なぜ公開なの(?_?)という疑問は置いといて、90年代に起こった人気ラッパー連続銃撃事件(2パックとノトーリアス・B.I.G.)の真相に迫る実録犯罪サスペンスである。

扱う事件は派手にもかかわらず映画のテイストは一貫して「晦渋」だ。派手な場面や展開はなく、見ていて「うむむ」と唸ってしまうようなトーンである💦
ほとんど偶然のような形で事件捜査に関わり、深入りし過ぎてついには警察から追われてしまう元刑事。そして十数年後にジャーナリストが彼に接近する。その真相は、謎と嘘が重なって真実が分かると皆が困るという迷宮状態だ。

明らかになるのはラッパーをめぐる音楽ビジネスの闇--かと思ったら全く違って、LA警察の腐敗であった。腐敗といっても暴力警官がいるというレベルではなくて、暴力団の類いがバッジと銃を持って「警察」と名乗っているようなもんである。犯罪やってもおとがめなしよ( ̄▽ ̄)
BLMが盛り上がった時に同じようなことを指摘したドキュメンタリー(確かTVで)を見た覚えがある。恐るべし。
ということなので見終わってスッキリしないのは仕方ない。あまりにもスッキリしなさ過ぎだ。

平日の昼間に見たので、ラッパーには縁のなさそうな年寄りの観客多数だった(;^_^A


さて、シネコンのチラシコーナーを見ていたら、後ろから中年女性がエコバッグをパッと広げて近づいてきた。何をするかと思ったらチラシを選んでニ、三十枚ガバと取ってバッグに入れていくんである。中には根こそぎ全部持っていってしまうチラシもあった。
ビックリである。
そんなに持って帰ってどうするのだろう。ネットオークションの類いに出すのだろうか。謎である。
よく「一作品一枚でお願いします」という注意書きを出している映画館があるが、まさにその犯行現場を初めて見たですよ👀

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2022年10月25日 (火)

「アザー・ミュージック」:音楽が終わる前に

221101 監督:プロマ・バスー、ロブ・ハッチ=ミラー
出演:マーティン・ゴア、ジェイソン・シュワルツマン
米国2019年

音楽関係ドキュメンタリーのブームもあってか、こんな作品も公開。ニューヨークの名物レコードショップの歴史をたどる映画である。監督は元スタッフだったカップルとのことだ。

1995年、レコードショップの従業員たちが独立して超マニアかつマイナーな品揃えの店を開く。場所はなんとタワー・レコードの向かい側という大胆さだ。タワーに来た客が流れてくるのを狙った選択である。

自らもマニアで専門知識では他に負けないスタッフが複数いて対応、オススメ盤を聞けば瞬時にササっと出してくれる。女性店員の割合が多いのも特徴だ。おかげで小さな店には様々な人々が訪れて混雑し、レジの前には行列ができる。そこにはあたかも親密なコミュニティが形成されているようだった。
また当時行われたインストア・ライヴの映像も紹介される。ほとんどが私の知らないミュージシャンだ。毛布をかぶって客の前に現れた男には笑った。
もっとも経営自体は大変だったらしい。

そのように賑わい輝いていた時代が過ぎ去るのを告げたのは、皮肉にもタワーレコードの閉店だった。配信時代が始まり大手CDショップが撤退すると、もはやこれまでのコミュニティの存在自体が崩れていくのだった。
知識豊富な店員の存在はネットの検索で事足りる。今やマイナーなバンドの演奏も映像と共に聴くことができるのだ。

そのような時代の変遷がこの小さな店に凝縮して表わされているように思えた。実際に店に行ったことのある人はまた違う感慨を受けるだろうけど。

さよなら、21年間ありがとう✨--そんな風に言われる店が私の身近にもあったらよかったのに(文化果つる地埼玉じゃ無理だけどな)。
都内の輸入盤や中古盤の店はガチなマニア対象という感じで、こういう親しみやすさはなかったような。中央線沿線あたりだとまた違うかもしれない。

エンドクレジットの後には監督とオーナー二人からの、日本へのメッセージが付いていた。
終わった後には客席から拍手が起こった。(*^^)//""パチパチ

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2022年9月28日 (水)

映画落穂拾い2022年前半編その2

220928a 忘れた頃にやってくる落穂拾い、書いてる本人も忘れています。

「白い牛のバラッド」

監督:ベタシュ・サナイハ、マリヤム・モガッダム
出演:マリヤム・モガッダム
イラン・フランス 2020年

冤罪死刑問題をテーマにしたイラン映画である。国内では上映中止になったらしい。
夫が死刑に処された後に冤罪が明らかになった未亡人のところに、夫の旧友を名乗る男が現れて親しくなっていく。
ところがその男の正体は……というとサスペンスぽいが、罪をめぐる人間の葛藤と構造的な社会問題を取り上げた作品だ。

彼女は障害児を抱えたシングルマザーでアパート入居断られたり、夫の親族が強引でもめるとか、冤罪が判明しても国側が賠償金出し渋るなどトラブル続きである。そこに立ちはだかる困難はイラン特有というよりは日本でも起こりそうな事案だ。
男はそれを親身になって手助けしてくれるのだった。

ただ、無理筋な展開を押し込めた感じはややぬぐえない。それと男の行動はあまりに自分勝手が過ぎるのでは?
それとラストをどう解釈したらいいのか分からなかった。見る人によって大きく異なっていて釈然としない。なんとかしてほしい(--〆)

一方、映像面では印象的なカットやカメラワークが多数登場。特に、あのカメラが道路を渡ってゆっくり戻ってくる場面はドキドキしてしまった。
でも一番怖かったのは、車を運転しながらCD探すところだった。いつ事故になるかとハラハラした。や~めてくれ~(>O<)

イラン映画で女性がスカーフ取って髪を全部出したのを見たのは初めてのような👀

220928b
「英雄の証明」
監督:アスガー・ファルハディ
出演:アミール・ジャディディ
イラン・フランス 2021年

もはや巨匠と呼ばれるファルハディ監督の新作、日本公開直前にケチが付いてしまった。
若い女性監督のドキュメンタリーを盗作したという疑惑が起こり、裁判沙汰になったのである。まだ係争中らしいが、アカデミー賞の候補に漏れたのはそのせいではないかなどと噂が噂を呼んだ。

取りあえずそれは置いといて\(^-^\) (/^-^)/ ←あえて昔の顔文字を使ってみた。

借金問題で受刑中の男が一時外出中に金貨の入ったバッグを拾う。そしてそれを持ち主に返したという美談がマスメディアで評判になる。
しかしその裏の真実は……嘘を一つ付けばそれを隠すためにさらに嘘に嘘を重ねて、様々な人を巻き込み肥大化して転がっていく。一体どう進んでいくのか先の見えない展開でハラハラしてしまう。

主人公の後先考えないプッツンぶりも悪いが、刑務所側もかなりひどい。かなり容赦なく描かれている。
また、そもそもこの事件が実際起こったことというのがまたビックリである。(世間で騒がれた事件なので、件のドキュメンタリーを盗作したわけではないという弁解も成り立つらしい)

ファルハディ監督の過去作に比べると今一つキレと余裕がないように思えた。とはいえラストシーンは極めて印象的だった。
子役の使い方は相変わらずうまい。息子だけでなく二人のいとこ役もよかった。主演俳優については口元がいつもニヤついているのがちと気に入らず(ーー;)

邦題については過去のレイフ・ファインズ主演作品に全く同じものがあるじゃないの。何とかしてくださいっ💢

220928c
「親愛なる同志たちへ」

監督:アンドレイ・コンチャロフスキー
出演:ユリア・ヴィソツカヤ
ロシア2020年

激動のロシア情勢、一体今見ずしていつ見るか~🔥という中で日本公開になったコンチャロフスキー監督作品だ。

スターリン後のフルシチョフ時代のソ連、食糧不足と賃下げにより工場ストライキが起こる。大規模な抗議行動は突然に流血の惨事に--という、1962年にウクライナ近くの都市で起こった虐殺事件を元にしている。
ヒロインはスターリン支持者だが現体制に忠実な共産党幹部、しかし娘は工場ストライキへ。一方年老いた父はスターリンをひたすら懐かしむ、という世代によって分断されている状況である。

軍は群衆に発砲をためらうが、KGBが陰で暗躍して事態は急展開する⚡
次々と銃撃される市民、集められる遺体、封鎖された街、迫力あり過ぎな描写で描かれている。現在のウクライナを想起させる場面も出てくる。怖い(>y<;)
スト参加の娘を探すうちに、主人公は自らの価値観が引き裂かれていく。

ただ、やはりロシア近現代史・ソ連史の知識がないと真の理解は難しいかも。それとKGB男が彼女にあれだけのことをしてやった理由が明確に描かれていなくてどうも解せない。
母娘のラストシーンをどう解釈していいのかも戸惑った。


なお、コンチャロフスキー監督とニキータ・ミハルコフ(プーチンの熱烈支持者らしい)って兄弟だったのか。初めて知った。また主役を演じるユリア・ヴィソツカヤは監督の36歳年下の奥さん、とのこと。

彼は朝日新聞のインタビューでウクライナをどうとらえているか、こう述べている。
《西欧と東欧の対立は何世紀にもわたる古い問題だ。西側のリベラルな哲学に誘惑されたウクライナ人に深い同情の念を抱いているが、彼らは東欧の人間で西欧の人間とは違う。》

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2022年9月21日 (水)

「NOPE/ノープ」:見られるうちに見よ

220921 監督:ジョーダン・ピール
出演:ダニエル・カルーヤ
米国2022年

※後半にネタバレあります。

今季注目作の一つ。公開前から一部で「IMAXで見ないとダメだ」と話題になっていた。はて(?_?)どんなもんだろうと思ったが、あまりホラー系は得意でない人間なので(実際見てみたらホラーではなかったけどな💥)余計に料金払って気に入らなかったら暴れたくなるに違いないので通常版にした。

最初の感想は「なんだかよく分からんけど、強烈で変な映画だなー」であった。
冒頭現れる過去のTVドラマでの陰惨な事件、唐突に紹介される映画史初期での黒人の存在--しかし一貫して舞台はLA近くの馬の牧場なのだ。もっともその馬は映画・TV出演用に飼育されているものである。

中心となる兄妹の人物造形が興味深い。妹は外交的で常にハイな感じ、牧場の宣伝は怠りないがフラフラしてて居所もよく分からない。一方、兄は内向的で口下手で鬱屈したものを抱えているようである。演じるD・カルーヤは帽子をいつも浅くかぶっていて、その頭部が伸びたイメージが生気のなさや投げやりでボヤーっとした印象を常に示している。
二人ともそんな言動や外見のため、未熟と成熟の間をフラフラと漂っているようだ。

で、彼らが突如意欲を燃やすのが近辺に現れる謎の飛行物体を撮影することなのだ。(なんで?)
そして、近所にある西部開拓テーマパークの経営者がからんでくる。(何の関連が?)
ITショップのオタクな電気工事士もなぜか参戦。(まあ、いいけどさ……)

かようにそれぞれの相互関係がよく分からないうちに話がサクサクと進む。その間にもオタクネタは頻出する。恐らく半分ぐらいしか理解できてない。「スコーピオン・キング」は分かるけど『トレマーズ』は見てないしな、とか。それ以外にも、背後に寓意やメッセージが隠されていそうだ。
一方、夜の牧場の光景、人形バルーン(ゆらゆら揺れてるヤツ)をはじめ不穏な映像センスは抜群である。

そして、強引ともいえる決着の付け方については「これでいいのか?」感と共に「一体何を見せられたのか?」という疑問が、ドトーのように湧き上がってくるのであった。
でも何やら見てて不明解な吸引力あるのは事実。そして社会問題や過去の歴史についてオタクなネタなはずのものを結びつける力業に感心してしまうのである。
そんな剛腕のピール監督は今後も目が離せないですよ(^O^)bナンチャッテ

 

 ★ ★ 以下ネタバレモードになります ★ ★


 ★ ★ ご注意ください ★ ★

 

ジャンル的には確かにホラーというより「動物パニック」映画という指摘は当たっているだろう。途中で未確認飛行「物体」でなくて「生物」だというのが判明して、それなら何故兄妹の農場周辺を縄張りにしているのかという理由も不問になる。
……だって動物なんだもん( ̄▽ ̄)

舞台が農場なので西部劇との関連も考えられる。しかし、意図的に「銃」は出てこない。普通だったら空に向かってライフルでもぶっぱなしそうなものだが、そういう方向には行かない。登場人物たちが構えるのが銃ではなくことごとくカメラの類いなのだ。
兄が厩舎に行って闇からサルもどき出て来た時に、彼はいかにも武器を出そうと探るがごとき動作で腰のあたりに手をやる。しかし実際に取り出したのはケータイで、そのカメラで撮影しようとする。しかもスマホじゃなくてそれ以前のガラホではないか(^^?

逆に言えばカメラもまた武器の一つであるということだろう。
終盤、妹の前に出現するネット配信社(でいいのか?)のカメラマンは鏡面のフルフェイス・ヘルメットをかぶり、さらにカメラを銃のように構えてこちらの視線を受け付けない。その禍々しさよ💀

さらに謎なのはIMAXで撮った作品なのに、劇中では結局「IMAXカメラは役に立たなかった(多分)」らしいことだ。ええー、いいのかそれで\(◎o◎)/!
飛行の瞬間にはフィルム交換で手間取ったりしてちゃんと捉えられたのかは明示されていない。カメラマン一人で突撃したのは結局どうなったのか。
どころか、「オプラ基準」の決定的瞬間は、テーマパークのポラロイドカメラの連射によって撮られたことになる。これじゃあ最新技術とは程遠い、映画史前夜の段階ではないの。

さらにラストに馬に乗った兄が登場することで、映画誕生の瞬間を黒人に取り戻したことになる。ハッピーエンドではあるが、なんだか映画マニア以外には盛り上がりにくいテーマではないだろうか💦

一つ問題なのはテーマパーク経営者の扱いである。東アジア系の彼はTVの子役時代に悲惨な事件に巻き込まれたという過去を持つ。しかし、それが農場の騒動との関係が今一つスムーズに結びつかない。
唐突に兄妹に事件を説明しだすのも変だ。脚本に難ありでは思ってしまう。
下手したら、ラストの巨大カウボーイ・アドバルーンとポラロイド・カメラを登場させるための方便として出したんじゃないのかと疑惑を招く。

だが、彼が事件のトラウマから逃れるために自分から過去を語ったり「呼び寄せ儀式」を行なっているのではないか、という説には目からうろこがボロリと落ちた。それならあのような行動も納得だ。
また、事件でチンパンジーが彼を見逃したのは「見る見られる」視線云々という論の観点から、互いに目を合わせなかった(間にビニールの幕があって)からだという説がある。でも、むしろ「このちっこいヤツもオレと同じに遠い場所から連れてこられたに違いない」と仲間意識があって同情してたんじゃないの❓

などなど議論は絶えない映画である。でも、公開週の興収が事前に決められた水準に達しなかったので(一応、第1位だったけど)、規定通り1か月後に配信扱いになっちゃったとのこと。キビシイのう。

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