リュリ 叙情悲劇「カドミュスとエルミオーヌ」:復古的にして新鮮

演出:バンジャマン・ラザール
出演:アンドレ・モルシュほか
演奏:ヴァンサン・デュメストル&ル・ポエム・アルモニーク
会場:オペラ・コミック座(パリ)
2008年1月(初演1673年)
*DVD
先日行った「ヘンデル・オペラの名アリア」で、バロック・オペラのジェスチャーや照明法を復元したものを拝見させてもらった。興味深かったけど、はてこれを全編、現代の公演でやっても面白いものなんだろうか?という大いなる疑問を感じたのは事実である。
そこで、ヘンデルならぬリュリのオペラを完全復元したというこのDVDを見てみた(もちろん日本語字幕付き)。なにせ「ヴェルサイユ・バロック音楽センターの長年にわたる研究成果をもとに、衣装や音楽・ダンス・楽器、歌詞の発音や役者の所作などはもとより、前景・中景・後景といったプラン、舞台装置や背景絵画、さらには照明の光源にいたるまで、徹底して17世紀当時のスタイルを復元」というのだ。
照明はもちろんローソクによるフットライトを使用。歌手たちの顔の化粧は、その下側からの光に映えるような形で白塗りだ。手と腕を中心にしたジェスチャーは「ヘンデル・オペラの名アリア」の時よりはもっとさりげない感じだが、どうも美しく見えるように手も化粧しているようだった。
歌手は大抵の場合客席のほうに向いて歌い(表情がよく見えるように)二重唱の曲でも互いに向かい合って歌うということはほとんどない。
衣装は豪奢で思わずウットリ。当時の貴族たちの生活を想像しちゃったりして--
愛の神が付けてる昆虫の触角みたいな長~い羽飾りにはビックリよ。
物語はあって無きが如し。流浪の王子カドミュスが、巨人族の支配するギリシアの地でエルミオーヌに恋するが、彼女は巨人の長の許嫁だった。しかしその背後では神々同士の諍いがあり、突然舞台に出現しては二人の邪魔をしたり応援したりする。言ってみれば他愛のないファンタジーのようだ。
そのせいか、これまで全曲録音さえされたことがなかったという。
プロローグでは本物の炎と共に嫉妬の神が怪物と共に現われたかと思えば、天井から太陽神がピカピカと降りてきて追い払う。嫉妬の神の背後で踊るダンサーは糸で釣られている者と舞台上にいる者が組んで、宙でくるくる回ったりしてサーカスみたい![]()
第一幕以降も似たような感じでダンサーが大活躍だった。アフリカ人のダンスにさらに「巨人」が加わって踊る場面や、主人公とエルミオーヌが別れた後の場面で、鏡の前で彫像が動き出したかのような踊りなどが印象的で、しかもすべてバロック・ダンスによるものだ。
他には巨大なドラゴン(ハリボテだけど)が出現したり、そのドラゴンの歯をまくと甲冑の兵士がワラワラと出てきたり--。奇想天外な物語を忠実に実現していくのだった。
ただ、劇場の舞台が昔のバロック劇場ほど奥行きがないようで、大がかりな場面転換については物足りなかった。
歌手は合唱を除いても17人という多めの人数(バロック・オペラにしては)だが、主人公のアンドレ・モルシュをはじめ全員文句な~しの出来に思えた。エルミオーヌ役のクレール・フィリアトルはル・ポエム・アルモニークの来日メンバーに入っていた(お笑い担当の従者役の人も確かいたような)。
どの瞬間を取っても全てが優雅であり、祝祭的であり、観る者に圧倒的な幸福感
を与える。古臭くも退屈でもない。不思議である。これこそ「魔法」というべきか。
演出は「聖アレッシオ」もやってたバンジャマン・ラザール。音楽総監督と指揮は昨年来日したヴァンサン・デュメストルだ。来日公演では地味にテオルボを弾いていたが、指揮ぶりもなかなか立派なもんである。
ラザールは生年1977年というからこの時30歳そこそこ
え゛~っ、若い!ビックリだ。デュメストルも外見は似たような感じだから、同じく30代前半か(?_?;
オーケストラも若い人が多かったし、やはり本場には才能ある人がゴマンといるんだのう
と、そういう面でも感心してしまった。
大枚六千円の元は完全に取れたというべきだろう。テレビをそのうち買い替えたら、もっとデッカイ画面で再鑑賞したいもんである。
さて冒頭の話題に戻すと、この手法が果たしてヘンデルのオペラにも通用するのかというとなんとも言いがたい。リュリの時代からヘンデル先生全盛期まで40~50年の差はある。作品の内容はもちろん、聴衆層も異なっていただろうし。
結局よくワカランというのが結論である。
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